26.SideAでスキルを使ってみることにした。
もう、たぶん忘れていることはない。
後は、知らないこと‥『身体』が寝ていた間のことを知りたい。
もともと、じっくり考えるより、身体を動かす方が向いてる。
所謂、筋脳ってやつだ。
だけど、そんなに賢くない(自覚在り)から、意味のあることをやっているとは限らない。後で「あれ意味なかったな」って思うことも、結構多い。
でも、動かないより動いた方がすっきりする。それは、確か。
「動いた結果、分かった」
ってことも、ないことは‥ない。そんな程度だけど。
賢い人ってのは、ちゃんと計画的に意味のある動きをするんだろうけどね。
まあ、でもうじうじ悩んでいても‥何も変わらないし、気持ちも晴れないし。
「なあ、国見ぃ! キャッチボールしようぜ! 」
俺はある実験をする為に、昼休み、後輩の国見をキャッチボールに誘った。
国見は、そうアウトドアな人間でもない。
「あ? 昼休みにキャッチボールって‥。聖がそんな健康的なこといいだすなんて、驚きだな! 」
しかも、運動部って感じの人間でもないからか、先輩で年も2歳とはいえ年上な俺に対して、敬語を使ったりしない。
そういう運動部系の習慣がない。
(俺はあるよ。運動部だったし。大学の時、ボランティア部にも入ってたし)
多分、高卒で仕事をしてきた国見にとっては、転職してこっちに入って来たから先輩後輩になってるけど、職歴なら俺のが長いぜ~みたいな感じなんだろう。
確かに、社会人としては先輩だなって思わせるところが国見にはあった。
考え方もしっかりしてるし、なにより、仕事ができる。
転職だって、前職の会社が倒産しただか何だかで、同じ職種のこの会社に紹介されて入ったんだから、後輩と言えど俺が教えられるようなことは何もなかった。
逆に教わったりすることもあるくらいだけど、そういうことで国見は「こんなことも知らないの? 」みたいなことは言わない。だから、俺は(聞きやすさもあるし)結構、国見を頼りにしている。
「まあまあまあまあ」
まあ、今では「いい友達」みたいな感じだ。
先輩風吹かせて「生意気」なんて言う気もないしね。
‥同期の吉川を誘わなかったのは、別に吉川を避けているわけではない。
インドアで運動向けじゃないのは国見も一緒なんだけど‥
吉川は、壊滅的に運動音痴なんだ。その分、国見は、まあ、「普通」程度だけど運動をしてたはずだ。この前事務所の親睦会『他事務所合同歩こう会』にも(うちの事務所の人数合わせのために)出てたし、別に最後までばててなかったし。
‥因みに、我が事務所は佐藤さん、俺、中川さん、国見っていうメンバーだった。
‥完璧数合わせだね!
「投げるぞ! キャッチしろよな!! 」
って構えるフォームもなかなか様になってる。
俺は構える。
が、今日の俺は、受ける姿勢じゃあ、ない。
スキルが「止めてくれる」のを確かめるために、あえて、国見の球を食らう覚悟で今ここにいる‥っ!
が
「って~!! いてぇ! 」
痛い!! 本気で痛い!!
何手加減ゼロでソフトボール投げてんだよ!! 鎖骨だか肋骨だかに直撃したぞ!!
俺が蹲って悶絶していると、
「って受けろよ!! 危ないだろ!! 俺を過失致傷とかで訴えようとしてんのか!? 新手の後輩いびりか?! 」
国見が慌てて走りって来た。
心配してるっていうより、
‥ドン引きして、呆れてるって感じ。いや、ちょっと怒ってるかな。
「‥お前、俺のこと先輩だなんて思ってないだろ! ‥ちょっと油断してただけだ。今度は止めるぜ‥!」
俺は、国見を下から睨み上げると(蹲ってるから視線が下なだけ、国見とだって、立ってたら俺の方が身長は高いよ!! )国見が、更に呆れた様な顔をした。
「‥大丈夫かよ‥。ホント、オレ、シャレなんないの嫌だからな‥」
国見は、呆れた顔のままため息をつく。
‥よかった、国見に頼んで、吉川に頼んでたら、今頃「医務室に行け、もうやらん」って言われてるぞ。
「児嶋さん、運動神経悪すぎですよね‥」
いつの間にそこに来ていたのか、後輩の事務員中川さんが缶コーヒーを三本抱えて立っていた。
完全に、呆れ顔だ。
「ホント、マジそうっすわ。受けろって感じっすわ」
何故か、国見は、ギリ先輩になる中川さんには敬語っぽい変な口調で話す。
今みたいな‥感じにだ。
「違うわ!! 」
中川さんと国見に「イジラレ」、俺が逆ギレしていると、「仕方ない人ですねぇ」と中川さんが俺と国見にコーヒーをくれた。
あ、すげえ、国見喜んでる。
お前、普段砂糖入ったコーヒーなんて飲まんだろうが。
「はいはい、今度は受けますよ‥。もう一度お願いします。国見サン」
「仕方ないなあ」
‥ああそうか、受けるってことも出来るわな。
グローブの下の指に、さっき貰ったコーヒーのプルタブ(アルミだけど、一応金属!! いや、アルミじゃないかも、これなんだろ)を付けて
受ける
「よし! 止めた! 」
思わずガッツポーズだ。
よし、止まったぞ!! スキル発動だ!!
