8話 「魔王のきまぐれ(後編)」
目の前にいる雄人君を見る。
私の横にはペルナがいてペルナはというと思いっきり雄人君を睨みつけている。
彼女も私も彼に聞かなければならない事があるのだ。
雄人君が寝てからのことだ。
お風呂から戻ってきたペルナとカルラさんの3人で色々話をしていた。
ペルナとカルラさんが知り合いである理由とか色々だ。何だかうやむやにされた所もあった気はしたが、それを聞き出す必要もないと思った。
問題はその後のカルラさんの発言だった。
なんと雄人君に告白したというのだ。
まさに爆弾発言。というか爆発した、私の脳内が。
逆にそう来るとは思ってもいなかった。普通一目惚れしてもそれなりに関係を築いてから告白をするはずだ。
しかしカルラさんは違った。カルラさん曰く親の教えらしい。
彼女はかなり気が弱いらしく仲のいいペルナが相手であろうと敬語で話をする。親しき仲にも礼儀ありという言葉があるが、流石にそこまでする必要はないだろう。
そんなことを考えてなのか母親が彼女にあることを言ったようだ。それは「あなたが気が弱いのはよく分かってるわ。父さんににてるものね。でもね、ある時だけは今から言う通りにするのよ?もしもあなたがいい男を見つけたら、なるべく早く自分のものにするの。のんびりしてたら取られちゃうよ?」というものだったという。
確かにそう言いたくなる気持ちも分からなくはない。ただ私も引き下がる訳にはいかない。
取られないために行動するのもわかる。でも取られる側に回るのは私自身が嫌だった。
そういう訳だ。
「山中くん」
「ハッ、ハイ!なんでしょうか青山さん!」
相当ビビっているらしい。なんか可愛い。
「昨日の帰り、カルラさんに告白されたって本当?」
雄人君は目を逸らした。「えっと、あのぉ」とか言ってる。やばい、可愛い。もしケータイがあったら写真撮って部屋に飾りたい。
もう少しそんな彼を見たいのと彼の口から聞きたいということもあり、さらに聞く。
「言わなかったら、わかんない。ねぇ、どうなの?」
「……ハイ、サレマシタ」
完全に怯えてる。何に怯える必要があるんだろうか。
あくまで聞いているのは彼の「知り合い」である青山藍奈こと私であり、カルラの友人であるペルナでは無いのだ。なんだか自分で考えてて悲しいなぁこれ……。
「それで答えたの?」
「答えられるわけがないんだよなァ!?」
「ま、でしょうね」
良かった、いつも通りの雄人君だ。
そう、答えられるはずがない。そりゃ昨日出会ったばかりだしね。
「ユートがカルラと付き合うとか言い出したら殺すから覚悟しててよね……?」
「じゃあ良かったなペルナ。まず今の俺には断る理由しか思いつかない」
「ならよぉし!カっルラ〜!おーきろー!」
なんだろう、ペルナはいわゆる百合とかレズとか言うやつなのだろうか?私の恋敵になりそうな気がしてたけど違うのかも。どちらかというとカルラの方が危ないなぁ……少し見張っとかないと。
「話は終わりか?なら俺はちょっくら風呂入ってくるわ。青山飯頼むー」
「まかせてよ山中くん!」
今日は朝から本気で作ろう。カルラに負けるわけにはいかない。
「皆準備はいいか?」
「大丈夫だ、問題無い」
「いつでもいいよ雄っ、山中くん!」
「私も大丈夫です」
なんだこれは。
ペルナはどこぞの有名台詞だし、青山はなんか言い直してるし、カルラは何故かお辞儀までして無駄に礼儀正しいし。
昨日のことから結局パーティで動くことになった。
昨日の結果としては、青山は魔力切れ、ペルナは得に問題なし、カルラは謎の気絶、そして俺は……コツコツ倒してはいたがなんか女子2人を運んだ記憶しかないな。というかペルナ、お前グングニル以外も使えるなら頼むから普通に戦ってくれ。
そんなこんなでやっぱりまとまって行動した方がいいという判断に至った。まぁ、1人増えてるんだけども。
確かに盾役が増えたのはなかなか嬉しい。攻撃しないけど。
そして2日目。
「ペルナさーん?なんでグングニルをもう2発も使ってるんですかね?昨日のことで知ってるんだよ、君が普通の魔法も使えるってなぁ!!」
「どうせユートの魔力供給あるし問題ないでしょ?」
「お前はいったい俺をなんだと思ってるんだ!?俺は無料で電気を送る発電所か!?」
「はつでんしょ?よく分からないけどどうせ魔力消費量の少ない魔法しか使わないのに無駄に魔力量だけは多いんだからいいじゃないそれぐらい」
クッソ野郎がァ!!
