終 章『みち』
結城に接触した上位者たちは暗闇の中で、姿を見せずに声だけで会話をしていた。
――榊原結城の件、どうしましょぉ?
――なに、彼なら何もせずとも世界の均衡を保つために動いてくれる。
――そうそう! なんたって、幼馴染さんが大好きだからね!
――彼は色川咲楽、また彼女に関わっている人物が傷つくのは許せないでしょう。
――ならいいかしらぁ? 彼は電脳世界の秩序を守るガーディアンに身を置く決心がついたみたいだしぃ?
――あら、随分と嬉しそうね。あなた、下位の存在に恋をしたのかしら?
――そんなわけないわぁ。しょせん、彼は下の者ですからぁ。でもぉ、気に入ったのは確かかしらぁ?
――そう、なら安心したわ。そんな上位者にあるまじき感情を抱いたのじゃないかとひやひやしたわ。
――とりあえずは様子見ってところだね!
――うむ。我ら『翼のもがれた先導者』は、目的を遂行するために動くのみ。権力を取り戻すためには、これを完遂する他にない。
そして先導者のなりそこない達は会話を終えた。
そして、何でも屋の二人、碇明雷と日村紅炎は、明雷の部屋で休日を過ごす。
明雷はベッドに座り、紅炎は彼の机の椅子に座りながら、何やら真剣な表情で話し込んでいた。
「しっかし、アイツだけじゃなくてその幼馴染までがねぇ……」
「うん、咲楽がネクスト能力を発現するなんて」
「上位者どもが彼女の脳にあれだけ負荷をかけたんだ。素質があれば発現してもおかしくないさ」
「それにしてもだよ。上位者さんたちが想定外の発現だったわけでしょ? で、見逃されるくらいの能力って、何だろう?」
「さぁ? きっとヤバい能力だろうぜ。使い方を間違うと世界がヤバいってなるやつ」
「まぁ、それでも大丈夫でしょ。なんせ、あの咲楽だからねぇ。あの子、彼しか見てないからさ」
あはは、と紅炎が笑う傍らで、ジト目で彼女のことを明雷は見ていた。
「な、なんなのよ、その目は!」
紅炎は座っていた椅子をガタガタと揺らしながら言った。
「別にぃ。ただ、その彼こと榊原結城とはどうなのかなぁ~って思って。ほら、紅炎って榊原にケンカ売ってるわけっしょ? 例のプールでさ」
「あ、あれは仕事だし! バレてないからオーケーなの!」
「なにそのバレなきゃ犯罪じゃないんですよ的なやつ。まぁ、俺らがやってることほとんど犯罪なんですけど」
「まぁ、もう彼に攻撃はしないと思うしぃ? あとは遠くから見ていればいいしぃ?」
「あれ、遠くから見てるだけでいいんだ? そんなダイナマイトセクチーなお身体を持っておきながら小心者だなぁ」
「うっさい。わたしだって本当はもっと……。だけど、彼の隣は咲楽がお似合いだから」
「そんなんでいいのかねぇ。てか、いつまで榊原のこと、彼って呼んでるんだ? 連絡先だって交換したんだろ? 名前呼びまでいかなくとも苗字で呼んだっていいんじゃね?」
「まぁ、それは、あれよ。……なんだろ?」
このとき、明雷は悟った。絶対に彼女一人の力では榊原とお近づきになることはできないと。誰かの力を借りなければ、マトモに言葉を交わすことすらも難しそうだ。まずは普通に会話することから慣らさせることが大事だと、明雷は思ったのであった。
一方、榊原結城は七城市、中理町のガーディアン事務所から電脳世界へとアクセスしていた。
『ガーディアンになってくれたと思ったら早速違法電子ドラッグの商売人を見つけ出すなんてね。あなた、これ天職よきっと』
奏多深優が現実世界からオペレーターとして結城に話しかけていた。
「まぁ、俺は違法なプログラムには敏感だしな。ノイズとしてはっきりと感じ取れちまうし、そういう違法売人にとっちゃ、俺は天敵だな」
『そうね、アンタの登場にひやひやするでしょうね』
彼女は笑い、そして言葉をつづけた。
『それにしても、すごい手のひら返しよね。今までなんであんなにガーディアンになるのを渋ってたのか不思議よ』
「それはまぁ、色々あんだよ」
結城は咲楽と、お互いの依存を辞め、それぞれの道を歩みだした。
咲楽が上位者に襲われた日に交わした約束通り、咲楽は何でもかんでも結城を誘わないようにしている。まぁ、それはそれで寂しい気もするが、お互いの関係はこの方が良いのだろう。前のようにベッタリくっついていたのがおかしかったのだから。
『まぁ、何となく変わった理由は分かるけど、あまり詮索しないでおくね』
「助かる」
『じゃ、さっさと商人を捕まえて仕事を終わらしましょう』
「了解」
通信を一旦切り、目的地まで歩き始めたその時、見知った顔が見えた。
その顔は太陽のように暖かな笑みで、こちらを見て手を降ってきた。
「あ、ゆうくーん!」
