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リバーシ!  作者: 大野 大樹
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3.男の性(さが)ってことで納得されたようだ。

「‥おい、なんで笑ってる」

 と、口を開いて出た俺の声が女の声そのもので、それにも焦った。

「いやさ、あっちでのあんたが男だったから目が覚めたら、‥当然するだろうなって、それ。男の性って奴だ。気にしないでいい」

 笑い過ぎて、涙目になったミチルが言い、もう一人の男はまたミチルを睨んだ。

「‥‥」

 俺は、‥睨みはしないが、不機嫌な顔になる。

 そんな言い方されたら、まるで「男の性」でおっぱい揉まずにいられなかった‥みたいじゃないか。そんなんじゃないぞ! 

 あれだ。

 気絶して目が覚めて、痛くなくてもたんこぶ出来てたら触るよね? あれだ。(おお! これ以上ない程のいい例だ! )

「でも、後でこいつがいないところでゆっくりやってやってくれ。こいつは初心なんだ」

「‥何をしろ、と。俺は、別に隠れてすることなんぞない」

 何をって、分かるさ。

 もう一人の男は初心だから、目の前でおっぱい揉むな

 ってことだろ。

 わかるが、‥分からない振りしてやれ‥。

 ミチルは、まだにやにや笑っている。

 こういうのって、むっつりっていうんだろうな! 

 イケメンなのに残念だな!!

 って、もう一人の男もすごいイケメンだし。なんなの、ここ。

 俺、男だし、なんも嬉しくもないんだけど!

 って‥、今現在、「俺」は女なわけなんだけど。さっき、‥あったもんな! 。

 もしかして、あのブレスレット外したから呪いが解けた‥とかそういうことだろうか?! 

 呪いが解けたから、元の身体(今のこの身体)が目覚めて‥元の身体に戻れた、的な?!

 落ち込む俺に

「ごめん。笑ったりして。‥そりゃ、混乱するよな‥」

 ミチルが眉をひそめて謝った。

 ‥いや、別に謝られてもって感じなんだけどな。‥お前のことなんて、別に相手にしてないし。

「ん~。顔を確認したりとか‥する? 」

「顔。‥顔も違うのか? 」

 俺は、つい、凄い勢いでミチルに詰め寄ってしまった。

「そりゃあ。全く別人って感じではないけど、まあ、性別が違うんだ。違うわな」

「‥‥‥」

「鏡、みる? 」

 ミチルが近くに居る、メイドちゃんに鏡を持ってこさせた。

 その頼み方が「お願い」っとかじゃない。顎をきゅっと上げて、視線をちょっと向ける、みたいな偉そうな頼み方で「あ、こいつかなりいいとこの坊ちゃんなんだ。‥感じ悪りぃ」って思った。

 俺は黙ってミチルから鏡を受け取りそれを見る。

「‥‥‥」

 真っ白な、形のいいちっちゃい卵型の輪郭。肩を超えるハニーブラウンのふんわりウエーブ。若草色の気の強そうな瞳。すっきりと鼻筋が通った形のいい鼻。小さな桜貝みたいな唇。すべすべの白過ぎる肌、柔らかそうな頬は血色のいい桜色‥。

 はっきり言って、半端ない美少女がそこに映っていた。

 ‥成程、スリーピングビューティーもさもあらん。

 俺がため息をつくと、その美少女も物憂げにため息をついた。

 その様子はいかにも華奢で、守ってやりたいって気にさせた。

 って、俺だけど。

 そう、俺なんだ。

 ‥どうやら、本当にこれは俺らしい。

 だけど、俺の思い出に残る「ヒジリ」は、将来こんな顔になるような顔じゃなかったはずだが‥。(さっきの回想の、「草」女だ)

 目と髪の色は、‥同じ。それ位だ。

 こんなに、髪も綺麗じゃなかったし、鼻だってどっちかというと低かったし、長い睫毛とは無縁だったはずだし、‥肌もそばかすが悩みだった。

「見惚れるなよ‥」

 ミチルが呆れ声を出す。

「‥見惚れてねえし‥。‥寧ろ、自分の顔だって感じがしない」

「そうでもないだろ。現に俺は、お前をsideAで見た時一目でわかったからな。男の格好してるのには驚いたけど‥。

 目を覚ましたところを見たことがなかったから、目の色は分からなかったけどこうやって見たら、まんまって感じじゃないか」

 はちみつに若葉を溶かした様な色。

 俺の日本人離れした目を、そんな気障ったらしい言葉で表現した子もいた。

 あの容姿は、乱暴で語彙力の足りないガキ大将ですら毒気を抜かれるらしくって、一度も「女みたい!」って揶揄われたことはない。女子も、「スキンケア何使ってるの? 」って聞く気力すらそがれるらしくって、そんなこと聞かれたこともない。

