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ビバ☆就活体験記  作者: マナブハジメ
最終章 「内々定と、就職活動と、百パーセントジュース」
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四月二三日  田中麻美

 四月二三日  田中麻美


 電話きました! 天通から電話きました! 五月一日に最終です! がんばります!


(追加)  山井里央


 麻美~。うちも電話きたぁ~。資生紡合格したぁ~! もう、嬉しすぎて、速攻で、「よろしくお願いします!」って言っちゃった。(笑) やったよぉー。でも青色銀行に断りの電話入れなきゃだよー。気不味いよー。でも、もう、何か、いろいろ、どうでもいいよぉー。怒られても悪い気しないよぉ~。それくらい嬉しいよぉ~。そして私、お疲れさまだよぉ~。


(追加)  谷本直毅


 山井さんおめでとう。あさみんも、ほとんど内定もらったようなもんだね。あともうひと踏ん張り。頑張って。

俺はと言うと、諦めきれんよ。まだ納得できとらん。ベンチャーで働かないかんという状況は正直想定外。ここにきてようやく俺は、働くことって何だろうって考えるようになりました。これはなかなか難しい。俺はずっと商社で働きたいと思って就活してきた。しかしどうやらこの願い叶わぬらしい。もう一年就活すればなんとかなるもんだとも思えんし。「お前は商社に向いてないってことだよ」という中林の意見も確かにその通り。六社受けて全部断られたんだから、俺にその適性がないと考えるのは妥当だ妥当。俺にとっては商社と広告、それ以外、って括りだから、腹を決めやすいといえば決めやすい。そもそも内定一個しかもらっとらんのだから話は早い。しかしよりによってベンチャーって。

どうせならもっとでかいところがよかったぞ。なんでだろ? 安定してるから? 給料がいいから? 親が喜ぶから? お前らに自慢できるから?

今こうやって自分自身を説得してる段階になって思うのは、俺が商社を目指してた理由ってのは、結局のところ、後半二つの理由が重きを占めてたんだってこと。ようは、商社に入ることがかっこいいと思ってたし、俺自身のステータスになると思ってた。

でも、よく考えろ。ステータスって何なのだ。会社の名前、すなわち名刺か? はたまた谷本直毅個人の存在か? おそらく答えは前者だろう。大企業の社員と聞けば、無条件でスゲーと思っちまうのは世間の反射。世間の一部たる俺もその反射反応を違和感なく受け入れられちまうから困ったさん。まったく俺は、誰のために就活やってきたんだろう。就活すればするほど世間の一部、社会の一部に埋まっていったのではなかろうか。社会に飛び出て、きらめく個性を発揮してやろうと思っとったのに。こうやって無垢な少年少女は企業社会に飲み込まれ、社会の溜め池で泳ぐことになるのだろう。人口過密で大半が沈んでいく。指先だけでも出てりゃまだましな方。うまい立ち泳ぎを教えてくれた企業文化が生き残りつつも、最後まで浮いていられるのは誰なのか。そりゃもう答えは簡単で、体力ある奴に決まってる。体力ある奴が強いのはなぜなのか。これももう答えは簡単で、最後まで足動かせるからに決まってる。

あらためて問おう。ステータスって何なのだ。エスカレーター、はたまた階段。これはちょっと難しい。学生の俺にはわかりゃせん。わかりゃせんけど、一つだけわかることもある。それは簡単。両者とも足を動かした方が早く上がれるということ。最後に勝つのは体力ある奴。つまりは自力。そうなのだ。まあ、俺だってここまではわかってる。ここまでは。でも、ここまでわかっていながらなお、ベンチャーがためらわれるのはなにゆえか。

やっぱり、名前知られとらんのが怖いのだ。世の中に認知されとらんのが怖いのだ。承認されんのが怖いのだ。

たぶん、俺の中では、企業=自分、になっとる。だから認知されとらんのが怖いのだ。自分が認められとらん気がして怖いのだ。つまるところ、自信ないのだ己自身に。企業に守ってもらわな生きてく自身がないんだきっと。これはちょっと決定的。何が決定的かというと、こんなんじゃどっこも受かるはずないってことが決定的。

もう一年就活したところでダメだと思うのもここに起因してるみたい。駄目だなこいつ。デルタが内定出してくれたのだって、たぶん学歴がものを言っている。気付いちまったよ。俺と三木森の大きな違い。三木森にあって俺にないもの。それはきっと揺るぎなき自信。

三木森は、三木森であって、三木森以外の何物でもないんだきっと。それは正直、傍目から見ていてもわかるくらいだ。ほんと三木森は三木森なんだよ。それに比べて俺の半分は大学の名前でできている。なにせ俺にはないからな。自分自身を埋め尽くすほどの経験と実績が。根拠のない自信だけならあるが、それが俺自身の全部を埋め尽くすことは出来んのだ。だから俺は怖くなる。俺は谷本直毅百パーセントじゃないんだから。それ相応の何かに埋めてもらわにゃ立ってられんのだから。

ああ、俺も百パーセントジュースになりてえよ。まざりっけなしで勝負してみてえよ。俺だけの力でどこまでいけるのか試してみてえよ。ここまで書いてきてふと思うことは、俺の中では、最初から結論出てたのかもしれないってこと。ただ、なんだか言い訳してみたかっただけな気がする。素直にベンチャーいくのが悔しかっただけのような気がする。だって俺は俺なりに就活頑張ってきたから。それなりに努力してきたつもりだから。だから、言い訳したかったんだ。前向きな言い訳を。

働くことって何だろうという疑問は、解決してないし、今のところ解決しそうにない。でも、何のために働くかってのは見えてきたような気がする。俺は、俺のために働くんだきっと。企業のためじゃなく、百パーセントジュースになるために働くんだきっと。そう思う。いや、そう思えるようになってきた。

金ゼミ新入生諸君も、来るべき時にはそれなりの自己弁明を用意することをお勧めする。なにせ時間は止まってくれない。人事の人も待ってはくれない。俺が言えることはただ一つ。人生まだまだ入り口だ。数年後には転職してるかもしれんし、留学してるかもしれんし、資格取って独立してるかもしれん。何が起こるか分かりはせんせん。

一歩ずつ足出しながら、その瞬間、瞬間、を納得してればそれもまた正解なはず。大切なのは、そう思えることと、そう思わせてくれる仲間がいること。

ありがとう。相談に乗ってくれたみんな。ありがとう。金ゼミに入ったあの日の俺。そして、ありがとう。金ゼミ就活体験記。そうだ。三木森。お前もそろそろ何か書け!

んじゃ。バイチャ!


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