8話:驚きの治療
いま僕と奏と大我の3人は僕が育った孤児院で遊んでいる。子供と遊ぶ時はでるだけ家族などに近いワードを使わないこと、絶えず笑顔でいることが条件だ。
「凪、お前は遊ばないのかー?」
子供3人くらいとキャッチボールをしている大我がベンチで座っている僕を誘ってくる。
「いや、僕はいい」
でもここの子供はどうも苦手で僕には上手く扱えない、さっきの条件も守れそうにないし……。
その点あの2人は孤児相手にうまく立ち回っているようだ、涙も慣れた感じで6、7人もの人数を一度に相手している。みんなすごいな、僕には絶対できないことだ。
「ふー、やっぱり男の子って小さくても体力あるんだね。足も速いしぜひ陸上部に入るべきだよ」
そう言いながら男の子4人と鬼ごっこをしていた奏がベンチに座る。ん?こいつこの前の涙とのバトルで骨折とかしてなかったか?
「なあお前、怪我は大丈夫なのか?」
「ちょっと痛いかな、でも意外とどうにかなってるよ。全然走れるし」
人為変態や身体能力を向上させない超能力者は能力以外普通の人間だと思っていたけど、意外と丈夫にできてるんだな。
「でもちょっと心配だな、1回この孤児院の先生に診てもらえよ。いい先生だから」
「えっ、凪が私の心配してくれるの!?」
「な、勘違いするなよ。お前が動けなくなった時にバトルが来たら僕1人になるし危ないだろ、だからだ」
「それでも、嬉しいかも」
今日一番の笑顔でそう言って、奏は僕の言った通り医務室の方に走って行った。
激しく動くと危ないって言ってる傍からダッシュって、人の話はちゃんと聞いとけよ。
「おい奏が行っちまったら俺が大変だろうが、責任もって働け!」
笑顔が崩せないのに怒っている大我が、けっこうシュール面白かった。
私はベンチから立って子供たちのところに行く凪を横目に見ながら医務室へと向かっていた。
「えーっと、確かこっちの方に」
道なりに沿って歩いていくと医務室と書いてある扉があった。ノックして中に入ろう。
コンコン
「はい、どなた?」
中から優しそうな女の人の声がした、凪が言っていた通り優しそうな人の
「すいませんこの前怪我したところ診てもらえって」
「あら、新人の人?」
「いえ、琴吹凪くんの友達で、立花奏って言います」
私が久しぶりに口にする凪のフルネームを言ってわかり約自己紹介をしたら、
「え、凪がここに来てるの!?」
「そ、そうですけど……?」
もうあと数cmで顔が触れ合うほどの距離まで一気に近づいてきて聞いてきた。なんか、大胆な人だ。
「そう、ありがとう。あとで会いに行こうかしら、とりあえず怪我したところはどこ?」
そういえば怪我したところってよくわからないな、とりあえずなんとなく痛いところを言えばいいのかな?
「胸のここのところと、あと横腹のこの辺が……」
「じゃあちょっと服を脱いで見せてくれる?」
「は、はい」
昔から病院に行くことがほとんどなかったから女の人が相手でもちょっと服を脱ぐのには抵抗があるな、でもそうしないと先生が困っちゃうししょうがない。
「ふむ、ギリギリBね」
「うぇっ!」
いきなりの言葉に変な声が出た、この人いきなりいい当てるなんてすごいけど……気にしてるから言ってほしくなかった。
「あら、言わなかった方が良かったかしら。気にしてるわね」
「ま、まあそうですけど」
苦笑する私に先生が微笑む、それも悪魔の微笑みにしか見えなかったけど……
「とりあえず下着は外してほしいわね、胸の部分が外傷じゃないんだけど治療するには下着は邪魔なの」
「は……はい」
「恥ずかしそうね、私も脱げば和らぐかしら」
そういって先生が白衣に手をかける、さすがにそれは女同士でもちょっとやばい!
「だだだ、大丈夫ですから脱がなくていいです!」
「そう……」
なんでちょっと残念そうなの!?
