6、寝起き可愛い
思わぬ方向にいった話を軌道修正しました。今回は、寝起きの少女のお話です。
こんな感じでやっていこうと思います
朝。時刻は日の出の少し前、身体に染み付いた習慣通りの時間に目を覚ましてしまった。この世界には時計と言う概念がないため、大まかな時間は太陽の位置で考えるしかない。
現役の頃は、モンスターを狩るのに一番都合がいい時間帯だから、いつもこの時間帯に起きるようにしていた。そしたら、いつの間にかこれで生活リズムが整ってしまったと言うわけだ。
──もう早起きする必要など無いというのに、早く目覚めてしまうとは。まぁ、数年続けた習慣がすぐに抜けるわけもないか。
目も冴えてしまったため起き上がろうとするが、なぜだか起き上がりにくい。
違和感の正体を確かめるべく右脇腹をみると、例の少女がぴったりとくっついて寝息を立てていた。その小さな手は、しっかり俺の服の裾を握りしめている。その可愛らしさに、思わず頬が緩む。
「飯食う前にも寝てたのに……よく寝るなぁ」
安らかな寝顔を眺めていると、自然に手が動いた。向かうは、うす桜色に染まる少女のほっぺた。おそるおそる触れると、瑞々しい頬は簡単にむにゅっと形を変える。
予想外の柔らかさに、手が止まらなくなってしまった。
むにゅむにゅっ。
「……おぉ!」
あまりにもさわり心地が良く、思わず感嘆の声が漏れる。
むにゅぅー。
「わはは、伸びる伸びる」
「……んぅっ……やぁっ……!」
面白くなってきてしまって、しばらく軽く引っ張ったりつついたりしていたのだが、やがて少女はくすぐったそうに身を捩り、ふわふわの大きな尻尾でぺしっと俺の手を払ってしまった。
しかし、それでも目を覚ます様子はまったくない。俺は悪戯を継続することにした。
ぷるぷるの小さな唇を、人差し指でぷるんっと弾く。すると、少女は俺の指を無意識にあむっと咥えた。噛まれるのでは、と一瞬引き抜こうかとも思ったが、むにゅむにゅと吸われたり、はみはみと甘噛されるだけだった。
あまりにもその行動が子犬や子猫に酷似しているため、少女に悪戯していると言うよりは、小動物とじゃれている、と言う表現の方が、違和感がない。
流石にやりすぎたか、と思って指を引き抜くと、ちゅぽんっと小気味の良い音がした。そこでようやく、少女は薄目を開く。
俺の姿を確認すると、もそもそ起き上がり、ぐいーっと大きく伸びをした。
「んっ……ふぁあ……おはよ、です。ごしゅじん」
「あぁ、おはよう。よく眠れたか?」
そう尋ねると、顔を赤くしてこくりと頷く。なぜ赤くなったのだろうか?
よくよく思い返してみると、俺が眠ったときはまだ少女は起きていた気がするし、そのときは確か、まだ俺とやや距離があった。
……俺が寝てから、自分からくっついてきたのか。
「俺もよく寝れた。大丈夫だ」
「……ほんと?おこる、しない?」
俺の表情をうかがうように、上目遣いで聞いてくる。
そのあまりの可愛さに反射的に抱き締めそうになるが、嫌われたくないのでここはどうにか理性で耐えた。
「……そんなことじゃ怒らないから、遠慮なくなんでもすればいい。怒られるかにビビるんじゃなくて、色々やってみて、怒られるのかを確認しろ。分かったか?」
「……ほんとに、いいの?」
「おう。」
そう言うと、今度はもじもじ、そわそわし始める。
どうしたと問えば、やや遠慮ぎみに俺へ向けて両手を伸ばしてきた。
「……これは、おこる、しない?」
なにこの娘、朝っぱらから俺を萌死させる気なのか?
迎え入れるように抱きあげると、俺の肩に顎をのせ、少女はゆっくり、リラックスしたように身体を弛緩させた。
寝起きの少女は、とても可愛い。出来ればこれからもこんな感じで、普通に甘えてもらえると嬉しいのだが。
「ぎゅうってされる、あんしん……」
すりすりと、さらにすり寄ってくる。最初は頑なだったが、ようやく慣れてきてくれたようだ。
「ごしゅじん、におい、おぼえた。とーくいっても、さがせる、あんしん!」
ぱっと顔を上げた少女はそう言って、にへ、と自慢気に笑った。なるほど、やけにくっついてくると思ったら匂いを覚えていたのか。
……俺、臭くないよな?
「大丈夫か?臭くないか?」
「んーん、くさくないよ?ちょっと、おとーさんとにてる……」
そう言って、確かめるように再びくっついてくる。
……もしかして、父親と匂いが似てるからすり寄ってきてるだけなんじゃないか?
『俺<父に似た匂い』みたいな。そうだとしたら、なんだか複雑だ……。
「すこし、ちがう、かも。でも、このにおい、すき」
「……!!」
やっべぇ、意識持ってかれるかと思った……もはや兵器だろこの可愛らしさは。
もう一度抱きしめたいなぁ、とも思ったが、流石にやめておくことにした。なんにしても、過ぎるのは良くない。
そうこうしている内に少女は、俺にもたれかかったまま、再び寝息を立て始める。考えてもみれば、時刻はまだ明け方だ。小さな子供にはきつい時間帯だろう。
ベッドに寝かすも、やはり掴んだ手は手は離してくれない。
俺は仕方なく、この世界に来て始めての二度寝を少女と共にしたのだった。