11.ブレスレットから分かったこと。
あの後、ブレスレットの鑑定をミチルが要請して来て、俺はブレスレットをミチルに預けた。ナツミのことを最初から敵視しているミチルに任せたくは正直なかったが、それは仕方が無いと思い、諦めた。
「壊さないでね。それから、絶対返してね」
念を押しておくことは忘れない。
ミチルは苦笑しながら頷いた。
基本いい奴だと思う。でも、それとこれは別だ。
ナツミのこと語って聞かせたいのに、‥俺はそんなに色んなことを覚えていない。
「じゃあ、俺はもう帰るね。会社行かなきゃいけないから。今日の夜、もしご両親があっちに行くとかで俺が必要だったら、また連絡して? 君は、もう「行きたい」って思えばすぐに行けるようになってると思うから。じゃあ、またあっちでね」
ミチルが爽やかな笑顔を残して帰って行った。
あっちに「帰る」かあ。
あっちに居た時期とこっちに居た時期は、実はあまり変わらない。(あっちで産まれて10年、こっちで育って13年だ)
だのに、こっちの思い出の方がずっと多い。
あっちに居た時は、ずっとこそこそしてた気がする。よく覚えてないのに‥そんな気がする。
ああ‥そうか「魔力中り」‥魔力酔いって奴だ。
「ヒジリって傍に居たら、‥具合悪くなる」
「落ち着かないよな」
同級生たちは、俺を見て顔をしかめた。学校に通い始めたころからずっとだった。
俺が極端に魔力が高いせいだろう。
もしかしたら、ナツミだって具合が悪くなってたかもしれないのに、だけど彼女は傍に居てくれた。
友達だよって言ってくれた。
‥そういえば、魔道具を貰ったのは、あの時の‥一度じゃない。
「漏れ出てる魔力を抑えよう」
って、「魔力封じ」の魔道具を何度か貰ってた。
そうだ、一回じゃないから「あの時」もあっさりあれを受け取ったんだ。珍しいことではなく、むしろ「いつものこと」だったから。
「ヒジリ、仕事遅れるわよ」
「あ、はい」
母さんの言葉に生返事を返すと、父さんが苦笑して
「父さんと一緒に駅まで行くか」
車の鍵を手に声をかけてきた。
「うん」
それもやはり生返事だ。
頭の中ではさっきからずっと子供の頃のことを考えていた。
幼馴染のナツミのこと‥。
ナツミに、魔道具を貰ったこと。なんだろう、やけに引っかかる。
最初は
「これ、ちょっとは魔力を抑えられるかもしれないから」
って、ビーズを繋いだような小さな指輪を貰った。
それがはじめだった。
何ていい奴だって思った。
だけど、直ぐに切れちゃって、そしたらナツミが
「直すね」
って、その石を集めて持って帰って、今度は、別のブレスレットをくれた。
それも、この前と同じような‥小さな石が連なった様なブレスレット。
でも、それもやっぱりすぐ切れた。
何度かそんなことがあった。
その度、
「直すね」
って言ったけど、同じ石が使われることは無かった。
何度かそれを繰り返した。
何ていい奴だって思ってたら、在る時、ばつが悪そうな顔をして
「実は、魔石‥お小遣い稼ぎに売ってた」
って白状された。
なんでも、「魔石を貯める石」に魔石を貯めてそれを魔石商人に持っていくと、買ってくれるというのだ。原石の仕入れもそこで出来るらしい。‥知らなかった。
罪悪感を感じてるナツミに、俺はだけど、かえって安心した。
だって、無償の愛とかって有り得ないでしょ。初対面の相手に。
それに、なんの理由があったとしても、ナツミは俺と一緒に居てくれた。馬鹿な話したり、一緒にご飯食べたり。それだけで十分だった。その上、ナツミは俺に白状して、謝ってくれたんだ。
魔力を貯める石だって、安いものじゃない。それを、自分で買ってきて、俺に「かけた」。一攫千金のニュービジネスを俺を見た時に思いついたんだって言ってた。笑ってしまった。
逞しいな!
