47、地獄の始まり
ネタ回かもです。
頭がずきずきと痛む。身体も酷くだるい。昨日は何があったのだったか、不思議と記憶が朧気で、ハッキリと思い返すことが出来ない。
『起きろ。いつまで寝てる』
微睡みの中、知ったような知らないような声を聞く。どうやら、肩を掴んで揺さぶられているらしい。大人びた声だからティアではないし、イリスともメルとも違う。
『……だれだよ?』
『何寝ぼけてる、早く起きろ。やることはたんまりあるぞ』
ぱっと手を離され、後頭部を地面に強打。痛みに悶絶しつつ目を開くと、頭の横で仁王立ちする長髪の女が目に入る。
しかし、そこで鋼兵の動きは完全に停止した。
『何を呆けてる?目覚めたならさっさと立て』
視界を埋める、肌色、肌色。前にもこんなことあったような気がするが、そんなことが何度もあってたまるか。
夢だ。きっと。漫画の世界じゃあるまいし。鋼兵は再び静かに目を閉じ、目覚めが訪れるのを待った。
『ほう?私を前にして堂々と二度寝するとはいい度胸だな…』
気にしない気にしない。次に目を開いた時には、きっと見知った天井があって、隣ではティアが寝ているはず――――――――
「あ”あ”あ”あ”あ”!!?」
痛い痛い柔い痛い!!!何だ?何が起こってる!?
『ほらほら、早く起きないと頭ァ潰してしまうぞ!?』
めきめきと頭蓋が悲鳴をあげるこの技は、いわゆるヘッドロックと言うやつだ。しかし、技選択とルナリアの格好が悪かった。
『わかった!起きる!起きるから離せ!!』
鋼兵の脳は情報過多でパンク寸前。激痛とともに激しく押し付けられる、何か、よくわからない柔いもの二つ。
鋼兵も、男である。そして、それなりに年頃であるから、やはりそういう事に耐性はあまりない。鋼兵に今出来ることは、ただひたすらに締め付ける腕をタップし続ける事のみであった。
『ああ、ルナリア様!!またんな格好して!』
突如天から降り注いだ声が、鋼兵にとって救世主のそれに聞こえたことは言うまでもない。
拘束する腕が緩められ、鋼兵の後頭部は再び地面へと強かに打ち付けられる。
『んあ?ああ、寝る時まで服なんぞ着てたら、寝苦しくて仕方ないだろ?』
『だからっつって、いい歳の娘っ子がんな乳放って寝てたらいけませんよ!』
現れたのはオークの女性らしく、一糸まとわぬルナリアに着替えを押し付けている。良かった。魔族みんな裸族なのかと思った。常識に関しては、種族が違えどそんなに差異も無いらしい。
渋々服を受け取ったルナリアは、もそもそと着替え始める。チャンスと言えば、今しかないだろう。
薄目を開け、ルートを確認。室内に居るのは、俺、ルナリア、オークの女の三人だけ。出入口までに障害物はない――――――――
いや。よく見ると、ドアの隙間から何かがチラチラと見えている。それが大量のオークやオーガ達であることに気づくのに、そう時間はかからなかった。
目的は、闖入者の観察か、着替えるルナリアか。まぁいい、とにかく全力でタックルして突破しよう。
鋼兵は、地を蹴り飛び起き、勢いそのままに出口へ向けて突撃を決行した。
『退けオラァ!!』
雄叫びを上げ、腹筋目がけ真っ直ぐ頭から突っ込んだ鋼兵。対するオークたちの表情はどこか殺気立ち、必死さが滲んでいる。
『逃げっぞコイツ!!』
『捕まえろ!!逃がしたら殺されんぞ!!』
ガチムチの腹筋へと決死のタックル。怒涛の膂力によりガチムチの男衆はずざざ、と数センチほど後ろへ押される。が、やはり無理があった。鋼兵は筋肉たちにべしゃっと潰され、抵抗虚しく揉みくちゃにされ、あっという間に手足を拘束される。
『くっそ、離せぇア"ッ』
ゴキィと響く鈍い音に、思わず屈強な魔族の男達も目を背けた。鋼兵の首は力なくだらりと垂れ、その焦点は定かではない。
『さんざん飲み食いした挙句寝っこけやがって、その上逃げようだァ!?甘ったれんじゃないよ!!』
落雷のごとき拳骨に意識を手放した鋼兵に、なおもオークの女は怒鳴りつける。
『姐さん、コイツもう死ん…気絶してる!聞こえてねぇよ!』
『あァ!?あんたらも何覗いてんだい!!助平共が!!』
『んで俺まで!?』
再び飛ぶ拳骨。吹き飛ぶ巨体。その鉄槌は人数分振るわれ、その回数分男達は美しく宙を舞った。
『ほら、寝てないでぱっぱと働きな!女衆だって備蓄の後片付けに備蓄の補完、する仕事は山ほどあるんだ!!』
『あ、姐さん…皆、もう死ん……気絶しているぞ……?』
後ろから声をかけるルナリアは、既に服を着込んでおり、その乱れ具合からは余程急いだのであろうことが見て取れる。その声が僅かに震えているのも、気のせいではないだろう。
『そんなの、水でもぶっかけとけばいんですよ。それか、もう一発殴りゃあ目も覚めます』
おそらく、こいつらはもう一度殴られた時点で永眠するだろう。いや、もしかすると三度も殴ればショックで復活するか…?いや、きっとその頃には頭が原型を留めていない。
『……水の精霊、我が意思の元その姿を具現せよ……《流水》』
それらの事から様々なことが頭を駆け巡った末、結局ルナリアは心を無にし、水をぶっかけたのであった。
ランダムにちょくちょく改稿挟んでく予定です。今回は面倒だと思ったので序盤の通貨設定を消しました。一律日本円で数えるようになってます。