確かに俺の魔力量は何故かものすごい多いよ!?最初のステータス提示の時にカンストを超えて測定不能だったからね!!
ただその魔力を大量に使っているのかというとそういう訳でもない。
実のところ昨日はじめて使ったダッシュブレードなるものもそんなに魔力消費は多くない。威力もそこそこ高いんだけどなあれ。
「あー、もういいよ!なんぼでも魔力分けてやらァ!!」
「やったね、今日は打ち放題だ」
めんどくさくなったので口論をやめる。
どうせこの1ヶ月どんなに使っても半分以下にすら減らなかった魔力だ。いくらでも使いやがれってんだ。
「や、山中くん……魔力供給をなるべく私を見ないようにして欲しいなぁ……」
「あ、忘れてた」
「ひどい!!」
うつ伏せの状態で匍匐みたいな感じでこっちまで来た。なんかものすごいスピードで追いかけてきそう。
そういやさっきの戦闘でさりげなくもはや定番の巨大ガエルに食べられてたなぁ……粘液塗れじゃねぇか。あの粘液に服溶かすとかあれば最高だったのになぁ……
「そういや、お前どうやって脱出したの?」
「中からこんがり焼いてあげた」
「……わぁお」
食べられてる状態で魔法使ったのかこいつ。というか焼いたのか。
少し遠くを見てみると、見事なほど上手に焼けたカエルが転がっていた。今日の晩飯かな?
「あとこっち見ないで……」
「いやなんでさ……別に粘液塗れなだけじゃねぇか」
「い、いや、その……ね?」
「すまん、何がいいたいのか全く分からない」
その瞬間左頬にダメージを受けて右に飛んでいた。これも定番なのかな。
「なぁ、なんで殴ったのペルナ?青山になんか不味いことしたか俺?」
「なるべくアイナを見ないようにさせるためかな」
「粘液塗れなだけで別にエロ要素どこにもねぇじゃねぇか」
「あるから言ってんだよなぁ……?」
「なぁカルラさんよ、このバーサーカーを止めてくれない?なんもないのに殴ってきたんだよ?」
「す、すみません……今回は、ペルナの方につかせていただきます……」
そんなことを顔を赤らめながら言ってきた。いや、そんな状態になる理由なくね?
だが、ふと思った。
なんでペルナとカルラは必死に青山を守るんだ?何よりなんで青山はうつ伏せなんだ……?
あれ、なんか予想ついてきたような。
この世界に来てから街で何度も聞いたことがある。
それは「巨大ガエルに丸呑みにされたらほぼ人生終わるからな!!」というものだった。
何故なんだろうか、といつも思っていた。なのである日にダッシュブレードの練習ついでに実験をしてみたのだ。
まずうまく狙いをすましてものっすごく安売りしてたどこにでもある普通の鉄剣を巨大ガエルの口に投げ込みそいつを倒す。
すると面白い結果が出たのだ。
少し残酷だが中身を見るためにカエルの腹を開く。そこには何も無かった。口のどこかに刺さっているのかとか思って口を見てみても無い。そして腹の方に戻ると、カエルの真下の草やらが無くなっていた。
そう、あの巨大ガエル。胃酸が異常なほど強いのだ。それも数秒で鉄剣を溶かすほど。外に出ると割とすぐに人を溶かせるほどではなくなるのだが、それでも草を瞬間で消すぐらいには強い。人体には全く影響はないが。
そして青山はカエルを食べられながら焼いたと言った。カエルの腹は普通の火の魔法では燃えるどころか焼くことも出来ないのできっと相当な魔法を使っているはず。
そう、もし青山がカエルを焼いてカエルの腹に穴を開けていたら……?そしてもしそこにうつ伏せで落ちれば?
