序 章『彼がそこにいる理由』
初めまして、またはお久しぶりです。
今回は『電脳世界』を舞台にした小説になります。
この小説は最後まで書き終えています。ですから最後まで止まらずに1日1話ずつ公開していきますので、よろしくお願いします。
また、わたくしの今後のためにも感想やご意見がありましたら書いて頂ければ幸いです。お待ちしております。
では、お楽しみください。
「待てやゴルァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
くせ毛頭の青年、榊原結城は持ち前のドスの利いた迫力ある雄たけびを上げながら、とある男を追いかけていた。
そしてその手には何やら拳銃のようなものが握られている。しかしそれは、いわばおもちゃの様にも見えなくもない特徴的な形をしていた。拳銃にしては少々大きめで、新型のタブレットPCか何かに見間違われても仕方がないようなゴツさはあった。
しかしその拳銃はこの世界を守る者の証となる存在。名はハーキュリー。
そう――彼が今いる世界、それはネットワークによってすべてが管理される社会になり、創り上げられた人類にとっての第二の世界。それは全世界とつながっており、グローバルな社会を形成していた。
それが『電脳世界』だ。
彼はその世界の秩序を守る組織、『ガーディアン』に所属することになったのだが、年々増加し続けるサイバー犯罪によって、休む暇もないくらい常に事件が起こっている。それは小さなものから大きなものまで様々だ。
まだ新人である結城は小さな犯罪しか扱っていないが、いずれは大きな事件に遭遇することもあるだろう。
「これ以上逃げるってんなら撃っちまうぞ!!」
結城は警告するが、走り続ける男はその足を止めようとしない。彼はニヤつき、その銃口を逃げ惑う男へと向けた。慎重に照準を定め、トリガーを引く。
するとその銃口から青い火花のようなものが飛び散り、青白く光っている弾が男を襲った。その弾は思いっきり男の背中を射抜いたのだが、少しピクッとするだけで倒れることはなかった。
そんなはずはない、と結城は一瞬戸惑った。
なぜなら、今撃った弾は敵を拘束するために麻痺効果ある弾なのだから。その弾に当たってしまったら最後、身動きは完全にできなくなり、あとは警察の厄介になるだけ。
しかし、今回の事件そう簡単には終わらないらしい。
「さすがは違法電子ドラッグの商売人だな。自分も嗜む程度にやってますってか?」
今まで結城が追いかけていたのは違法電子ドラッグを売買している商人。もしかすると、商人も電子ドラックを使用しており、麻痺効果弾を撃ち込んだくらいではビクともしないくらいに気分がハイになっているのかもしれない。
そもそも違法電子ドラッグとは何なのか。
それは現実世界で言う麻薬のプログラム版のようなものだ。実際の薬じゃないから危険じゃない。やめようと思ったらやめられる。そんな名目で流通させているようだが、それは完全なる嘘。現実世界の危ない薬と同じく、中毒性があり、人生を破滅へと追いやる悪魔のプログラムだ。
それを流通させている者がこの電脳世界にはごまんといる。そして、結城はその一人を見つけ出すことに成功したのだ。
もしその違法電子ドラッグで麻痺攻撃が効かない身体になっていたとしたら、この拳銃では仕留めることができないということになる。
『榊原君、もう少しでポートエリアに入っちゃう! 逃がさないで!!』
ポートエリアとはこの電脳世界から脱出することができる場所のこと。もし追いかけている男をそこに行かせてしまったら、せっかく見つけ出したというのに現実世界へ逃げられ、すべてが水の泡になる。それだけは何としてでも阻止しなければならない。
「ウッセーなクソオペレーター! そんなこと分かってるっつーの!! ここで逃がしてたまるかよッ!!」
オペレーターの言葉にイラつきながら、結城は右手を勢いよく後ろへと振った。
すると、結城の右腕は黒曜石の様に深い黒色に変わっていき、腕がゴツゴツとした岩肌のような状態になったのである。
いったい、これから何が始まるのだろうか。
逃げ惑う商人の男はチラリと後ろを見てそう思った。
「逃がしはしない。この拳でぶっとばしてやらァ!!」
ドンッ!! という音が聞こえたかと思うと、結城は地面のデータが壊れるのではないかと思うほどに力強く踏み込み、拳の射程圏内にまで一気に飛び込んでいた。
「この世界を脅かす奴を、俺は絶対に許さねぇ!!」
その拳が見事商人の後頭部にヒット、思いっきり地面とキスすることになった商人の男はそのあまりにも強い衝撃に目を回して地面に突っ伏していた。
「はーい残念。ポートエリアまですぐそこだったのにね。二〇時一八分、容疑者確保。ただいま手足の拘束中」
『オペレーター了解。じゃあ榊原君、そこで商人を見張っていてね。警察には連絡済みだから、一〇分もすれば警察側から連絡が入ると思う』
「了解。じゃあ商人のおにーさん、仲良くしようや」
とは言っても商人は意識を失っていて結城の言葉は耳に届いていないし、当然返事も帰って来ない。
結城は商人の男の上に座り溜息と吐いた。
「ふぅ……とりあえず一件落着か」
そもそも高校三年生の彼が、なぜ犯罪者を追っかけるようなことになっているのか。
それの理由は数日前に遡ることになる。
彼にとって、とても大切な存在を失いかけたのだ。
とりあえず序章終了。
と言ってもこの序章の話はこれから続く話の後の話になります。
つまり最後まで読めばこの場面に繋がるってことです!
それから前書きで「最後まで書き終わっている」と書きましたが、反応が良ければ続きを書くことを考えています。
つづいて第一章『加速し続ける恐怖』です。