4話 「あまりに唐突な遭遇」
今、俺たちはかなり暗いムードでクエストに臨んでいる。
理由は今日という日にあった。
今日、朝から俺らはかなり悩んでいた。
冒険者を始めてから11日目。
つまり。
「駆け出しキャンペーン終わっちまったよ……」
「服がぁ、服が高くなる……」
いや、青山よ、気にするのはそこではない。
確かに全ての商品の値引きが無くなるのも事実ではある。確かにそうなのだが……
「自動的に取られてた部屋がなくなっちまったんだよなぁ……」
そう、これまでは冒険者ギルドが決めてくれていた宿に泊まるというのが普通だったのだが、それが無くなった。
つまり俺たちは自分で泊まるところを決める必要がある。金かかるし。
さらに言うなら、この街は冒険者の数がかなり多く宿も取り合いになるという。場所によっては喧嘩が起こることもあるという。物騒すぎるだろ。
ちなみに元々泊まってたところに聞いてみたところ、その宿はもう予約がいっぱいだという。確かに綺麗な所だったしなぁ……
ちなみにペルナはというと、
「私はちっさい部屋借りてるから特に問題ないんだよね。グングニルの力はかなり偉大だったって訳さ」
とか言ってやがった。
ちょっとしたコネもあるらしく割と安く借りれてるらしい。ふざけんなちくしょうめ。
今日から泊まれるところなかったら無理やりでも探し出して突撃、となりの〇御飯してやる。
そしてとりあえず今日もまずはクエストの確認をすることにした。住処のことを考えてたら金が稼げないとか青山が言い出したのである。
しかし受けるクエストを夜にするものに決めたため、結局また同じ問題に直面する羽目になった。
ちなみに荷物はどこぞの金庫にほとんど突っ込んできた。服とか全部持ちながら移動するのはしんどいからな。
「やっぱり綺麗な場所にしたいものよね……ボロボロな所とかだと虫とかかなりいそうだし」
「残念ながら今はそんな文句も言ってられなさそうだぞ。宿に泊まれるだけでもかなり運がいいレベルらしいからな」
俺も初めてこの街の宿事情を聞いた時は驚いたものだ。そしてなにより絶望感しかなかった。
ちなみに泊まれる場所が見つからなかった場合基本は空いてる馬小屋、または野宿になるという。
正直元々超絶現代的な家で生活していたためそんな場所での生活は嫌で仕方ない。
「嘘でしょ……」
急にそんな声が聞こえてきた。
「一体何がどうしたというんだ」
「馬小屋の場合は基本ペアで1つみたい……しかも男女関係なく……」
あぁ、なるほど。
今現在宿に困っているのは2人。ペルナは除くので俺と青山しかいない。
そして青山は前に言っていたが男をケダモノと考えているところがある。
「つまりは俺が野宿すればいいわけか」
しかしその程度で済むものでもなかった。
なんと馬小屋は強制的に2人1つにするのでもし1人で行ったりした場合もう1人が現れるまで強制的に待たされるらしい。めんどくせぇなこの世界。
ペルナにも頼んではみたのだが「あんなところもう嫌」とバッサリ断られてしまった。
俺も仲間として青山に何かあったりするのは流石に嫌なのでどうにか対策しなければならない。
しかし野宿になると雨風を凌ぐのがかなりしんどいらしいので青山はそれを断固拒否しているし、どうしたらいいものか……
そして時間というものはあまりにも容赦なく、俺たちにクエストという現実を見せてきた。
もう詰みじゃないか。
そして今に至る。
今日のクエストはゾンビ退治だ。
どうやって退治するのかって?
