6話 「魔王のきまぐれ(前編)」
お父さん、我がクソみたいな妹、お元気ですか。
俺はびっくりするぐらいクソ元気です。というか寝ていたかったです。この世界に来て1ヶ月が経過しました。俺自身、こっちでの生活にも超適応して今ではまだ数人ですが友達もいます。冒険者としての生活にも慣れて家も手に入れました。すごい驚かないのがおかしいぐらい順調です。
そして今日いま、強制的に冒険者ギルドに収集されています。
ではこの辺りで。最後に一言。
「この魔獣大量発生はあなた達冒険者の皆様の力でしか乗り越えることは出来ません。では…緊急依頼、魔王のきまぐれによる魔獣の全撃破、スタートです!!」
俺、本当に今日で人生終わるかも知れません。
時は少し遡り数十分前。
「もう一度言います。街の近くで魔王のきまぐれが発生しました!冒険者の皆さんは至急冒険者ギルドへお集まり下さい!!」
なんだよ魔王のきまぐれって。
正直に思ってることを言わせてもらおう。
「なぁ青山、すげぇ面倒くさそうな予感しかしないから寝ていいかな?」
「んん?何言ってるのかな山中くん?君も冒険者でしょう?さっさと準備して行くわよ……?」
すっげぇ笑顔で言ってきた。
怖いよ青山さん。ほぼ脅迫だよ。
無理やり逆らってみてもいいのだが、昨日の青山の攻撃を受けたから分かる。こいつ逆らったら色々やばい。
ミスったら普通に死ねる。
仕方なく自分の部屋に戻り準備をすることに。いつも通りのどこぞのゲームの隊長の着ている様な服を着て、ものすごい真っ黒な剣を手に取る。ちなみに剣を持って初めて分かったことなのだが、鞘の位置は背中の方がいいようだ。
大抵剣を装備する場所といえば腰か背中なのだが、腰に付けるのは剣が短めの場合がほとんどだ。ロングソードを腰に付けてたらすっげぇぶらぶらするし何より足に当たったりするから非常にめんどくさい。なのでいつも通り背中にちゃんと装備する。ゲームじゃないので装備せずに使うとダメージ受けるとかないから普通に持てばいいのだが。
数分後、適当に朝飯を済ませ青山と共に出発することに。
ペルナはと言うと部屋に「すまない、先に行く」という書置きを残し家を出ていた。それも家の2階の窓から。ちょっとカッコイイと思った。どっちみちギルドで会うはずなので特に心配する必要もない。
俺たちはとりあえずギルドへ行くことにしたがその前にちょうど通り道にクリーネさんの店があるので少し寄ることに。
「あ、ユートさんとアイナさん。もしかしなくてもギルドへ行く途中ですよね」
「通り道なんで少し寄ることにしたんです」
「そうでしたか、では少し待っていてください。私も準備している最中ですので」
彼女が元魔王幹部であり、リッチーであったため忘れていたが彼女も冒険者だ。
実力としてはトップクラス。前線で戦ってもいいぐらいだ。
しかし彼女はリッチー、つまりアンデッドであるが故にスパイと見られる可能性があるので前線へ出ることはほぼ無いという。
ちなみにどれぐらい強いのかというと、チート装備により強化されている青山とクリーネさんとでラウンドファイアを撃ったところ、青山のは雑魚を消し炭にする程度だったがクリーネさんのはカエルを1発で蒸発させた。物理魔法どれにおいても耐久力だけは無駄に高いカエルを1発でである。
「お待たせしました。それでは行きましょうか」
「討伐に出るなんて珍しいですねクリーネさん」
そんなことを青山が言った。確かにクリーネさんが討伐に行こうとしている所をたった1ヶ月程度ではあるが一切見たことがない。
「そろそろ腕が鈍ってしまっている気がしまして……まぁ、準備運動のようなものですかね」
準備運動って、他になんか倒しに行く予定でもあるのだろうか。
そしてふと思った。
確か放送によると『魔王のきまぐれ』というものが発生したらしいが、これは魔王とは関係あるのだろうか。
「クリーネさん、元魔王幹部であるあなたに聞きます。今回の魔王のきまぐれって言うのは何か魔王が関係しているんですか?」
「まぁ、はい。そもそもきまぐれ、なんて言ってますが、実際は狙って起こしてるものなんです。大量の魔物を1つの場所に強制大量発生させるというものなんです」
流石魔王。それぐらいは出来るのか。
「たぶん、いや、ほとんど確定だと思うのですが、今回のこれは私のせいだと思うんです……」
「え、なんで?」
なぜクリーネさんのせいになるのだろうか。意図的に発生させているにしてもそれが確実にクリーネさんのせいである、と言えるものは何も無いのではないか?
