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30、決闘祭、開幕。


『前大会の優勝者!突如現れその圧倒的実力で優勝をかっさらっていった男は、今回も熱いバトルを繰り広げる!その名も―――――――』


 司会だか解説だか判らんハイテンションなおっさんは、拡声石(かくせいせき)(マイクみたいなもん。声がでかくなる)を持って、声を張り上げる。そして、贅沢にたっぷり数秒溜めると、さらに声を張り上げた。


『鋼ーーーー兵ーーーーー!!!』


 ワァアァアァ!!


 高らかに宣言される俺の名を聞いて、観客共は大騒ぎで盛り上がっているようだ。俺も仕方なく苦々しい表情で拳を掲げ、舞台へと上がる。正直もう帰りたいが、俺の後ろには鬼が控えているため、引くに引けない状況なのだ。

 ちらりと後ろを確認すれば、こちらを微笑みながら見守るアイリスが。チクショウ、営業スマイルなんて張り付けやがって。この鬼め。


 なぜこんなことになってしまったのか。それは、昨日の夜に遡る。


◆◇◆◇◆◇◆


「あんた、明日の決闘祭出なさい」


 店が終わり、イリスが晩飯を作ってくれるのを待っている時に、アイリスが突然そう切り出した。ちなみに、晩飯はアイリスとイリスの交代制だ。


「いきなりなんだよ。やだよ、めんどいし。」


「あんたが優勝すれば賞金が手にはいるのよ。あんたがぶち抜いた床の修繕費、馬鹿になんないんだから」


「いや、あれはメルが「それに」


 俺の主張は意図的に遮られてしまった。人権を主張する!


「決闘を申し込まれたら受けなきゃいけない日なのよ?街中で突然喧嘩売られる反則なしのゲリラ戦と、辛うじて競技化されたトーナメント戦。どっちがいいの?」


「そりゃ後者だけどな……出場者外で申し込まれんのは妻帯者とかだろ?俺独身だぜ?」


 ちなみに、この世界では金や財宝や装備よりも「女」こそが最も価値を持ち、時折賭けの景品になる。

 より強い男を求めるのがこの世界の女の性だから、その女がすでに誰かの物になっていようが相手の男に喧嘩売ってボコせば自分の物、という寸法だ。それにたいして、女も特に異論はないらしい。


「どの口が言ってんのよ?メルもイリスもあんたにプロポーズしたでしょ」


「メルはアイリスの差し金だし、イリスは……まぁとにかく、二人とも妻ではねぇだろ」


「いや、町中にプロポーズの件は広まってるわ。今頃街中の男達は血の涙を流しながら壁を殴ってる頃でしょう」


 いやいや、ちょっと待てよ。あん時店には誰も居なかったろ。何で知ってんだよ?……あー、ヤバイ。嫌な予感しかしない……


 俺は予想が外れていることを祈りながら、ちらりとアイリスの方を確認する。恐ろしいほどにニッコリしたアイリスは、俺の考えを先読みしたのか、ゆっくりと口を開いた。


「私がバラしちゃった♡」


「お前ぇえ!!」


 テヘっ、と舌を口の端しから覗かせ、はにかむアイリス。あんたババアだろ!と叫びたいが、言ったら殺されそうなのでさすがに口を閉じる。


「メルも、最初はイリスから横取りするみたいでヤダって言ってたけど、『二人で嫁げるならいいよー』って、あんたの参加には大賛成。」


「え!?俺二人と結婚する話になってんの!?」


「うん。」


 この世界では、結婚できる人数は決められておらず、強ければ何人娶っても問題はない、らしい。歴代の優勝者の中には当時の街の若娘全部嫁にした強者も居たとか。


「『うん。』じゃねぇよ!!おっ、お前、どう収集つけるんだよ!?」


「あんたがぁ、大会で優勝すればぁ、収集つくのよぉ」


 ニヤつきながらわざとらしく間延びした調子で話すアイリス。こいつ、完全に馬鹿にしてやがる……


「あ、ちなみに、メルもイリスもこの街では貴族の令嬢押し退けて一二を争う人気でね。まあ、二人とも超絶美女だし?めちゃくちゃ良い娘だし。この話蹴ったら、あんた街中の男に永遠に恨まれるわよ」


 何となく想像つくのが辛い。確かに二人とも、タイプが違うとはいえ元の世界ではそれこそトップクラスの女優やモデルを狙えそうなレベルの美女である。

 そして、アイリスの言う通り二人とも超絶良い娘であり、嫁に来てくれるというのならば断る理由などないのだ。しかし、元の世界で育まれた貞操観念が「二人を娶る」ことに抵抗を示すのだ。


 むう、と唸ってなかなか踏ん切りがつかない俺を見かねてか、アイリスが俺の眼前にビシリと指を突き立てた。


「想像してみなさい。あの娘達がゴリマッチョで粗暴な男に娶られたら、どう思う?あの華奢で白い肌をその太く節くれだったゴツい指で弄くられんのよ。」


 一瞬想像してしまい、慌ててかき消す。やめろ、生々しい表現は。キツいから。


「それに対して、あんたはまぁまぁ良い男よ。そうイケメンではないにしろ、良い奴だし強いし、あんたに任せりゃあの娘たちはまぁ安泰。それは私が保証するわ。……で、どうする?」


 勝ち誇ったような表情のアイリスを前に、悔しくも俺の口は自然に言葉を吐き出していた。


「……出ます……」


 はい、知ってました。アイリスさんには勝てません。完全敗北です。俺が了承したとたん、アイリスは突然台所へ向けて声をかけた。


「おーい、あんたら、鋼兵出るって~!」


「おい、あんたらってまさか……」


 アイリスが台所の方へと声をかけると、晩飯がのった皿をもって、メルがひょっこり顔を出した。その後ろからは、また別の皿をもったイリスも出てくる。


「晩御飯に招待されまして……」


 晩飯をテーブルに並べつつ、にへ、と誤魔化すような笑みを浮かべるメル。


「……もしかして、今の話も全部……?」


「あはは……はい。ごめんなさい、全部……」


 ここまでがアイリスの策略か。……何かもう、慣れた。

 とにかく、今確かなことは言質を取られたことで、俺の大会出場が確たる物となったことだ。まったく、面倒な事になったものだ……

 俺が頭を抱えていると、アイリスが席を立ち、俺の背後に回った。そして、するりと腕を回して俺の耳元に口を寄せると、


「手ぇ抜いて適当なやつに娘達を嫁がせたりしたら―――――判るわよね?」


 と、一言。はい、死ぬんですよね。判ります。


 背中に美女の豊満な胸が押し当てられ、耳元に唇を寄せられ囁かれると言う傍目にみれば幸せな光景だが、俺にとっては首もとにナイフを押し当てられている感覚だった。


 ここまで来たら、やるしかないか……


「はぁ、わかったよ。優勝な。」


「それで良いのよ。じゃ、気合い入れて頑張って!」


 皆に聞こえるよう、声に出して宣言する。こうして、見事口車にのせられた鋼兵の出場が決定したのであった。

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