13、裸の付き合い
コメントオッケーにしたので、ガンガンください。(心折れぬ程度に)
「ふわぁあ……すっごぉい!」
我が家の一番奥にある地下への階段を降りると、そこには巨大な浴場がある。昔、お母さんが源泉を発見し、整備したそうだ。天井はやたら高く、地下のわりにとても明るい。天井や壁は岩肌丸出しだが、床は磨きあげられたタイルが敷き詰められている。
この世界に本来湯に浸かる文化はなかったのだが、異世界から転移してきた者がどこかで広めたのだそうな。
それまでは、時期や気温も関係なく、石鹸で身体を洗い、水で流すだけだった。今でも面倒臭がりは《浄化魔法》で済ましたりもする。
実際そちらの方が楽だが、異世界文化を好むお母さんいわく、こう言うのは雰囲気や趣が大切なのだそうだ。確かに入浴はとても気持ちがよい。
勢い良く風呂に向かって走っていこうとするティアちゃんの襟首を慌てて掴む。
「服は脱いで、裸ではいるんだよ」
「そーなの?……わかった!」
私も手伝って服を脱がす。すっかりすっぽんぽんになったティアちゃんは、少し恥ずかしそうにしていた。私も急いで服を脱ぐ。
「わぁ、おねーさん、おはだきれー……」
「えへへ、そう?ありがと」
「でも、ティアとおんなじくら……」
そこまで言って、慌てたように口を塞ぐ。はい、言おうとしたことは良くわかりました。貧乳で悪かったですね!まさか幼女に同サイズ扱いされるとは思わなかったけど!!
そして、お風呂をチラチラと見てそわそわし始めたティアちゃんを、苛立ちを込めて少し荒々しく持ち上げる。このテンションで風呂場へいけば、転ぶのは時間の問題だと思ったからだ。頭を打ったりしたら本当に危ない。
一度座らせてから、頭からお湯をかけて身体を流す。私も同じように、頭からお湯をかぶった。
お湯をかけられたティアちゃんは、まるで犬のように頭をぷるぷると振ると、不思議そうにぱしゃりと湯船のお湯をさわった。
「……このおみず、あったかい……?」
「お湯だからね。お湯に浸かるのが『お風呂』なんだよ。さ、頭と身体洗っちゃおうか。」
泡立てた石鹸で、座ると地面につきそうな長さの少しくすんだ銀色の髪の毛を石鹸で丁寧に洗ってやり、何度かすすいで繰り返し洗うと、徐々に髪が本来の光沢を取り戻してきた。
「うわ……髪、すっごい綺麗だね……羨ましいなぁ」
「おかーさんもね、いろ、おなじなんだよ」
「ティアちゃんはお母さん似なのかな?」
「うん、みんな、いうしてた。」
この娘のお母さんなら、きっと物凄い美人さんなんだろうな。さすがに身体を洗ってあげるわけにはいかないので、泡立てた手拭いを手渡してから、自分の身体を洗い始めた。
我ながら、貧相な身体だ。胸もないし、他の肉付きが良いわけでもない。ウエストは細いが、お尻は普通。エルフの特性で年齢は、全盛期で止まるはずなのだが、相当前からこの身体に変化は全く見られない。
スレンダーと言えば聞こえは良いが、ただのやせっぽちと言われてしまえばそれで終わりだ。
身長はお母さんとあまり変わらないのに、このスペックの差は何なのだろう。この身体で迫っても、鋼兵さんどころか誰にも全く効果ないんだろうな。
ちょうどその時、背後からぺたぺたと私たち以外の足音が聞こえてくる。振り向けば、お母さんと猫の娘が、こちらへ向かってきているところだった。……やっぱりでかいな。形も良い。実の娘から見ても、一児の母とは到底思えない完璧なスタイルだ。事実見た目はどう見積もっても二十代前半。ハーフとはいえ、さすがはエルフだ。まぁ、私もだが。
「あらイリス、相変わらず可愛いらしい身体してるわね。主に胸が」
「うるさいなぁ、もう。無駄にあっても意味ないのっ!!」
「無駄じゃないわよ?あんたが赤ちゃんの頃は私のおっぱいだけで……」
「あーもー!うるさいっ!私先に浸かるからねっ!」
「ティアもっ」
ざぷん、とお湯に浸かる。このお風呂は意外に深く、ティアちゃんだとすわったら頭まで浸かってしまいそうだったので、私の膝の上にのせた。すると、ティアちゃんは上目遣いで私を見上げ、おずおずと話を切り出した。
「おねーさん、ちいさい、かなしい?」
むう……まぁ、これだけ分かりやすく言葉に反応していれば子供でも勘づいてしまうか。私は苦々しく頷く。すると突然、ティアちゃんは小さな掌で私の胸をぷにっと確かめるように触った。
「ひゃっ!な、なに!?」
突然の事に声が少し漏れてしまう。ティアちゃんは控えめに何度か揉むと、にへっと微笑んで私を見上げた。
「……ちゃんと、あるよ?だいじょぶ!」
いや、さすがに皆無ではないよ……慰めようとしてくれてるのはわかるんだけどなぁ……
言葉選びが辛辣というか、無邪気ゆえの残酷さというか……
「それに、おかーさんみたいで、すき!」
「……ティアちゃんのお母さんも、小さかったの?」
「うん。せんとーしゅぞく?だから、だって」
聞き間違いでなければ、戦闘種族、と言ったのだろうか。狐の獣人は魔力操作、主に幻術系の魔法に長けていると聞くが、少なくとも戦闘に用いられることはないはずだ。元より力は弱く、観賞用や性奴隷になることが多い。
更に、現在「種族」として残っている獣人はほとんどいないのだ。ティアちゃんが言うことが正しければ、この子の家族は国の手が届かない場所で、今なお戦闘種族として生き残っている?
だとすると、この子は一体何者なのか。
「それ、本当?敵と戦うの?」
しかし、そう問うと途端に落ち込んだようにうなだれ、悲しそうに口を開いた。
「……たたかわない……おかーさん、つよいんだよっ。でも、たたかわないの……くにの、にんげんきて、みんな、きられるして、ティアさらわれたの……」
……これが本当だとするならば、「くに」とは私たちの住むこのヴィアナ王国のことを言うのだろう。ヴィアナ王国とは、この世界でも五本の指に入る大国。その大国が獣人の一種族を国ぐるみで拐っている?そんなことがありえるのだろうか。
しかも、その人たち――――ティアちゃんの家族は完全に無抵抗だと言う。
「……他の子達は、どうしたの?」
「えっと、ほかからきたおとこのひと……むこ?とにげたよ……ティアもにげなさいっていわれるした、けど、こわくて……」
これは鋼兵さんに伝えなければ、と思ったのだが、恐らく伝えれば鋼兵さんは国が敵だとしても何らかの行動をとるだろう。しかし、今鋼兵さんは弱っている。本人の性格上、無茶をしたら何をするか判らない……悩みどころだ。
私は、この話を一旦、この貧相な胸にしまっておくことにしたのだった。




