四月六日 田中麻美
四月六日 田中麻美
こんばんは、二条院君。内定もらえたんだね。おめでとう。中林君、里央、二条院君に続けるように私も頑張ります。
うん、そうだね。ちゃんとこたえるよ。二条院君の気持ちに対して、逃げたりしません。私も変わらなくちゃいけないから。今までの自分じゃダメだから。だから、ちゃんとこたえます。聞いてください。正直な私を、聞いてください。
私ね、知ってたの。二条院君が私に好意をもってくれていること、知ってたの。それなのに私、知らないふりをしていました。気付かないふりをしていました。最低だよね。最低です。
クリスマス前の寒い冬の日。私の学生証を取り戻そうと、バイト先の人の家にお邪魔させてもらった日。私と二条院君は、長い時間二人だけで待ちぼうけしたよね。あの時のこと、覚えてるかな? 私、よくしゃべっていたよね。いつも以上におしゃべりだったよね。冬のイルミネーションが綺麗だねって、二人して街ばかり見ていたよね。いつも以上に笑っていたよね、私。
三月の風が強い日。二条院君がホワイトデーにチョコレートをプレゼントしてくれた日。震えてる二条院君を見て、私は、寒いの? って聞いたよね。顔が赤くなっている二条院君に向かって、ほっこりだね、って言ったよね。ホッカイロを握りしめる二条院君に向かって、風邪ひくといけないから図書館入ろうよ、って腕を引っ張ったよね。本当に、私、よくしゃべっていたよね。一人でペラペラと。
この時の、その時の、あの時の私は、うまく笑えていたのかな? 自信ないよ。私ね、怖かったの。二条院君の勇気を前にしたら、私、急に怖くなっちゃったの。だって、二条院君、今にも私に告白しようとしてたから。私が何回違う話にもっていこうとしても、二条院君の気持ちは全然揺らがなかったから。決心している男の人の顔だったから。
告白されることが怖かったわけじゃないの。二条院君のことが嫌だったわけじゃないの。私の中の金ゼミが終わっちゃう気がして怖かったの。二条院君の事を信じられない私自身が嫌だったの。弱いのは私だよ。二条院君は強いよ。すごく強いよ。私が何度、二条院君の一言を遮っても、二条院君は告白しようとしてくれた。それでも最後までそれを言わせなかった私は、本当に、ただの弱虫です。この日記を通してしか告白できない状況を作った私は最低です。本当に私は私が大嫌い。だから、私も変わらなくちゃいけないの。ううん。私が変わらなくちゃいけないの。
私は金ゼミが大好きです。だから、金ゼミの全部をなにも変えたくなかったの。告白されることで、何かが変わっちゃうんじゃないかって思っていたの。変わることが怖かったの。それってつまり、私は私しか見てなかったってことだよね。だって、変わらない毎日なんてないんだもの。変わらない金ゼミなんてないんだもの。みんな誰だってちょっとずつ、毎日変わってるんだもの。それが金ゼミだよね。変わり合いながら関わり合うのが金ゼミだよね。
だから思うの。私たちはずっと金ゼミだし、何があっても金ゼミでい続けることができるはずって。二条院君の思いに、私の思いでこたえます。
私、二条院君とは付き合えません。ごめんなさい。私には好きな人がいます。
その人は、めちゃくちゃで、大雑把で、声が大きくて、パンチが強いです。あんましいいところが浮かんでこないけれど、それでも私はその人に惹かれています。
たぶんね、その人の世界に、私なんて映っていないの。でも、それでも、私は少しずつその人に近付きたいです。私を見てもらえるようになりたいです。あっ。こんな返事でごめんなさい。すごく失礼な返事だと思います。でも、やっとです。やっと私も二条院君の勇気に正面から向き合うことができました。そして、私なりの勇気を持つことができました。
こんなことを言っていいのか分かりません。分かりませんが、どうしても言いたいです。だから、言わせて下さい。
ありがとう、二条院君。
(追加) 二条院
あさみさん。こちらこそありがとうでございます。そして、このような時期に申し訳ありませんでした。俺は超絶打たれ強い男ですから大丈夫。むしろ気分が晴れやか快晴。きっかりスッキリ致しましたぞ。重ね重ね。本当にありがとうございました。俺の人生、一片の悔いなし!
以上。




