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第二章『ゆらり揺らめく灯』-12・13

  12


 現実世界に帰って来た結城と渉は、すぐさま現状を把握するために深優と美樹に話を聞いた。


「奏多、藤坂、プールの温度は元に戻ったか?」


 渉の質問に深優が答える。


「ええ、元には戻ったのだけど……」

「何か問題があんのかよ」


 深優の意味深な言い方に少しイラつく結城。ここはさっさと結論をハッキリと言って欲しいのだ。彼としては早く犯人を追いつめ、一発殴らなければならないのだから。


「この波の出るプールだけじゃなくて、残っていたウォータースライダーも元に戻ったのよ。阿波乃リーダーと榊原がカグツチを倒して、それから同時にね」


 おそらくそれは、ガーディアンが到着したことによる予定変更だろう。

 補足するために美樹も自分の見解を述べた。


「は、犯人がカグツチのプログラムをか、書き、換えてたのは事実。だけど、妨害、しているときに、気が付いた。阿波乃リーダーを襲うようにする書き換えじゃなくて、ウォータースライダーの水温コントロールシステムとリンクさせるものだった訳だが」

「なに!? いったい犯人は何のために?」

「マ、マジでワケワカメ。つか、犯人強すぎワロタ。私の妨害に勝てた訳だがマジでなんなん? チートでも使ってんのかよ」


 それについては驚きを隠せなかった渉。彼が知っている中では、彼女ほどプログラミングやハッキング、クラッキングに関して右に出る者はいないと思っていたのだ。しかし、それを上回る技術を持っていた、もしくはネクスト能力によるものなのかもしれない。

 いずれにせよ、これは由々しき事態だ。

 きっと、犯人は身分が分かってしまうような証拠を残さないだろう。ここまで大掛かりな犯罪行為をしておいて、尻尾を掴まれるようなアホではないはずだ。なぜなら、ネクスト狩りをしている犯罪組織に手を貸している――おそらく以前からそういった犯罪組織に手を貸していたその道のプロだと思われるから。

 ダメ元だが、美樹に犯人の足跡がないか徹底的にオーシャンリゾート中の電脳世界のアクセスログから来客まですべて洗ってもらった。

 しかし――。


「……死ね。氏ねじゃなくて死ね。なんなん? この前の電車の時といい、今回といい、何で股開いてくれないのさ!! クズがァ!!」


 藤坂美樹、ご乱心であった。

 カグツチの解析結果を見ても犯人の手掛かりになるようなことは綺麗に抜け落ちており、このオーシャンリゾート全体の電脳空間のアクセス履歴は美樹を持ってしてでも復元不可能な状態になっていた。犯人に関する手がかりがすべてなくなったと言ってもいい。

 前回の電車の暴走事件に続き、今回のオーシャンリゾート事件。犯人の仕事は憎たらしいほどに完璧だった。引き際もわきまえ、証拠は残さない。


(クソが。次に会うことがあれば女だろうが容赦しねぇぞ……!!)


 結城は逃げられた事実をあらためて自覚し、そう頭の中で呟いた。あくまで冷静に、だけど怒りに燃えている。そんな不思議な状態だった。

 何としてでも犯人を見つけ出したい。

 しかし、残りの手がかりは本日の来客のデータのみ。

 しばらく考えた渉は言う。


「とりあえず榊原には悪いが、少しばかりここで待機してもらうぞ。フィードバックで痛むだろうがな」

「まぁ……痛いっちゃ痛いけど、ただ左腕の感覚があまりないんだ。動きはするけど、その動かしている感覚がないんだよ」

「フィードバックによる痛みや神経の麻痺は時間が経てば正常に戻りはする。が、それでも専門の医師に診てもらうのが吉だと思うがね」

「確かに。明日、落ち着いたら行ってくるよ」

「本当なら今日中に行って欲しいものだがな。榊原的には都合が悪いんだろう?」

「よく分かってんじゃねぇか。気持ちわりぃ」

「うるさいクソガキ。今日は散々だったな。とりあえず一緒に来た友達の下へ戻ってろ」

「あいよ。じゃあ、お疲れさんでした」


 結城はガーディアン一同の返事を待たずにその場を立ち去った。

 感覚のない左腕に違和感を抱きながらも更衣室で服を着て咲楽を探す。彼女はとても分かりやすい所にいて探す手間が省けた。


「あ! ゆうくん。いったい何してたの!? ずっと待ってたんだからね」


 ちょっと涙目になりながら言う咲楽を見て、結城はとても腹が立った。彼女を不安がらせた自分に腹が立ったのだ。自分の失態がゆるせなかった。だから結城は彼女を笑顔にさせるために言った。


「いや、知り合いを助けた後に子供がプールに取り残されたりなんだりでちょっとな。ま、無事に助け出せたから安心しな! 俺も、この通り何ともないからさ」


 嘘をついた。

 体はあちこち痛いし、左腕の感覚はない。だけど慣れないいつも通りの笑顔で、彼女に無事であることをアピールした。

 もしかしたらバレているかもしない。咲楽にはこんな嘘はお見通しなのかもしれない。

 だけど咲楽は騙された振りをしてくれているのか、それとも知らずバカ正直に結城の言っていることを信じてくれているのか。定かではないが結城の言葉に頷いてくれた。

 そして、その後ろにいる海実も不安そうな表情で聞いてくる。


「榊原、せんぱい。大丈夫です、か?」

「おう、何ともないぜ!! そっちこそ大丈夫かよ? 逃げる人が沢山いたし、押されて転んだりとかしてないか?」

「は、はぃ。何にも、なかった、です」

「なら安心だ。あ、今日の埋め合わせは必ずやろうな」

「…………はぃ」


 返事をするまでの間が、結城はとても恐ろしく感じた。何かを悟られているような、そんな感じだった。だけど、それを言及はしない。海実も何も言ってこないのだから、あえて突っ込んだ話はする必要はない。


(ちょっと不自然なくらいに明るすぎたか?)


