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リバーシ!  作者: 大野 大樹
2/78

2.sideB

 ‥‥‥‥。

「‥‥‥」

 俺は、疲れの残る頭を無理やり覚醒させて、周りを確認した。

 身体を起こそうと思ったが、出来ない。

 風邪で熱が高い時の様な、倦怠感。意識もぼうっとしている。

 それでも、何とか目線を周囲に漂わせると、部屋の様子が分かって来た。

 俺の六畳半の自室じゃない。

 シングルベッドが二つ並んだ無機質な部屋。

 もう一つのベッドに座っていた男が俺に気付いて俺のベッドの前に立つと、俺の顔を覗き込んだ。

「あ、起きた? 」

 心配そうな顔。

 オリーブの瞳と、アッシュがかったオリーブの髪。確か、ミチルだ。

 ‥そういえば、昨日この男に引っ張られて連れてこられたんだっけ‥。

 誘拐‥拉致解禁だ。

 誘拐男(ミチル)の横に立つ男の目が俺に合わされる。

 男が、ふわっと微笑む

「初めまして、だね」

 ‥なんだ? 二人いる。

 頭が痛い。幻覚が見えてるのか。

 こめかみを抑えて、頭痛に苦しんでいると

「おい、‥お前、ちょっと位容赦しろよ」

 さっきとは、打って変わった二人目の不機嫌そうな声が聞こえた。

 どうやら、「ミチル」に怒っているようだ。

 遠慮ない口調から、二人の親しい様子が分かる。

「ごめんごめん。俺がダウンしてる間に逃げられたらシャレになんないから、朝まで眠ってもらおうとしただけなんだけど、‥焦ったら、思った以上に強力な術をかけちゃった」

「かけちゃったじゃないだろ。何か精神に異常がでたらどうするんだよ。ただでさえ、こんな忌々しい魔道具付けられてるんだから‥」

 ‥魔道具。

 今日もそれを言うのか。

「取れそうか? 」

「‥分からない。かなり強いね‥。でも、やる。やらないと、彼女は‥もうそろそろヤバい」

 ‥ヤバい。

 ええと‥、間違えじゃなかったら、さっきからこの人たちが言ってるのは、このブレスレットで、このブレスレットが「強力な魔道具(笑)」で、これを取らないと‥

 彼女がヤバい?

