10話 「転生冒険者、ストーカーにあう 1」
俺、山中雄人、16歳!!
なんか知らんけど死んだらしくてこの異世界に来たんだ!仲間にも恵まれて楽しい生活を送っているよ!
なんて超絶クソ物語の主人公の自己紹介の様なものを頭の中で考えてみたが。
へっ、俺がするもんじゃねぇなこれ。確かに仲間にも恵まれたとは思うよ。こんな家まで手に入れて恵まれてない訳がない。
でもな、どうよ?超絶セコい方法で幹部倒して金GETしてその倒した幹部が今では味方でよくわかんねぇ理由で貴族様に告白されて、よくわかんねぇ理由で戦った相手が仲間になって……なに?どこのクソ物語だっての。
きっと俺が異世界に来てからここまでのことを物語として読んだなら確実に「なんでこんな話作ったんだこいつ」ってなるね。
はっ、もしかすると俺もどこかの誰かに作られたキャラなのか……?そうなんだとしたら頼むからもっと真面目に作れと言ってやりたい。
だが何を言おうが何を考えようが俺の人生なのでいつも通り適当に暮らすことにする。
いつも通りのなんとなくの散歩。別に友達との約束がある訳でもなく、何か買い物を任された訳でもない。ただなんとなくする散歩。
でも今日のはあることの確認も含んでいた。
ここ数日起こったある出来事。実際されると凄い恐怖というか何かを感じる。
「やぁ、ヤマナカユートくん」
今日も、この女に会うのであった。
「なぁ皆、俺かなり真面目な話があるんだけどいいか?」
いつもの広間、夕食の時間。そこで俺はそろそろ皆に相談しておこうと思ったのだ。
「山中くんが真面目な話……いったいどうしたの?何かされたの!?」
「ユートが真面目な話をするってどういうことよ。今度病院でも行ったら?」
「お前が真面目な話をしようとするなんて珍しいな」
「お前ら俺をなんだと思ってんの?」
普段のクエストでまともに連携もしようとしない奴らが綺麗に俺に対する連携攻撃をしてきやがった。
こいつら変なところで、正確には俺の精神を削るようなことをする時だけはすごい連携を見せやがる。頼むからその連携を普通のクエストとかでも発揮してくれ。
そんな中でもカルラだけはいつも通りだった。食べるものは庶民的なものなのに何故かその食べ物すら輝くような優雅な食事。
でも何の反応も示してくれないのは凄い困る。
「気にしたら負けか……まぁ本題に入るわ。最近ストーキングされてる気がするんだ」
それを聞いた途端、カルラを含んだ俺以外の全員がキョトンとしていた。約3秒間、この部屋のみの時間が止まったような感じだ。誰だザ・〇ールドした奴は。
「ねぇ山中くん、何やったの?」
「おいユート、何やったんだ……?」
「ユート……何しでかした」
「ユートさんが、ストーカーに……?」
うん、カルラお前良い奴だね。もう付き合ってもいい気がしてきたよ。
そしてカルラ以外、お前らなんでそうなった。
「まさかアンタ遂に襲ったの!?そうだとしたら今すぐここで抹消しなきゃね……」
「ペルナ、いい加減俺に超絶変態野郎の烙印を押すのやめろ。俺は犯罪になることは絶対しねぇんだよ」
なんでペルナはこうも勝手に俺に変態の烙印を押しているのだろうか。
「でも1回捕まったじゃない」
「あー、うん」
そういやあったなそんなこと。カルラがすぐに出してくれたからキレイさっぱり忘れてた。
でもあれは周りの誤認とかが原因だろ。クエスト以外で人に対して魔法を使ったのは確かに悪かったがセクハラなんてものは全くしていなかったはずだ。
「山中くん、とりあえず言ってみて」
そんなことを少し笑いにこらえながら言ってきた。お前反応楽しんでただけか、あとで最初の時みたいに蹴っ飛ばしてやる。
「最近俺気配探知の魔法覚えただろ?急に魔物が現れて殺されたりしないようにさ」
「俺と渡り合った奴が簡単に殺されちゃ困るからな」
「グラン、あれは偶然だと思ってくれっていつも言ってるだろ。それは置いといて5日前ぐらいにそいつにマーキングしておいたんだ。そしたらビンゴで見事に毎日俺を尾行してるみたいでさ」
実際、事は2週間前から始まっていた。
なんか偶然とは言い難いぐらい同じ見た目の女性に何回も会うものだから怖くなって、5日前から頭の中で広げられる気配探知のマップにそいつを登録しておいたのだ。
「やっぱりあんたどさくさに紛れてなんかやったでしょ」
「ペルナてめぇいい加減にしろよゴラ、残念ながら俺はいかがわしいお店に友に連れていかれて入った瞬間逃げ出すような男だぞ」
俺、いかがわしい系のもの真面目に無理な奴だったりする。
「……女子の下着勝手に洗ったりしておいてそんなこと言うの?」
「青山、顔怖いしあれはちゃんと説明しただろ」