「きっと、私が幹部を辞めてそれでいて生きているというのが原因かと……」
「いや、魔王の行動矛盾してるじゃねぇか」
クリーネさんの話によると、流れで幹部になってしまったクリーネさんのことを考えて魔王は残機をあげたと言っていた。
それがまさかその本人を消すために大量の魔物を配置するとかわけわかんねぇよ。
生かしたいのか殺したいのかハッキリしろよ魔王。
「ま、まぁ確かに私もそう思うのですが、魔王さんは優しい時と無駄に残虐な時とあるんです。まるで人が違ったように行動するので……」
「めんどくせぇ魔王だなおい!」
なんなんだこの世界の魔王は。まさか二重人格とかなのか?
めんどくさいにも程があるだろ。
「はい、山中くんもクリーネさんもお話は終わり。もうギルドに着くよ」
「そうですかい」
なんだかんだでここまで来てしまった。
まぁ適当に済ませてしまえばいいだろう。俺からしたら魔物の大量発生とか嫌で仕方ない。
周りを見ると既にかなりの数の冒険者が集まっていた。確か聞いた話だとこの街にいる冒険者の数は60人程だという。
すると冒険者達の前にギルドの職員が出てきた。
「皆さん、集まっていただきありがとうございます。今回は先ほどお伝えしました通り、魔王のきまぐれが街の近くで発生したので集まっていただきました」
そんな話をしている中、俺はこの街の構造を思い出していた。
空から見ると綺麗な円になっておりその周りには壁がある。真ん中の方に貴族などがあつまり、その周りに平民が住むという形を取っている。
そんな分布は置いといて、周りにそれなりの厚さの壁があるということは、そんなに魔物のことを気にしなくていいのではと思ったのだ。
魔物の発生数にもよるが100体程度ならばこんなに集める必要もない。
魔王のきまぐれとはいったいどれほどの数の魔物の襲撃なのか……
「今回の魔物の数は、今のところではあるのですが……およそ、3000体となります……」
うん、ちょっと待て。
今何体って言った。3000?60に対して3000?
これ勝ち目あんの?
「最低でも500体までは減らして頂きたいのです!それ以上残すと、街に危険が及ぶ可能性が高くなります。今現在はまだ遠い位置にいるのでいいのですが、2日後には街のすぐそこまで来る予想になっています……王国騎士団も呼んでいるのですが、早くても3日後になるそうでして……」
「ちょっと待てよ!俺らそんなにレベル高くないし強くもないのに50倍だって!?」
「2日で2500体……?どうしたらいいんだそんなの……!」
周りがざわつき始めた。
俺だって考えていることは同じだ。
2日間で2500体の魔物を倒せと、殆どがレベル30未満たった60程に対して言われたのだ。
ただ……
「なぁ、青山、ここで逃げるのと、家守るの、どっちがいいと思う」
「えっ?家?えーと……」
「俺はなぁ……家を選ぶぜ……落ち着く場所が無くなるなんて嫌だろ!?せっかく手に入れたってのにそんな簡単に手放してたまるかよ!俺はやるぞ!」
「山中くん……声震わせながら言われても……」
2日間で2500?