残念ながら当然夜なので光もないし、俺らも波〇法のような呼吸法も使えないし、頭を一撃で吹っ飛ばせるような力も持っていない。
しかも場所が共有墓地なのでペルナのグングニルや、青山のラウンドファイアは使えない。
そこで使うのが回復魔法だ。
なんと雑魚アンデッドの場合は回復魔法を使って生命無きものに生命力を流し込むことでよく分からない原理で消滅させることが出来るらしい。
ちなみに一応上手くやればゾンビの姿を普通の人間に戻すことも出来るらしいがやっぱり生き返ることはないという。つまり動く死体から綺麗な死体に戻すだけである。あまりにも無駄な作業だなぁ。
実は浄化魔法も存在はするのだが魔力の消費量が多いので雑魚ゾンビには広範囲回復魔法を使った方が燃費がいいのだ。
さらにアンデッド共はどんなやつでもそれなりに光には弱い。
というわけで俺が「グリッター」でゾンビの動きを止めて、青山のヒールで確実に仕留めるという作戦になった。
つまりペルナはただの飾りである。
グングニルで墓を壊すわけにはいかないしね。
ペルナはというとさっきから「グングニルぅ、グングニルぅ」となんかある意味ゾンビのような状態になっている。
こいつ一旦気絶させといた方がいいかもしれない。
「ねぇ、着いたよ、着いたんだけど……」
青山がそんなことを言ってきた。到着はしたらしいのだが何かあるようだ。
「ごめんなさい、無理やり起こしてごめんなさい……でも魔王様の命令なので断れないんです……本当にごめんなさい……」
墓の真ん中で魔法陣を広げているものすごい暗い表情をした女性がいた。
どうやらゾンビを作っている……起こしているらしい。
確かに魔法陣のある地面からボコボコとゾンビが出てきている。
なるほど原因はあいつか。
「あっ、ゾーイさんですか?すみません、まだ呼び起こしてる途中なのでもうちょっと他のことをしててもいいです……よ?」
俺たちに気づいた。
「あ、えっと、その、冒険者……の方ですよね……?」
「どうも、駆け出し冒険者の山中雄人です」
それを聞くとものすごいオロオロとし始めた。なんだこの人。
「ピュリフィケーション」
「あっ、やめて下さい!ちょっと話をアアアアア!!」
青山の容赦ない浄化魔法が女性を襲った。
どうやらこの女性もアンデッドらしい。
「あぁ、消えちゃいます……どうにかしなきゃ……せめて、この人たちだけでも……!」
あっ、やべぇ標的にされた!!
「一応自己紹介だけでもしてあげましょう。私はクリーネ、魔王幹部にしてアンデッドの王、リッチーです」
「逃げよう」
これは無理だと俺の脳が瞬間で判断した。
まず駆け出しで相手するようなやつじゃない。ペルナでもレベル17なのだ。既に圧倒的敗北しか考えつかない。
リッチー、アイツの言ってた通りアンデッドの王だ。よくゲームなどでもボスとして出てくるようなやつだ。
そして今あいつは魔王の幹部と言った。
話に聞いただけなのだが魔王は王城に結界を貼っており、それの維持のために様々な種族(一応人の姿らしい)から7人の精鋭を選んでいるそうだ。それだけの存在のため、ものすごい賞金をかけられている。
そしてこいつはその1人だと言った。
通常、魔王の幹部の相手をする場合、せめてレベル30以上である必要がある。
俺らまだ3分の1のレベルしかないんだけど。
しかしどうやら逃がしてくれる気もないようだ。
もうこれは完全に青山に頼るしかない。
「青山時間稼ぎ頼んだ!どうにか逃げる方法を考える!」
「えっ、倒すんじゃないの!?」
えっ。
「ねぇユート、相手が魔王幹部なら容赦なくグングニルしてもいいよね!?」
いや、えっ?
なに、こいつら倒す気なの?
よぉし、こうなったらまずは……
「クリーネさん、話をしよう」
「なんであなた達の方から攻撃してきたのにあなた達から平和的解決を求めるんですか!?」
「俺は悪くない。悪いのは勝手に魔法使った青山だ」
「私なの!?」
「そりゃそうだろうが!!何勝手に魔法使ってんだよ!?まずは相手のこと理解しておくのが普通だろうが!」
「だってゾンビ呼び起こしてるやつがアンデッドじゃないわけがないじゃない!!」
「ゾンビ呼び起こしてる地点でおかしいと思えや!!」
「まぁ別に私は話をしてもいいのですが……」
「本当にうちの青山がすみません。今度泣かせとくんで許してください」
「私泣かされるの!?」
「女の子泣かすなんてサイテー」
「女2人黙ってろ!!」
こいつらめんどくせぇ!!
