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29、人肌恋しい


「ほい、あーん」


「あーむっ」


 差し出したスプーンにぱくりと食いつくティア。気を使ってすぐに食べられる温度まで冷ましてくれていたのは、とても助かった。


「うまいか?」


「んむ。おいし」


 ごくんと飲み込み、にぱっと笑顔を向ける。体調的には随分良くなったようではあるが、まだ安心するには早い。手を当てるとまだ体温は高かったし、熱が一気に上がるのは夜と相場が決まっている。


 運んだそばからぱくぱくと勢いよく食べ、あっという間に小鍋の中身を平らげてしまった。

 お腹がふくれた様子のティアはけぷっと一つ可愛らしいげっぷをすると、お盆に一緒にのっていたコップの水を両手で掴み、一生懸命な感じで飲み干した。水飲むだけで超可愛い。……ん?自分で、水を飲んだ?


「お前、本当は自分で飯食えたろ」


 俺が指摘すると、ばつの悪そうな顔でぷいっと顔を背ける。俺は、仕方ないなとため息一つ吐き、ぶにっと頬っぺたをつついた。


「さて。ティア、汗かいたか?」


「うん、べたべた、きもちわるい……」


「よし、じゃあ脱げ」


「ええっ!?やだっ」


 じたばたと抵抗し逃げようとするティアを捕獲し、ぽいぽいっと服を脱がす。結局ティアはほとんど抵抗できず、あっという間にすっぽんぽんになった。

 俺は清潔な新しい手拭いを濡らし絞ると、ティアの身体をごしごしと拭く。汗疹になったりしたら面倒だからな。しっかり拭いてやらなければ。


「ひゃうぅ、はずかしいよぅ……」


「はいはい、我慢しろ。次背中な」


 ぱぱっと拭き、洗濯したばかりの寝巻きに着替えさせる。その頃にはくてん、と力無くうなだれ、すっかり抵抗もなく、されるがままになっていた。


「はい、終わり。すっきりしたろ?飯も食ったし、また寝な」


「もうなおったよぅ……ね、あそぼ?」


「だーめ。一回落ち着いただけだから動くとまた熱出るぞ。」


 頭を撫でてなだめてみるも、ティアはさらにぷくっとふくれてしまう。


「やーだぁ!べつべつにねる、ぎゅってできない!」


「だったら早く治せ。そしたら、いくらでも抱っこしてやるから」


「やだっ!ごしゅじんいっしょじゃないと、ねれないもんっ」


 ティアはそれでもなお、嫌々と首を振り、不満を露にする。どうやら絶対に引く気はないようだ。最近、ティアが頑固になってきたような気がする。遠慮して何も言わないよりかはいいが、わがままと言えばわがままだ。

 とかなんとか考えてみても、そのわがままのほとんどが俺に甘えたいと言った内容だと考えると、思わずにやけてしまうから困る。


「……しょうがないな。じゃ、俺も一緒に寝ればいいのか?」


「うん!はやくっ!」


 途端、ティアは尻尾をぶんぶん振り回し、自分の横をぽふぽふと手で叩いて示した。

 俺も布団に潜り込み、二人で毛布を被る。やはり少しばかり暑いが、仕方ない。我慢しよう。


 俺が布団に入ると、ティアはさぞ嬉しそうに、むぎゅうと俺にしがみつく。そんなにくっついて暑くないのかと言いたいが、まあ幸せそうだから大丈夫なのだろう。


「うへへぇ……」


 どうしよう。ティアがおっさんみたいな笑い方してる……表情も「にへぇ」て感じで、とにかくこう……おっさんくさい。それでもなおくっつき足りないのかさらにぐりぐり身体をすり寄せ、俺の肩に顔を埋める。


「どうした?」


 あまりにも激しく甘えるものだから心配になって頭を撫でると、ティアも不思議そうな顔を俺に向けた。


「はふぅ……なんだろ?ぎゅってしたい、かんじ」


 ポツリとそれだけ呟き、またぼふんっと俺に顔を埋める。アイリスが言っていた人肌恋しくなるってこのことか?


「暑くないのか?」


「……ちょっと、あつい。けど、ぎゅってする、うれし……」


 喋りながらゆっくり身体の力が抜けていき、やがてすぅすぅと安らかな寝息をたて始めてしまう。当然のように、俺をガッチリとホールドしたままだ。


「……さすがに少し暑苦しいから、ちょっと離れてくれよ」


 すやぁ……


「おーい、悪いが一旦起きてくれ」


 頭を撫でて起こそうとすると、逆に「きゅぅん……」と甘える子犬のように声を漏らしてすり寄ってきた。

 仕方なく、背中に手を起き身体を軽く揺さぶってみる。


「起きろ~」


「んぅ……」


 俺の呼び掛けにもそもそと身体を捩ったため、ようやく離れてくれるとほっとしたのも束の間、顔を見ずとも判るほどの不機嫌な声が、耳元で囁かれる。


「……うるさい」


 口を開いたのが気配で判り、鋭い犬歯が肩に当たる。要するに、今にも噛みつこうとしているのだ。

 しかし、いざ歯を喰い込ませんと力を込める瞬間、ティアの肩がピクリと小さく跳ねた。

 

 ……かぷっ。あぐあぐ……


 一瞬後に訪れるであろう激痛に覚悟を決めたものの、予想外の甘噛み。ひょっとして、「もう噛まない」約束を思い出して踏み留まったのか……?


「おこさないで。ねむい……」


「お、おう」


 キレ気味でそうとだけ言い残し、再び寝息をたて始めてしまうティア。

 もう、別にいいか。耐えられない程の暑さでもないし、実際ティアは良く眠れているようだし。


 潔く諦め、目を閉じる。首もとにかかるティアの寝息と、接した部分から伝わる規則正しい鼓動。いざ眠ろうとしてみれば、意外にもティアのいつもより高めの体温はぽかぽかしていて心地よかった。


 最近では、もっぱらこの温もりと鼓動と寝息が俺の安眠に欠かせない要素になってしまっているようで、クエスト先での野営でも、ふと目が覚めたときにティアが居ないとほんの少し気分が落ち込むのだ。

 なんだ、結局俺もティアにベッタリじゃないか。その事実に気付き、一人苦笑する。そうして、ティアに抱き締められたまま、俺は深い眠りへと誘われていった。


◆◇◆◇◆◇◆


 その後は熱が上がることもなく、次の日にはけろりとしていたティアは、病み上がりで腹が減っていたのか俺の倍もありそうな朝食を平らげて見せ、それにはさすがのアイリスも苦笑いしていた。

 やっぱりティアは元気な方がいい。何を慌てているのかリスのように頬一杯に飯を詰め込むティアをみて、改めてそう思った。

 何となく頭を撫でてやると、ティアは不思議そうな表情で俺を見上げるのだった。


 みなさん、ベタ甘連投は堪能しましたでしょうか。次回からはしばらくベタ甘ないかもです。てか、そろそろ話を動かしたいので……


 今後ともよろしくお願いします!

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