 両親も「‥ある日を境に顔が変わっていった」って首を傾げていて、両親とどちらかと似ているということも、ない。

 俺の顔は異質だ。

 両親と比べてっていうか、周りと比べて‥。

「あっちですれ違ったとき‥こいつもリバーシだなってことが一目でわかって、でもこいつ、あっち‥sideB‥じゃ見たことないな~なんて思って見てたら、日に透けた髪の毛が、何となくハニーブラウンに見えて‥こいつは、もしかしたらって‥」

 頷いたミチルが、訳の分からないことを言い始めた。

 何言ってんの? って感じなんだけど、今のこの状態自体、はじめっから「何言ってんの」って感じだから、兎に角「そういうものらしい」って認める外ない様だ。

 まずは、俺がここにいるわけを知るのが先決だろう。

「sideA ? sideB? リバーシって何? 何で俺がその「リバーシ」って奴だって一目で分かったの? そもそも、俺はそのリバーシって奴なの? 」

 矢継ぎ早に質問する俺に、ミチルはもう一度頷いた。

「何故分かったか‥っていうのは。リバーシってのは、もうあからさまに保有している魔力が高いから「分かるやつ」には分かる」

 ‥魔力。

 よくは分からんが、俺はあからさまに魔力が高くて、それ故「リバーシ」とかいうものだという事が、「分かるやつ」・ミチルには分かった、と。

「リバーシって? 」

 俺が首を傾げるとミチルがもう一度頷く。

「体力的には、「二十四時間戦える」とは最も無関係な人間なんだけど、精神的には、「四十八時間以上だって余裕に働ける」ってタイプの人間。‥そういう、自覚は無い? 」

 さあ。

 俺は首を傾げた。

「12時になったら、電池が切れたみたいにバッタリ。だから、終電まで仕事とか無理だし、オールで飲み会とかどんでもない」

 何。

 あんた、俺の私生活のぞき見でもしてるの。

 勿論‥そんなこと思わない。

 さっき、ミチルは「あんたも」って言った。

 つまり、こいつも、「そう」なんだろう。

 12時になったら、それこそ、どんな状態だろうと、電池が切れたみたいに、寝てしまう。

 その間はどんなに起こしても起きない。それこそ、‥多分火事になっても、だろう。

 俺は、両親から「あんたは、絶対人様に迷惑かけるだろうから」って、小中高と家族旅行以外の旅行を許可してもらえなかった。(だから、修学旅行も林間学校も炒っていない。もちろん社員旅行もだ)

 旅行もそうだけど、飲み会もそう。

 泊まったりとか問題外だし、「9時門限」とか、20歳過ぎてるのにあったけど、‥自分が「夜が弱い」って自覚あったから、全然不満は無かった。まあ、この体質のせいでそんな深い関係の彼女なんかも作れなかったけど、そこらへん淡泊だった俺は、これもまた全然気にならなかった。

 まあ、無理なもんは、無理だしって感じだ。

 寧ろ、俺が無理って言ってるのに「ええ~いいじゃない」とか言ってくるような女の子は、ちょっと‥だったし。

 俺、無理って言ってるでしょ? 無理は、無理なんだよ。

 別に身持ちが堅いとか、潔癖とか、そういうのではない。それ以前に、恋愛とか‥自分には無関係なことって思える。

 学生時代みたいに8時になったら「バイバイ」っていうデートは、全然問題は無かったんだけどね。相手にその先を求められちゃうとね‥。

 ‥でも、このイケメンもそうだとはね‥。

 リア充に見えてるのに、意外だ。

 ※泊りがけが無理なだけで、別に「そういうこと」が不可能な訳ではない。だから、ミチルは深い付き合いの彼女はいないが、遊び友達位なら沢山いる。‥リア充は間違いではない。

「‥‥‥」

 黙る俺に、ミチルは納得したと解釈したらしい。

 まさか、ミチルはヒジリに「そうか、こいつも童貞か」的なことを思われているとは思いもしないだろう。

 そのまま話を続けた。

 ‥大丈夫。俺、口硬いし、そういう事言わないし、しかも、そういうこと気にしないから。

 ちょっと「同志よ」って視線を送る。

 ミチルは、生温かいヒジリの視線に首を傾げながら

「リバーシってのは、その(あと)、こっちの世界で別の生活が出来る人種を言う。勿論、記憶・知識そのままで、だ」

 説明を続けた。

 おお、異世界転移ものみたいだね。

 ‥違うのは、あっちとこっちが同時進行ってことか。

 異世界に転移しちゃうってわけじゃなくって、12時からの時間を異世界で過ごすっていう感じなのね? 

