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ビバ☆就活体験記  作者: マナブハジメ
第二章 『自己分析と、他己分析と、ジャイアンムービー』
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十一月二五日  谷本直毅

 十一月二五日  谷本直毅


 六か月遅れの五月病大根は無視して、九紅の商社体感セミナー行ってきました。

 内容は、書面での情報をもとにした投資ゲームって感じかな。バリューチェーンをいかに構築できるか、みたいなやつ。俺なりに過去の反省点を振り返りながら臨めたせいか、俺たちのグループは二位という成績を得ることができた。やっぱ二、三歩先読みしながら戦略立てるのはめちゃくちゃ大事だな。他のチームが俺たちの予想通りのアクションを起こした時の痛快さったらないぞこれ。今日から俺は先読みの達人だ。セミナーの終りがけに九紅のビジネスについて少しだけ紹介してくれました。なにやら、電力事業とか穀物分野が得意らしいぞ。んで、今後は水事業にも力を入れていくそうだ。発電時にそのエネルギーを利用して、海水を真水に変えるんだと。効率的だな。あと、紙・パルプの分野がめちゃくちゃ強いらしい。既にバリューチェーンを構築してるから他者は寄せ付けないそうだ。ペーパーレスの世の中になった時どう対処していくのか見ものだな。一寸先は闇だ闇。マンホールに落ちるなよ二条院。ところで皆さん、マンホールのふたはなぜ丸いのでしょう?

 九紅は独自の収益指標を持っていて、その指標に照らし合わせながら新規ビジネスを開拓するかどうかの判断をしているらしい。過去の失敗を教訓にしているそうな。「正・新・和」をモットーに、公正明朗、経済社会の発展に寄与する会社だとおっしゃってました。毎回言ってるような気がするが、俺はやっぱり商社に行きたい。世界中を飛び回って人の役に立つ仕事がしたいのだ。その中で幅広い人脈づくりもできればいいと思う。やっぱいろんな文化の価値観に触れてみたいからな。じゃなきゃ俺自身本当の意味での成長は出来んと思ってる。俺が就職に期待することは自分を成長させてくれる企業であるかどうかだ。それは英語力とか分かりやすい能力でもいいし、交渉力とかコミュニケーション力とか目には見えにくい能力であってもいい。できれば両方だ。俺が今の大学を選んだのだって、この大学なら自分自身を成長させられると判断したからにほかならない。もちろん偏差値とか自分の学力に適してるかどうか、つまり、浪人しないかどうかっていうことも大切だった。でもやっぱりこの大学なら自分を高めてくれる人間が多いだろうと判断できたから、俺は今こうして就活体験を記しているわけだ。だから俺は自分を高めてくれる企業に入りたい。そういう意味で商社がベストなんだ今のところ。実際に働いている社員さんの話を聞いていくうちに、いや、むしろ、話して下さる社員さんの雰囲気に触れれば触れるほど、やっぱ俺商社行きてえ、って思うのだよ。集団としての力量もさることながら、一人一人個人としての力量、まあ、人間力ってやつかな、これがすごいと思うんだ。はあ、何か俺、ただ憧れてるだけなのかもしれんよ。憧れすぎていろんなフィルター介しながら就活してるのかもしれんと思ってきた。俺のコアって何だろう。成長は間違いないと思うんだけどな。何だろな。個性的でありたいというのも一つかもしれんな。まあ、個性的というとあれだが、要は埋もれたくないってやつだ。自分にしかできない仕事を持ちたいもんだね、いつか。自己分析とは底なし沼なり。ラーメン食ってくる。


(追加)  田中麻美


 自己分析ってほんとに底がないよね。ここまでで終わり、みたいな境界がないから難しく感じちゃうのかも。でも、行きたい業界が決まってる谷本君がちょっと羨ましいです。私はどの業界に行きたいんだろう。なんだか最近授業に集中できません。