「まずは確認なのですが、あなた達はこの街の冒険者ですか?」
「まぁ、はい」
「じゃあ残念ながら死ぬ以外の選択肢はありませんね」
「瞬間で終わらせんなやァ!?」
「では早速……メイクマイフィー」
「ピュリフィケーション」
「またですかァァァァ!?」
「グングニル」
「てめぇもかァァ!!」
クリーネさんに対してこいつら容赦なさ過ぎるだろ。
俺からすればこの人は何かありそうな気がするから放置しようと思ってたのにさ。
だって魔王の命令とはいえゾンビを呼び起こすときに「ごめんなさい」なんて言ってるんだ。
普通の幹部ならきっと俺たち冒険者を消し去るために容赦なく行うであろうことを後ろめたそうにやってたんだ。
絶対なにか事情あるだろ。
ちなみに当の本人はピュリフィケーション受けた後にグングニル受けたせいで、すでにかなりボロボロだった。
「よし、最後のピュリフィケーションを……」
「ちょっと待て青山!!」
「さっきからなんなの?相手は魔王の幹部なんだよ!?ここで倒しといた方が」
「ちょっと黙れや!!お前らさっきの見ただろうが!?楽して生きようとかいつでも考えてる俺だが、いくら相手が魔王幹部という超賞金首とはいえ何も考えずに殺そうとするほどクズじゃねぇんだよ!」
だってあんな暗い表情で辛そうにやってるんだ。あれがなければきっと俺も容赦なく攻撃してただろう。
しかし今回は違う。明らかになにかある。
「なぁクリーネさん、あんたもしかしてだけど……元々人間だったりするか?しかもこっち側の、そしてこの街に住んでた、とか」
伏線なら何個でもあった。
まず俺らを見た時の反応だ。
普通魔王の幹部が冒険者なんかに見つかれば瞬間で殺しに来てもおかしくない。自分たちの敵なのだから当然だ。
しかしクリーネさんは攻撃するどころか戸惑っていた。
そして俺達がこの街の冒険者か、というのを聞いてきたこと。
ここから、ここに住んでる、もしくは住んでたと考えられた。
そして極めつけは、ゾンビを呼び起こしてる時の言葉とその時の表情だ。
なぜアンデッドの王がゾンビを呼び起こすのに、ゾンビに対して謝罪なんてしているのか。相手は自分の部下なのだ。そんなことをする必要は無いはずである。
「で、どうなんだクリーネさん?」
「……ふふっ……全くその通りですよ。あなたの言う通りです……」
そう、か弱い声で言ってきた。
「ユート!相手は魔王幹部だ、何考えてるか分からないぞ!?」
「……私は、元々この街に住んでいた……冒険者でした」
クリーネさんは語り始めた。
「この街で……プリーストとして生きてたんです……他の仲間達と4人で、生活してました。そして、私たちは4人で決めた、夢がありました」
「……夢?」
流石に青山もペルナも聞き始めた。
「私達の夢……それは冒険者稼業を辞めたら皆で服屋を経営しようって話でした。実は、その頃はかなり平和で……冒険者でもあまり仕事がなかったんです。それからは毎日楽しい日々でした。実際に店のための建物を建てたり、服のデザインを考えてみたり……本当に……楽しかったんです」
……ここで過去形かよ。
こんなのこの後に絶対何かあるやつじゃねえか。
「ある程度のことが決まって、たまには、と1人が言って私たちは久しぶりにクエストをしてたんです。そこで……私の前の幹部のリッチーと遭遇しました」
もう俺はここで察してしまった。
青山もどうやら察したらしい。少し体が震えていた。
「そして私たちは、冒険者として、戦ったんです。そのリッチーと。ここまで話せばもうだいたいわかりますよね……」
そりゃそうだろ。よくある話だ。
「私以外、皆死にました。リッチーを倒した地点ではまだ皆生きてたんですけど……もう、どんな回復魔法を使っても回復出来ませんでした。そして私自身も、実際ほぼ死にかけてたんです。そこであるものをリッチーの死骸から見つけました」
「……それがリッチーになるという禁術で、そしてそれを行った。……そうでしょ?」
そう青山が続けた。
「全くその通りですよ。そしたらいつの間にか魔王の前にいました」
「転移魔法だね。きっと使われた瞬間発動するようにしてたんだろう」
「そして幹部になれ、と言われました。でも……私は、捨てきれませんでした。皆との夢を……捨てるわけには、いかなかった!」
そりゃそうだろ。大切な仲間との夢とかどう捨てろと言うんだ。
「それを言うと、魔王は承諾してくれました。そして、幹部としての仕事はしてもらうが、それ以外は普通に生活してもよいと言われました」
あれ、魔王って言うから厳しいやつなのかと思ってたが、割と優しい……?どういうことだこれ?
「まぁ、最初は正直何も出来ませんでしたよ。喪失感の方が大きくて体を動かす気にもなりませんでしたよ……アハハ……」
……笑い事じゃないだろそれは。
「まぁ、それでも、そのために私はリッチーになったんだから、とこれまで生活してきました。そして今日、別の幹部が急に私のところに来たんです。そしてこう言ったんです。この街を終わらせるって」
は?
なんでそうなる?
