プロローグ
連載ものは初投稿です。
拙作ですが、生暖かい目で見守って貰えるとありがたいです。
5/28 一部改稿しました。
いつも通りの朝。
いつも通りの通学。
いつも通りの授業。
そんな退屈で、けれど、どこか愛おしい日常は、唐突に終わりを迎えた。
◇ ◇ ◇
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り、昼休みが始まると、宵月アラタは、幼馴染の暁雅と上木創多の三人で、机を合わせ弁当を食べていた。
「アラタのお弁当美味しそうだね〜。」
アラタの弁当を、正確には、弁当に入っている唐揚げを見て雅が物欲しそうに言う。
やらんぞ、とでも言いたげな顔をしていたアラタだったが、ふと、その表情を何かを思いついたかのようなものに変えた。
「しょうがないな、やるから目閉じて口開けろよ」
アラタが薄く笑いながら言うと、その企みに気づいたのか創多がニヤリと笑った。
それに気づかない雅は言われるがままに目を閉じ、口を開けた。
そして、アラタは唐揚げではなく、その隣にあったトマトを箸で掴んだ。
唐揚げは雅の好物だが、トマトは逆で、彼女はそれを大の苦手としている。
「ほら、あーん」
「あーん」
雅は、勢いよくトマトを口に含んだ。
「まっずぅぅぅううううう!!」
雅はそう叫ぶと、お茶でトマトを流し込もうとしたが、彼女の水筒は二限の体育が終わった時点で既に空になっていた。
勢いよく口に突っ込まれた水筒の飲み口は、歯に当たって痛そうな音を立てるだけで、お茶が出てくることはなかった。
雅は、涙目でトマトを飲み込むとアラタたちを睨んだ。
とは言っても、彼らからすれば、涙目で睨まれてもまったく恐くはない。
むしろ、怒ったような、けれど同時に泣き出しそうな彼女は、彼らには変顔でもしているようにしか見えなかった。
「「ぶふぅぅぅっー!」」
アラタと創多は堪えきれず、吹き出した。
「むぅー。酷いよ二人とも〜」
不満気に雅が呻く。
教室の端で騒いでいるアラタたちは、かなり目立つのだが、誰もそれを咎めようとはしない。
中学の頃からの友人たちは彼らの事情を、彼らがまだ四人だった頃を知っているから。
三人になってしまって頃からアラタは、元気に振る舞うようになったのだ。
高校からの友人たちは、この三人組が馬鹿騒ぎしているのはいつもの事で、クラスメイトたちは皆、慣れてしまっていたから。
クラスメイトたちの間では、アホの三兄弟などと呼ばれている。
それぞれ容姿が特徴的で、もはやマスコットキャラ的な扱いになっている。
アラタは、顔はせいぜい中の上程度だが、180センチという高身長に加え、長めの灰色の髪が特徴的で、襟足部分の髪を結んでいるのも、特徴といえば特徴か。
雅は、学校で一番と言われるほどの美人で、綺麗な栗毛色の髪も、黒髪の多い日本人のなかではそこそこ目立つ。美少女ではあるが、天然なせいか親しみやすく、それもまた彼女が人気となる理由の一つになっている。身長は低く、150センチほどしかない。元気っ子な雅は、アラタといる時は、ぴょこぴょこ動くものだから、その胸にある2つのたわわが揺れ、さらに注目を集めることが大半である。
創多は、童顔で、身長も雅と同じくらい低く、よく女子と間違えられる。創多の黒髪は雅に負けないくらい綺麗で、憧れる女子がいるほど。雅と一緒にぴょこぴょこ動く姿は、小動物じみていて男子からみてもかなり可愛く見えてしまう。
「小学生とお父さん」、「アイドルとボディーガード」などと呼ばれることもある三人組だが、家が、アラタの家を中心に並んで建っていて昔から家族ぐるみで仲がいい。
ちょうど弁当を食べ終わったタイミングで、校内放送でアラタが呼び出された。
『2年1組の宵月アラタ君。至急、資料室まで来てください。君に忘れられた先生は死にそうです、配布物が重すぎて!』
なんとも可愛らしい声がスピーカーから響き、そこかしこから小さく笑いが漏れる。声の主は、アラタたちのクラス担任であり、世界史の担当教師でもある萌葱葉月だった。
なんかあったかなー?と思いつつ、アラタは資料室に向かった。
アラタが資料室に着くと、ぷりぷりと怒っている萌葱がいた。その姿は、身長が低すぎるあまり小動物のように見えて、怒っているはずなのにどうしても可愛く見えてしまう。
今年で27になる彼女だが、その容姿は小学生にしか見えず、親しみを込めて「萌葱ちゃん」と呼ばれている。本人は萌葱先生と呼んでほしいそうだが、そう呼ぶのはほんの一部だったりする。
アラタも、例に漏れず先生とは呼ばない。
「まったく、委員の仕事くらいちゃんとしてくださいよ、アラタ君!」
萌葱ちゃんが言う。
なんの事だかわからんとでも言いたげな顔をしていたアラタだったが、萌葱ちゃんがアラタの前に大きなダンボールを置くと、合点がいったかのように
「あ、あぁ〜。それね、うん。いや、別に忘れてた訳じゃあ無いんだぜ? ほら、今ご飯食べてたからさ?」
アラタが早口でまくしたてるが、萌葱ちゃんにはばればれで、
「絶対嘘ですぅー! ばればれなのですぅー!」
そんな事をいいながら2人は教室に向かう。
アラタが配布物を配り終えるとちょうど五限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
同時に、教室の床に綺麗な光を放つ、魔法陣ようなものが現れた。
あまりにも突然で、教室が軽いパニック状態に陥る。
「え、ちょっと、何なのこれ!?」
「体が動かないんだけど!?」
「うっそだろおい! これで俺も異世界デビュー!?」
訂正。一部喜んでいる阿呆もいるようだ。
萌葱ちゃんが必死にクラスを落ち着かせようとする。
「みみみみみ皆さん、落ち着いてくだしゃいぃぃっ!!」
いや、まずはお前が落ち着けよ、と。
アラタは、萌葱ちゃんの慌てっぷりに、逆に冷静になった。
廊下の方を見ると、隣のクラスの先生が何事かと、見に来て固まっていた。
しばらくすると、魔法陣のようなものが一層激しく輝き、光が収まった頃にはそこには誰もいなくなっていた。
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