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ビバ☆就活体験記  作者: マナブハジメ
第四章「面接と、リクルーターと、魔法の言葉」
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三月五日  中林洋平

 三月五日  中林洋平


 二条院へ。嫌だ。断る。お前は三木森が屈するほどしつこいから、教訓的意味合いも込めてここに書きます。自分のことは自分でしなさい。応援することはできるけど、俺は二条院の代わりにはなれないの。わかってくれよ。それに、そういう大事な場面から逃げちゃ駄目。今後のお前の人生のためにも、自分自身でなんとかしなきゃ。俺ができるのは応援までです。

 話が変わるけど、笠井、就活やめるって本当なのか? 俺としては、進路で悩みまくってるお前を見てきたから、就活を終えて現実逃避に浸ろうだなんて思ってるわけじゃないことくらいわかるさ。お前がそんな弱い人間じゃないってことも知ってるつもりだし。よければもうちょっと詳しいこと聞かせてちょうだい。たぶん、俺だけじゃなく、金ゼミメンバー全員が同じこと思ってるはずだから。この体験記に書いてくれると嬉しいな。みんな、笠井が一人で考えたがるタイプだってこと知ってたから、あんまし何も言わなかったけど、そろそろ俺たち、お節介さんになってもいいタイミングではないでしょうか。面倒臭いかもしれないけどお願いします。それじゃあ、よろしく。


(追加)  笠井一


 まあ、べつに隠すようなことじゃないから書いてやる。しかし、決して面白いわけではないし、ためになる話でもないから、興味ない人は読まんでよろしい。冷やかしはいらんし、冷ややっこもいらんからそのつもりで。

はてさて。書けと言われたから書いてやろうと思ったわけだが、いざ書こうとすると何を書いていいやらわからんのが世の定め。愛しき人を愛する思いを言葉に表そうと努力してみても、好きだ、とか、大好きだ、なんぞというありきたりな定型文ができ上がってしまうのと同じだな。かといって、君は野に咲く花のように健気ではかなく美しい、とかいう机上の文面ぶちまけたところで、それはある種の自己満足。相手に伝わるかどうかより、そんな甘っちょろい台詞を垂れ流しておる自分自身に酔っているにすぎんのだ。

アスファルトの上を闊歩する多くの人たちは、自己陶酔をひどく嫌うし、周りを気にする集団的個人という立場からも自己陶酔は推奨されるべきものではない。俺はそう思うし、そう思ってきた。つまるところ、多勢の潮流に乗っておれば間違いないと思っておったのだ。そして、その流れから弾かれんよう、必死にしがみついとったという始末。

就活するのが大学三年生の主流だろうと思ったし、大企業に入れば安定した暮らしができるだろうと思ってた。こりゃ間違った進路じゃないし、大企業に入れりゃ親は喜ぶ。おまけに周りのやつらからは、凄いなお前、ともてはやされるやもしれん。それが悪いことかといえば、答えは否。誰だって大企業に入れるわけじゃないし、そもそも俺は親の金で大学通っておるという身分。大学だって誰しもが入れるわけじゃない。だから俺は、己の学歴を総動員して就活に臨もうと思っておったわけだ。この物づくりの国を支えるべく働こうと思っとったわけだ。だから企業セミナーにも行ったしリクルーターにも会ってきた。そして気付いたのだよ。俺は舞台が好きだって。死ぬほどステージの上にいるのが好きだって。

リクルーター面接の時に聞かれるじゃん。「学生時代頑張ってきたことは?」とか。俺さ、自己分析すると、舞台のことばっかり浮かんでくるのだよ。テレビ見ながら笑ってる時も、頭のどこかで、「今のこの自然な笑い方を覚えておこう」とか、三木森に対して腹を立ててる時も、「この自然な苛立ちを記憶しておこう」みたいに、日常生活全部が演じることに向かってるわけ。べつに俺のベクトルはマントルに向かってたわけじゃなかったのだ。舞台に、演じることに向かって矢印が伸びていたんだよ。

しかしまあ、トンネルの長いこと困難極まりなかった。なんであんなに真っ暗なのかよく分からんままに就活続けておったわけだが、二条院のおかげでようやく気付いた。きらめいてなかったんだな、きっと。舞台が生活の一部でなくなっちまう将来は、全然輝いてなかったんだよ、俺にとって。

