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リバーシ!  作者: 大野 大樹
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17.俺の思う聖。皆の見てた聖。

「聖。この書類、判子抜けてる」

 いつものオフィス。同僚の吉川が、振り向きもせず書類を俺に渡す。

「あ‥ごめん」

 俺は、それを受け取りながら、ちょっと身構える。

 今の俺の恰好は、スーツだけど‥、女の子だ。

 確実に、自分のいつものスーツの丈が合わなかった。

 身長は変わらないようだけど、きっと身体付きが違うんだろう。首回りが余るし、胴回りもちょっとすかすかしている。だけど、腕の長さはそうは変わらないようだ。

 髪の毛は流石に切るとまずい気がしたから、そのまんま後ろに一つにしばった。

 変装しているわけではない。いつもの俺も今の俺も、俺には変わりがないんだから「俺が俺の恰好をしているだけ」

 だのに

 絶対、不自然百%だ。突っ込みどころ満載だろう。

 普段から吉川が俺に関心があるかと言われると、答えはNOだけどこの不自然さには流石に気付くだろう。

 何を言われるか‥。

 ってさっきから、身構えてる。

 でも、‥相変わらず吉川は俺には興味の欠片もないらしく、こっちを見ることもない。奴は、俺が仕事をすればさえいいみたいだ。 むしろ、俺が(身構えたりなんかして)ちょっと書類を受け取ることを躊躇していることに、不機嫌な顔を向けた。

 ちらり、とほんの少し、その不機嫌な顔を向ける程度。

「何、さっさと、やってよ」

 俺の目の前で書類をぺらぺらと振り回す。

 吉川は、男には冷たい。

 特別に女子に優しいってわけではないけど、それでも、一応気を遣っている。

 男と女で、あからさまに態度が違うとかっていうのとは、違うんだ。

 多分、女性には優しくね。ってお母さんにしつけられてきたんだろうな~って思う。

 お行儀が良くって、育ちが良い。

 そんな、程度。

 この、今の俺に対する扱いは、いつもと同じ‥男に対する扱いだ。

 吉川は、七三分けに眼鏡、スーツの下のカッターも白の無地って、如何にも真面目って感じのする何の変哲もない格好だけど、何気にスーツは仕立ての(少なくとも、量販店の安ものなんかじゃない。専門店の名前とか入れてくれる程度には高級な奴だろう)いいの着てるし、眼鏡だって、見る人が見たら「しゃれたの使ってる」「あんないいの中々売ってない」って奴を使ってる。そういうの、探しに行ったりするんだから、そういうのが好きなんだろう。‥ホントのお洒落って奴だな。

 だけど、悲しいかな本人が地味過ぎて、眼鏡もスーツも「しゃれた奴」に見えていない。

 実年齢より老けて見えるんだけど、ちょっと色白すぎる肌は、年相応につるつるはりはりで、接待でホステスさんなんかが居るところに飲みに行ったら、

「あらこの子、若い~。肌つるつる~」

 って構い倒されてる。

 真面目な顔してるけど、そういう役割。

 俺はそういうキャラじゃないらしい。

「面白みない」

 ってベテランホステスに塩対応される。

 ‥いいけど。

 因みに、吉川を構い倒すのは若い可愛いホステスさんじゃない。どちらかというと、年輩の‥ベテランホステスだ。話がうまくって、人の扱い方を分かってる、プロ。そんな女性たちに、吉川は必ずと言ってもいいほど構い倒される。

 吉川は、そこそこ損な役割しか回ってこないけど、誰も吉川に嫌な目にあわされていないし、吉川を嫌な目にあわせる奴もいない。

 吉川は、気の利いたことなんて言わない。無口で寡黙なタイプだ。だけど、「暗い」「空気読め」「つまらない」とか言われない。

 俺にとっての「理想のポジション」を自然に獲得してる羨ましい奴。

 彼女がいないのは、一緒。

 だから時々、仕事帰りに駅前に飲みに行ったりする。

 焼き鳥屋でちょっとつまんで、一二杯飲んで。

 その間、特に話をするわけでもない。

 ただ、何となく一緒に行くだけ。

 多分、この会社で一番親しい奴。俺的には、親友。

 ‥だと思ってたのに、‥何も突っ込んでこない。

「何、今日なんか変じゃないか」

 位言ってくれてもよさそうなもんなのに‥。気付かないなんて、‥案外薄情だなあ‥。

 ちらっと恨みがましい目を吉川に向けて、自分の席に荷物を置いていると、 

「児嶋さん、これ、チェックお願いします」

 女子社員、中川さんがファイルを持ってくる。

 俺の一つ年下の後輩で、俺が入社当時から色々教えている。(入社時期はそう変わらない。俺は4年制大学卒で、中川さんは短大卒なんだ)

 入って来たときには短かった髪の毛は、今はちょっと長くなって、後ろに一つでくくれるほどになった。女子のショートとロングだったら、ロングが好きだな、って我がオフィス一のイケメンが飲み会で発言して以来、我がオフィスは我がにわかにロングが増えてきた。

 オフィス一のイケメン‥勿論俺じゃない。小林さん、という。

 だけど、まあ、ミチルに比べたらだいぶ落ちる。芸能人とそこらのイケメン程違う。ラルシュに至っては人種も違わないか? って程違う。そこら辺の小石と宝石位違う。

 ラルシュとかミチルとか、イケメンっているとこにはいるのね~って思う。羨ましい限りだ。

 だけど、ああいうイケメンは、今朝の女の子じゃないけど現実味ない。

 付き合うんだったら、中途半端なイケメンの(←そして、イケメンって自覚がある)小林さんより、寧ろ吉川だろう。俺は吉川をお勧めするよ? 

