ショートショート 祈りの行く先
小説 ショートショート 祈りの行く先
ある村に、信仰熱心な男がいた。
あまりに神への祈りと、懺悔に時間を割きすぎて、日々の糧を得るのにも苦労するありさまだったが、本人はこれぞ試練として、どこ吹く風だった。
困るのは家族である。
「おとうさん、息子でしょう、なんとかいってやってください」
「しかし、神を敬愛するのは悪いことではないし」
「勤勉に働くのも、神の使徒の役目でしょう!」
奥さんにせっつかれて、男の父は、仕方なく息子に言った。
「聞きなさい。
おまえは、神への愛を示すためだけに、一日を費やし、神が下さった命を生かすということをしておらん。それでは、神の使徒失格だぞ」
「そんな!」
「いやなら、真面目に働いて、食べるものくらい手に入れなくては」
そう言われて、男は、その通りだと思った。
勤勉に働くことは良いことなのだ。
男は翌日から働き始めた。
雇ってくれるところへはどこへでも行き、毎日必死に働いた。
もちろん、教会にも足を運ぶのは忘れなかった。
そのたびに、なんだか罪悪が増えている気がした。
そんなある日のこと、男はくたびれきった身体をひきずって、両親に止められたにもかかわらず、教会へと向かった。それはほとんど習慣だった。
すると、頭の中に声が響いた。
“わたしの力を継ぐものが降ってくる”
男はびっくりして顔をあげて、何かが顔にぶつかってくるのを感じて思わず悲鳴をあげました。
それは、目の前に飾られたイエスの像から落ちたカケラでした。
「なんだろう。
触れていると、元気になる」
そうか! これが聖遺物なのか!
男は感涙にむせいで、ひたすらありがとうございますと繰り返した。
家へ帰ると、男はうやうやしく両親にカケラを見せた。
最初はうさんくさがっていた両親も、その力を見るや否や、これはすごいと感動した。
そして、村の人たちに見せびらかした。
最初は、馬鹿にしていた村人たちも、噂を聞きつけた隣町のものたちも、こぞって男を訪ねてくるようになり、男は神父になった。
毎日祈れる日々に、男は満足していましたが、両親はそうではなく、もっともっとと人を集め始めて、カケラにちなんだお土産を作って売り、大儲けし始めた。
あるとき、いつものように頭痛をなおしてもらおうと来た金持ちが、カケラに触れたのですが、何の変化もない。
どんなに触れても、叩いても、カケラはうんともすんとも言わなくなった。
「ああ、これは神がお怒りなのだ」
神父になった男は憤り、村の人々に説教して回った。
すると、なんと村人全員がなまけものになっていたのだ。
カケラに頼って、金を稼いで暮らしていたという。男は嘆いて、村を出ていくことにした。
両親は引き止めたが、男はとまらず、旅立っていった。
それから村はさびれ、一人また一人と姿を消し、そこには廃墟だけが残った。
旅立った男は、旅先で奇跡を再び起こした。
けれど、今回は前回のことを考慮して、山中にこもって暮らした。
その山には、いまも時々人が訪れて、重病を癒されて戻ってくるという。
おしまい