 俺は、そこまでは分かったとの意を示して頷いた。ミチルも頷き返す。この男は、随分と親切らしい。

「あっちの世界を俺はこっちと区別するために、sideAと呼んでるんだ。で、この世界はsideBだな」

「sideAの知識を持って、sideBに渡ってこれる人間。そして、魔法で、sideAの技術の再現が可能‥。潤沢な魔力と、膨大な情報。リバーシはこっちの世界では重宝されている」

 ‥成程ねえ。

 俺は、メイドさん的な女の子の態度と、ミチルのさっきの態度を思い出した。

 ‥まあ、重宝されなきゃ、こっちに来る必要はないわな。

 重宝されるからって理由だけでこっちに来る気持ちは、俺にはわかんないけど。

 ‥中二なのかな。見かけによらないな。このイケメン。リアルの充実を棒に振ってまで、こっちに来る。

 ‥俺は、ないな。

「‥さっきの話だと、ミチルはあっちの世界がメインで、こっちの世界にはあっちの世界でのミチルが寝てる間に来てるだけって感じだったんだけど、そんなに待遇がいいんだったら、こっちをメインにしたいとかって思わないの」

 あっちの世界では、身分は存在しないわけだから、あんな態度を人に取ることは、まあ出来ないだろう。

 ミチルは一瞬、きょとんとした顔をしてから

「思っても無理だ。だって、俺は、もともとあっちの世界の人間だから。まあ、こっちには出稼ぎ出来てるって感じになるのかな」

 ふふ、と笑った。

 出稼ぎ。

 そうそう。そんな感じだよね。俺もさっきからそう思ってた。

「だから、ここに俺の親はいないよ。それに、働きに来てるだけだから、家もいらない。‥そもそも、俺たちリバーシには普通の人みたいな意味で家が必要ってことはない」

 ミチルは俺が納得したらしいことを確認すると、言葉を続けた。

「家が必要じゃない? 」

「そうだよ。あっちでの家も、こっちに来ている間だけ身体を寝かしておくだけのものだしね。忘れてしまったの? それとも、記憶自体になにか‥」

 ミチルは俺の言葉に首を何度かひねって、独り言を言った。

 さっき言ったことは「リバーシにとって」それほど常識なんだろう。だから、それを「忘れている」ってことは、記憶喪失が疑われるってことだ。

 でも、‥そういうことなんだろう。俺はさっきから、何が何だかわからない。過去の記憶もだけど、‥それ以外のことも‥。

 俺は、‥素直に「わからないことは聞く」ことにした。

「こっちに来ている間だけ身体を寝かせておく? じゃあ、今ここにいるその身体は‥その、霊体みたいなものなの? 」

 ってことは、幽霊みたいに触ろうとしたらすか‥ってなるのかな。

 流石に急に触るわけにはいかないが‥そういうことになるだろう。

「‥ああ、そういうことか。身体は、8時間くらいなら、実体を持たせることができるんだ。‥つまり、ここのこの身体は、幻影ってわけ。実体のある3D映像? って感じかな」

「え! じゃあ、俺のこれも」

 あ、しまった。また胸もんじゃった。

 ‥決してわざとじゃない。手がちょうどその辺りにあったんだ‥。

 また、「初心な男」が顔を逸らした‥。見なきゃいいのに‥。

「えっ? ‥て‥。ああ。あんたは、だってこっち出身の人間だよ。そう考えたら、あっちでのあのクオリティは半端ないよね。成長してる風にちょっとずつ変えてたんだろ。‥それも無意識に。まあ、そんなことでもしなかったらあんだけの魔力、余って余ってしょうが無かったわけだろうね。身体が無意識にその措置をとってたってことだろうから、‥生命の神秘みたいなもんを感じるね」

 ‥こっち出身って‥なに?

 俺は頭が真っ白になった。

「両親ごと、こっちから移住してたんだな」

 え? 両親がなんだって? 

 何が何だか相変わらず分からないが、‥両親はどうやら本当の両親で間違いがないらしい。

 よかった、急にこっちに両親が居ますとか、あの両親とは血は繋がってませんとか言われたらどうしようかと思った。

「だから、この状態でも対応できてたって言えるわな。‥あっちにサポートする人間がいないってのは、無理だ」

 ‥確かに、「12時でネジが切れます」って取説を自分が知っていたんだったら、自分で何とかするだろうけど、知らなかったら、誰かがそれを教えるか、サポートするしかない。

 両親は、俺にそれを教えなかった。

 教えずにサポートすることを選んだ‥。

 まだ薄暗い窓の外が、ほんのり紫色を帯びてきた。

 ‥この感覚だったら、多分‥5時前ってところだろうか?

「ああ‥。朝だな。今日はここまでだ。‥あんた‥、意識してあっちで実体作れる? 」

 俺の目線の先に薄紫の空を見たミチルが頷いて、俺に確認してきた。


 幻影を作る‥。実体のある幻影を‥。

 今までは、無意識で作ってきた幻影を、意識して作れるか?

 ‥そういうことだよね‥。さっきまでの話だと‥。

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