5話
今回は少し長いです。
太陽が沈み、辺りが暗くなり始めた頃。
村の中心部では、焚き火を囲んで宴が催されていた。
酒を飲み酔っぱらい、大量の料理を物凄い勢いで飲み込んでいく男たち。そんな男たちの中に、捕まっていたはずのアラタの姿もあった。
森で助けられた件の少女は、その隣で酒を注いでいた。
そんな二人を見ている周りの男たちは、何が面白いのか腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。
なぜこんな事になったのか。
◇ ◇ ◇
あれはアラタが牢屋にぶち込まれてから、上半身裸で腕立て伏せを200回ほどこなした時だった。
ふぅと息を吐き出し、休憩しようとしたアラタは、真っ赤な顔で、鉄格子越しにアラタを凝視している少女の存在に気づいた。アラタがここに入れられる原因となった件の少女だ。
アラタに見られている事に気づいた少女は、取り繕うように笑顔を貼り付け、
「さっきはすいませんでした。せっかく助けていただいたのに⋯⋯」
アラタは、ニヤッとして少女に近づくと、その耳もとで
「さっきってどっちだ?」
ピクピクッ!
少女の笑顔に亀裂が入った。
「随分と熱心に見てたみたいだけど、オレの裸はそんなに魅力的だったか、変態?」
ビキィッ!
少女の笑顔は崩れさった。
少女は、熟れたリンゴのように顔を真っ赤に染めて固まっている。
何の用か尋ねようと、アラタが立ち上がると
「アラタさんの、バカァァァアアアアア!!」
またもや少女は走り去って行ってしまった。
「あ、おーい⋯⋯。何か話があったんじゃなかったのか?」
少しばかりからかいすぎたようだ。
この世界に来てから、幼馴染たちとまだ会えていないアラタは、かなり寂しさを覚えていた。
そんなアラタは、少女に幼馴染たちに近いものを感じていた。
ゴブリンから助けた時も、無駄に鋭い直感で、「こいつはきっと、からかいがいのあるタイプだ!」と感じ、内心狂気乱舞していたほどだ。
だから、というわけではないが、ついついやってしまったのだ。
それからしばらくして戻ってきた少女はアラタを睨みつけると
「私の勘違いでしたごめんなさいっ!!」
早口で叫び、牢屋の物と思しき鍵をアラタに投げつけ去っていった。
どうやらこれを使って勝手に出ろということらしい、と解釈したアラタは、適当にカチャカチャして牢屋からの脱出を果たした。
なお、アラタが筋トレをしていたのは、昔観た映画でそういうシーンがあった事を覚えていて、なおかつ「何あれカッケェー!」と思っていたからだ。アホである。
アラタは、ここへ来る際、気絶させられたり目隠しされたりすることはなかった。なので当然、自分が通った通路くらいは覚えていた。
入って来た時の通路を逆走し、階段を上ると、そこはかなり広い闘技場のようなところで、地面の砂には一部、血が混じったかのようなドス黒い物が混じっていた。
それらを極力見ないようにしつつ闘技場を出る。
戦闘中であれば情け容赦なく敵を屠るアラタだが、ついつい笑顔になっちゃうアラタだが、好んで血を見たいとまでは思わない。戦闘狂は戦うのが好きなだけで、血が好きな変態ではないのだ。アラタは変態だけど、別種の。
ようやく外に出ると陽も傾き、夕暮れ時に差し掛かっていた。それとツノの生えた筋肉ムッキムキの渋いオッサンがいた。
オッサンは片手を上げ、やたら渋い声で「よォ」と言うと、
「昼間はウチの孫と息子が迷惑かけたみたいで、すまんな。それと、孫を助けてくれてありがとォヨ」
「オレは然程気にしていないので、そちらも気にしないで下さい。割と楽しかったですし」
