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AnotherWalker  作者: 数多ノつるぎ
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7話:もう一つは出会い

 人がなんの能力もない一般人の友人と一般人だらけの街にいるって言うのに、このバトルの主催者(?)は何も考えていないのか、とりあえずどうにか言い訳を作ってここを離れないと。

「さっきから携帯鳴ってるぞ」

「ごめん、ちょっと大事に電話だから外で話してくるよ」

 内心すまないと思いながら俺は席を立つ。すると同じ店の中にいた男が数人立ち上がって俺のくる方についてきた、しかも違和感のないようなタイミングで誰にも怪しまれないような距離をつけいている。かなり訓練されているようだけど、相手が超能力者じゃないだけましかもしれない。

 まだ俺は黒服としか戦ったことが無いのだがこいつらは変装までするのか、まったく超能力者狩りに夢中だな、あいつは……


 ことは二週間くらい前のこと、帰り道で大我と別れ自分の家が見えてきたころにそのブザーは鳴った。電話に出ると聞いたことのないような声が少し大きめに聞こえる。

『もしもーし、君の「システム」は見させてもらったよ。実に良い能力だよね、基本的に攻撃はできないものの裏での仕事はやりたい放題だ』

「すまないけど切らせてもらっていいかな、俺は急いでるんだ」

『なんで超能力者ってこんなに冷たいのかね、ちょっと面白い企画を考えたから参加してもらおうと思ったのに』

「じゃあ断ろう」

『いや、この企画は超能力者である君は強制参加だよ。それに大切な人は守りたいだろ?』

 大切な人という言葉を聞いて俺の声色が変わる。

「お前、まさかあいつに手を出したんじゃないだろな!」

『そんな無粋な真似はしないよ、ただ僕は君を試したいだけだ。君がこの企画に参加してくれたら絶対にあの人には手を出さないし逆に守ってあげてもいい、でも参加を断ったら……わかってるよね?』

 強制的、というより参加するという選択肢だけを残してくるのか。それに俺のことはもう全て調べつくされてしまっているようだ。

「わかった、参加してやるが約束は守れよ」

『OKだ。じゃあルールを説明しよう』

 こうして俺の波乱の日々は幕を開けた。


 少し遠くにある工場の倉庫前まで来た、隠れる場所も多く俺としては戦いやすいだろう。

「もういいだろ、出てこいよ!」

「……」

 黒服たちが3人、何もしゃべらず静かに出てくる。見た目は街に馴染む感じの服装なのだがサングラスをかけて顔を隠し手にはナイフやら刀やらと近接武器を持っている。

 俺も携帯を右手に、自作の爆弾を左手に持って構える。近接武器を持っているからと言って銃を持っていないとは限らない、いつでも避けられる体勢をとって相手が出るのを待った。

 沈黙の数秒後……

「……!」

 黒服が1人刀を構えて突っ込んでくる、俺はあの電話から毎日近接戦闘だでもまともにできるようにと鍛えてきたがまだ反応が鈍い。重傷は避けたが横腹を少し切られた、だが振り切った隙に黒服のポケットに2個爆弾を入れる。

 黒服が気づいてポケットに手を入れるがもう手遅れだ。能力で爆弾に爆破コードを送り黒服の腹が破裂したように燃える。皮膚は焼け爛れ軽度の裂傷も負うように作られているから2個分の威力で一般人なら十分倒せる代物だ。

「かかってこいよ、殺しに来たんだろ?」

 黒服を挑発して逆上を狙う。感情が無いように見えるがあいつらも人間だ、相手が超能力者だったとしても3対1で負けるなど嫌だろう。

 ザザザザッと2人が同時に駆け寄ってくる、1人目はコンバットナイフで陽動、後ろのもう1人が威力のある大きなサバイバルナイフで止めと言ったところか……だけどこっちに寄ってきた時点で黒服の負けは確定している。

 ピー!

 黒服が俺から約5mほど前まで来たとき地面から警告音が鳴り一瞬のあと黒服の足元が爆発し男たちが宙を舞う。さっき1人目の背中を壁にして見られないように数個ばら撒いておいた爆弾だ。爆破条件が地雷と同じになるコードを送った、自分も少し爆風を受けるか破片で裂傷を負うかの賭けではあったが意外と5mならあまり問題はないようだ。

「ゴホ……ゴホ……さて、俺の勝ちでいいよな?」

 ピーとバトル終了の音が鳴る。あの黒服たちは放っておいてもいいらしいので救急車などは呼ばず早めにここから離れよう。

 ブー、ブー

「もしもし?」

「おい、いつまで電話してんだ?もう1時間も待ってんだぞ」

「わ、悪い!」

 そこで自分の今の服装が気になってしまった。

 横腹が多少切れていて服も破けて砂埃で汚くなってしまっている。これでは会えたもんじゃないし会ったら会ったでなにがあったのかしつこく聞かれてしまうだろう。本当に悪いが今日は帰るとするか……

