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リバーシ!  作者: 大野 大樹
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15.眠り姫は「自分だとわかる他人の夢」を見る。

 ‥息をする程簡単に、こっちに来れるようになってしまった。

「おはよう、ヒジリ」

 目覚めた俺に、ふわりと微笑む‥ラルシュ。

 あの時、助けてくれた男の子。

 ‥そういえば、面影ある。

 ‥かな? あの時一回見ただけだから、覚えてないや。

「ラルシュは、「ナツミ」に会ってたんだな」

 一足先にこっちに来た‥おかしい、一緒にきたはずなのに‥ミチルがラルシュに、俺が眠り込む前のことを聞いていたようだった。

 ラルシュは

「ヒジリは思い出したの? 」

 と、少し驚いたような顔をして、ちょっと俺を見た。

 ラルシュからしたら、やっと、思い出したの? って感じなのだろう。

 そんな顔はしていなかったけど。‥そもそも、ラルシュが「嫌な顔」することなんてない。

 ナツミは、きっと俺が今の今までこっちに帰ってこずに、あっちの世界で過ごしていたなんて思いもしていないだろう。

 きっと、すぐに目が覚めるだろうって思ってただろう。

 俺ほどの魔力の量があれば、直ぐに魔石がいっぱいになってあのブレスレット位外せるだろうって思ってただろう。

 俺のこと待っててくれたかもしれない。

 だけど、俺は‥いやな記憶に蓋をして、あっちで「児嶋 聖」として呑気に暮らしていた。‥だから、「こっちで眠っていれば」すぐ外れれるはず‥すぐにいっぱいになるはずだった魔石が外れることはなかった。こっちで「あの仮の身体(聖)」を作るのに魔力を使わなければいけなかったから。


 なんで、地球に行ったんだろう?


 多分「悪の組織」から逃げるため。

 敵を欺くにはまず味方から‥だから、俺はこっちでの記憶を封じられた。

 こっちで暮らしてれば、ブレスレットが外れればすぐにまた狙われるだろうから‥って。

 地球への避難は、いわばいつかは来る対決の時までの時間稼ぎにしか過ぎなかったはずなのに‥俺はそんなことも「知らず」(考えず? )こっちでの記憶を忘れたまま地球で呑気に過ごしていた。

 ブレスレットを外すことすら忘れて‥だ。


 まずは、謝らなくちゃいけなかった。母さんたちと‥そして、何よりもまず、ラルシュに‥。

 俺は、ぎゅっと布団の端を握りしめ、力いっぱい頭を下げた。

「本当にすみませんでした‥っ」

 ‥ラルシュの顔は見れなかった。

「ヒジリ?! どうしたの? 」

 驚いたラルシュの声が、俺を振り向いた。心配そうな視線が、顔をあげないでも感じられた。

 俺は、心配してもらう資格なんて、ないのに‥。

「俺は‥こんなに長い間、皆に迷惑を掛けて‥今まで、あのブレスレットを外すってことも忘れて、あっちで暮らして来た‥今の今まで、こっちのことなんて思い出しもしなかったんです‥っ! 」

 俺が出来ることは‥でもなかったかもしれない。だけど、俺が忘れてた間皆に迷惑をかけて来たことは事実だ。‥せめて、何の言い訳もしないで、誠実に謝ろうと思った。

「ヒジリ‥」

 ラルシュが首を軽く振る。

「ヒジリ。自分を責める必要なんてない。君は、本当に今まで『眠っていた』んだ。あっちで仮に暮らしていたのは、‥いうなれば夢を見ていたようなものだ。「児嶋 聖」という、別の「入れ物」の目線で、夢を見ていたに過ぎない。‥『自分』だって自覚のある『他人の夢』っていう感じかな。‥リバーシは夢を見ないからその感覚は分からないかな」

 困った様な顔でラルシュが説明してくれた。

 俺を気遣っているという様子ではない。ただ、上手く説明できなくて困るという風な口調だった。

「自分だって自覚のある他人? 」

 俺は、ラルシュを見た。

 ラルシュがもう一度軽く頷く。

「そう。全く別の顔をした他人なんだけど、夢を見ている本人は、その人を自分だって「わかっている」そんな夢だよ。その夢の中のことは、夢から覚めたら「なんだそれは」ってことだったとしても、夢を見ているときは「それは唯一本当の事」と納得できているし、そのことを疑いもしない‥」

 隣にいたメイドさんが「そういうことはありますね」と頷いているが、同じく夢を見ないミチルは首を傾げていた。

 勿論俺にも、少しも分からなかった。

 だけど、実際にそうだった。

 あそこでは、俺は、「児嶋 聖」でありそれ以外の何者でもなかった。たとえば、幼い頃の記憶が無いとか些細なことは、俺にとって気にならなかった。ただ、‥さっきラルシュが言ったみたいに、そういうもの‥「それは唯一本当の事」だった。

 でも、どうしてそんなことになっていたんだろう。

「どうしてそんな風だったんですか? 」

 だから、俺は正直にそう聞いた。

 ラルシュが頷く

「私が、そうなるようにやりました。上手くいくかはわかりませんでしたが、あの時はそれしか方法が浮かびませんでした。ヒジリを男の子にしたのは、‥少しでも他人に見える様にって思ったからです」

