表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/145

20.オムライスは作るだけでも美味しそう

 パーシーは俺の料理が好きだった。

 もちろん、俺の料理しか食べなかったわけじゃないけどさ。

 マルセリーナの実家であるロージア家は貴族、それも大貴族なので、その手前もあり召使もたくさん雇っていたからな。

 普段は専属の料理人が作り、それを食べていた。

 俺が作る機会というのは、週に一、二回程度だったと思う。

 でも楽しみにしてくれていたのは、やはり嬉しかった。


「あのー、クリス様。おむらいすというのは、どんなお料理なんですかあー?」


「何でエミリアさんがパーシーより食いついてくるわけ? お前、大人として恥ずかしくないの?」


「大人だってお腹空いたら子供になるんですよおお! もうすっかり夜になっちゃったじゃないですかあー!」


「ねー、パパー。何でこのお姉ちゃん、こんなに暴れてるの? パーシー、パパのおむらいすできるまで、ちゃんとお行儀よく待ってるのに」


「あー、それはね、うん。大人でもさ、大人になりきれない大人ってのも世の中にはいるんだよ」


「ひっどいのですぅ! い、一応こう見えても私、エシェルバネス王国きっての聖女ですよっ。きちんとお仕事して、そこそこ皆さんからも感謝される立派な大人なのですぅー」


 いや、こうさ。

 変に湿っぽいよりは全然いいんだけどさ。


「ちょっと静かにしててくれるか? 飯作るの遅くなるぞ」


 こう言ったとたん、シュンとなった。

 ちょろいぜ、このポンコツ聖女様は。

 急に静かになったエミリアを、パーシーは隣で不思議そうに見ている。


「おねーちゃん、元気出してー。失敗は誰にでもあるよ」と頭をなでなでしているが、普通これって役回り逆じゃねーのか。


 "まあいいか。そんなことよりさっさと作るか"


 ケチャップで炒めたご飯を薄く焼いた卵で包む、それがオムライスだ。

 ご飯を卵で包む時に少しテクニックが必要だが、慣れているので問題ない。

 オムライスの材料も全部揃っている。

 ご飯はある。

 昨日炊いた分を冷凍していたので、さっさと解凍しておいた。

 ケチャップもある。

 トマトを煮詰めてピューレにして、そこに砂糖、塩、酢などを加えた調味料だ。

 時間をかければ自作できるが、普段はヤオロズからもらった市販品を使っている。

 あとはご飯と一緒に炒める具だが、細切れにした鶏肉と玉ねぎでいいだろう。

 好きなものを入れればいいのだが、一番スタンダードな具でありパーシーのお気に入りだ。


「パーシー、あっちで待ってろ。エミリアさんもな」


 二人に声をかけてから、俺は包丁を手に取る。

 鶏肉と玉ねぎは細かく刻み、飲み込む時に引っかからないようにした。

 あんまり大きいと、子供の喉に詰まるからな。

 特に玉ねぎは素早く徹底的に刻む。

 リズミカルに包丁をまな板の上で走らせると、トトトトッという小気味よい音が響く。

 この作業が終わると、次に移る。

 あらかじめ油をひいておいたフライパンの上に、刻み終えた具を移す。

 ピンク色の鶏肉がジュウとはね、透明に近い白い玉ねぎがそれより静かな音を立てていく。


 すぐに香りが立ち上ってきた。

 熱された鶏肉から滲み出る、脂肪が溶ける時の香り。

 胃に直接訴えるその香りに交じって、玉ねぎの炒められる時の香りが混じる。

 こちらは甘い。

 生の玉ねぎにはない、火が通った玉ねぎが発する自然な甘い香りだ。

 焦げ付かせないように、これをフライ返しでかき回す。

 まんべんなく火が通ったところで、いったん火を止めた。

 次はご飯を炒める番だ。


 "三人分だと結構多いんだよなあ"


 そう、それなりの量のご飯を使うことになる。

 普段の食事と違い、オムライスの場合はご飯が主役になるためだ。

 ある意味、カレーライスと同じぐらい存在感がある。

 それでも、これくらいは一気に作れるけどな。


 炒めた具をフライパンの端へ寄せ、再び火魔石を点火する。

 解凍したご飯を、大胆にフライパンの上へとほうる。

 白い湯気と共に、独特のほのかに甘い匂いが漂った。

 肉でも野菜でもない、炭水化物の持つ甘さだ。

 それを嗅覚で味わいながら、先ほど炒めた具とご飯を混ぜ合わせる。

 味にばらつきが出ないようにするためには、こうした方がいいから。


 "そこでケチャップで味付け"


 ガラス瓶に入ったケチャップを、大きなスプーンですくった。

 料理本によるときちんと計量スプーンを使うべきなのだが、俺は割と目分量でやっている。

 その時の体調や気候によって、適量がその都度変わってくるからだ。

 どろっとした濃い赤色のケチャップを見ていると、いかにも滋養がありそうに見えてくる。

 それを投入すると、甘酸っぱい香りが広がった。


「あー、美味しそうー」


「ほんとですねー、いい匂いー」


 あれ、いつのまにかパーシーとエミリアが背後に近寄っていたのか。

 まあいいか、邪魔にならない距離であれば。


「エミリアさん、ケチャップ見たことあっただろ? 今さら驚かなくても」


 この二か月の間で、何回か使っているからな。

 それに俺が異世界の料理を作れる理由も話しているし。


「ええ、そうですけどー。こんな風にケチャップライスを作るのを見るのは初めてですから」


「ああ、言われてみれば」


「パーシー、このパパの作るケチャップライス大好きー。あのね、甘くて美味しいんだよっ」


「ああああ甘くて美味しいのですねええええ!」


 やっぱりどいてもらおうかな。

 いや、いいか、もう。

 そうこう言っている間に、ケチャップライスは完成した。

 ほかほかと湯気を立てているそれを、大きな白い皿に移す。

 まだ人数分取り分けることはしない。

 ちらっとパーシーの方を見ると、タイミングよくうなずいてくれた。


「卵焼くところ見たいか?」


「見たい見たいー!」


「よーし、じゃあ、そこのお姉ちゃんに抱っこしてもらって」


「ええっ、私がやるんですか? ちょっと不安なんですけど」


「だってパーシーの背じゃ、フライパンのぞけないだろ? それくらい頼むよ」


「うー、仕方ないのです。これも未知の料理を味わうためなのですっ」


 不承不承という感じだけど、エミリアは俺の頼みを聞いてくれた。

 意外に軽々とパーシーを抱っこしているので、ちょっと驚いた。


「結構腕力あるね?」


「ほ、放っといてくださいっ。神殿でのお勤め、力仕事もあるんですよー。腕が太いとか女らしくないとか言わないでくださいよお」


「いや、別にそこまでは」


「おねえちゃん、たくましー!」


 あーあ、パーシーが無邪気に放った一言でエミリアが項垂れてしまった。

 子供って時に空気読まない残酷なこと言うからなあ。


「そんな気にすんなよ、今さらだろ?」


 声をかけながら、卵を片手で割ってボウルに入れる。

「そんなあー!」という悲鳴が聞こえたが、無視だ無視。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