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リバーシ!  作者: 大野 大樹
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28.状態異常と混合スキル

「添加物って、あっちにはないものだったからね」

 兎に角駅に出ようって話になった。

 駅に近いっていうのは、結構便利だ。あっちに帰って、この便利な生活捨てるのは‥ちょっと考えるなあ。

「そうなんだよね。なんか、(自分が異世界生まれだって)知ってからかえって納得したっていうか‥」

 真っ青なアイスとか食べるとお腹を壊す俺は、「無添加箱入り息子」と呼ばれていたのだった。

 ‥すげえ、あながち間違ってない‥っ!

「さて、出掛けるとなると‥。父さんのご飯が‥。さっき吉川さんにお出ししちゃったから、父さんの分何か作らないと。こっちは、いいわね。「醤油」とか、もう最強って感じの調味料があるから。味噌とか、絶対あっちで作ろう。絶対売れるわ」

 ‥味噌。それは、結構好みが分かれるか、と。

 俺は、服を着替えながら適当に相槌を打った。

「あと‥。豆板醤!! 」

 ‥俺は、辛いの苦手です、止めて下さい。

 また適当に相槌を打つ。

「豆腐で、麻婆豆腐美味しいわよねえ。‥絶対こっちにいる間に豆腐をマスターするわ」

 母さんは、冷蔵庫を開けながらうきうきと話す。

 あっちに帰るの、楽しみにしているんだろうなあってのが、伝わってくる。

 しかし、豆腐をマスターって‥。

 ‥豆腐は、素人がレシピ見て簡単に真似出来る様なもんでもない気が‥。

「そうそう。お豆腐、今日買ってきたから、お醤油で冷やっこにしましょう」

 バタン、と冷蔵庫から豆腐を出して、まな板に置く。

「と? 」

 半分は、切って小皿に載せ、

 半分は、さいの目に切る。

「ご飯。それから、ミラクル調味料味噌の味噌汁」

 さいの目に切った豆腐は味噌汁に入るらしい。

 具は、わかめと豆腐だ。

「だけ? 」

 俺も、隣でネギを切ったりを手伝う。

「だけ」

 母さんが、ネギをつまんで冷や奴の小皿にのっけ、ラップをかけ、にっこりと微笑む。

 だけ。

 俺たちはさっき、生姜焼きと大根と人参のなますを食べた気が‥。

 ちょっと、扱いが‥。

「ほうれん草‥さっき、冷蔵庫にあった‥しわしわの。‥‥! ちょうどいい‥。これをスキルで戻してみてよ! 」

 俺は、冷蔵庫からほうれん草を出して、母さんの前に突き出す。

「これ? 」

 俺からほうれん草を受け取りながら、母さんが首を傾げる。

「はいはい‥」

 面倒くさそうに、母さんがほうれん草を両手で捧げ持つように持ち直した。

「おお」

 次の瞬間、俺は目を見張った。

 微かな‥金茶の母さんの瞳みたいな光が母さんを包む。

 ‥綺麗‥。

「微かだけど光ってるね」

 ほう、とため息をつきながら思ったままのことを言うと、母さんに睨まれた。

 ん? なんか、変なこと言った?

「一言余計よ」

 首を傾げて眉を寄せていると

低い声でボソリというと、母さんが俺を下から睨み付けた。

「わずかで悪かったわねぇ」

 と下唇をちょっと尖らせて拗ねなれた。

 いや、そんな気では‥。

「いや、ミチルとかもっと凄いキラキラしてたから」

 フォローしようと思ったのだが

 ‥あああ、また余計なこと言っちゃった‥。

 だけど、母さんはそれ以上拗ねることは無かった。

 もう、って感じで苦笑いして

「ヒジリのももっとキラキラしてるわよ」

 って付け加えた。

「魔力量の差? 」

 俺が自分の手を見ながら呟くと

「かもねぇ」

 母さんも自分の手を見た。

 手の上のほうれん草は、買ったばかりの様にシャキシャキに戻っていた。

「おお‥。魔力の色って、目の色と似てるよね。あれと属性って関係あるのかな」

 ほうれん草を眺めながら俺が言うと、母さんはほうれん草をゆでる為に、鍋に水を入れながら首を傾げた。

「瞳の色とは同じだと思うけど、それは‥このスキルなり魔法なりは私オリジナルですよって識別だから‥だから、同じ色の瞳をした人はいないのよ。属性と色の関係は‥さあねえ‥。私の属性は水だから、青いってイメージない? 」