 とまあ、どうでもいいこと思ったが‥つまり、この子は俺になんて、ちっとも興味がないって話。

 普段同様、いや、普段以上に‥寧ろ、「わざとか? 」って位、俺の外見にふれない。

「あ、うん」

 俺は、苦笑交じりでファイルを受け取り、今度こそ席に着く。

 ‥自分が思う程、人は俺のこと見てない‥って話だろうけど‥。冷たいもんだなあ。

 いいや、‥気にした方が馬鹿みたいだ。気にしないでおこう。

「おや、児嶋君。その髪の毛ウイッグとかいうやつかい? 今日は、男の振り止めたの? 」

 いつも嫌味な上司佐藤が、いつも通り冷たい目で俺を見てきた。

 こいつは、「何か俺がお前にしたか? 」っていう位いつも俺に嫌な態度をとってくる。

 その度に、周りの誰かが「気にすんなよ」って俺に声をかけてくれる。

 ‥俺に気を遣ってくれてるというより、佐藤さんが嫌われてるから‥って感じだけど。

 ‥にしても、

 さっき、佐藤は変なことを言わなかったか? 

 ‥『男の振り、止めたの』?

 まるで、俺が本当は女で、いつもは男の振りをしているみたいな言い草だな‥。

 いや、「女男」(ガキか!!)って言ってるんだろうな。女みたいな面して、男の格好してるって。

 俺は、‥別に女顔ってわけではないと思うが‥。

 しかし、

 嫌味な上司の佐藤だけが唯一俺の違いに気付いてくれたっていうのが、何とも‥。

「すみません。今日、ドライヤーで毛を焼いちゃって、恥ずかしかったから‥そこら辺にあった母のかつら借りてきました」

 ‥俺は、嘘が壊滅的に下手だ。

 ドライヤーで髪の毛焼くとかってなに。

 いや、それもそうだし、人のかつら借りるとかないだろ。

 まず、それ病院だろう‥。

 佐藤が、ぽかーんって顔している。

 しまった‥。でも、‥こんな顔見たことない

 ‥ちょっと気分いい。

「ああ‥そう。‥火傷しなかった? 気をつけてね‥」

 で、はっと我に返って怒るかと思ったら、そう言った。表情はいつも通り仏頂面だったんだけど、心配してくれたらしい。(佐藤は髪の毛が薄いから、‥凄いそういうの気になるのかもしれない‥)

 はっきりいって、びっくりしたし、嘘言ってすみませんって、良心が痛んだ。

 ‥寧ろいい奴だなこいつ。

「ありがとうございます」

 ちょっとジーンとしちゃった。

 


 今日、俺が分かったことは、親切だと思ってた職場の仲間は案外俺のことなんて見て無くって、親友がその最たるもので、粗探しばかりしてる佐藤が寧ろ俺のこと一番知ってる‥見てくれてるってこと。

 こっちの世界で、俺のことちゃんと見てる人って、俺のこと好意的に見てくれてる人とイコールとはかぎらないらしい。

 それと、案外佐藤はやな奴ばっかりじゃないらしい。

 ただ、単純に俺のこと「虫が好かない」って思ってるだけ。

 俺は、見た目が案外派手だから。(と、自分では思ってるんだけど、‥本当はどうなんだろう)

 髪の色が違うだけでも、年配の人は「髪の毛なんて染めて‥遊んでる子」って思うのかもしれないしね。きっと真面目に仕事しに来てない。って思ってたのかも。‥それも、偏見甚だしいが、そういう偏見ってやっぱりあるだろうね。

 それにしても、‥あんまり女の子バージョンの俺と、こっちの俺、変わんないのかな。それが、一番驚くね‥。

『自分だって自覚のある他人』

 俺には違いないけど(自覚がある)他人の姿をしている俺(聖)と俺本体ヒジリは他人にとってはそう変わりがない‥。

 ハリウット映画もびっくりの変装をしてるのに、皆には俺って一目でわかってしまう。

 それってすごくない? 愛を感じない?

 でも、

 俺のこと探してるかもしれない『見つかっちゃダメな人たち』に見つからないために、俺とヒジリは別物なのが重要なのに‥ヤバくないか。


 見つけて欲しくない人には見つかりたくない。

 だけど‥

 見つけて欲しい‥

 ナツミには。


 ナツミ‥俺はここにいるよ。

 ナツミは‥どこにいるんだろう。

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