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7.バゲットサンドはお手軽です

 火魔石を稼働させ、その上に油を引いたフライパンを乗せる。

 熱伝導率の高い鉄製のフライパンはすぐに熱され、ぱちんと軽い音を立てた。

 さくさく作りたいから助かるよ。


「じゃ、まずは玉ねぎからっと」


 この時には、もう玉ねぎのスライスは終わっている。

 フライパンの上にぱらりと乗せると、すぐに甘い匂いが立ち込めた。

 放っておくとすぐに焦げてしまうので、フライ返しで適当にかき回す。

 弱火でじっくりと炒めていくと、白い玉ねぎが徐々に透明になってきた。


「うわー、美味しそうな匂いですねえ」


「これはちょっと私も期待してしまいますね」


 エミリアとモニカが覗き込んでくる。

 あのさ、見るのは別に問題ないんだけどさ。

 二人で左右に来られると、調理の邪魔なんだけど。


「お二人さん、ちょっとどいてくんない? こっち、火使ってるし」


「えー、もっと見ていたいですよお。私、クリス様がご飯作るところ見るの好きなんですぅ」


「私も後学のためにぜひ」


 右からエミリアがわくわくしたような顔で、左からモニカが真剣な顔で訴えてくる。

 もう面倒になったので、そのまま見せてやることにした。

 どうせそんなに時間はかからないし。

 そうこうするうちに、玉ねぎに火が通りきったらしい。

 完全に透明になっている。

 もう少し弱火で炒めれば、これが飴色になり甘さが増す。

 けど、今日はここまでだ。

 少しは歯ざわりも残したいので、火魔石を停止させた。

 炎が消えると、フライパンの上も静かになった。

 後に残ったのは、適度に茶色くなった玉ねぎだ。

 これはすぐに使うことになるので、このまま放っておくとしよう。


 次は生ハムだ。

 塊状にして保管しているので、必要な分だけ切り出す。

 グラデーションがかかったピンクがナイフの刃に映り込む。

 しかもカットした箇所によっては若干オレンジにも見え、いやでも食欲が増すじゃないか。

 熟成されたハムの匂いが鼻をくすぐる。

 嗅覚も刺激されるが、今は我慢だ。

 生ハムを一人四切れカットしたところで、この作業は終了だ。


「あとはこのバゲットに玉ねぎと生ハムを挟んで、岩塩ふるだけで一つ終了っと」


 俺がそう言うと、二人は「速いですね!」と口を揃えた。


「いや、そりゃそうだろ。サンドイッチなんてそもそもパンに具挟むだけだからさ。もう一種類の方はこれからな」


 答えつつ、俺はアボカドに手を伸ばした。

 黒に近いダークブラウンの皮を掴む。

 少し力を入れると、指がわずかにめりこんだ。

 熟しきる手前といったところか。

 左側からモニカが身を乗り出す。

 彼女の藍色の目は、アボカドに釘付けだ。


「あの、これは何でしょうか? 何かの卵ですか?」


「違うよ。アボカドっていう異世界の果物だ。見た目はちょっと地味だけど、結構美味いんだぜ」


「果物なのですか!? でも甘い香りもしませんし、色もなんだか奇妙ですよ」


 モニカは驚くが、エミリアは特段慌てた様子もない。


「異世界の食材なのだから、ちょっとくらい見た目が変でも当然なのですよー。私はクリス様の作るものならドンと来いです!」


 そんな胸張って言うことかよ。


「信用してもらってありがとさん。でだな、ついでにもちっと右側開けてくれ、邪魔なんだ」


「ええー、そんな冷たいのですよー」


「ボウルが取れないんだよ、お嬢ちゃん」


「お嬢ちゃんだなんて、そんな……照れちゃいますねえ」


「あのエミリア様。今のはどっちかというと馬鹿にされているのでは」


「えっ」


 何で気が付かないんだろうな、このポンコツ、いや、もとい聖女は。

 聖職に就く人間がこんなので、この国大丈夫か。

 そんなことを思いつつ、俺はアボカドの皮を剥く。

 ナイフで切れ目を入れてやれば、あとは指を入れて剥けばいい。

 黒っぽい皮を取ってやると、のっぺりした黃緑色の果肉が顔を見せた。

 それと共に、独特の匂いが拡散する。

 予想していた通り、二人が身をのけぞらせた。


「クリス様~、これ本当に果物なのですかー?」


「植物らしくない匂いがしますね」


「そう言うと思ったよ。アボカドの別名は森のバターって言うんだ。植物には珍しく、果肉に脂肪分が多く含まれている」


「ふぁっ!?」


「そ、そんな変わった果物が異世界にはあるのですかっ。凄いですね」


 そこまでびっくりしてくれると、調理している俺としては嬉しいね。


「俺も断片的にしか知らないけどさ、あっちの世界では実際にバター代わりにパンに塗ったりもすることもあるんだってよ。俺はこうして使うけどね」


 どうするかって言うとだ。

 適当に切った果肉をボウルに放り込み、すりこぎで潰すわけだ。

 実の中心にあったでかい種は使いようがないので、廃棄するしかない。

 アボカドの果肉自体は柔らかいので、すりこぎを使うとあっさりとその輪郭を潰せる。

 果汁というものがないから、果肉が潰れても黃緑色のペーストにしかならない。


「このままでも食べられるんだが、どうしても青臭さが鼻につくからな。だから」


 次に手にしたのはレモンだ。

 目にも鮮やかな黄色い実をカットすると、半透明の果肉が爽やかな芳香と共に現れた。

 その半身を握り、アボカドペーストに果汁を滴らせる。


「こうしてレモンを絞っておくといいってわけ」


 まあ、こんなのは知っているかどうかだけだから大したことじゃないんだけどね。

 次にチーズを数切れカットしておく。

 アボカドペーストはコクがあるので、チーズはあっさりとした種類を選んでおいた。

 後はアボカドペーストとチーズをバゲットに挟んで完成だ。

 エミリアとモニカは目を丸くしている。

 特に前者はよだれを垂らしそうなくらい物欲しそうな顔をしている。

 考えてみれば、最後に何か食べてから半日以上経過してるのか。


「美味しそうですねえ~」


「二種類並ぶと色合いが綺麗ですね、これは」


「目にも優しい方がより美味に感じられるからな。ほら、食卓ついてくれよ」


 生ハムと玉ねぎのバゲットサンド及びアボカドペーストとチーズのバゲットサンド、完成っと。

 せっかくだからバゲットの皮がパリッとしている内に、皆でいただくとしようか。

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