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42、混戦


 空気がピリついている。目の前にいるのがかつての友人であることは確かなのだが、その気配に、なにか違和感を覚えるのだ。


「飯が目当てじゃないってんなら、こんな町外れの飯屋になんの用かしら?」

「こーんな町外れのボロ屋にじゃなくてぇ、私が用あんのは、そこに突っ立ってる木偶の坊ですよ」


 そう言って、澪は俺をまっすぐ指さす。あまり良い予感はしない。今は、風呂上がりで帯刀もしていないのだ。最悪何かあっても応戦出来るか怪しい。


「酷え言い様だな。立ち話もなんだ、まあ座れよ。」

「あんたと雑談しに来た訳でもないんだよねぇ。そんくらい、わかんでしょ?」


 じろりと俺を睨めつける瞳には、明らかな敵意が滲んでいた。


「久しぶり会うってのに、どうしたんだよ?」


 いや、本当はもう気付いている。違和感の正体、この独特な殺気は、ほんのつい最近感じたものだ。だが、信じたくはないのだ。


「邪魔なんだよね、あんたがさ。鋼兵。」


 澪は、さぞ恨めしそうに、妬ましそうに奥歯を噛み締める。憎悪の滲んだ瞳。俺でもわかるほどに、その身から立ち上る禍々しい魔力。

 認めたくない。同郷の旧友にやっと会えたと言うのに。


「……澪。お前の裏にいるのは、あの野郎―――――国王か?」


 そう口にすると、澪の顔色が目に見えて変わる。しかし、それは鋼兵にとってさらに辛い結果となった。火を見るより明らかな、憤怒の色だったから。

 鋼兵は、全ての現状を悟った。


「お前は、昔っからいろんな男に引っかかったよなぁ、よりによって毎度毎度、滅多に見ないようなクソ野郎ばっかで」


 かつて、澪司――――――澪の双子の兄と共に、それらの男を追い払っていた頃に思いを馳せる。普段は険悪な俺らも、二人揃えば最強だった。澪が澪司に泣きついて、その時ばかりは澪司も俺に頼り、共に戦いに行く。毎度のこと報酬は自販機のジュース一本で、夜な夜な自販機の前に(たむろ)って、お互いの腫れ上がった面を笑いあったものだ。


「澪。お前がいいなら、それでいい。だけどな、またいつでも言え。その時は、また澪司と一緒に追い払ってやるからよ」


「うるさいッ!違う!王様は違う!!私を殴らない!捨てない!怒鳴らない!!大切にしてくれるんだッ!!!侮辱するな!!!!」


 狂気すら感じる程に鬼気迫る表情で激昂した澪は、勢いよく鋼兵に掌をかざした。


◆◇◆◇◆◇◆


 澪が動くコンマ数秒前、鋼兵の足元を、銀色の閃光が駆け抜ける。更に、それに一瞬遅れる形で、アイリスの掌からは雷にも似た金の閃光が迸った。


『能力不明な奴を相手取るなら、確実に先手を取る。』


 それは長年の経験から培ったアイリスの持論だ。そして、完璧に先の先を取ることに成功した。


 確かに、した筈なのだ。


「きゃうっ!?」


 しかし、完璧に澪の頸を捉えた筈の一撃は乾いた破裂音を響かせ散り、ティアはそのまま、その場にぼてんと転がった。


 ――――――跳ね返された?いや、ティアが吹き飛ばず落ちたということは、相殺。発動条件は、物理か魔法か。私の攻撃はどうなる?


 予想外の事態に、アイリスは必死で状況を分析する。


「目、耳塞いで地に伏せろッ!!」


 叫んだのは、ローガンだった。既に自身も床に大斧を突き立て、自らの身を盾とし背に数人の客を庇っている。更には、ローガンの行動から先を読んだギルドの魔道士(メイジ)達は澪らを囲む陣形を取り、各々防護魔法を発動していた。


 ティアは、すんでのところで客の冒険者により防護結界の内へと引っ張りこまれた。しかし、一瞬行動が遅れたアイリスは、当然その場に取り残されることとなる。


 轟く轟音、迸る閃光。いわゆるスタングレネードの効果であるが、魔法によって編み出したアイリス特製のそれは、瞬時に相手をショックで気絶させる程度の威力がある。更に超高度な範囲指定により、当たった敵単体のみに莫大なダメージを与える代物だ。


 しかし、それが澪に届くことはなく。

 

 閃光の余韻が消えた時、そこには惨状が広がっていた。

 吹き飛ばされたアイリスはカウンターに力なくもたれ掛かり、微動だにしない。

 鋼兵の姿は既になく、ただ一人、澪だけが何も変わらぬ様子で、いやらしい笑みを浮かべてそこに佇んでいた。


「――――――結界解除。魔道士(メイジ)隊、アイリスの救護に入れ」


 普段と何ら変わらぬ様子のローガンは、淡々と指示をとばす。あまりにも素っ気ないローガンの様子に戸惑いながらも、すぐに数人が介抱に駆け寄った。


 澪は、店を立ち去ろうと踵を返す。しかし、振り返った先には、一人の修羅が立っていた。

 その眼は深い怒りの色に染まり、キツく握られ血管の浮いた丸太のような腕は、巨大なハンマーの様相が自然と重なるほどに、ただ殺傷するための鈍器として、頭上に高く掲げられている。


「お前、タダで帰れると思ってんのか?」


 次の瞬間、高く振り上げられた拳は一切の躊躇なく、澪の脳天へと垂直に振り下ろされたのであった。


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