そう、男のロマンの完成である。服だけ溶かす粘液とかいうものの完成だ。
それに気付き確認を取ろうとした瞬間だった。
「ユートさん、何か来てます!」
カルラに言われて後ろを見る。
走るスピードとその突進力。すぐに検討がついた。
猪だ。しかも魔法世界独特の巨大バージョン。何でもデカければいいわけじゃねえぞ。
しかもデカいくせに無駄に足が早い。もうあと20秒ぐらいでぶつかると察した。
俺とペルナ、カルラならすぐ動けるが、青山は女子の恥ずかしいところ的なもののせいで動けない。
後ろから鎧の動く音がした。
「カルラ、いい。猪だけなら俺だけでいける」
「は、はい」
俺は昨日、そして今日も愛用したダッシュブレードの構えをとる。そして突進を開始する。
巨大ガエルすら1発で斬れる技だ。猪程度に手こずることはないのだった。
「やったぜ」
「ねぇ、私もうユートがただの冒険者には見えない」
「そうだろうそうだろう。あの巨大ガエルを1発で倒せるような技を手に入れたのだからな!」
「うん、でもあの技効かなかったら最弱ってことには変わりないよね」
なんでそこでそんなこと言っちゃうのペルナさん。
「そういえばさ、青山って結局ほぼ裸状態なわけ?」
その瞬間、空気が固まった。なんだろう、相手の女子3人の方にちょっとした一体感を感じる。これはダメだ。このままでは俺がたぶん3回ぐらい死ぬ。
その瞬間、脳裏に電撃が走った。
俺は今日の服装に少し気合を入れてみていた。そう、何故かいつものなんか普通な冒険者服ではなく何故かどこぞのアニメとかで超主人公が着ていたような黒のロングコートを着ていた。しかし感じたのだ!こんなのは俺には全く合わないと!そして思ったのだ!逆に考えるんだ。
「あげちゃっていいさと……」
「ど、どうかしましたかユートさん?」
「命をあげる準備でも出来たの?」
「命は大事にしような?このロングコートをあげるだけさぁ」
「あー、そのびっくりするぐらいに似合ってなかったそれね」
「あ、やっぱり?」
「山中くん、確かにそれはもうちょっと強そうな雰囲気の人が着るべきものだと思う……」
「まぁでっすよね。つーわけで青山にこれを提供してやろう」
その場で脱いで渡してやった。
「その、ユートさんはシャツ1枚みたいな事になってますけど寒くないんですか?」
時期的には秋。それも冬に向けて寒くなっていっているような時期だ。確かに寒いのだが。
「なんと、似合わなさに耐えきれなくなった時のためにいつもの服も持ってきておいたのだ!!」
「何故そんなものまでちゃんと用意しているのか……まぁ今回はアイナにコートを渡してあげたことに免じて殺さないでいてあげる」
「いや、ちょっと待って!?真面目に命は大切にしようね!?」
その地点で日も少し沈みかけていたので帰ることにしたのだった。
「本日の討伐にて残る数は5分の1となりました!!」
今日の結果発表のようなものを聞きながら今日の優秀者の名前が呼ばれていく。
冒険者共のやる気は異常だった。そりゃ換金額アップなんかあればやる気も出るだろう。
「最後は、ヤマナカユートさんです!!」
やっと最後か。さて、換金もしたし結果発表も終わったし帰るか。
「山中くんどこ行くの!?呼ばれてたよ!?」
「はぁ?お前何言ってんだ」
「呼ばれてたんだよユート、お前が!!」
「はい?」
「ユートさーん、いらっしゃいませんかー?」
ウッソだろお前。
この街には相当な数の冒険者がいるはずだ。その中の上位20位だって?
「ユートならここにいるぞー!オラっ、早く行け!」
「あっ、てめぇ!俺は変に知られたくないってのに!」
なるべく静かに、そして平穏に生きたい俺は短い期間でも大勢の人に知られるのは嫌なのだ。
しかしペルナに無理やり押され前に出る。
「あ、来たみたいです。では他の人の横に並んでください。ギルドからの感謝状を渡すので」
指示されたとおりに行動する。
正直視線が凄くて辛い。やだ、早く帰りたいなぁ……
「なっ、てめぇは前屋根から落ちてきた!」
そんな声が人の固まりの中から聞こえた。
そこを見ると見たことのある顔が。
すぐに分かった。青山を細暗いところでナンパ的なサムシングしてたヤツらだ。
「おー、前にすっげぇ薄暗い道で女の子をナンパしようとしてたやつじゃないっすか、どーも」
「あっ、てめぇ言いやがったな!!」
「警察だ!!今すぐに来い!」
「あっ、ちょっ、待っ、あぁぁぁぁ!!」
素晴らしい程のスピードで確保されていった。アイツらが俺を見つけてなんか言ってから20秒ぐらいかな?流石警察、やりますねぇ!!
