27.前向きな姿勢と、問題の方向転換。
‥危険だから、最後のひとつ『‥魔石に変える』をしようと思う。
『水‥』をしようと思ったら、結構大掛かりなチャレンジをしなくちゃならないかもだから。
‥ないものを出すのは、無理。
この世界で、ふつうにあることをちょっと便利に‥程度‥。
‥そう思えば、『金属でなんでも‥』はちょっと、無謀だったかも。
「母さんのスキルははこっちでも出来るんだよね」
洗い物をする母さんに話しかけたら「何、聞こえない」と母さんが蛇口をひねって、水を止めた。
「水をだしてると話が聞こえないわ」
と、俺の前に座る。
「できるっていっても、「植物を育てるのが上手」とか「水切りが上手」って傍から見える位のレベルよ。枯れてる樹に「大樹よ! 我が名のもとに生命の輝きを再び取り戻せ! 」とか出来ないわよ」
結構真顔で言った。
ふざけてる感、ゼロ。‥母さんは、実は結構天然なんだ。
こういうところ、ちょっと可愛いって思う。父さんは、苦笑してるけど。
父さんは、真面目なんだ。
「‥されても困るけど。厨二か」
呆れた様な顔で俺が答えると、
「しないし。あっちでもそんなことできるのは、大魔法使い位でしょうよ」
ふふ、と母さんが笑った。
ふんわりウェーブしたハニーブラウンの髪は、電球色のオレンジの光にキラキラ照らされて、あっちにいるときの様に明るく見えた。
あっち。言うまでもなく、SideBだ。
あっちで、俺はリバーシと呼ばれ、その身には膨大な魔力を秘めているらしい。
それこそ、悪人に狙われちゃうくらい、だ。
多分、特別なんだろう。
特別って、何が出来るんだろう。‥結構チートに何でも出来るんだろうか? 今はまだ、力が眠ってるだけでその内覚醒したりするんだろうか。‥でもないと、10年近く、城で匿ってもらったお礼ができる気がしない。
だから、兎に角今あがいてるんだ。
‥俺ができることを探すために。
一番の可能性は、‥魔力の有効利用、じゃない?
「そうねえ‥俺とかは、出来たりするかね」
なんせ膨大な魔力だし。それ位出来なきゃ。
「ヒジリに魔法は使えないじゃない。‥あっちで産まれたリバーシで魔法が使えないって珍しいらしいわよ」
‥あっさり、却下された。
しかも、俺は未だかって無いほど、ダメなリバーシならしい。
「へ‥? 」
目の前が一瞬にして暗くなる。
覚醒待ちの期待すら、一瞬で消し去る破壊力。
だって、今は‥子供の頃は出来なかったけど、今ならって話もないってことなのか?
そんなことを眉を寄せて聞くと、母さんはあっさりと首を振った。
「生まれた時に、決まってるらしいわ。魔力量も器の大きさは生まれ時に‥。まあ、幼い時は、その器がフルになってることがない。ヒジリはその器がけた外れに大きかったらしくって、調べた神官が驚いてた」
産婆に正規に取り上げられて生まれて来た子供であったら、生まれた時に子供の魔力の属性と魔力量の器を神官が調べてくれる。その時に、魔法が将来使える様になるか否かも調べてくれる。
魔法使いは、今では稀有な存在で、発見されたら、国が補助金を出すようなレベル。
だけどそれも、「産婆に正規に取り上げられて生まれてきた子供なら」だ。
裕福ではない家だったら、それこそ知り合いが取り上げたりするから、調べてもらわずに学校に行って初めて、そんな事実が分かるってことも、けっこうある。
ナツミもそうだった。
ナツミも学校に入って、健康診断程度の検査で「魔法が使えるかもしれない」と分かった。‥簡易なものだから、どんな魔法が使えるとかは分からない。だけど詳しく調べるには、かなりの費用が掛かるらしい。
「魔法学校に入ろうと思ったら、調べなくちゃいけないんだけど、それにはまたお金がかかるわねえ。なんでもお金で嫌になっちゃう」
って、ナツミが子供らしからぬことを言っていたのを覚えている。
今思えば、俺は「ふうん、大変だねぇ」なんて、超他人事で‥。
‥嫌な奴だったと思う。
‥そりゃ、「利用してやるか」とか思われるわなあ‥。
他人事な俺は、‥なんであのときあんなに呑気だったんだろうか。
自分は、リバーシと呼ばれ国に保護されてる特別な存在、っていう自惚れ? 慢心?
いつかは、自分も特別なものになれるって‥夢みたいなこと、思ってた?