 そう思う結城だったが、気にしないことにした。二人とも何も言ってこないなら、とりあえずはこのままで。これが悪いことだったとしても、この関係を続けさせることが結城の願いなのだから。

 咲楽が悲しむようなことがあれば、笑顔になれるようにする。

 結城はいつまでも彼女の笑顔を見ていたいのだ。太陽の様に温かいその表情を見続けることが、彼にとっては生きがいに他ならない。彼女のこの笑顔で榊原結城という男は救われ、それが彼の()り所であるのだから。



  13



  榊原結城についてのレポート


 今回、榊原結城の力を測定するために二回の実験を行った。

 まず第一の実験について。

 第一の実験はTによって行われた。

 七月四日、木曜日。七城市、中理町(なかりちょう)から榊原は三時四〇分発の電車に乗り込んだ。その電車が暴走するように細工をし、副文町(ふくふみちょう)を過ぎた辺りで電車を暴走させた。

 事前の情報通り、榊原結城の幼馴染である色川咲楽なる人物に危害が及ぶような状況になれば彼は自然と自分から動き出した。

 最初にAIで動くドローンにどこまで戦えるのかテストするため、運転室に入るためのドアロックのシステムにハッキングドローンを侵入させ、ドアを完全ロック。外部から解除できない状況にした。

 榊原はそのドアロックシステムの電脳に入り、セキュリティドローンと戦闘を行わせた。

 結果は辛勝。

 戦闘内容は滅茶苦茶で、戦闘慣れしていると言うよりはケンカ慣れしているようなものだった。

 対ドローンでの戦闘は運のみに頼ったモノで、正確なデータを作り出すことができなかったため、次はT自身が榊原の相手をすることにした。

 すると、彼が電車のコントロールシステムの電脳世界に入ってからTに出会うまでの時間があまりにも早すぎる結果となった。これは、榊原が何かしらのプログラムを感知できる能力があると予想する。

 榊原結城とT――ネクストとネクストをかち合わせた場合、榊原結城はどこまで戦えるのか。

 Tは浴びた者を軽い混乱状態にする電磁波を投射し、榊原結城が体調が優れない状況を擬似的に再現。

 その結果、榊原結城は冷静な判断で電磁波を投射するプログラムを見つけ出し破壊した。

 榊原結城は体調がすぐれない中でも状況判断能力に長けている結果が得られた。


 七月七日、日曜日。

 次にFが第二の実験を行った。

 準備した四つのシチュエーションにおいて榊原結城はどういった行動を示すのか。前回の実験で得られた状況判断能力をさらに詳しく測定することも含めた実験を行った。

 ※ただし、ガーディアンの介入があったため、実際に行えた実験は三種類のみ。その内ひとつはガーディアンと共に協力したため、データ測定に失敗。


 七城市、蔵慕町(くらぼちょう)。オーシャンリゾートのプールの水温コントロールシステムをクラッキング。水温を急激に上昇させて沸騰させた。案の定、色川咲楽との時間を壊された榊原結城は行動を始める。


 第一のシチュエーションは多彩な攻撃を行う敵に対してどう行動するのか。彼の状況判断能力のより詳しい観測を行うことができた。用意したプログラムは近距離武器の剣と斧、そして火炎放射器、盾を持った戦闘用プログラムだ。

 一見弱点がないように見えるそれは、実は武器を壊せるタイミングを用意してあり、それを見つけ出して武器をすべて壊すことができれば倒すことができる。

 榊原結城は見事その弱点を見つけ出し、プログラムを破壊。その際に見せたネクスト能力『硬化』で硬くした腕を使い、高く飛び上がる技を見せた。その時の映像を添付する。


 次のシチュエーションは視界不良の中、いかに戦うかを見た。

 そこで、暗闇と言う恐怖に打ち勝つことができれば勝てるプログラムを用意した。このプログラムは人間による攻撃ではびくともしないシールドを張っている。それを解除するのが火の玉の形をした唯一の光源。それを破壊することによってプログラムを破壊することができる。

 榊原結城は何度か間違った行動を取るも、最終的には正解にたどり着き見事プールを解放した。

 彼は光源のない場所においても正確にプログラムの位置を把握して攻撃をした。これはただ単に耳が良いという判断では説明がつかず、おそらく違法なプログラムを察知するような能力を持ち合わせている可能性あり。


 第三のシチュエーションは負傷状態での戦闘ではどんな力を発揮するか。

 というテーマで実験を行おうとしたが、ガーディアンが到着。榊原結城との共闘することになってしまい、いともたやすくプログラムを撃破。戦闘能力を測ることはできなかったが、彼はガーディアンとの軽いつながりがあることが判明。リーダーの阿波乃渉と共闘した際、見事なコンビネーションを組みプログラムを完封した。

 榊原結城に攻撃を仕掛ける際は、七城市ガーディアンのリーダー阿波乃渉も注意する必要がある。


 以上が榊原結城の戦闘内容の記録であり、より詳しい戦闘内容に関しては添付された戦闘ログ映像を参照すべし。

第二章終了です。

今回は連続バトルという内容のせいで文章量がとんでもないことになりました。

文庫本にして約100ページ。書いてる途中で、中々第二章が書き終わらないな~と思ってたんですよ(笑)


お次は第三章『見えない相手。知らない相手。誰もが平等である』です。

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