ハッハッハ。無理に決まってんだろクソが。
どうすりゃいいんだよそんな数。
「そうだ、クリーネさん、あなたならどれぐらい倒せると思いますか!?」
「私ですか?えっと……頑張っても300が限界かなと……これ絶対私のせいですよね……すみません、本当にすみません……」
詰んだなこれ。
しかし職員はまだ策があるようで、
「皆さん!」
冒険者全員が咄嗟に職員の方を向く。
「今回、魔物の数が冒険者の数に比例していないということである報告がございます!」
なんだいったい。半分ぐらい消し炭に出来る秘密兵器があるとか?
「今回、魔物が落とす換金物ですが……換金の際の値段を3倍にすることにしました!」
「「「「ウォォォォォォォォォ!!!」」」」
うるせぇ。
というか金かよ。
ギルドの職員共、金で冒険者を釣りやがった。俺はそんなものには惑わされない。
勝ち目ないのはっきり分かんだろこれ。
「それでは皆さん、宜しくお願いします!!」
超討伐イベント、魔王のきまぐれ。
俺なんか家を優先するだの色々言ったけどさ。
生きて帰れるかなこれ。
「あぁ、うん。すげぇ弱いなこれ」
現在ボッチです。
はい、ボッチなんです。
初心者冒険者が魔物の大量発生でボッチで戦うなんてことをしてていいのかとか言われそうだが、一言言わせてもらおう。
すっげぇ弱い。
大量発生とか言ってたから塊になって来るのかと思いきや、すごい広範囲にバラけていた。
だから大抵魔物もボッチか、固まるにしても2、3匹になっている。
今ちょっとした林のような場所で戦っているのだが、青山から教わったエンチャントで大抵どうにかなっている。
あれ、ヌルゲーじゃん。
最初めっちゃ絶望してたけど、めっちゃヌルゲーじゃん。
勝ったなこれは。うん、これは行けるわ。
「ぐえっ」
うん?なんか蹴ったな。
ほぼ死にかけの魔物でも蹴ったのかと思って見てみると。
いつも見る、というかさっきまで見てたら顔がそこにあった。
「なにやってんの青山」
「うぅぅ……」
察した。魔力切れだこれ。
青山は身体能力や、魔法に関するステータスは高いのだが、魔力量が少ない。
こいつ何も考えずに戦ったな。
そんなことを考えた瞬間で寒気がした。
いや悪寒、と言った方がいいのかもしれない。
「あのさぁ……やめてくれよ……?倒れてるやつがいる中囲まれてるとかいうそんなシチュエーションだけはやめてくれよぉ?」
まず右を見る。狼みたいなのがいた。
左を見る。どでかいカエルがいた。
後ろを見る。人型の何かがいた。
あっ、囲まれてるわ。
………。
「マジでふざけんなやこんちくしょうめがァァ!!」
現在、逃走中。
自分にハイエンチャントオールをかけて、青山を抱えながら猛ダッシュさせられてる。
マジでふざけんなよこれ。
何気青山が微妙に重たい。
というのも、いわゆるおんぶというやつをすれば楽だったのだろうが、たぶん俺が男であるが故に、確実に今意識する必要のないところに意識が行く、つまり背中に意識を集中させてしまうだろうということを考えるとやってられないので、いわゆるお姫様抱っこなるもので抱えているのだ。
これが意外にしんどく、腕の力のみで持っているためキツすぎるのだ。
ふっざけんなよマジで、後で青山にはちょっとしたお仕置きでもしてやろうか!