 鍋を火にかけようとしたら、どうやら俺が邪魔な様だ。

 スミマセン‥。

 鍋を受け取って

「ああ‥。それいうなら、俺も水と土だけど、青って成分はどこにも入ってないね」

 じっと見た。

 ‥湯、今でも、ここでも沸かせるかな?

「鍋かけてよ? 」

 ぼこり、

 ボコりボコり。

「え! ヒジリそれ‥! 」



「よかった。まだ使えるみたいだ」

 俺が密かにスキルの確認をしていると、隣に立っている母さんがさっきから固まったみたいに、ピクリとも動いていないのが分かった。

「母さん? 」

 俺が声をかけると、びくりと肩が揺れた。

 ‥どれだけ驚いてるんだ。

 俺の方を、ギギって錆びた音がしそうなくらい緩慢な動作で振り向いて

「ヒジリ‥。火の属性もあったの? 」

 恐る恐るって感じで聞いた。

 ‥ん?

 何言ってるんだ? 家族の属性は、家族みんな知ってるだろう? 

「ん? ないよ? 俺は、水と土だけ」

 そうよね‥と母さんが小声で呟く。

「だって。火と水の属性がないと、火と水の混合スキルつかえないわよ? 」

「ああ‥そういう考え方もあるのか、‥湯を沸かすって。違うよ、俺の湯は、水の状態異常。今は、沸騰で止めたけど、気化させる‥蒸発させることも出来るよ」

 俺が何でもない風に言うと、母さんは「ほう‥」とため息をついた。

「‥流石、リバーシねぇ。そんな特別なこと出来ないわあ‥。状態異常‥。温めるだけじゃなくて、冷やすことも出来るの? 」

 俺は頷いて、グラスに注いだ水を凍らせた。

「凍らせることも出来るの! ええ! ‥これは混合スキルでも出来ないわねぇ‥」

 そういえば、インテリ眼鏡が「氷も出来るのか」って驚いてたっけ。

 ‥氷どころか、蒸発とか、ミストもできるぞ。その気になれば、雪も降らせられそう。‥面白そうだな、「出でよブリザーブ! 」とかやって、悪役そのものの俯瞰笑い浮かべてみたい。

 ‥厨二か。



「それにしても‥ヒジリは何も知らないのね。学校では何を覚えて来たの? 」

 母さんが、俺が沸かした湯にほうれん草を入れながら、ちょっと首を傾げた。

 ‥何って。

 そういえば、短い時間だったからかなあ。学校通ったの。学校行き始めても色んなことがあったし‥。

「‥授業はあったし‥インテリ眼鏡も熱心な先生だったんだけどねぇ‥」

 熱心は間違いない。自分で読めばする教科書を読んでおわり、みたいな退屈な授業もしなかった。

 どんな授業してたっけ。

 ああ、そうだ。あの時思い出したアレ‥あんな感じの授業が主流だった、

「自分オリジナルのスキルを考えて発表しましょう」

 って。

 で、発表したスキルをインテリ眼鏡が見て、改良点とかをアドバイスしてくれるの。

「それは、こうした方がいいかなあ」

 ってアドバイスが的確だったなあ。技術もその時、「これを使ってみたら」って感じで教えてもらった。

 一歩先行く授業って感じだったな。丁度、小学校中学校とかの授業って感じより、大学の授業って感じ。

 誰でも出来たわけでは無いだろう。

 でも、‥これは意識の違いだろう。ナツミは普段から魔法のことばっかり考えてた‥目指すものがあったからね‥常に皆より一歩も二歩も前を歩いてた。俺の場合は意識とかいうより、もっと死活問題的な感じで‥。ナツミからの愛の鞭で常に命の危険にさらされてたから‥(生き延びるために)新しいスキルを日々開発してた。