すると突然カルラが立ち上がった。
「私のならどうぞ洗濯してください!」
「ややこしくなるからやめろ!!」
「カルラダメよ!コイツは確実に皮を被ってる!」
「ペルナもしつこいぞ!」
「なんだその話は!?てかユートお前女子の下着に触ったことあんのか!?俺ですら1度も無いのに!!」
「なんでそうなるグラン!?お前ら家事とか全くやらない人間だろ!」
俺の家族構成は父、俺、妹の3人だ。
父が帰ってくるのが遅いので基本家事は俺がしていたのだが妹も中学生なので流石にそういう下着になってくる。それを作業の様に何も考えず洗濯し畳んでいたこともあり、こっちの世界に来てからそれをやったら思いっきり殴られた。
ただの布キレに何があるってんだよって話である。
「あー、もういいや……ちょっと頭痛くなってきたから寝る」
そう言って部屋に戻るのであった。
なんであいつら皆話を逸らすかなぁ……俺が真面目な話をしようとするのが珍しいのは分かるがなぜあんな方向に持っていくのか。
部屋に戻って数十分、俺はひたすら小説を読み漁っていた。
この世界にもライトノベルのようなものが存在していることを知り、ひたすら買い集めているのだ。
本当に助かる限りだ。元々暇があればゲームをするかラノベを読んでいたこともあり、この世界に来てからの暇な時間は異常なほどすることが無かったのだ。やることと言えば爪を切る程度。
だがつい数日前、発見したのだ。
異世界だから、と半分諦めていたが探すのをやめなかった結果得られたもの。やっぱり止まらない限り道は続くんだなぁ……。
書店のおっさんに聞いた話だと10年前ぐらいに急に出てきたのだという。異世界にもやっぱりそういう考えを持つ奴らはいるんだと実感したよ。
そしてたぶんなのだが俺らの世界からの転生者も書いてる。面白いことに俺らのいたような世界を舞台にした話があったのだ。
異世界から来たある女の子がとんでもないネットゲーマーになるお話。感想を言わせてもらうと、発送はありだったと思うけどやっぱり無理があったなって感じ。大人しく普通の学園生活を送って恋させといた方が良かったんじゃねってなった。
最近はどっかで見たような無限の剣を持つ世界を作れる主人公のお話読んでる。今のところで言うなら、主人公の設定がチート過ぎるってところだ。
「山中くん、起きてる?」
急に青山の声が扉越しに聞こえてきた。
「いやー、全力で寝てるわ」
「起きてるなら入るね」
起きているかどうかだけを聞いて容赦なく入ってきた。現在の時間、午後9時。
あれだ、これで俺ら2人以外家に人がいなかったりしたら薄い本的な展開があったりしそうだ。まぁそんなこと全くする気ないんだけど。
「さっきの話の続き、聞いてもいい?」
そういった彼女にはなんだか使命感のようなものを感じた。なんなの?君保護者か何か?
なにより、
「なぜ1回目で真面目に聞かないんだお前。話逸らしたり」
「だって山中くんが真面目な話をするって切り出して本当に真面目に話をしようとしてるんだよ?1回はからかわなきゃ」
………。
「待って、やめて!?無言で拳を私に向けるのやめて!?」
「そうだな、お前は最後に殺してやる」
「なぐるのは確定なんだね!?」
「こちとら本当に被害にあってるってのにお前ら誰一人まともに聞きもしねぇんだもん。そうだなぁ……まずは日頃の恨みってことでペルナでも……」
「早く教えてくれない!?なんで自分から話そらしてるの!?」
「おぉ、さっきからずっとエクスクラメーションマークとクエスチョンマーク出してそうな反応してるなぁ……ま、聞きに来ただけマシか」
「それで何か心当たりはあるの?なんかやったとか」
「本当に全く一切ございません」
「相手のことは何かわかる?」
「面白いことに女であるってこと以外何もわからん。マーキングは反応してるのに情報を手に入れようと考えようとするとなんか頭に霧がかかったみたいになってな……」
実のところ姿を見たこともあるのだが何故かすぐに忘れる、いや、靄がかかったみたいになって分からなくなるってのが正確か。
「そこまで分からないとかどうしようもないじゃない……どんな魔法使ったらそんなこと出来るの……?」
レベルによる制限があるとはいえほぼ全ての通常魔法を覚えることの出来る青山でもお手上げと来た。
仕方ない。不本意だが男としての戦い方で行くことにしよう。
覚悟してろよ……?
もっと話は無かったのかとか言われそうですがこの話、ちゃんとこれからに関係してくるのでたぶん大丈夫(何が大丈夫なのか)。あと1話約6000字とかいう謎制限やめました。無理に6000に届かせようとするのきつい。