「とりあえず診せてもらったけど、あなたよく動けるわね。肋骨が折れてるわよ、横腹も内出血がひどいしここに来なかったらもっとひどくなってたわ」
「そうだったんですか、全然気づかなかったです」
「とりあえず服を着ないでベッドに横になって、治療するわ」
あれ?骨折って言ってたけどさすがに寝たり薬を塗るだけで治るのかな、それとも今からいきなり手術とか!?ちょっと心の準備ができないんだけど……
「じゃあ始めるわね……」
「え?ひゃう!」
治療をすると言って先生は怪我をしている私の胸を舐め始めた。いきなりで反応できなかったけどすごくびっくりしたし恥ずかしい。
「なにするんですか!?」
「なにって……治療だよ。治してあげいてるの」
「ちちち治療ってもっとこう……包帯巻いたりお薬塗ったりしゅじゅちゅしちゃっ!」
焦りすぎて思いっきり舌を噛んでしまった、痛くて大声を出してしまいそうなのを咄嗟に我慢したけど口の中がじんじんする。
「ほら、治療中に暴れるといいこと無いわよ」
そういって次は私の口を強引に開けて中に舌を入れてきた。さっき噛んだ舌を舐め回すようにされているみたいだけど、舌を舌で舐めているせいで出ているクチュクチュという音が耳に入ってきてもう恥ずかしさで頭が回らない。
「ふーっとりあえずこれで舌は痛くないでしょう」
「あれ……本当だ、なにしたんですか!?」
「私の能力。『リカバリー』っていって舌で患部や傷口を舐めると、怪我によって時間は変わるけどパパッと治すことができる」
「じゃあ治療する前にそれを言ってくださいよ!!」
思わず大声で叫んでしまった。今まで必死に抵抗していた自分がなぜかすっごく恥ずかしい(悪いのはあっちなのに)。でもとりあえず舐めるのが能力だとわかった以上安心しても大丈夫なはずだ。
と、思っていた時期があった自分を殴りたい……。
もう大丈夫だと思っていたのに先生の舐めかたがものすごく変でくすぐるようにされたりなんか関係ないところを舐められたりと大変だった。この前のバトルより体力を使ったかもしれない。
そういえば河合先生の治療方法と能力のこと話してなかったなと、重大だけどまあいいかと思えることを考えながら作り笑顔で子供たちと戯れていると奥の方からちょっと怒り顔の奏がやってきた。
「……」
無言だけど僕の方をじっくり見ているから僕を呼んでいるようだ。
「どうした?」
「なんで大事なこと教えてくれなかったの!!」
近く言った瞬間大声で怒鳴られた。まあ悪いとは思っていたけど。
「ごめん、さっき思い出した」
「もう、すごいびっくりしたんだよ。あんな治療だなんて……」
若干頬を染めて言っているくらいだからかなり恥ずかしい思いをしたんだろう。僕も初めて孤児院で怪我をした時はすごく驚いたことを思い出す、あの時は大変だったな。
「とりあえず奏も戻ってきたしそろそろ行こうか」
「おーう、じゃあみんなまた今度な!」
「え、ちょっと帰るの早すぎない?」
「まあそうだけど、さっき先輩から連絡あってどうしても奏を連れてきてほしいって」
なんか文面からしてけっこう急いでるように見えたけど、なにかあったのか?
「ああ、もしかしたら危ない状況かもしれないし急ぐぞ」
さっきまでへらへらと笑っていた大我もすぐに表情が変わる。
「う、うんわかった!」
それから院長や子供たち、涙にも帰ることを伝えて孤児院を出た。時間は大体夕方の4時だ。この時間帯なら道を考えれば人に見つかることはない。
なにをするかって?電車よりはるかに速い移動方法だ。
「しっかり掴まれよ……」
「絶対離すなよ……!」
バチン!
大我の額の前で指が鳴る、その音に反応したかのように角が生えてきてその後すぐに両脚が筋肉の鎧を付けた文字通り鬼のような姿へと変貌した。
「行くぞっ!」
大我の能力の最高時速は測ったことこそないが町を走る電車を悠々と追い越し、5階建てのマンションを飛び越すほどの脚力を実現させるらしい。速度だけなら僕の方が早いが時間を考えればこっちの方が断然早いと言えるだろう。
大体30分、ここにくるまで1時間以上はかかったから半分以下の時間での帰還を果たしたようだ、途中速すぎて何度も振り落とされそうになったけど。
「とりあえずここからは徒歩で先輩の家までだな」
「僕が連絡しておくから先に行ってて」
「わかった!」
大我と奏が颯爽と走っていく、僕は携帯を開いて先輩にもうすぐ着きますとメールを送って周りに人がいないのを確認した後、能力で2人に追いついた。
「連絡しておいたよ」
「おう、じゃあ突っ走るか!」
「うん!」
ピンポーン
ダダダッ
「き……きてくれて、ありがとう!」
急ぐように玄関まで走ってきた先輩の顔は、なぜか赤面していた……