1度休憩するために木に隠れる。
足の速そうな狼みたいなやつだけ倒してから全力で逃げてきたのでそれなりに距離はあるはずだ。
そこでとあることに気がついた。
目の前の木にもたれかかるように倒れている女性騎士が
「いや、ちょっと待て。落ち着け俺。そうだ疲れてるんだ、きっと疲れてるんだ」
3秒程目を瞑りもう1度見てみる。
そこには確かになんかやけにグラマラスな女性騎士が倒れていた。
やめてくれよ。このタイミングはマズイよ。
既に荷物なる存在が1名俺にはいる。そして目の前には倒れている女性騎士。
どうしようコレ。
だって見捨てたら絶対後で後悔するし、かと言って運ぼうとしたらとんでもない重さになるだろうし……。
そんな中でも魔物は待ってくれないようで、後ろからはいつの間にか増えた魔物の軍勢の音が聞こえてきた。
やべぇよやべぇよ……!
「あぁもうくそったれ!もうなんでもいい、気合でやってやんよォ!!」
まずは女性騎士を背中に乗せる。鎧なので変なところに気が行かないのが助かる。
そしてさっきと同じように青山を抱える。
「おっっも……い…なァ!!」
咄嗟にハイエンチャントオールをさらに自分にかけて走り出す。
「ヌアァァァァァァァ!!」
正直ものすごい体勢してるのは分かりきってる。
でもこれ助けないとただのクズになっちまうじゃん?
こんなことならテレポート覚えてきたらよかった。
ムカついてきたからこいつら2人とも後でなんでもしますって言わせてやる。
「グランドスパーク!」
前からそんな声が聞こえてきた。
聞き慣れた声、というかさっきも聞いてた声なのですぐに分かった。
「ぐりぃ…ねざぁぁぁぁん!!」
「えっ、えっ、いやどうしたんですか!?」
「そ、ぞんなこと…ゼェ……より、はやぐ……街にテレ……ポード、おなしゃす……!」
「あっ、はい!テレポート!!」
そのタイミングで俺の意識は途切れた。
「プラナリアァ!!」
「ひっ、ビックリしたぁ……目覚めたんですねユートさん。ところでプラナリアってなんです?」
そんなこと言ったの俺。どんな夢見てたんだ?
そういや気絶したんだっけ。なんか2人ぐらい抱えて走って……
「そういや青山と女性騎士は!?」
「2人ならそこにいますよ。全く、ユートさんが2人を抱えて走ってきた時は驚きすぎて息出来なかったんですからね」
「そ、そうですか」
アンデッドなら息しなくてもどうにかなるだろう、と言いたいがぐっと堪えて抱えてきた2人を見てみる。
よく寝てた。
ムカつくぐらいよく寝てた。
「クリーネさん、こいつら襲ってもいいと思います?」
「何言ってるんですかユートさん!?殴ったりしたらダメですからね!」
「はい、そこの男。次そんなこと言ったら牢屋にぶち込むからね」
謎の女性が出てきた。
というかクリーネさんやっぱりそういうの疎いんだな。
「状況報告だけさせてもらうよ。まずあんたは過労。いくら強化魔法使ってるとはいえ2人も一斉に運んで走るとかやりすぎだ。普通なら死ぬぞ。見捨てる勇気を持て」
「す、すみません……」
なんだこの人、めっちゃ優しい。
「んで魔法使いの方は魔力切れ。こりゃ明日まで起きねぇな。騎士の方はよくわからん。そのうち目覚めるだろ。その時に聞け。以上、私は戻る」
「ありがとう……ございました?」
「あぁ、もう来んなよ」
もう来るなっていう辺り何故か優しいと思った。
今のはきっともうここに来る理由を作るなってことだろう。
「ユートさん、騎士さんの方が!」
めんどくさいが拾っちまったからにはそれなりに見といてやる必要があるだろう。
「あの……私なんでここに?」
「倒れてたから俺が運んだ。オーケー?」
「倒れてた……ハッ!そうでした!本当にありがとうございます!!なんかよくわからないうちに空に飛ばされてそれで木にぶつかったもので……」
状況は理解しているらしい。
「あと、その……助けてもらっといてなんですが、何か食べるものをくれませんか……?」
自己紹介もせずそんなことを純粋な目で言ってきた。
中編、後編と続きます。テストなどで忙しくて出せなくてすみません(大して読んでる人居ないだろうけど)