「そうか、そりゃあありがてェ。⋯⋯あぁそうだ、感謝と歓迎の印に宴をするから広場に行ってみろ。ワシも後から行く」
「了解しました。あ、そうだ。オレの名前は、アラタです。そちらの名前を伺っても?」
「ン? あぁ、そういやまだ言ってなかったな。ワシはラセツだ。よろしくなァ」
「よろしくお願いします。ではまた後で」
「おう」
そう言ってラセツと別れたアラタは、言われた通りに広場へ向かう。牢屋に入れられる途中で、そこも通ったので場所は分かっている。
近くまで行くと、頭にツノを生やした多くの人がいる光景と、何かの楽器の演奏と笑い声が聞こえて来た。
牢屋での事を一応謝ろうと思い少女を探していると、人混みから一人の少女が飛び出て来て、アラタへと走り寄って来た。
アラタの前まで来た少女は息を整えると、頭を下げ、
「あ、あの、アラタさん。昼間はごめんなさい。それと、助けていただいてありがとうございました」
この少女、牢屋での事はなかった事にしたいらしい。
地球にいた頃から、空気を読まない事にかけては定評があったアラタさんが見逃すはずもなく、
「うん、どういたしまして。それと牢屋での事はこちらこそごめん。ちょっと調子に乗りすぎた」
殊勝な態度(笑)で謝るアラタだが、その根底に嗜虐心のようなものがある事はあからさまで、少女はまたもや顔を真っ赤に染め上げ、俯いて震えている。
流石にこれはまずいか、と思ったアラタは、話を変えようと、
「そういえば、君の名は? まだ聞いてなかったよな?」
森ではミスったけど今回はネタを挟めた、と満足気なアラタ。
少女は俯いたまま、
「あ、え、えと、シュテン、です」
地球の映画ネタが異世界で通じるわけもなく、完全にスルーされたが、それから二言三言交わすと、まだ顔は赤いものの顔を見て話せる程度には回復した少女──シュテン。
改めて見ると、シュテンは、少なくとも地球基準ではかなりの美少女だ。
背中の中ほどまである綺麗なストレートの白髪にクリッとした赤い瞳、小さな鼻と桜色の唇、二本の短いツノはチャームポイントといったところか。
幼馴染たちよりも小柄な体躯と、真っ白な肌が相まって、庇護欲がそそられる。
アラタがシュテンを観察していると、彼女が遠慮がちにアラタの学ランの袖を引いた。
「あ、あの、宴会に参加する前にお風呂に入りませんか⋯⋯?」
アラタは、そう言われてようやく、自分が血塗れの状態だった事を思い出した。
「あ、すまん。完全に忘れてた」
目先の筋トレに夢中で、自分の状態を完全に失念していたアラタ。アホである。
◇ ◇ ◇
お風呂と聞いていたので家に連れていかれるのか、と若干身構えていたアラタだったが、案内されたのは大きな露天風呂だった。
服は、脱衣所の籠に入れておけば洗ってくれるとシュテンが言っていたのでそのようにしておいた。
温泉に浸かる前に、何故かあったシャワーで血を流し、石鹸で体と頭を洗う。
さっぱりしたところでようやく温泉に浸かる。
「ふぅ⋯⋯温泉はいいなぁ。癒されるぅ〜」
一日ぶりの風呂で、日本を思い出したアラタは、まだたった二日だというのに懐かしく感じていた。
その時、静かな露天風呂にガラガラッ!っと音が響いた。
アラタが、引戸になっているドアの方を見ると、タオルが巻かれている部分は分からないが、顔どころか全身を真っ赤に染め上げて、茹でダコのようになったシュテンが立っていた。
「あ、あのっ! お背中お流ししますぅっ!」
(え、あの⋯⋯。もう洗っちゃったんですけど⋯⋯)
目を瞑って俯くシュテンと、おいしいイベントを逃した事に絶望して温泉に沈むアラタ。
そんなアラタの脳裏に電気が走る。
そうだこれならいける、と勢いよく立ち上がる。
