25.インテリ眼鏡
カイ先生は‥。‥違う。だって‥
カイ先生はあの後、それこそインテリ眼鏡に
「あんたじゃ、役不足」
って一笑されて、‥で、結局、俺たちの先生にはインテリ眼鏡が成ることになった。
他の先生やら、カイ先生にもインテリ眼鏡はいろいろと言われてたけど、インテリ眼鏡は聞いてなかったな。
いつも通りの、人をこ馬鹿にした様な顔でさ。
「厳しくしようったって、自分より勝ってるものがないような奴の話、ナツミは聞きませんよ」
「じゃあ、あんたはどうなんだ」
って言われたら。
「さあ。でも、俺は現状維持に甘んじちゃいませんよ」
って。いやあ、あの時の他の先生方の顔ったら!
‥いい奴だった。
教育熱心で、生徒おもいで。
「だってさあ、カイ先生じゃ、ナツミの可能性をつぶしかねませんし。ヒジリの力も無駄にし兼ねませんね」
‥否、ただ、研究が大好きで、魔法が大好きなオタクだった。
あの時から、興味の対象はナツミの魔法で、俺は‥魔力が大きいだけの、おまけだった。
あの頃の俺はそれが悔しくって、気を引きたくって
「大きく成ったら、あっちの世界に留学するわ。知識を仕入れて来るね」
って言ったりした。
‥そんなに、興味ないって顔されたっけ。
他の皆は、SideAに興味があったって、俺に「行かないのかよ」って聞いて来てたから、リバーシとして、期待されることってそれだ、みたいに自分の中で考えてたとこあったんだけど、インテリ眼鏡にとってはどうでもよかったみたいだった。
‥魔法にしか興味ないんだったね。
だから、もちろん俺にも興味はなかったんだ。
そうそう。SideB生まれのリバーシは、望まない限り別な世界(SideA)にいかない。
だから、一日が長いだけ。
だけどね。リバーシの事、そんなに知ってる人もいない。
いまでこそ、母さんも「俺を見て来たから分かって来た」んだけど、昔は全然分からなかったんじゃないかな? リバーシだって生まれて間もないころに説明されて、魔力量が多いから気をつけろとか注意事項を聞かされて、学校だとか‥今後の暮らしとか説明されて‥。
だけど、「夜寝るか寝ないか」みたいなどうでもいいことは、説明はなかった。
リバーシは眠らない。
朝起きて、昼が来て、夜が来て、家族が寝ても、眠らない。
もっとも、母さんたちは俺を寝かしつけてたから、多分、俺が眠らないことを知らなかっただろうな
「寝つきが悪い子‥」
ってくらいにしか思われてなかったかも。
母さんが困るから、寝たふりをして、母さんが部屋から出た瞬間、ベットから起きだす。でも、明かりをつけるわけにはいかない。
仕方ないから、なんか‥
お、なんか思い出した。
仕方ないから、俺は‥
身体を置いて、‥遊びに行ってた‥。
人がいないとこに‥。
森だとか、湖だとか、兎に角一人になれるところに行きたかった。
人に会ったら「何でこんな時間に外をうろうろしてるの」「怪しい奴か」って、ややこしい。夜に活動するのは、‥泥棒だとか、あんまりいいイメージは無い奴らだからねえ。
そもそも、燃料代も馬鹿にならないから、あんまり裕福ではない平民は、夜になったらさっさと寝た。無理して夜通し内職したとしても、内職で得られた給金くらい燃料代がかかるってやつだ。
みんなそんな感じ。
だから、‥夜は真っ暗だった。
怖いしね。
だから、人に会わない‥綺麗な景色のところに行きたいって、念じた。
目を開けば、ある時は湖。ある時は、山。
俺は夢中になった。
今思えば、あの景色はSideBにはないところだったから、‥きっと、SideAに来てたんだろう。
人に目撃されなかったから、問題は無かっただけで、‥普通だったら法律違反だな。
SideAからの『迷い人』と違い、SideBからの脱走者は違反とみなされ、それこそ身体を人質に取られる大罪なんだ。こっちの情報が、SideAに漏れるのを防ぐため‥が一番大きな理由かなあ。
兎に角、国としては、リバーシが勝手なことをするのは、禁止されてるんだ。
一回、ふらっと立ち寄った湖があんまり綺麗で、朝日が昇るのを見てから帰ったことがあって、その時は、朝になっても眠ったままの(※いつもは、家族の誰よりも早く起きて庭なんかで遊んでいた)俺をみて母さんが血相を変えたことがあった。(と、後で聞いた)