そんなこんなで感謝状的な何かを貰いさっさと帰った。ダッシュで。
後から帰ってきた青山によると俺の知名度がクッソ上がっていたらしい。知らん振りしときゃ良かったなぁ……。あと何故か青山がめっちゃにこにこしてた。なんだ、そんなに面白かったのか畜生が。
ちなみに晩飯はかなり美味かった。朝もそうだったが今日は何故か作った人のやる気が違った気がした。
3日目。
遂に最終日だ。正直昨日だけで相当稼いだので今日は頑張る気はない。一応出陣はするけどめんどくさいので昼には帰ることにした。ペルナやカルラは少し不満そうだったが了承してくれたのでよし。
まずはクリーネさんの店へ向かう。今日はクリーネさんも一緒に行動するのだ。テレポート使える人がいるのはマジでありがたい。
「クリーネさーん、おはようごさいまーす」
「あ、もう来たんですね。あと少しだけ待ってくださいね、ポーションとか用意したいので」
「分かりました」
そして後ろを見ると誰もいなかった。すぐに予想はついた。
「テメェら時間あるからって服見るのやめろや!!どうせ明日暇なんだから明日とかでいいだろうが!!というかカルラお前もか!」
しかし誰一人聞かなかった。真面目に襲おうかなこいつら。
「すみません、待たせてしまって」
「2分ぐらいだったので別に良いですよ。ところでアイツら襲ってもいいと思います?」
「一昨日も言いましたけど殴ったりとかしちゃダメですからね!」
なんか返しが前と同じ感じで安心した。
無理やり全員を集合させテレポートで移動。
今日はだだっ広い平原に来た。理由としてはクリーネさん曰くこういう平原は冒険者がたくさん集まるので魔物の数も少なくて楽らしい。
確かに冒険者は沢山いる。いるのだが……何故か固まって何か話していた。
「すみません、何かあったんですか」
そんなことを青山が近くの男性に聞いていた。
「いやな、この平原でちょっと暴れてるやつがいてな……まぁ見てもらえばわかる」
そして視線を平原の方へ促してきた。
見てみると、何かが飛んでいた。ジャンプとかではない。宙に浮いていた。飛び回っていた。
上から魔物へ近づき1発で切り裂き別の魔物の所へ。そして今度は後ろから一撃で。ものすごいスピードで飛び回りそして地面に下りる。その瞬間にすごい風が吹いてきた。
「なんなんですかあいつ!どうやって飛んでるんですか!?」
するとその男の人は苛立ちを見せながら答えた。
「あいつは風の魔法を使って飛んでるんだ。強力な風を自分の周りから発生させることでな」
「でもあの人がいったい何を?」
「あの飛び方はあまりにも周りが危険なんだよ。風が強すぎて飛ばされちまうし、あいつはあいつで目の前に人がいても吹き飛ばしやがるしさ」
うっわぁ……すげぇ迷惑だなそれ。ただ少しやってみたい気もした。
「あれっ、君はもしかして昨日前に出てたユートくんか!?」
「あ、まぁそうですけど……」
「なぁ、そんな君にしか頼めないことがあるんだ!」
うわぁ、嫌な予感しかしない。
「あいつを抑えてくれないか?他にも迷惑がってる奴らがいっぱいいるんだ。頼むよ」
俺らの話し声が聞こえたのか周りの奴らまで集まってきた。
やめてくれ、俺は全く勇敢でもないし、強気もないんだ。ましてやとんでもない奴を抑えれるような戦士じゃないんだ!
しかし周りの期待の目が異常だった。
頼むよ、断らせてくれェー!!
主人公である雄人の冒険者っぽい服装はスマホゲーム、チェインクロニクルの主人公の服を想像していただければ。あと誤字などあれば指摘していただければ。こんなテンプレ感満載の話ですがお願いします。ちなみにヒロイン青山さん、結構でかい設定です(何がとは言わないが)