大喜びしてしまった俺に
「‥よかったな」
国見はドン引きして‥
「‥そんな一回くらいで大喜びされても‥。やっぱり、児嶋さん運動神経‥」
中川さんが疑いの目で俺を見ている。
「だから!! 」
‥俺は運動神経はわるかねえ!
‥あ、そうか。自分で受けたのかもしれないな。ミラクル反射神経と、超絶運動神経が自然に発動しちゃって‥。
じゃあ、金属(※プルタブだけど)つけたまま‥わざと、油断して‥
「もう一回! 」
国見から離れると、ぶんぶんと腕を振る。
よっしゃ! こい!
「はいはい‥」
呆れ顔の国見と
ちょっと「大丈夫ですかあ」って意地悪な顔で俺を見る、中川さん。
見てろ、中川さん。よそ見してても華麗にキャッチするぜ!
超雑反射神経に見せかけての~
『スキル! 金属でなんでも止める‥! 』
「ちょっと! 聖! 」
「児嶋さん!? 」
‥痛い。
さすさすとこぶができた頭を撫ぜて、母さんが渡してくれた氷嚢をこぶに当てる。
「一体何をしようとしていたの? 」
母さんが呆れた様な顔で、それを見ている。
‥恥ずかしいから、見ないで欲しい‥。
「こっちで、スキルを使ってみようとしてたんだ」
ため息とともに白状すると
「‥無茶なことを‥」
母さんも、呆れた様にため息をついた。
痛いし、人にも迷惑かけた。
‥これからは、人を巻き込んで実験するのは止めよう‥。
結局あの後、‥でも、何とかリタイアもせず俺は就業迄仕事をして、帰りは家が近い吉川に車で送ってもらった。吉川は、呆れた様な顔をしていたが、何も言わなかった。
‥てっきり、めっちゃ馬鹿にされるかと思ったが、
「大丈夫か? 」
と、ぼそりと一言聞かれて、‥かえって反省した。
馬鹿なことした。
吉川に送ってもらって帰って来た俺を見て母さんは凄く驚いて、吉川にお礼を言って、一緒に晩御飯を、って勧めてた、一人暮らしの吉川は「じゃあ‥」って言って、一緒に食べて、今帰ったところだ。
吉川は、微かだけど笑顔で母さんと話したり、‥結構普通の人みたいだった。
母さんと二人で
「聖は馬鹿だから心配」
だの、
「吉川さん、ヒジリがご迷惑おかけして申し訳ありません」
だの、俺はやたらイジラレてたんだけど、‥なんか面白かった。
俺はいじられキャラって奴なんだろうか。
「皆さんにもご迷惑を掛けて‥。国見さんにも明日またちゃんと謝っときなさいよ」
母さんが、じとっと俺を見る。
「御意です~」
ふくれっ面で了承すると
「何それ」
余計に呆れられた。
「吉川さんにもね。吉川さん、家結構近いんだから、また来てもらったらいいのに」
吉川の家が俺の家に近いのは、‥俺の巻き添えを食らって、故郷遠く離れてここに来てるから‥。本当に、吉川には迷惑かけっぱなしだ。
「でもな。‥いずれ、あっちにかえるんだったら‥ね」
あっちって、SideB、俺たちの故郷だ。俺に至っては、こっちに住んだ方が長くなってるから、「生まれ故郷」って感じなんだけど。
故郷かあ。
‥吉川だけでも、吉川の故郷に返してやりたいなあ。(※こっちに飛ばされる前は、吉川の故郷にある事務所だった)




