十二月二三日 感謝状
十二月二三日 感謝状
ありがとう。三木森君、二条院君。本当にありがとう。こわかった。すっごく怖かった。たぶん私、何もなしでは家に帰れないんだろうな、って思うくらいだったの。オバケとかそういう目に見えない物への恐怖じゃなくて、目に見える物への恐怖っていうやつです。自分がこの後どういうことされるのか、なんとなくわかっちゃったっていうか。だから、吐き気がするくらいぶるぶる震えてました。泣きそうになってました。それでも声が震えなかったのは二人がいてくれたからです。ちゃんと私の口から「返して」って言うことができました。本当に、ありがとう。
二条院君は、アパートに行くまでの間、ずっと私を励ましてくれていました。静かになると怖い気持ちが湧き出てきちゃうから、そうならないようにしてくれたんだと思います。アパートに着いてからはずっとドアの所に立っていてくれました。後から見守られているような気がして、後ろから支えられているような気がして、とても心強かったです。二条院君のオーラが私の一言に勇気をくれたんだと思います。無言で仁王立ちしている姿、格好よかったです。
三木森君はずっと私の傍にいてくれました。二条院君は後方支援で、三木森君は前線にいるっていう作戦だったみたいです。ソファーに座らされた私と三木森君の前にはテーブルを挟んで先輩がいて、私たちの周りにはタンクトップの男の人たちがいました。私一人だったら絶対に雰囲気にのまれてしまっていたと思います。
そんな雰囲気の中、「ぶどうジュースで」 とためらいなく発言してしまう三木森君はすごいです。「あ?」 と言われても、「じゃあ、ノンアルコールワインで」と即座に切り返すところは圧巻でした。あれで雰囲気ががらりと変わったと思います。
それにしても、先輩はめちゃくちゃ怒っていましたね。罵声を浴びせられた私は何も言えずに、小さくなって、ただ震えることしかできなかったけれど、三木森君は違いました。「俺はイタリア人だから仕方ない」という一言は、ちょっと意味が分かりませんでしたが、この一言でさらに雰囲気が変わったのだと思います。
後はほとんど、私置き去りで口論してたね。私を巻き込まないようにする絶妙な作戦だったのだと思います。三木森君は、なかなか戦略家なんだなって、改めて感心してしまいました。そして、三木森君は、私が気付いた時には掴み合いの喧嘩をしていましたね。先輩たち、私の事は眼中にない、って感じでした。
相手は四人もいるのに、全然臆することもなくたち振舞う姿は素敵でした。私は三木森君の後ろ姿しか見えなかったけれど、改めてみる三木森君の後姿は、すごく大きかったです。私は腰が抜けたように床に座り込んでいたからかもしれませんが、それでもやっぱり大きかったです。
部屋の中を怒号が飛び交うようになると、二条院君も駆けつけてくれました。三木森君を助けようと、争いの中に割って入り、次の瞬間には私に覆いかぶさり、私の盾になってくれました。床で座り込んでいる無防備な私を気遣ってくれたのでしょう。その決意は大きな岩のように固く、二条院君はぴくりとも動きませんでした。身を呈してかばってくれていたのですね。
三木森君は、相変わらず四人相手に口論してました。というか、手も出していました。でも、あれは正当防衛だと思います。怒号は大きくなるばかりで、何を話しているのか私にはよく分からなかったけれど、とにかくすごくうれしかったことだけは覚えています。
タンクトップのうちの一人が、「俺は黒帯だぞこのガキンチョが」って言った時、三木森君も何か言い返していました。私には三木森君の後ろ姿しか見えなかったので、三木森君がなんと言ったのか分からなかったけれど、そんな強い人たちを相手にしていることを思うと、今いる状況の恐ろしさを改めて感じてしまい、不安な気持ちでいっぱいになってしまいました。
だから私は、早く用事だけ済ませて帰ろう、と思い、危機感が勇気に変わって声を出すことができました。でも、三木森君たちには声が届かなかったみたいで、終いには取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいましたね。ガラスが割れないかと私は冷や冷やでしたが、三木森君のパンチや回し蹴りはアクション映画を見ているようで、めちゃくちゃ格好よかったです。
私がその優雅な回し蹴りに見とれてしまっていたせいもあって、気付いた時にはみんな寝転がっていましたね。エッフェル塔みたいにそびえたつ三木森君が、やけに眩しかったのは気のせいでしょうか。
最終的には先輩のポケットから私の学生証を救出して一件落着でした。申し訳なかったので先輩たちに絆創膏をはってあげてから帰りました。
私の盾になってくれていた二条院君は疲れたのか、そのまましばらくの間は眠っていましたね。途中まで三木森君がおぶってくれてたんだよ。三木森君は本当に力もちです。昨日のことを思い返すと、改めて、何からお礼を言えばいいのか分からないです。二人がいなかったら絶対取り戻せてなかったよ、私の学生証。みんなにも二人の雄姿を伝えたかったので日記に書きました。二人のかっこいい姿、伝わったでしょうか?
最後に一つ。よかったら、教えてください。三木森君って、彼女いるんですか?
(追加) 谷本直毅
やっぱスキーは最高だ。キシキシいう雪の感触も抜群だった。小刻みにターンを決めてくあたりが快感なんだな。スピードとエッジのコラボレーションは天下無双。まさしく俺はゲレンデの妖精と化していた。スキー最高! 摩擦最高!
あさみんの件も一件落着のようでなにより。過程はともあれ結果が大切なのだと世論は言います。だから俺も言いましょう。過程はともあれ大切なのは結果です。大事な学生証取り返せてよかったよかった。
ところでところで。
明日はみなさん待ちに待った、年忘れクリスマスパーティーですね。俺はもう、ウキウキしちゃって夜も眠れます。当たり前です。疲れてますから。はい。なんか、メールで中林と山井さんも参加してくれるという旨の連絡を受けたから、これで全員揃います。キム先生も参加してくれます。さらには、お姉さま方がおっきいケーキを作ってきてくれるらしいので、みなさん楽しみにしておりましょう。お腹をペコリンチョにしておけばいい。
メインイベントはプレゼント交換です。みなさんのセンスが試されますね。本気で選ぶもよし、笑いを取りに行くもよし。おそらく金ゼミ諸君の九割が後者を選ぶだろうから、あえて前者を狙っていくのがオイシイかもよ。金額設定がないのも、お前らのセンスを拘束せんがためだから抜かりなく。サンタさんなったつもりで考えればおのずと答えは出るはずだ。
そこで皆さんにお知らせです。明日までにプレゼント買ってきてください。
連絡するの忘れてました。ごめんなさい。まあ、幹事だってこういうミスはするさ。弘法だって筆を誤るんだから、妖精が告知忘れることくらいあるだろう。スキーで頭いっぱいだったんだから仕方ない。世の中にゃ完璧よりもちょっと抜けてるくらいの方が好かれやすいという統計結果があったりなかったりするのだから気にするな。オールフォーワン、ワンフォーオールで、お前のものは俺のものだし、俺のものは俺のものなんだ。何が言いたいかというと、連帯責任、連帯責任。だいたい、言われたことしかできんようならそりゃコンピュータと同列だから気を付けろ。お前はきっとロボットなのだ。超えてみろ、遺伝子という名のプログラミングを! いいわけも苦しくなってきたところで。
助けて~、ドラえも~ん。
ビバ☆金ゼミクリスマス!




