24. 失った思い出は、案外忘れたままにしておいた方がいいってものの方が、結構多いのかもしれない。
あれから、ラルシュにミチルが「もう、寝ろ」って追いやって、ミチルも仕事に戻ったから、一人になった俺は、ちょっとリハビリした。でも、そんなに長い時間は出来なかった。
ちょっと、話し過ぎたんだね。
結局、あの後すぐミチルが「時間だよ」って誘いに来てくれて帰った。ミチルのスリーピングビューティー(寝てた時の俺だ)に対する『病んでる想い』を聞いてから、ちょっとミチルと二人になるのが‥気まずい。
でも、こっちの世界‥ミチルが言うところのSideA‥には吉川がいる。
避けたり、気まずくなったりするのは、駄目だって分かるけど、なんか‥そういうのって苦手だ。
あんまり、今までいろんなこと考えてこなかったから、‥かなあ。
色んな事、かあ。
恋、‥それよりまず、性別だな。そして、あっちで俺ができること。それを踏まえて、今後の俺の生活設計。
そんなことを考えていたら、階段の下からふわりとコーヒーの香りが漂ってきた。
母さんがコーヒーを入れてくれて、俺が自分で食パンを二枚、スライスチーズをのっけて焼く。母さんが卵を焼いてくれた時は、それも一緒にのせる。
パンとコーヒーのシンプルな朝食。
父さんは今日も、もう出勤した後だったから、それを母さんと一緒に食べる。
(こんな長距離の通勤や、通勤ラッシュはあっちの世界にはない。って、あっちの世界の顔見しり(なんだろう)に話してたよ。‥そうだろうな。)
コーヒーはミチルの家みたいに本格的なサイフォンとかじゃない。コーヒーメーカーだ。粉をセットして水を入れて、ぼこぼこと最後の一滴が落ち切れば、自分のマグに自分で注ぐ。
母さんは、陶器市で買ってきた何とか焼き(忘れた)っていう焼き物のコーヒーカップ。父さんと色違いで買ってきたが、父さんの分だけ割れたので、今残っているのは、釉薬がピンクの母さんの分だけだ。
俺は、軽い陶器のカップを使っている。シンプルで軽くて、何より丈夫そうだ。
「母さんって、あの国にいるとき、魔法とか使えたの? 」
コーヒーを手に席に座りながら、俺はふと、そんなことが気になった。
ホントに、ふと、だ。
「魔法? 使えないわよ? 魔法使いなんてそうそういないのよ? 」
母さんも、俺の突然の変な質問に首を傾げた。
‥ん、確かに急に変なこと聞いてしまった。
だけど、
「ああ、あっちに帰ってたのね? 」
って母さんが、納得したように頷いた。
いや、帰ってたけど、あっちでそんな話をしてたわけじゃ、ない‥。
思ったが、それは曖昧に笑って頷いた。
「スキルも‥母さんは、そんな大したものは使えないわ。それは、父さんも‥変わらないわね」
コーヒーカップをを両手に包むように持った母さんが、ニコニコと微笑みながら言った。
「どんなの? 」
こてん、首を傾げながら聞くと
「植物に水分を行き届かせるスキル。母さんは、水の属性だから」
こんな答えが返って来た。
「‥それ、絶対野菜がしおってなった時に便利だから練習したんだよね」
‥生活感出まくってる‥。
ちょっと呆れたって声になってしまったのは、だけど仕方が無いだろう、
「そうよ? 」
でも、母さんはあっさりと認めて頷いた。
‥母さんらしい。まあ、驚くまい‥。もしや、俺の変なスキルのセンスって母さんからの遺伝か?!
「父さんは? 」
「父さんは、ぼこぼこの泥道を平らにするスキルよ」
‥いや、間違いなく、両親の影響だな。
‥こっちも生活感半端ない。そして、超ダサい‥っ!
でも‥
「まさかの、めっちゃ便利なスキル‥! 」
これさえあれば、ぬかるんだ道で靴が汚れる心配はないね! ‥父さん、靴を大事にするからなあ。
‥もしかしたら、あっちでのスキルは、こっちの感覚よりずっと「特別」なものじゃないのかもしれない。
これができたら便利、って‥アプリみたいな感じ‥なのかも。
俺が使ってたのもそうだったし。
「そのスキルって‥こっちでも出来る? 」
俺は二枚目のパンを食べきってコーヒーをお代わりに行きながら聞いた。
「母さんは、出来るわ。そう魔力を使わないスキルだし、‥こっちで、スキルを使わなくても出来る現象だから」
母さんは、一枚のパンをゆっくり食べながら微笑んだ。
「ん? 」
‥さっき、なんか変なこと言ったぞ。
『スキルを使わなくても出来る現象』?