って思った。
お金を貯めて、魔法学校に行きたいって言ってた。
そうだ‥。ナツミは‥。
ナツミは珍しい「魔法使い」だった。
そうだ。あの告白が、‥「あの魔道具」を貰う前だったんだ。
そしてナツミは真剣な顔して
「あと一回だからお願い」
て。
俺に断る理由なんてなかった。俺は、ナツミの夢を応援したかった。だから、いいよって。
鑑定結果をミチルから聞いたのは、その日の夜だった。
「あっち」に行く前に話そうと、俺とミチルは今駅前のレストランで軽めの夕食を取っていた。
「ブレスレットの鑑定が終わった。あれは、「魔力を吸い取る石」が使われていた。‥無限に近い程の容量が入るみたいだったけど、あんだけ長い時間ずっとつけてたからだろうな、容量MAXになってた。それが、真ん中の石。周りの金属は、純粋に外せないようにするための拘束具だった。ミスリルだな‥。えげつないものを使う」
綺麗な所作でパスタを食べながら、ミチルが堅い口調で言った。伏目がちになることで、長い睫毛の影がオリーブ色の目にかかっている。
それは、男である俺でも、ちょっと目を奪われるような美しさがあった。
その綺麗な男は、今機嫌が良くないようだ。
怒っているわけではない。「憤っている」顔をしている。
強力な拘束具を「友人」に付けて、殺そうとした。それを渡したナツミに対する憤りだ。
俺は、小さくため息を着いた。
間違ってはいない。でも、違和感がある。
「石‥。いっぱいになったら取れちゃうんじゃなかったの? 」
違和感の一つ目。
石を売ろうとしていたナツミは、魔石をビーズのように穴をあけて通したわけじゃなかった。針金で加工して、石をとめるだけにしておいたんだ。で、‥よく考えたら、いつも石を繋いでいる糸が切れたんじゃなくって、石が糸から外れたみたいに落ちていた。魔力がいっぱいになることによって、微妙に石が膨張したんだな。だから、今回だって、いっぱいになったら直ぐに外れるはずだったんだ。
それで、いっぱいになって外れたら「ごめんね~」って。
だけど、そうはならなかった。
‥今回の「いっぱい」はそれまでより、段違いに多かった。今まで、ナツミが買っていた魔石より段違いに大きかった。そんな高いもの、ナツミに買えただろうか? それが違和感の二つ目。
「石が外れないように、あれの後ろ側にもう一重魔道具のブレスレットが付けてあった。ほんの細い糸みたいな金属で編まれたブレスレットに、小さな「魔力を吸い取る石」が編み込まれた華奢なブレスレットだった。それが、あの魔道具に隠れる様につけられてた。そのおかげで、あの石がブレスレットから外れなかったんだな。あんたと相性が良かったのは、それだった。多分、あのミスリルだけだったら、それでも、切れて取れていたかもしれない」
「! 」
それこそが、多分、ナツミの作った魔道具。
ナツミがつくったのは、その内側に付けられていた、華奢なブレスレットのみなのだろう。
あの、石付きのミスリルは‥違う。あんな大きな魔石‥。
そもそも‥ミスリルなんて高級品、ナツミに買えるはずがない。
でも、俺はそれに疑問を感じなかった。
それが、第三の違和感。もっとも、大きな違和感だ。
「あんたの幼馴染は、恐らく誰かに頼まれ、あんたにあのブレスレットを着けさせた。目的は、魔石を取るためだろう。幼馴染は頻繁に魔石を売っていたから、魔石商人がその仕入れもとに目を付けたんだろう。そして、言葉巧みに「大きな石をただで卸してやるから、これを付けさせろ」とでも言ったんだろう」
俺は黙ってミチルの仮説を聞いていた。
「だけど魔石商人の目的は、あんたの拘束と拉致解禁にあった。だから、金属部分にミスリルを使った。寧ろ、石なんて「ダミー」だったんだろう。だけど、予想外に石の魔力を吸い取る力が強くって、あんたは意識不明の重体になった‥。無限魔石製造マシーンの調達位にしか考えていなかった魔石商人は、殺人なんて大きなリスクを負うようなことはしなかった。そうそうにあんたをあきらめることにした。じゃあ、せめて石だけでも回収しようって、魔石商人は思っただろうが、石がはずれない。‥それで、魔石商人はあんたから手を引き、幼馴染も問題の発覚を恐れて姿を消した。そんなところかな」
‥話、周りに聞かれてないだろうな。
誘拐とか監禁とか物騒すぎるだろ。そもそも、魔石とか、オタクかよ‥。半端ないイケメンがする話でもないな。
それにしても、想像力が逞しいやつだ。‥でも、あり得ない話ではないな。魔石商人の存在はあるかもしれない。
でも、‥ナツミがそんな話に乗るか‥?