 だれ、彼女。

「‥昨日から、やけにこれを気にしてるみたいだけど‥。あげないですけど、見る位はいいですよ。‥よいしょ‥」

 俺は、ブレスレットを外してミチルに渡した。

「!! 」

「外せるのか!! 」

「え? ‥! 」



「え!? 」

 身体がふっと軽くなり、

 次の瞬間、ずんっと重くなった。

 だるい、ではない。目が回る‥。立ち眩みがする。ぐるぐる回って気持ち悪い、そうちょうどそんな感じ。

「スリーピングビューティーが目覚められました! 」

 なんか、メイド服きた女の子が騒いでいる‥。

 スリーピングビューティーって。昨日ミチルがそんなこと言ってたな。

「王子様にすぐご連絡を!! 」

 おお、別の「メイドさん」こっちは、メイド長って感じかな。

「王子様がおられません‥え?! 」

 さっきの「メイドちゃん」大騒ぎ。

 ちょっと落ち着きなって‥。頭に響くから‥。

「いつからここに!? ‥どちらかに行かれておられたんですか? あら、ミチル様? こんな時間に平日においでになるなんて珍しいですね‥」

 「メイドさん」ミチルをご存じで。

 ってか、ここで「初めまして」は俺だけって感じだな。

「‥なんだ、ここは‥」

 だけど、「ここ」は見覚えが、ある。



 あそことは、違う風。‥何て言うのかな、空気が違う。

 ここの空気は、草原みたいないい匂いがする。

 それに、日射しがもっと柔らかい。

 懐かしい。

 やっと帰って来た、って感じがする。

 ああ、そうそう。俺は学生時代ここで過ごした。

 学生っていっても、大学とかじゃない。たしか、初等教育‥小学校だ。

 学校っていっても、小さな教室に机を並べて‥同級生なんて、俺と幼馴染だけ。

 先生は、眼鏡をかけたひょろっとした男で、俺は「インテリ眼鏡」ってあだ名付けてた。

 いや、‥命名は幼馴染だっけ。

 そうそう‥。ホントは、同級生は二人じゃなかったんだ。だけど、皆が俺と一緒だったらなんか、気分が悪くなるって‥。

 で、俺は一人ぼっちになるはずだったんだけど、幼馴染もそれにつきあってくれたんだ‥。

 インテリ眼鏡は、そんな俺たちの先生を申し出てくれた。

「「あの子」は、只ものじゃない」

 って。

 あの子って、‥俺かナツミの事。

 そう、幼馴染はナツミっていう女の子だった。

 黒髪に、赤紫‥なんか美味しそうなベリーみたいな色した目の女の子。目がくりっとしてて、きらきらしててすっごい可愛い。で、一方の俺は、‥うん、平凡。

 オンザ眉で切りそろえた前髪、後ろで一つに縛った髪の毛は、ハニーブラウン。若草色の瞳。良く言えば、純朴。一文字で表現しろと言われたら(そんな状況は無い)「草」って感じ。あの、枯れかけの草って、金と緑と茶色のちょうどこのコントラストになるよね。


「先生! ナツミ」

 先生に、俺が自分のスキルの説明をしている記憶が頭に甦ってきた。

 ボールと氷と石を、子供の頃の俺が机の前に置く

「『金属でなんでも止めるチートなスキル』! 」

 そして、ボールを手に取ると、わざと自分に当たる様に、真上に掘り投げる。

 そして、自然に落ちて来たボールを指輪を付けた手で「止める」。

 受けたわけではない。ボールは、俺に当たる前、‥手に当たる前に止まり、そのままストンと不自然な軌跡を描いて真下に落ちた。

 ナツミがキラキラした目で俺を見ている。

 俺は、ナツミをちらっと見て、微笑みかけて

「次! 」

 って宣言する。

 

 あ~あ、あのドヤ顔。好きな子にいいとこ見せるぜ! って、張り切り過ぎ。

 痛いわ~。

 ホントに、俺はあの頃からナツミが大好きだった。

 もう、ナツミが好きで好きでたまらなかった。

 (若気の至りだな。だけど、まあ‥そこは大目に見てもらおう‥)


 次に、俺は氷を手に持つ。

 ナツミを、そして先生を見て、一つ小さく頷く。

「状態変化! 液体! 」

 「俺」が手にもった氷を水に変える。

「状態変化! 気体! 」

 そして、その水が地面に落ちる前に、蒸発させる。

 ぱちぱち、とナツミが手を叩こうとするのを、俺は「チッチッチ」っていう、気障な態度で制する。

「もう一つある」

 け~! なんだ、この気障な子供は!

 我ながら、腹立つな‥。

 俺は石を手に取り、またナツミと先生を見る。

「スキル・物質変質! 火の魔石! 」

 それを軽く握る。

 指の間から、ちょっと赤い光が漏れる。 

 先生の目が見開かれる。

 そして、次に俺が手をあけると、さっきまで何の変哲もなかったただの石が、今は赤く透明に光る石に変わっている。

 火の魔石に変わったのだ。


 ああ、これ‥覚えてる。

 懐かしい。楽しかった。

 俺は、スキルがお披露目出来て、得意顔だったんだ。


 あの後、

 先生はにっこり満足そうに微笑むと

「ユニークで実にヒジリらしい。気に入った。

 ところで、君は、氷を水にして、蒸発させたね? ‥あれはどういうことだい? 」

 って、俺にお聞きになって、俺は

 ふ、

 ってまた、気障っぽく笑うと(もういい加減イライラする。我ながらイライラする。お前、そんな顔じゃねえって! あれはもっとイケメンがするスマイルだ!! 黒歴史って奴だな‥)

「物質を水に変えるスキルです。水は、固体、液体、気体になります」

 って、説明した。この時、得意顔マックスだった。

「‥氷にも戻せるってことかい? 」

 先生が信じられないって顔をする。

「勿論! 」

 にや。と、あの気障な笑顔。(お願いだから俺と先生の記憶からあの笑顔を消してくれ。勿論、ナツミの記憶からも‥)

 先生はふふ、と笑う(あの笑顔がキモかったわけじゃないよね? )

「素晴らしい。でも‥さっきの三つは全部、「状態異常」だね。君は、‥素晴らしい「状態異常」の術者だ」

「スキルじゃなかったんですか‥。俺は今回もスキルを身に着けることが出来なかった‥もしかしたら一生持てないかも‥」

 俺のテンション大暴落。

 そうそう、あの時は、恥ずかしさと悔しさで、窓から飛び出して走り去りたくなった(勿論しない、それ位悲しかったってこと)