「医者だ」
「いや、シャーマンだ」
なんて大騒ぎしているときに、俺が「起きて」きたらしい。
泣いてる母さんを見て、こんなこと今後は無いようにしようって誓った。
なんせ、身体から意識が抜けている間の身体ってのは、空っぽだから、呼んでもゆすっても起きない。 それこそ、強く叩いても起きないんだ。そりゃ、心配するよね。知らなかったら、なおのことだ。
‥懐かしいな。
ん、でも待てよ。
そうか‥幽体離脱‥夜じゃなくても出来るんだ。
ミチルは、あっちの『身体』が寝てる時だけ、幽体離脱して、意識だけここに来てる。
それは、あっちに拠点を置いててその時間にならないと、身体を放棄すると困るから。
12時ってぴったり「決めて」るだけで、多分、関係ない。ただ、ミチルはこっちで『身体』を保ってられる力が8時間くらいとかそういったことだろう。
だけど、俺は、それ以上に力がある。
なんせ、あっちの俺が眠ってから、何年もずっと幽体離脱し続けて、こっちで無意識に『身体』を作り続けたから。
どうやって、エネルギーを補給してたんだろう。
こっちで暮らしてたら、魔力は使わない限り減らないし、使っても、使わない時間をつくればその間にたまる。だけど、SideAでは、そもそも魔力って考えが無いから、‥使えないし、たまらない。でも、身体の保持に魔力はいる。
‥ブレスレットか。
あっちで眠っている俺にもついていて、作り出した俺の身体にもついていて「外れなかった」ブレスレット。あれが、俺の身体と作り出した身体を繋いで、魔力を供給していた。
リバーシの身体は、減った分の魔力を作り出すから。
そして、「毎日の魔力を作る」という習慣は、ブレスレットが常に魔力を吸い続けることによって、俺が寝ているにもかかわらず、起きているときと同じように‥同じ量だけ続けられた。
半分は、寝ている俺の生命維持に、そして半分は、あっちでの身体の保持に。
霊体と本体が同じだけの魔力(というか、霊体の方が保有していた魔力は多かっただろう)を持つっていうのは普通の事じゃない。ミチルは霊体の方が魔力の大部分を持っており、あっちで活動しているときにしか、そのほとんどを使うことが出来ない。
だけど、おれは違った。
それが、‥どういう仕組みだったかは分からないが、ナツミやラルシュ様が関わっているんだろう。
‥二人とも、凄すぎる‥。
そんなに「いい奴」ってわけでもなかったナツミ。
俺のことは、ただの魔力の電池って思ってたかもしれないナツミ。
魔法学校に行って、もっと、魔法の勉強がしたくって、その為に、お金を貯めるために魔道具を作って売ったり、俺から魔力を吸い取って 魔石をつくって売ったり。
逞しい奴。
多分、あんなに自分の欲望に忠実な奴って、他に知らない。
あんなに自分に素直な奴って、他に知らない。
あんなに、真っ直ぐな奴、他に知らない。
可愛くって、強くって。それこそ、黙ってたら、妖精みたいだった。いや‥そんなにピュアってかんじじゃなくって‥ああ、そう。『ピーターパン』に出て来る『ティンカーベル』って感じ。
その可愛らしいのが、ふわっと笑うと、皆赤面して魅入っちゃうくらい。
それで、相手の動きを止めたところで「馬鹿じゃないの」って、それはそれは憎たらしい口調。
‥ダメージ半端ないよ。相手は立ち直れないよ。
‥そんな風に、他人なんて彼女にとって、『遊び相手』対象でしかなかった。
だけど、‥俺とは一緒に居てくれたな。
‥ナツミにとって、俺はそんなことをしても壊れれない丈夫なおもちゃで、魔石製造マシーンで、魔法の実験動物だった。
利用されてただけ。
だけど、‥憎めない奴。
あの時、俺を、とっさに、ラルシュに預けてくれた。
ナツミがあの時そうしてくれていなかったら、俺は死んでいただろう。
ナツミは今どこにいるんだろう‥。
ナツミに、「あの時はよくもやったな! でも、‥もう大丈夫だから安心して」って言ってやりたい。
もう一回友達(?)になろうって、‥言いたい。
何より、会いたい。