 ‥うん、それも何となく分かる。

 敵を欺くために、‥俺がちょっとでもこちらに帰ろうって思わないために‥。

 やっと少し顔をあげた俺に、ラルシュはほっとした顔をした。

「敵は‥ただの魔石商人ですか? 」

 俺が聞くと、ラルシュが浅く首を振った。

「国の‥反対勢力です」

「反対勢力‥」

 反芻したのは、ミチルだった。

 ラルシュは俺に視線を合わせたままミチルに頷いた。そして

「あのね。ヒジリ。リバーシは国にとってとても大切な存在なんだ」

 ラルシュが説明する様に、俺に丁寧に語り掛けてきた。

 理解しているか判断する為だろう。俺に目を合わせて、ゆっくりと、よくわかる様に、諭すように‥。

 俺は、こくり、と頷いた。

「リバーシは普通の人間より、桁外れた魔力を持っている。‥そして、魔力の使用方法は、無限大です。あっちの世界の技術を学び、こちらの発展を助ける。潤沢な魔力を利用して、騎士として、聖女として国を守る人もいる。学者が一番多いですけれどね。‥でも、反面‥悪用することだってできる。だから、リバーシは国にとって大切な存在であると同時に、敵に回すと脅威という存在でもあるんです。そのため、強力な魔力を持つリバーシの早期発見と抱え込みは、国の最重要課題なのです。そして、それは‥魔力を悪用しようと企てる組織にとっても‥なのです」

「それが、反対勢力‥」

 俺が呟くと、ラルシュが頷いた。

 そして‥俺は‥そんな人たちに‥目をつけられた。

「俺は、その人たちに見つかってしまったのですね」

 ラルシュは今度は頷きはしなかったが、そうなんだろう。

 俺って奴は、気付いていない時にも、人様に迷惑を掛けている。

「だから、あの人たちに、君の魔力を‥君を奪われるわけにはいかなかった。幸い、君の意識は無くとも、あの人たちが知らずにつけたミスリルがあの人たちの攻撃を総て跳ね返してくれてたから、あの人たちは君の身体に指一本触れることはできなかった。ここにあなたを連れてこれたのは、‥あなたに付けたブレスレットと相性のいいナツミが力を貸してくれたからです。あのブレスレットは、あなたと相性がいいですが、同時に作り主のナツミとも相性が良かったですからね」

 俺は頷く。

「そして、ベッドに横たわって、真っ白な顔をしていつまでたっても目を覚まさないあなたを見たご両親は‥、あなたの腕に付けられたブレスレットを‥魔道具を見て、即座にナツミがつけたと合点した‥」

 母さんはだから、あんなにナツミを憎んでいた。

「でも、違うのに‥。ナツミは否定しなかったんですか? 」

 ラルシュが首を振った。「しませんでした」と。

「そして、‥そこに居合わせた私は、‥私にできることをしました。‥最高の医療を約束すること、それから‥」

「ああ、あの服」

 ラルシュがちょっと複雑そうな顔で頷いた。

 ‥それも恥ずかしいのか‥。結構面倒臭いな。

「そのまま、お城に連れて行ってくれたってことですよね? その時ナツミは」

「いました。‥彼女が居なかったら、あなたをお連れすることはできませんでした」

 ‥だのに、母さんのナツミに対する疑いは晴れなかった。

 それ程、‥ショックだった。彼らは、‥怒りやその他の感情をぶつける先がなかった。

 そこに、いた「魔法使い」のナツミ以外に‥ぶつける先が無かったんだ‥。

「これで、ヒジリの身体が死んで、あのスキルが切れるまで、彼らは‥いいえ、‥誰もヒジリに手が出せなくなった」

 もう、頷くことも出来なかった。

「あの魔石は、‥実は二代目です。一代目は、あなたをあっちに送る際に、使わせてもらいました。ナツミが「使えば、大きな魔法も使えるから」って」

 ‥乾電池みたいな扱いだな。俺の魔力‥。

「敵に気付かれないうちに、ナツミの魔力の流れをここからそらさないといけない。‥あの人たちにとっての「ヒジリ」は、眠っている「スリーピングビューティー」だけだ」

 こくり、と相槌を打つ。

 気付かれないうちに、ここにいる「ヒジリ」をただの抜け殻にしてしまう。

「リバーシは夢なんか見ない‥眠らないけれど、やっぱり死にはするし、昏睡状態に陥ることもある。実際、あのまま、魔力の流出をナツミが止めなかったら、君は死んでいた。実際、あの人たちは、君が死ぬのを‥待っていた」

「あの魔石を回収する為ですか? 」

 確認の為に聞いたに過ぎない。

 真実なんて、分かり様がない。ただ、頷いたラルシュを見て、ラルシュと俺の意見が同じ、ということは確認できた。

「‥その魔石だけでも、結構なもんだ。あの時のヒジリって、何歳位だっけ‥。八歳過ぎてたわな、たしか。そこまで大きくなった人間一人を誘拐して洗脳するより、純粋な魔力である魔石を手に入れる方が楽だわな。昏睡状態の身体は、無意識の抵抗が凄いし、‥実際手に余っただろうし‥」

 ふむふむ、とミチルが頷いた。

 ‥昏睡状態の身体‥。「眠り姫」って言ってたら響きはいいけど‥実際は‥。


 おとぎ話の現実に、若干ドン引きするヒジリだった。

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