普通は残すところだろう。
「それでこの墓地でのゾンビ生成を言い渡されたんです」
「はぁ、それで、この墓地にあるのが仲間の墓だった、とかなんでしょ」
ペルナも流石にもう攻撃する気は無いらしい。
「そして、あなた達に会いました。これで話は終わりです」
倒れながら、話を終えた。
「ということは、俺たちを始末しようとした理由は、俺達がもしかしたら、あなたが幹部だと広める可能性があったからってところか」
「そういうわけです。そしてどうやらもうもちそうに無いです……浄化され過ぎた上で大きなダメージを受けました……いくらリッチーの体でももう無理みたいです」
そこで青山が崩れ落ちた。
自分でせいで相手が魔王の幹部とはいえ夢を潰したのだ。おう、もっと自分を責めるがいいさ。
「カレン、シロ、ネリーン、ごめんね……本当に……ごめんねっ……!」
半ば消えかかりながら、そのリッチーは泣いていた。
「すみません、ユートさん、でしたか。頼みがあるんです。この地図に載ってるこの店に今度行ってください。そして、そこの服を使ってやってください。私の……私たちからの贈り物です」
正直俺達がもらう権利なんてないだろう。俺達がやったんだから。
でも、ここで貰わないのはきっと彼女にとって辛いものになるだろう。
だから俺は
「もちろん」
そう答えた。
答えた時には既に消えていた。
こうしてたった数分の長い俺たちのクエストは終わった。
あの後すぐに朝を迎え、俺達は直接ギルドへ向かった。
まさかあんなシリアスな出来事に遭遇する羽目になるとは思ってもいなかった。
そしてギルドへ入ると大喜びされた。
もうリッチー討伐の話は伝わっていたらしい。
あまり嬉しくないながら、クエストと幹部討伐報酬を受け取り、今、俺たちは地図に書かれた場所へ向かっていた。
「……山中くん、私、今度から気をつけるね……」
唐突にそんなことを言われた。
今は怒る気もなかったので言葉は返さなかった。
そして、目的地に着いてあるものを見て俺たちはなんてことをしてしまったんだと思わされた。
建物の前にある看板には「オープン前日!」と書いてあった。
つまり今日、この店は開くはずだったのだ。
これはもうどうにもならない。
この店の主人はもういないのだ。
扉を引いてみると鍵はかかっていないようだった。
そして開くと……
「あ、まだ開店時間じゃないんですよ、すみません」
そんな声が……あれっ?
少し見渡してみると、確かに今さっきまで見ていた少しグラマラスなリッチーが……
「あ、ユートさん、ってちょっ待ってくださ」
すぐに扉を閉めた。
おかしいなぁ、あの人さっき消滅してたような気がするんだけどなぁ……
「ユートさん、なんで出ていくんですか!?」
本人が出てきた。
こりゃ、もう落ち着いてやるしかないよな……
「「「幽霊だァァァァァ!?」」」
「幽霊じゃないです!確かに1回消えましたけど幽霊じゃないです!!」
数分後、なんとか落ち着いた俺たちは色々と聞くことになった。
「いやぁ、魔王さんからかわいそうだって、残機を貰っていたのを忘れていました」
クリーネさん曰く、リッチーになって魔王の幹部になったときにクリーネさんの境遇に何か思ったのか残機をくれたらしい。この世界残機とかあるのかよ。
というか魔王が優しすぎるだろ。魔王お前絶対悪役じゃねぇだろ。
ちなみに1回川の向こうにいた元幹部リッチーと昔の仲間を見たと言う。
渡んなくて良かったですね、その川。
さらに、1度死んだことで魔王の幹部という縛りが無くなったという。
ホントによかったですね。
うん、わけがわからん。
さっきまでの暗いムードはなんだったのか。
とりあえず今はこれから寝泊まりできる場所のことを考えないと……
「あっ、そういえばなんですけど、昔仲間達と使ってた家があるんですが、いりますか?私は今はここに住んでますし、私を幹部という縛りから解き放ってくれたお礼としてなのですが」
「もちろん、いただきます」
やったぜ。
死んだ人が生き返るという、物語などでは最悪の出来事は起こったが、素晴らしいまでのハッピーエンドである。
あ、そうだ。
「クリーネさん、この2人どうします!?泣かせていいですか!?」
「別に私はいいんですけど……まぁ、ユートさんがそうしとくべきだと思うのなら」
「ええっ!?」
「なぁユート、結局生きてたわけだし結果オーライってことで良くないか!?」
「そうだよ山中くん!私達のしたことは結局いい方向に行ったわけだし、めでたしめでたしでいいんじゃない!?」
「いいや、限界だ、やるね!!」
こんなわけのわからない形で1日が始まるのであった。
なんか急にシリアスになってしまって本当にすまない……ん?幹部が弱すぎるって?ペルナと青山が強すぎたってことで手を打ちましょうや。
変なところとか誤字脱字あったらなんか言ってください。勢いでやってるのでたまに見逃すんですよ……