ザバァッ、と音が鳴り響き、シュテンは恐る恐るといった様子で音の発生源を見た。
ここは温泉だ。当然アラタは全裸で、今まで浸かっていたわけだから、腰にタオルを巻いていない。
つまり、シュテンが目にしたのは、全裸の男と自己主張の激しいその息子。
次の瞬間、
「きゃぁぁぁああああああ!?」
二人きりの浴場にシュテンの悲鳴が響いた。
しかし暴走気味のアラタは、御構い無しとばかりに進んで行く。
それでも一応腰にタオルを巻いたのは、多少は冷静さが残っている証拠か。
とはいえ、そんなもので隠しきれるほど、それが大人しいわけがなく、アラタの息子はタオルにテントを張っていた。温泉に浸かっていたせいか血行が促進され、かなり調子がいいようだ。
それを見たシュテンは口をパクパクさせて、へたり込んでしまった。
祖父であるラセツに「温泉で背中でも流してやれば仲良くなれるだろォヨ」と唆されてやって来たシュテンだったが、今更自分がどういう状況なのか把握して、一体これから何をされてしまうのだろうか、と恐ろしくなっていた。
既に顔面は赤を通り越して青くなっている。
そんなシュテンにアラタは、だんだんと近づき、上体を前方に倒していき、そのままシュテンに覆い被さるようにして倒れた。
あぁやっぱりか、と目を固く閉じて諦めようとしたシュテンは、いつまでたっても覆い被さるばかりで何もしようとしないアラタを不審に思い目を開けた。
そこでようやくアラタが気を失っている事に気付いたシュテンは慌ててアラタを脱衣所へと引きずっていった。
まぁ所詮は童貞、こんなものである。
◇ ◇ ◇
それからしばらくしてアラタは、後頭部を柔らかい感触に包まれながら目を覚ました。
視界はおでこに載せられたタオルによってギリギリ塞がれている。
寝ぼけていたアラタは手で後頭部に当たるそれをまさぐる。
「ううっ!?」
途中、何度か押し殺したような悲鳴が聞こえた気がしたが気にせず続け、二つあった柔らかい感触の付け根らしきぷにぷにした柔らかいところを何かの布越しに触る。しばらく触っているとだんだんと湿ってきて、
「んんんっ、ンッっ⋯⋯ああっ⋯⋯! ゃあッ、ダメぇっ」
妙に艶めかしい声とともに腕と頭を抑えつけられて、ようやく完全に目が覚めたアラタは、自分が膝枕をされている事、そして自分が何をしでかしたのか察して、全身から冷や汗が流れ出す。
頭を抑えられた事によってタオルがズレ、アラタの目と、涙を浮かべた、妙に熱っぽいシュテンの目が合った。
非常に気不味い。
アラタが謝ろうと口を開きかけると、シュテンが小さな声で震えながら、されど少し無理をしたような感じで笑みを作って、
「責任、取ってくださいよ」
童貞アラタは冷静さなど消し飛ばされ、ただ頷くしかなかった。
それからアラタは、シュテンになされるがままに水をのまされ、浴衣を着せられ、髪を結われた。
我に返ったアラタは土下座して謝り倒すも聞いてもらえず、微笑みとともにスルーされた。
その日、アラタは宴に参加するも、シュテンの父──シュラに謝られた後は浴びるように酒を飲まされ、そこらへんから記憶が途切れてしまってほとんど何も覚えていなかった。
というわけで、ちょっぴりえっちい回でした。
どこまでならやっていいのか分からず、正直、なろう様から怒られやしないかと戦々恐々として震えております(笑)
まぁこの物語のメインはエロ展開なんかではないのでご安心ください。
ちゃんとファンタジーします。
シュテンちゃんチョロすぎる⋯⋯、とは思いますが一応理由はあります。それは次回で。
読んで下さりありがとうございます!
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