まあ、お前らが、「働きながら舞台続ければいい」と言いたいのはよくわかる。俺もそれは考えた。でもな、俺ってそんなに器用じゃない。自分で勝手に境界張ってるとか、そういうんじゃなくて、働くことがメインになる生活が嫌なんだ。俺の生活の中心が舞台でなくなるのが嫌なの。嫌なもんは嫌だし、わがままといえばわがままだ。然れどもこの世の中には、自己責任、なる大変便利な言葉があるから儲けもの。そう思い始めたら、気分がずいぶん楽になった。こいつはきっと魔法の言葉だ。魔法を手に入れた俺はホント無敵に無双。世間体とかこうあるべきとか言う、ベキの法則、も俺には通じない。俺の中では世界は俺を中心に回ってるんだから通じようがないだろう。自分が何をしたいのか、どうありたいのか、そのためには何をすればいいのか。これが俺の全部になった。俺はようやく自分に正直になれたのだ。

そしたら世界が明るくなった。そして、自分が今できることをやってみようっていう気分になれた。この前レンタルショップで動画を借りてきたという話をしたが、あれはミュージカルや、お芝居や、アニメなんかの動画を借りてきたのです。一口に演じることが好きだと言っても、その進路は様々あるらしいというのを最近知った。舞台舞台、演技演技と言うておったくせに、その道に進むにはどのような進路があるのかすら、今までの俺は知らんかったのだ。

だから俺は、今日から少しずつ前進しようと思う。オーディションとかも受けてみるつもり。笑いたきゃ笑えばいい。俺の中心は俺自身だから少しも気にしない。しかし、進むと決めたのだから、進むぞ絶対。結果的に何年棒に振ることになるのかは分からんが、とにかく気が済むまでやってみるつもり。いや、つもりじゃなくて、やってやる。とにかくやると言ったらやってやる。これ以上書くことないからこれでお終い。

 最後に。俺がこんな英断出来たのも、金ゼミに入っていたからだと思う。お前らも、先輩らも、自由奔放すぎるから、ちまちま悩んでる自分が馬鹿みたいに思えてきたのだと思う。

俺、本当は怖かったんだ。世間から弾かれるのが怖かったし、自らレールを下りるのも怖かった。でも、お前らなら一生一緒にいてくれそうな気がしたんだ。これは依存とか馴れ合いとかそういう意味じゃなくて、見ていてくれそうな気がしたのだ。何も言わずに、静かに見ててくれそうな気がするんだ。べつに手を貸してくれとかそういうことじゃない。見られていることが大切なんだ。だって、俺は舞台の上が好きだから。

はっきり言おう。少しも後悔してないぞ。俺は全然後悔してない。そして、金ゼミDNAが大好きだ。納豆に混ぜ込みたいくらい大好きだ。このゼミ入ってホントによかった。二度は言わんからよう聞いとけ。それじゃあ、皆様。

ありがとうございました!


(追加)  田中麻美


 笠井君。笠井君の日記を読んで、あらためて、就活ってなんだろう、って考えさせられました。本当、こちらこそ、ありがとうございますっていう感じです。

笠井君が出した結論は、きっと、誰にも笑われないと思います。だって、みんな笠井君が悩んでること知ってたし、私たちなりに見守ってきたつもりだから。だから、誰も笑いません。

自分に正直になるっていう感覚。今の私にそういう感覚があるのかといえば、正直、自信がありません。自分で決めた目標に対して無我夢中で走ってるだけのようにも感じるし、周りの雰囲気で自分を鼓舞しているようにも感じるからです。

自分自身に、私は働きたいの? と質問してみても、曖昧な答えしか返ってきません。どちらかというと、このままずっと学生生活を送っていたいような気さえしてきます。笠井君が言う、多勢の潮流、に乗っているだけなのかもしれません。でも、そんな私でも、一つだけ言えることがあります。それは、今の私は確かに走っているということです。

就活っていうのは確かにシステムのようなものなのかもしれません。そういう機械的なものなのかもしれません。でも、そういうのって、私にとってはきっかけになるの。そう、きっかけに。

大学キャンパスっていう名前の大きな水槽は、すっごく気持ちよくて楽しいことばかりです。だから、この中で泳いでいようと思えば、私、いくらでも泳いでいられます。あと十年くらいは飽きないと思う。でもね、私が思うに、それじゃ駄目なの。えっと、正確に言うと、それだけじゃだめなの。水槽の中だけじゃだめなの。もっと広い世界を見なきゃ駄目なの。ううん。違う。見てみたいの。私は、広い世界を見てみたいの。だから、広い世界を見るための流れに乗って泳いでいるっていう事実が、私にとっては大事なの。走ってるっていう現実が、大事なの。だから私は後悔してないし、後悔したくない。十年後、二十年後の自分が、ちょっと疲れて立ち止まって、振り返った時に、「私、頑張ってきたね」って言えるような生き方をしたいの。

