プロローグ2
──目覚めなさい。
頭に直接話しかけるかのような声が響く。
とても優しい、女性の声だ。
アラタは、そんな風に思って初めて、自分の意識があることに気づいた。
そこは真っ白な空間だった。ただただ終わりの見えない白が続く空間。気が狂ってしまいそうな空間だ。
隣を見ると、左右それぞれ少し離れたところに、親友達がいた。
ほかのクラスメイト達は等間隔に立たされ、呆然としている。
声をかけようとして、音が出せないことに気づいた。口は動かせる。だが音にならない。
──愛しき勇者達よ。
また、声が響いた。
勇者とは何のことだと、アラタは首を傾げた。
──私の世界を救って下さい。
声の主──仮に女神とでも呼ぼうか──が続ける。
──私の世界は今、悪しき神によって滅ぼされようとしています。 異界の勇者達よ、どうかお救い下さい。
女神はアラタ達を異界の勇者だと言う。
しかし、アラタを含めこのクラスの人間に、世界を救える程の特殊な能力を持った者はいない。
そんな者を呼んでところで何になるのか。
おそらく、誰もがそう思った。
──あなた達には戦う力があります。 詳しくは地上で説明されるでしょうが、私の世界ではステータスが存在します。 あなたがたのステータスは、現地の人間と比べると、初期値、成長率ともに非常に高いものとなっています。
ステータスとは、ゲームなんかではよくある、あのステータスの事だろうか。
現代を生きる彼らからしたら、一度は聞いたことがある単語だった。
あんな世界に生まれ変わりたい。そう思っていた者達で歓喜しない者はいないだろう。
戦う力がある。それが、世界を救うにあたって、何者かと殺し合わなければならない事を意味していると気づいた者は少数だった。
何人かの生徒が、目の前に半透明な板を現し、目を見開いていた。
アラタからは、何が書かれているかまでは見えなかったが、彼らの様子を見るに、大凡予想通りのことが書かれているのだろうと思った。
どうやって開けばいいのかと考えていると女神が
──既に開いている者もいるようですが、ステータスは“ステータスオープン”と念じれば見ることが出来ます。 他者からは、普通見えないようになっております。 この空間では私の力の影響で、他者にも見えてしまうので気をつけて下さい。 ステータスには職業、能力値、スキルなどが表示されます。
アラタは、これを聞いてゲームの説明のようだと思った。
自分もステータスを開こうとすると、
──では勇者達よ。 あなたがたの活躍を期待しています。
女神がそう言うと、教室に出現したような魔法陣のようなもの──女神がいる以上もう魔法陣で確定だとは思うが──が現れた。
魔法陣の光が増し、アラタ達を包み込もうとしたその瞬間。ガラスを叩き割ったかのような高い音が鳴り響き、アラタを中心に白い地面が砕け散った。アラタとその親友二人は、重力に従い、砕け散った地面に吸い込まれていった。
「何でだぁぁぁあああああああああああああああ!?」
「いぃぃぃやぁぁぁああああああああああ!!」
「ママァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
上からアラタ、雅、創多である。
ネタだとは思うけど、ママーってそれはないでしょうよ。そう思うアラタだったが、ある意味こいつらは平常運転である。
そして、今になってようやく発することのできた音は、クラスメイトや萌葱ちゃんの驚愕とともに、白い空間に虚しく響いていた。
◇ ◇ ◇
黒い空間に落ちてしばらくしたころ、アラタの頭の中に不思議なイメージが流れ始める。
平和な世界だ。豊かな自然と、知性を感じさせる大きな獣達。それらに溶け込むようにして穏やかに暮らす人間達。
その幻想的なまでの世界を、理想郷とでも言うのかも知れないと思った。
イメージは続く。
そんな平和な世界に変化が訪れた。突如として空が割れ、そこから、羽の生えた人型の生物と、それらに傅かれる一人の女性が現れた。
それらは、瞬く間に人々を殺し、獣達を殺し、森を焼き、かつて平和だった世界で破壊の限りを尽くした。
燃える世界を見て高笑いする女性。その愉悦に満ちた顔を非常に悍ましいと思った。イカレてやがるとも思った。
そして気づいた。女性の声が、先ほどの女神の声とそっくりではないか、割れた空から垣間見える白い空間は、ほんの数分前まで自分達がいたあの空間ではないか、と。
何故かはわからないが、アラタはそれを確信していた。
イメージの最後。
女神は、世界を破壊し尽くした後に、人間を作り、動物を生み出し、森を復活させた。だが、そこにはかつての様な平和は無く、獣は知性を失い人々の間では争いが絶えなくなっていた。
──たすけて。
少女とも、少年とも取れる、小さな掠れた声と共に、後悔や悲嘆、憤怒や焦燥、そういった負の感情がアラタに流れ込み、それを最後に意識は途切れ、闇に飲まれ消えていった。
どこからか、アラタとその親友二人を見ていた者がいた。中性的で、今にも消えてしまいそうな儚さを秘めたその者は、願いを託し、眠りについた。
読んで下さってありがとうございます。
一週間くらいは毎日投稿できればいいなとは思っています。
書きだめはないけれど……。
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