 ホントに、愛の鞭だったんだろう。

 普通なら、基礎知識も学んでない小学生に急に

「オリジナルのスキル」

 なんて言っても、考えて来ようがないはずなんだ。俺たちが躓いて、普通の子供みたいに結果を出せなかったら‥。容赦ないインテリ眼鏡に幻滅されて、もしかしたら見捨てられてたかもしれなかったんだ。‥考えただけでゾッとするね。

 ってか、スキルの実験ばっかりで、まともに授業してないな!!

 ‥俺が子供に授業料払ってる親の立場なら授業料返せって、言いたくなるね!! インテリ眼鏡め‥。

 でも、基礎知識があっての、応用だろって、思う半面、基礎知識に引っ張られて、新しい‥もっと自由な発想ができなくなるのも、まあホントなんだよな‥。

 どっちが良かったんだろうね。

「‥発想云々もそうだろうけど‥。普通なら、基礎知識もない状態でスキルなんか使ったら、それこそ危険なのよ。魔法のことは分からないけど、きっとスキル以上に危険な気がするわ。‥それどころか魔力のコントロールから始めるのが、まあ普通ね」

 母さんに言われて、成程そりゃそうだ。って思った。

 でも、‥正直それに至るまでの痛い目には、ナツミと会ってからの時間にいやっていう程会って来た。その時は、俺が一方的に痛い目にあってきたわけじゃないから、一緒にボロボロになって、お互いに治しあって、励まし合って、‥友情が芽生えた。

 一方的にボロボロにされたり、魔力を吸い取られたりの関係に変わって来たのは‥いつからだったっけか。

 ああ、ナツミの研究対象が「攻撃」にうつった時だな。

 それまでは、何か日常的な目的にしかスキルなり魔法なりは使ってなかった。

 ナツミの研究対象が攻撃に移って、俺は、それを避ける方に進化していって‥。そう、俺は攻撃をナツミと一緒に極めようとは思えなかった。反対もしなかったけど、賛成もしなかった。

 ナツミは、今まで友達で共同研究者だと思っていた俺の裏切りだと思ったのかな。‥だから、魔力を吸い取ったりしたのかな‥。

 俺のこと嫌いになっていったのかな。

 つきり、

 と胸が痛くなった。

 寂しい想いさせてしまっていたんだ‥。ナツミに‥。

 黙り込む俺の顔はきっと、落ち込んで暗いものだったんだろう。

「‥教えるってレベルじゃなかったんでしょうねぇ。ヒジリと‥ナツミちゃんが」

 母さんが明るい声で言った。

 俺は母さんを振り向く。母さんの口からナツミの名前が出てくると、また悪く言われそうで、ちょっと身構えてしまう。

「魔法使いって‥なんだか、怖い気がして‥だって、「あまりいない」んですもの。ちょっと、母さんも変に怖がって、‥ヒジリの友達悪く言っちゃった。‥ごめんなさいね‥ナツミちゃんがいい子だってことは私も知っているのにね‥」

「母さん‥」



 魔法使いは、得体が知れない。怖い。

 リバーシに対する、妬み、やっかみ、‥異質なものに対する偏見。興味。そして、生理的な居心地の悪さ。

 魔法使いは、それよりずっと「得体のしれないもの」

 孤独だったのは、ナツミも一緒。否、リバーシである俺よりもっと孤独だったのだろう。それに、ナツミの両親は、魔法についても詳しくなかったし、相談にも乗ってもらえなかっただろうからね。余計‥。

 自分が魔法使いだと知って、勉強する機会を得られたことに対する喜び、‥初めてもてた目標と言えるものだって言ってたっけ‥。魔法に対する計り知れない愛。そして、自分を取り囲む周りの反応の変化。

 ‥ナツミ‥。

「俺、ナツミを探す」

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