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84.お好み焼きとはこんな味

「というわけで、俺達が作るのはスティックお好み焼きになった」


 皆の前で宣言してみた。

 皆といっても、俺も含めて四人しかいないけどな。

 つまり、エミリア、モニカ、ライアル、そして俺だ。

「その前に質問がある」とライアルが手を挙げる。


「おう、何でも聞いてくれ」


「根本的なことを聞いていいか。なんで俺がクリスの屋台を手伝わなくちゃいけないんだ? そこがそもそも疑問なんだが」


「却下で」


「横暴だな、おい!?」


「いいじゃねえか。特にやることもなくて、暇してんだろ。たまには労働の楽しみを思い出せよ」


「えええ、これでもクエストは受注してるんだけど」


「平和な仕事をやろう、ライアル君。君には争いは似合わないよ!」


「胡散臭い笑顔だな、おい!」


 抵抗はするものの、結局ライアルは諦めてくれた。

 俺はいい友を持ったもんだ。


「あのう、クリス様。私は別にお手伝いするのは構わないのですが」


「ん、モニカさんからも質問があるのか?」


「え、ええ。その、確かに私はメイドです。普通にお料理することは出来ます。ですが、屋台は初めてです」


「だろうな」


「ご理解いただけましたでしょうか? 正直、クリス様の足を引っ張るのではないか。それが心配です」


 そう言って、モニカは俺をジッと見る。

 屋台を手伝うにあたって、真っ当な疑問と言っていい。

 俺も真摯に応対しよう。


「問題ない。俺だって屋台なんか初めてだ」


「ええええええ」


「そんなことだろうと思ったよ……」


 モニカが驚き、そこにライアルが口を挟む。

 うなだれるなよな、士気が下がるだろ。


「心配すんな。一ヶ月もあれば、屋台くらい簡単にマスター出来る。執行庁の優勝目指して、皆で頑張ろう! 大丈夫、君達はやれば出来る子だと信じている!」


「そうですよぉ。皆でお祭りの屋台するとか、楽しそうじゃないですかー。それとも私にだけ手伝わせるんですかぁ? 二人共まさかそんなことしないですよねぇー」


 俺の言葉に被せるように、エミリアが詰め寄る。

 ニマニマと笑っているだけに、逆に怖い。

 このまま押し切ってくれよ。


「はぁ、そうですね。ちゃんと練習すれば、出来ないことなんかないですよね。そう、聖女様付けのメイドになった時に比べたら、楽勝ですよ」


 モニカは半ば無理やり自分を納得させている。

 藍色の瞳がエミリアへと注がれた。

 おっと、聖女が「過去を蒸し返さないでくださいいい!」と喚き、地べたに這いつくばったぞ。

 あの様子じや、相当酷いことをしでかしたんだろうな。

 一方のライアルはというと、結局納得したようだ

「分かったよ。たまにはクリスに恩を売らせてもらうよ」と降参した。


「ありがとう、皆。それでだ、早速作戦会議を開こう。その為に、こうして集まってもらったわけだしな」


 有無を言う暇を与えない。

 論より証拠とばかり、俺は一枚の皿を収納空間から取り出した。

 その上に載っているのは、お好み焼きだ。

 普通に丸い形をしており、まだ湯気をあげている。

 驚きの声がモニカとライアルから上がった。


「いきなりびっくりするじゃないですか、クリス様! これは何ですか?」


「う、これはまた美味しそうな匂いがするな。独特の香ばしさに、微かに甘い匂いが絡んでくる。その茶色っぽいソースが原因か?」


「何って、これがお好み焼きだよ。普通はこのように丸くなっているんだ。屋台に出すときは、棒に挿すけどな。まずはどんな味か知ってもらおうと思って、試作してみた」


「私は先にいただきましたけどねぇー。えへへへ、いやあ、美味しかったなぁー」


「ああああ、エミリア様ずるいのですよおお!」


 モニカがエミリアに食ってかかる。

 ライアルはというと、ポカーンとお好み焼きを見つめている。

 よし、掴みは完璧だ。


「まずはこれを食べながら考えようじゃないか。お好み焼きの味も知らないんじゃ、話にならないからな」


 ダメ押ししながら、俺はお好み焼きを切り分ける。

 綺麗に半分に割り、そっと二人に差し出した。

 俺とエミリアの分は無い。

 ここが攻め時と心得ているのだろう。

 エミリアでさえ、欲しがろうとはしない。

 それどころか、モニカとライアルに優しく勧める。


「ほら、お二人ともー。これを食べて、クリス様の軍門に下るのですよー。無駄な抵抗は止めるのですー、ふふふふ」


 それ、完璧に悪役の台詞ですけど。

 だがお好み焼きに魅入られた二人には、些細なことだった。

 そもそも集中力の全てを、お好み焼きに注いでいる。

 エミリアの言うことなんか、聞いてやしない。

 まず、モニカが箸を手にする。

 最近使えるようになったので、妙に嬉しそうだ。


「ああ、この香ばしい表面。その上に踊っているのは、かつお節ですか? 何とも言えない芳しさです……いただきます」


 食べる前からうっとりしている。

 そして、素直にパクリといった。

 熱かったのだろう、ホフホフと口に空気を送り込む。

 お味の方はどうだろうか。

 じっと見ていると、その顔が喜びに輝いた。


「んっ、何という舌への冒涜っ。罪なほどに美味ですね、このお好み焼きというお料理!  表面はあくまでパリッと、それでいて中はふんわり。生地だけでも二重に美味しいですっ」


「――うん、ほんとにそうだね」


「お、おお、ライアル。お前も食べてたのか」


 急に反応するから、びっくりした。

 俺の方をほとんど見ずに、ライアルもお好み焼きに取りかかっている。

 こちらはまだフォークを使っていた。

 そのせいか、パンケーキを食べているようにも見えた。


「そりゃ食べずにおれるか。材料が小麦粉なのは分かるけど、何か中に入れてるよな。でなければ、こんなにしっかりした風味は出せないはずだ」


「いい舌してるなあ」


 ちょっとびっくりしたぜ。

 そのとおりだ。

 ここは早めに種明かししよう。

 俺は右手の中のものをさらした。

 形はやや細長く、薄茶色の表皮が覆っている。


「山芋といって、これをすってつなぎに使った。粘り気が強くて、優しい風味があるんだ。小麦粉だけだと、どうしても粉っぽさが消えないからな」


「芋なのに、ぼそぼそしてないのか? 珍しい食べ物だな」


「そうなのですよー。生地の中身をとろけさせるのは、この山芋のおかげですー。ほら、ライアルさんもモニカも食べてくださいー」


 エミリアに割り込まれ、俺の出番が無くなってしまった。

 いや、いいんだけどさ。

 ちょっと寂しいだけだ。

「クリス様も大変ですよね」とモニカに慰められる。

 見るに見かねたのだろうか。


「いや、いいよ。慣れてるし」


「勇者なのに割を食うって、相当ですよ?」


「大体昔からこうだよ」


 肩をすくめて答えた。

 いいんだ、別に。

 皆が俺の料理で笑ってくれさえすればね。

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