だから、今はとにかく走り続けます。無我夢中で走り続けます。未来の自分に失礼のないよう頑張りたいです。うん、私、頑張るの。あっ……。途中からわけ分かんない文になってしまいました。ごめんなさい。これ以上書くと、また意味不明なことを書きそうになるから、この辺で終わりにするね。笠井君の今後の活躍が楽しみです。

じゃあね。バイバイ。


(追加)  二条院


 麻美さん。決して意味が分からぬ文章ではございませんぞ。貴女の思いというか、決意というか、そのような熱きものがひしひしと伝わってきました。俺ができることといえば、麻美さんの就活がうまくいくよう願うことくらいでしょうか。もし他に出来ることがあればなんでもおっしゃってくだされ。馬車馬のごとく働く所存ですからそのように。暇人になるそうだから笠井も手伝わせます。助けあってこその金ゼミです。そこを忘れちゃいかんいかん。

 ところで中林。困る困る。それは一方的に困るからやめとくれ。まあ、落ち着け。落ち着くのだ。そして考えを改めろ。ここはひとまず妥協案。八日に飯食おう。助けあってこその金ゼミだ。そこを忘れちゃいかんよ。いかん!

 以上。


(追加)  山井里央


 笠井君。うち的には、やっぱりなぁ、って感じだよ。だって、笠井君が演劇大好きなこと知ってるもん。よーへいとも、そういう話、たまにしてたんだよぉ。それでね、そういう話すると、いつも最後は、笠井君が羨ましい、っていう風にまとまるの。だって、うちらにはそこまで本気になれるものってないもん。そこまで真剣にアツくなれるものにまだ出会えてないんだもん。だから、笠井君のことが羨ましいの。そういうのって、考えれば気付けるってものでもないでしょ? だって、うちはどんなに考えてもそういうの浮かんでこないから。浮かんできても、すぐ就活に負けちゃうから。負けちゃうってことは、大事なものじゃないってことでしょ? うち、分かんないけど、たぶんそういう大切なものって、身体の中から湧き出てくるみたいな感覚なのかなって、勝手に思ってるの。うまく言えないんだけど、きっとそういう感覚だと思うの。なんかすごく断定的だね。(笑) でもね、正直言うと、そうじゃなきゃ困るの。もちろん、困るのはうちだよ。(笑) だって、そうじゃなきゃ私、就活続けられないよ。続けられないの。

あのね、うちもいろいろ考えたりすることあるんだぁ~。意外かな? でも、本当なの。いろいろ浮かんでくるんだけど、最近思うのは、もっぱらよーへいとのことばかりです。なんていうか、学生生活終わっちゃったら、私たちどうなるんだろうとか、そういうの。(笑) 笠井君と比べたらちっぽけな話です。でもね、うちにとっては大事なことなんだぁ。それでね、そういうこと考えてると、うち、就活できなくなっちゃうの。よーへいはパイロットになるんだなって考えると、私はどこに住めばいいんだろうって考えちゃうでしょ。そういうこと考え始めると、業界もすっごく狭まっちゃうし、地域も限定されちゃうの。これってホントに悪循環。だからうちは、頭の中にポツポツ浮かんでくるものは、全部考えないようにしてるんだぁ。考えないっていうか、無理やりプラス思考に切り替えるってカンジ。切り替えようがないじゃんなんて言わないでぇ~。こんな私だから、笠井君の決断を見た時は、焦りました。こういう決断してもいいんだっていう、驚きみたいなものかもです。

うちの頭の中に一瞬だけ、就活しないで、よーへいのお嫁さんになるっていう選択肢が浮かんだの。一瞬だけだよ。一瞬だけ。もちろんすぐに消えちゃった。だって、前もどこかで書いたかもだけど、そういうのって不平等でしょ? 依存しちゃってる。それじゃあだめなの。絶対にダメ。だから、身体の芯から湧き出るような、うちがまだ経験した事のない感覚で主張してくる何かじゃない限り、就活を犠牲にしちゃダメだって考えるようにしてるの。それがうちのルールなの。だから断定的になっちゃうんだぁ。

うちが就活してるのは、ある意味、よーへいに負けないためでもあるの。だって、平等でいたいから。うちばっかりがもたれるのって、嫌だもん。よーへいにももたれかかって欲しいもん。な~んて。書かなくていいことまで書いちゃった。(笑)

でわでわ。笠井君の進む道が決まってよかったよ~。うちはうちで就活頑張るからねー。できれば団体戦で頑張るからねー。(笑) またねー。ばいば~い。


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