「そんなこと無いだろう。なあに、そのうち持てる様になるさ。君が納得するような奴をさ」

 先生は、変わらず穏やかな微笑みだ。

 ナツミも俺を馬鹿になんてしてない。

「スキルっていうのは、状態の固定だ。例えば、氷を作る場合、通常ならば、状態異常の「空気中の水素と酸素から水を作り出す」っていう作業をして、その液体を容器に貯め、その液体を状態変化させ、氷にする必要がある。2ステップだ。これを、スキル化すると、oneステップで氷を作ることが出来る。ただし、その場合は、術者は氷の属性を持っていなければならないし、スキル化するのも水と氷っていう複合の属性だから、習得しにくい。だけど、それをも状態異常で出来るんだ。‥君は、常識外れた状態異常の達人だな。いうならば、状態異常の皇帝ともいえよう」

 先生が、俺を慰めようと、そんなことを言ってくれた。


 だけど、あの時の俺にはそんな言葉も「気休め」にしか聞こえなかったんだっけ。

 多分、属性がなんだか、ってこともよくわかってなかったから。

 ただ単に「なんだ、スキルじゃなかったのか‥」って、それだけ。

 (それにしても、‥状態異常の皇帝ってだっさいな。中二か)


 そんな落ち込む俺に、ナツミは

「ヒジリ、凄い。私なんて、大したこと出来ないから羨ましいな」

 目をキラキラ輝かせて俺をみて、ニコニコ優しく微笑みかけてくれた。


 ‥天使だ。

 同じ年とは思えないよ。人間が出来てるよ‥。


「ナツミ‥。そんなことないよ。ナツミは魔法が使えるじゃない。私は使えないよ‥スキルだってまだ持ててないし‥」

 そんなナツミに、テンション底辺の俺、愚痴る。妬む。

 ‥うっとおしいなおい。

 男だろ。

 ってか、男か? 

 よくわからん感じだな。

 まあ、いいや。子供に性別なんてあってない様なもんだ。(個人の意見です)

「ヒジリ。元気出して。ああ、そうだ。ブレスレットあげるわ。私がつくったの。魔道具なんだよ。一応。付与は、私の一番得意な魔法でしょ? 」

 そうそう。確か、ナツミは付与の魔法が得意だった。属性は、‥風だったっけ。

 付与魔法っていうのは、剣なんかに炎の属性を付与する‥とかが一般的で有名なんだけど、そういうのだけじゃなくて、おまじない的な「守護魔法」をエンチャント(付与)する魔法なんだ。ナツミはまだうまく出来ないらしかったんだけど、そういう素質がある‥みたいなことを先生が言ってた。

 まだ魔法使いじゃない‥魔法が使える素質があるってだけのナツミが「ちゃんとした」付与を出来たか‥は分からないけど、ナツミのエンチャントした魔道具をつけると、気持ちがよくなった。

 ‥それってすごいことだって思う。(ヒーリング系のエンチャントだったのかな? )

「わあ、綺麗。こんなの貰っていいの? 」

「いいの! だって、ヒジリは私の大事な幼馴染じゃない」

「ナツミ、大好き! 」



 ‥うん? これ以降の記憶が無い。

 それに、確かに言ったな、このブレスレットは「魔道具」。

 何かが「付与」されているらしい魔道具。何が?? なんで、俺、それを確かめない?? ナツミのことを信用していたからだろう。

 そして、今の、この状態は、何??


 ‥あ、あれだ。やっぱりナツミの付与魔法はまだ完全じゃなくって、失敗したって奴なんだ。

 俺が今まで意識不明になるくらいの失敗‥ある意味ナツミ‥天才じゃない??


 俺はようやく起き上がることが出来た。ベッドの背もたれにもたれ、俺の手を見る。

 さっきの子供の手とは違う、すらりと伸びた、華奢な手。

 うん? 華奢過ぎないか??

 肩に垂れる、ハニーブラウンの長い髪。

 まあ、今まで眠ってたからな。髪の毛を切っていないのも致し方あるまい。髪の毛の色はおんなじだ。問題ない。きっと目の色も(見えないけど)若草色なんだろう。

 あの地味なのが、きっとそのまま大きく成ったって感じなんだろう。

 それよりなによりさっきから違和感が‥。

 俺は、恐る恐る胸に両手を押し付ける。触るのは勇気がいるから‥ぼん、って音がするくらい強く押し付ける。(触るのってちょっとヤラしいよね? )

 ‥ふわり。

 ん?

 もう一度、今度もきつめに押し付ける。

 ふわり。

 痛い‥。間違いなく触ってるっていう感触があるし、強くおさえると痛いところをみると(この胸のふくらみは)詰め物とかではないらしい。

 気のせいっていうよりは、大きい。

 ‥巨乳って程でもないけど。

「おお‥」

 目の前では、ミチルが大爆笑し、もう一人の男が真っ赤になって目を逸らしている。

 俺はミチルを睨む。


 おい、ミチル。お前、何かを知ってるのか。説明しろ。


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