首を傾げる俺に母さんは、一度頷くと
「水につけて置いたり、生け花だったら切り戻ししたりしたら、ある程度戻るわよね。その時間短縮をスキルでしているに過ぎないのよ。だから、まあ、‥水を出すってことは出来ないけど、あのスキル位なら問題なくできるわ」
説明してくれた。
「ヒジリは、ホントに覚えてないのねぇ」
ってちょっと寂しそうでもあったけど
「でも、‥よく考えたら、こっちでスキルなんてないのが当たり前の生活に慣れてしまったら、‥忘れてしまうわね。仕方が無いことだわ」
って言ってくれた。
‥本当に申し訳ない。
「‥でも、知らなかったのかも‥。だって、ヒジリは学校に行き始めて直ぐぐらいに眠りの呪いをかけられたから‥」
眠りの呪い‥。
ちょっと‥違う、かな。
まあ、今はいいや。それより‥。
「スキルとかの事、覚えたいから、母さんが知っていること、全部教えて」
俺がお願いすると、母さんがゆっくり、力強く頷いた。
「いいわ。時間がある時にでも、使ってみましょう? ヒジリのスキルは覚えてる? 」
「覚えてなかったんだけど、ミチルが詮索のスキルで見たのを聞いて思い出した」
「‥(ミチル君、詮索のスキル持ってるんだ‥。流石リバーシね‥)そう。でも、また今度にしましょう‥。‥ヒジリ会社遅れるわよ」
「おお!? あ‥いってきますっ‥! 」
‥あれを言うのかあ‥。母さん笑わないかなあ。でも、母さんたちのスキルも大概だしなあ。
‥うん。母さんたちも、人のこと悪し様に言えるようなスキルじゃない。
「よし! 一日一日がんばろ~! 」
で、夕飯の時間に教えたら
「‥『金属でなんでも止めるチートなスキル(状態異常)』って‥。ヒジリ、一体何を止めたいの?? 金属って何。鉄とか? 剣? ヒジリは一体何と戦ってたの?? 」
って心配されてしまった。
‥おお、そんな考え方があるか‥。そうだな、あっちの世界なら、金属で止めるっていったら、戦い的なものになるかな?
「いや、雨とか当たらなくて便利だよ」
「ああ! 確かに! いいわあ」
母さんが目をぱっと輝かせると、
「確かに。なんでも、だもんな。おやじ狩りにあわなくて、安全だな」
父さんも感心したように頷く。
‥あったんですか?? おやじ狩り。
「で、金属って、何でもいいのかい? 」
「ええ。でも、金属の耐久性=スキルの耐久性ですよ。多分、‥アルミより鉄の方が強いと思います」
「防護系のスキルか」
「そうですね」
‥そういえば、そうだな。
そういえば‥俺は、ナツミの攻撃に攻撃し返すって思ったことない気がする。
ヘタレ~って感じなんだろうか、否‥女の子相手だし、優しさって奴だな。きっと。でも、俺も女の子だったっけ?
ん~よく覚えてないや!
‥え? だってヒジリはリバーシじゃない。リバーシだったら、‥大丈夫、でしょ?
ん‥? なんか、思い出しかけた。
なんだ? 何が大丈夫なんだ?
‥リバーシだったら、せめて、誰かの助けになるようなことしないと。
誰かの助け? リバーシがなんだって?
‥だって、税金で‥私たちの税金で生きてるんでしょ?
ああ、‥居心地悪くて、「気分が悪くなってた」のは、寧ろ‥俺の方だ。
つまり、税金で食べさせてもらって(保護されてる)リバーシだし、リバーシは防御能力も高い。だから、自分たちの攻撃魔法の練習台に位なれ、ってことか。‥腹立つこというガキどもだなあ。
‥昔の‥子供の俺は、やっぱりあんなこと言われて、傷ついただろう。
ふん、アンタたちのスキルなんて、わざわざリバーシを練習台にしないでも、そこらの草相手にやっても、大丈夫よ。むしろ、草が圧勝するレベルじゃない? ふふ、その自信、どこから来たのかしら。
‥笑わせる。
ナツミ!
リバーシを練習台にするってのは、こういうレベルのことをいうのよ!
そうそう、で、切れたナツミがそこらを火の海にして、俺が鎮火したんだった。わざわざ、俺に行動制御の足枷の魔法使って、直ぐには火を消せないようにしたんだよな。
火の勢いが強くって、周りは火の海で、慌てふためいて逃げ纏うクラスメイトたち‥。だけど、ナツミは俯瞰で悪役スマイル。ご丁寧に腕組みして、だ。
まずいって!! ナツミ!!
で、俺が必死で足枷の魔法を解除してて水の攻撃魔法で鎮火したら、先生方が来て
理由も聞かずに、血相変えて、
ナツミとヒジリは、カイ先生の教室でお世話になりなさい! ‥カイ先生、手加減も容赦もいらないですよ!
‥厄介払いだ。分かるわ~。俺でもそうする。
で、特別クラス行きがきまったわけね?
‥ん、じゃあ、この『カイ』がインテリ眼鏡の名前なのかな‥。なんだ、ナツミが教室を追い出されたんじゃないか。俺は‥とばっちりだ。
結構、記憶が間違ってるなあ‥。
昔の思い出なんてそんなもの‥
‥いや‥。違う。
カイ先生は‥。‥違う。だって‥




