48、地獄の門を叩く者
「―――――ところで、お前らはどうしてここに?」
イリスとメルがここに来て数日。メルの母は、突然そう切り出した。
ちなみに、今は午後のティータイムである。二人は、言われるまですっかり忘れていた。茶菓子をつまんで談笑している場合ではない。
「そっ、そうだ!母さん―――――私達、修行つけてもらいに来たの」
はて、と首を傾げる。修行?服屋のか?とは言っても、私も随分前に辞めたからなぁ。前と同じようにできるかどうか。
「そうじゃなくて、戦いの―――――――――」
口を開いた途端、イリスの隣から、メルの姿が消えた。
否。吹き飛ばされた。鉄拳によって。メルの身体は背後の壁に叩き付けられ、力なくうなだれている。おそらく意識は既にない。
「……やはり、私の言った通りか。」
馬鹿弟子め。だから言ったものを。薄々勘づいてはいたが、やはりか。
メルの母は、いつの間にやらテーブルを挟んだイリスの横をすり抜け、メルの目の前に移動していた。その髪を無造作に掴み、無理やり立ち上がらせる。
「お前らに流れているのは、生粋の戦闘狂の血だからな。それも、極上の。服屋に飯屋?笑わせるな。」
「……あぐ……ッ!」
苦しそうに呻くメルには目もくれない。イリスは初めて、記憶の中ではいつだって優しかったこの人に、恐怖を感じた。
―――――――それでも。
「……で、お前はどうする?イリスよ。」
待つだけなんて嫌だ。足を引っ張るのも嫌だ。
隣に居たいなら、強くならなければ。
がくがく震える腿を抓り、喉から音を絞り出す。
「……おねがいし、ます……」
声は震え、今にも泣きそうだ。それもそうだろう。引っ込み思案で、いつも母の後ろに隠れていたような、ただの小娘なのだから。その姿も、知っている。メルと共に、笑い遊んでいた姿も。
―――――――それでも。
「……貴様は私の娘も同然だが、戦いとなれば話は別。手加減無用、死んでも知らん。」
それでも、戦いを選ぶのか。その問いに、震えながら、しっかりと頷く。しかし、顔を上げる前に、その華奢な肢体は壁を突き破り、表に転がり出ることとなった。術式ではない、単純な魔力の放出によって。
地面に背を叩きつけられ、肺の中の空気が全て追い出される。その後を追うように、隣にはメルが放り投げられた。
「いつまでに仕上げる?」
「「つぎの、満月まで……」」
消え入りそうな、二人の声が重なる。あとを追うのは、静寂を裂くような、甲高い笑い声であった。込み上げる笑いを隠そうともせず、天を仰ぎ、高らかに。それは、どこから来るものだったのか。
あぁ、久々に笑わせて貰ったよ。清々しいことこの上ない。
「いいだろう。私が責任をもって、貴様らを殺してやる」
欠けた月を背に、にたりと笑うその女は。
「私の名はメルヴィール――――――――貴様らの師だ。覚悟を決めろ。今すぐな。」
地獄の門が、ゆっくりと開く。
なんかもううだうだ書くのが面倒なので、できる限り直結で牡蠣高い場面まで飛ばします。すみません。