‥でも、その甘さは今でも変わってなかったみたいだ。
「聖女になる人とか大魔法使いになるリバーシは、みんな魔法使えるじゃない」
‥今はまだ、使えない、じゃなくてこの先もずっと使えるようにはならない‥。
その事実は俺を落ち込ませるのに、十分だった。
‥なんだ、その事実。俺はそんな事実を聞かされたことがあったか? いや、あったら今まであんなに慢心して「何とかなる」なんて思わなかったはずだ。
いや、聞いていたのかもしれない。
聞いてたのに、俺は‥。
でも、‥自分は例外なんだって、思っていたのかも‥。
「だけど、魔力は歴代でずば抜けてるんだって」
落ち込む俺に、母さんが慌ててフォローしてくれた。
‥落ち込むって分かってたから、母さんが絶望させるってわかってたことを、言わなかったのかも‥しれない。
「‥へえ‥」
俺は、力なく頷いた。
そんな俺を慰め、母さんは魔力の器の話をしてくれた。
魔力の器をバケツ、魔力は水と例えるとわかりやすい。
成長すると、今まで、こつこつ貯めて来た魔力がバケツにいっぱい入るようになる。
量も個人差があるんだけど、溜まり方も個人差があって、魔力を貯めるのが上手い人は、結構夜寝て朝起きたらいっぱいになっているものならしい。逆に、貯めるのがヘタな人は、二日も三日もかかる。
俺は、どうだかわかんないけど、結構無茶に使っても困らない程魔力があったから、魔力の枯渇を心配したことは無かった。
俺の場合は、量だとか、たまる速度の話じゃない。
使い方の問題なのだ。
生活に便利なスキルを使ってる分には問題はない。だけど、‥魔力を全部使う程の使用は許可されていない。
それこそ、間違って、水(魔力)をばっしゃ~んってやっちゃったら、まずいってこと。
「そのバケツを倒したら、‥世界が滅びるレベルなんだって」
‥何それ怖い。
「だから、常に監視がついてたの。‥ヒジリは気付いてなかったかもしれないけど‥。魔法のことを言わなかったのは、‥将来的にも魔法が使えないってこと言わなかったのは、あなたが、魔法に興味を持っていたからよ。‥魔法に興味を持っているのに、『魔法は、一生使えないよ』って言うのが可哀そう、とかの話じゃないわ。『無理なら、努力しても無駄か』て思わせない為よ。‥魔法に興味を持って、普段から魔力と向き合ってる方がずっといい。使い方も分からない膨大な魔力を持て余しているのでは危ないもの‥」
‥もしかして、インテリ眼鏡も‥そう思って、俺にわざと冷たくしたのかな。俺よりナツミの方が興味があるって対応したのかな。
いや、
‥インテリ眼鏡の場合、ただ、面白がってただけだろう。
「うん‥」
‥事の大きさに理解が追い付かない。
「今まで黙っててごめんね‥。リバーシってだけで、特別視されてるのに、その上そんな‥」
一つ言えるのは、母さんたちが、どれ程苦しい思いで、俺を見て来たかってこと。
だって、ちょっと『化け物』だ。
自分の子供のこと、そんな風に思いたくない、それもあるだろうが、自分の子供ながら怖かったってのも、‥あったと思う。
だから。‥俺がこっちで暮らす間に魔力のことやスキルのことを忘れていったことは、彼らにとって「その方がいい」って思えたのかもしれない。
「うん」
「でもね‥。ヒジリの事、世界の災悪っていう人もいるけど、でもね。‥何も怖いことないわ。ヒジリの魔力も、ヒジリも、何も怖くなんてない。だって、ヒジリは自分が危ないってなった時、とっさに余った力を全部自分の容姿に‥まあいうならば、一番いらないものに使っちゃうような子なのよ? 何を心配することがあるの。‥危ない子ってのは、とっさに自分を害した者を攻撃したりするのに使う子なんじゃないかしら? ‥実はね、これ、ラルシュ様がおっしゃったことなのよ。『魔力の最も平和的利用ですね』ってお笑いになって‥」
一生懸命話す母さんを見てたら、
なんだかおかしくなった。
「ああ、自分で何言ってるかわかんなくなってるでしょ‥。いいよ、気ぃつかって、慰めてくれなくても」
ふふ、と自然に笑みが零れた。
母さんが俺が笑ったのをみて、ちょっとほっとした顔になる。そして、
「あはは、母さんあんまり頭良くないから、ダメねえ。いいこと言えないわねぇ」
ちょっと眉を寄せて、困ったように笑った。
‥口が上手な人なんてもっと信用できないよ。
‥いい。母さんの優しさは伝わった。
それに、俺だって、世界に災難をもたらしたりなんてしない。
「‥ありがと‥」
「何よ。しんみりして。今日は、今から呑みにでも行く? こっちのお酒ってそういえば呑んだことないわ」
母さんは困った様な笑いのまま言った。
「ないの? 」
くす、と俺も笑う。
「父さんが「なんかこわい」って言って。こう‥液体は身体に染み込む気がして、「馴染まなかったら、どんな影響が出るやら‥」どれだけ、心配性なのよ」
父さんの話をしたら、母さんの笑みが、いつもの「まったく、父さんときたら」って顔に戻ってた。
父さんの母さんに与える安心感は、半端じゃないな。いちゃラブ夫婦とかではないけど、あの二人はお互いがお互いを、お互いなりに支えている。‥ああいう夫婦に俺は憧れる。
「大丈夫だよ。俺は呑んだりするし」
まあ、そう呑まないけど。吉川とウーロンハイ呑むくらい?
「そうよねえ? 」
「‥そうだなあ、純米の日本酒とか混ざり物のない良いワインとかの方がいいかも。俺も‥だけど、添加物とか結構苦手なのかも」
実は、母さん「シリアスな話」がそんなに得意じゃない。
頭が良くないから、って母さんは言うけど、‥それだけじゃないと思う。
母さんは、ただ、みんなが笑ってるのが好きなんだ。自分が苦しむのがいや、なんじゃなくて、誰かが笑ってないのが嫌。誰かが嫌な顔をするって分かってて、難しい話をするのが、‥嫌。
逃げてるって、彼女は分かってる。
だけど、逃げても、自分の中でため込んで苦しくなっても、それでも、誰かの嫌な顔が見たくない。
「呑みに、‥いくかあ」
「ね」