友達を差し置いてこっちに駆けてくる様子を見て、結城は本当に依存関係を終えることができたのかと心配になったのだが、こういう猪突猛進なところがあるのが咲楽なのだ。そんな彼女の人間性まで否定はできない。
「お仕事中?」
「あぁ、これからちょっとな。それより友達はいいのかよ?」
「あ、ああ! ゴメン、ゴメンよぉ、海実ちゃぁん!! ひよっちぃ!!」
しょうがないなぁ、といった感じで溜息を吐く咲楽の友達。
そして、もうすっかり元気になった西條海実の姿があった。
その三人で目を合わせ、みんなで笑い合う。戸惑う咲楽の姿が、とても可愛くて。
「え、何? 何なの? 三人して笑ってぇ!!」
クールに鼻で笑い、手を合わせながらひよっちは謝る。
「ごめんごめん、咲楽がぁ、あまりにもマヌケな感じだったからさぁ。ねぇ、榊原」
「そうだな。まぁ、それが色川咲楽なんだ。そうだろ?」
はい、と海実は頷いた。
「そうですね。それが色川せんぱいです。じゃあ、榊原せんぱい、お仕事がんばってください!」
「そうだね。じゃ、お仕事がんばってね!!」
「おう任せとけ! 電脳世界の平和は、俺が守ってやるからよ」
ちょっと臭いセリフだったかな、とちょっぴり後悔したが、正直な気持ちがそうなのだから仕方がないと、結城は自分で納得した。
手を振って咲楽と別れると、結城は一人歩き出した。
ガーディアン、それは電脳世界の秩序を守る電脳世界の守護者。
近年増加しているサイバー犯罪の勢いは衰えることを知らない。
そして、榊原結城はガーディアンの一員となり、今日も犯罪者を追う。
「この世界を脅かす奴を、俺は絶対に許さねぇ!!」
あとがき
この作品を読んで頂き本当にありがとうございました。
去年の七月一二日にこの作品作りが始まり、そして今年の五月六日に書き終わりました。
約一一か月間もの時間をかけて大体本一冊分を書き終えました。正直時間をかけすぎたなぁと思います。まぁ、ちょっと色々と立て込んだこともありますからね。就活とか。
自分の話をしてもしょうがないと思うので作品の話をしましょう。
この作品のタイトルである『電脳世界のクリミナル』は、電脳世界における犯罪者や犯罪を描こうと思っていたので、分かりやすさ重視でそのままタイトルにしました。
タイトルは作品の入り口なので、『電脳世界』の単語を入れることで、興味が引けるかなぁ? と思ったので。(ちなみに仮のタイトルは『サイバークリミナル』でした)
次に作風についてですが、一章ごとに独立した話にして、オムニバス形式にしました。そうすれば、読みやすいかな、と思っただけです。まぁ、結局は四章に繋がっているので、どれかを欠けさせるわけにはいかないんですけどね。
キャラクターですが、主人公の榊原結城はちょっと野蛮な感じの男性。あれ、一つ前の作品である『ノーブルソード アルター』の主人公と被っているような……。まぁ、これもリベンジなんですよ。
ただ、不良という設定ではなく、幼馴染を守るカッコいい主人公的な?
最近は幼馴染が敗北する風潮なので、最初から大勝利確定にしたいなって。
気が弱ってた時にあんな優しくされちまったら惚れちゃうはず。
そして幼馴染、兼ヒロインの色川咲楽ちゃん。色川さんマジヒロインっすよ! って言いたくなっちゃうくらいの扱いにしました。元気一杯で、みんなから人気で、主人公に尽くし、そして結城に答えてもらっちゃってる。
そしてガーディアンのメンバーは、まー個性的なメンツ。イケメン、腐女子、ショタコン、特徴なしの平均君。奏多深優なんてショタコン設定は書いてる途中で付与しましたからね。あのプールのシーンで突然思いついてしまったんです。
藤坂美樹のネットスラング多用で、どもる喋り方を文章にするのが一番難しかったかも。どうしてこんなキャラにしちゃったんだろう、って後悔したくらい。でも、キャラが立ってて一番濃いし、そういうキャラが一人は必要かなって思って必死に書いた。
最後に舞台について。
主人公たちが暮らしている七つの町で構成される『七城市』は空想の地名です。
なぜ空想の地にしたのかというと、その場所を知らなくても書けるから、ってのが一番かもしれません。物語の設定上、舞台となるのは地方じゃなくて首都圏なのは間違いないし、でも作者自身が田舎住まいなので、苦肉の策というか。
最初に訪れるアイドルの握手会場は秋葉原だったんですが、よく知らないし、書ける気がしなかったので早々に架空の地である七城市の副文町と言う場所に変更しました。
どうしようもなかったんです。許してください。
長いあとがきまで読んで頂いた方がいましたら本当にありがとうございます。
一応、これでこの作品は終了しますが、読者様の反応が良ければ続きを書くことも考えています。さて、どうなるか。
あらためて、読んで頂きありがとうございました!
次の作品で会えたら幸いです。
では。