 二条院君。相談にのってくれるみたいで、ありがとうございます。もっと詳しい情報を話せるといいんだけど、正直なところ、これ以上詳しい情報がないんです。メールがたくさん送られてくるだけなの。「今何してる?」とか、「今度遊びに行こうよ」みたいな内容のメールです。だから、全然セクハラじゃないの。私がもっと社交的な人だったら全然気にしなかったのかもしれません。だから最近、私が悪いだけなのかもって思い始めました。そう思い始めたから、この前、思い切ってそのバイト先の先輩とご飯食べに行ったんです。先輩が何度も誘ってくれてたし、私ももっと社交的にならないと駄目だなあって思ってたから。バイト終わりだったから、お酒も少し飲みました。私、お酒飲むとすごく楽しくなるんだけど、その時は全然楽しくなれなかったの。なんだか先輩に悪いことしたみたいで少しへこみました。でも先輩は、全然そんなことないって、メールで励ましてくれたんです。楽しくなれなかったのは自分のせいだって。だから、今度お詫びにご飯作ってあげるって誘われました。先輩はペペロンチーノが得意だそうで、どうしても私に食べてもらいたいのだそうです。最近は前にもましてメールの量が増えました。先輩は私への善意でご自宅に誘ってくれているにもかかわらず、なんだかあまり乗り気でない自分がいたりします。社交的になりたいんだけど、社交的になれなくて悩んでいます。今こうやってノートを書いているうちにも、先輩からメールが届きました。「たかの爪二本でも大丈夫?」だそうです。先輩はバイト中にもかかわらず私のことを心配してくれているようです。本当に申し訳なくて、自分のことが嫌いになりそうです。


(追加)  二条院


 なるほどなるほど。ペロンチーノの得意な野卑から大量メールが送られてくるわけですな。しかし、まず最初に言っておかねばならんのは、麻美さんはすでに十分社交的であるという事実です。サークルで学内を駆け回り、ゼミにて活発に議論を交わし、空き時間をバイトで埋め尽くす貴女を社交的と言わずなんという。さもなくば、俺たちなんぞは米粒です。後輩から慕われ、俺たちや先輩からも頼りにされる麻美さんは模範的な社交的女子ですぞ。もっと自信を持ちなされ。

それにしても、不味い酒を飲ませたお詫びにペロンチーノをご馳走したいと自宅へ招待するその猿はなかなか律儀なやつですな。手作りというところがなかなか好感。ちなみに俺は肉じゃが作れます。日本人なら和食です。今度作って差し上げようか?

 しかし大量メールとなるとなかなか厄介ですな。腱鞘炎も心配ですし。湿布なんかは我が家の押し入れに大量にありますから、欲しければ言ってください。風呂敷に包んでもっていきます。そのほか有効な手立てと言えば、メールアドレスを変更してはいかがでしょう。ペロンチーノ職人ごときが麻美さんのアドレスを知っていること自体不愉快極まりない。身の程をわきまえろ身の程を。

俺が教えておる中坊曰く、「メアドの切れ目は縁の切れ目」だそうな。明確な意思表示になりますぞ。それにしても、鷹の爪二本集めて何をなさるのか? 猛禽(もうきん)保護団体から抗議文が届いたりせんのですか。その男、野鳥の会の敵である! 俺はその辺のことが心配です。ここまでアドバイスになりましたでしょうか。

 以上です。


(追加)  中林洋平


 あさみん。俺はその誘い断った方がいいと思うな。家に行くのはよくないよ。俺も、あさみんは、十分社交的でアクティブだと思うから、今何か不快感を感じてるなら、それはあさみんが悪いんじゃなくて、そのメールが原因だと思うよ。あさみんは、何でも一回自分の中で受け止めてから考える癖があるから、自分の感覚を信じて最初から拒絶することも学ばなきゃ駄目だよ。あさみんは素直すぎるから、なんかちょっと心配です。

 そして二条院。なんかいろいろ間違ってるぞ。


(追加)  谷本直毅


 俺も行かない方がいいと思う。その人と直接会ったことないから分からんが、なんかこう、下心の気配がプンプンしてきます。メールはゼミとか俺たちのせいにして、断ったり、無視すればいい。もっと俺たちを有効活用してくれてかまわんよ。俺たちは常にあさみんの味方です。

 ところで二条院。ペロンチーノ言うな。すこぶる卑猥だ。ペペロンチーノに謝れ。そしてパスタに土下座しろ。ついでに言うと、お前のアドバイスもどうかと思うぞ。アドレス変えたらなんか気まずいだろ。あさみんはまだその料理店でバイト続けたがってるわけで、そういうところも踏まえてアドバイスしてあげんと。相談の猛者が聞いて呆れる。とにかく、あさみん。何かあったらまた俺たちに相談してください。それでは。


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