「すまない、急にバイトに行かないといけなくなった。また今度でいいか?」

「あーバイトか、じゃあしょうがないな」

「悪いな」

「ああ、気をつけろよ」

 友人が話の分かる奴でよかった、それじゃあ俺は人に見つからないように家に帰るとするか……と思ったが、近くにある倉庫の中からなにか声が聞こえる。ただの暴言のような、罵詈雑言を大人数で1人に浴びせているような感じだ。声質からして14、5歳の少年少女、中学生の陰湿ないじめとかだったら止めたほうがいいよな、と思い倉庫を除くと案の定少年少女が6人ほどで1人の女の子を囲んで暴言や暴力を行っていた。

「おい!」

 俺が大きな声で言うと全員がこっちを振り返った。

「なに見てんだよあっち行け!」

 まあ予想通りの反応ではあるけれどこういうのはやっぱり見逃せないな、あと最近の中学生たちは携帯とか普通に常備しててくれるから助かる。

 自分の携帯を開いて得た情報を確認する。

「柊木中学校2年3組中山良太君だね?」

「な、なんで知ってんだよ!?」

 やっぱり知らない人に自分の個人情報を知られてたらびっくりするよね、僕だってびっくりするよ。

「君たちのことは全部わかる、写真も撮ったし学校に送ってあげてもいいんだよ。早く止めれば考えるけどね?」

「くっそ、みんな行こうぜ」

 全員が俺の脇を通って倉庫から出ていく。中心にいた女の子は少し怪我をしていたが、大きな怪我は見当たらない、問題は心かもしれないけど話しかけてみるか。

「大丈夫か?」

「う……ん、だいじょうぶです、ありが……とうござ……います」

 声がかすれていて上手く聞こえないけど、やっぱり大丈夫ではなさそうだ。

「怪我、ひどそうだね」

「そんなこ……とないです」

 ささっと俺の脇を通ろうとするけど俺はさすがに見逃せない情報を手に入れてしまっていた。

「君、超能力者だね?」

 女の子は呆然とした表情で立ち止まっていた。


 俺の家の中で長々と沈黙の空気が流れる、その根源はずっと申し訳なさそうな顔をした少女だ。

「とりあえず名前を教えてくれるかな?俺は国枝小雪だ」

「し……東雲(しののめ)……」

「下の名前は?」

 まあ知ってるんだけどできれば本人の口から聞きたいところだ、そのほうが確証が得られる。

貴女(あなた)……」

「よしOK、じゃあ次の質問だ。君は超能力者で間違いないよね?」

「違う……超能力なんかじゃない、の……呪われてるの」

 ふむ、そうかこの子は超能力に詳しくないんだな。多分俺や凪くんとかの能力じゃなくて大我くんに近い能力者である可能性が高い。傷の治りも異様に早かった。

「じゃあ見せてくれるかな、俺はそれが本当に呪われた力なのか判断できる」

「いや……あの力は人を傷つける」

 実際体が変わるような能力じゃなくてもなにかしらの事件が自分の力によって引き起こされたのなら、それは忌まわしい呪われた力のように感じてしまうことはよくある話だ。俺は特性上あまりそんな過去はないのだけれど昔は何度かひどい目にあってる。

「大丈夫だ、信じてみればいい」

 貴女の肩に手を乗せて力強く言う。自分の能力を自分で制御できないことはない、だから信じればできるはずだ。

「……」

 でも決心がつかないようだ。これ以上言ってもこの感じでは混乱してしまう可能性があるし、これから少しずつでいいから信頼関係を結んでいこう。

「しょうがないか……そうだ、お腹すいてない?」

「別に……」

 ぐるるるるる……

 貴女が顔を赤くしてうつむいている。嘘はいけないなあ、まだ子供なんだから正直に生きたっていいのに。

「簡単なものだけど何か作ってあげるよ、門限とかある?」

「ない、私は家族がいないから……」

 少し、悲しそうな目だ。なにかを思い出すような感じで、無理に落ち着こうと心を制御している。

「無理と嘘はいけないよ、このマンションの周りの人は帰ってくるのが遅いから大声で泣いたっていいんだ」

 じゃないと、いつか悲しみを忘れてしまうから。

「う……ううっ」

 我慢が出来なくなったのか、俺の言葉に安心してくれたのか、貴女は小さな涙をぽろぽろと流していた。辛かっただろうな、ずっと1人で生きてきたんだろうな、忌み嫌われる能力を持ったまま使い方もわからずに。

 きっと貴女は、家族の死を直に見ている。それがわかるのは、俺がそうだったから。

「貴女、今日からここに住むか?」

「……?」

 いきなりの問いかけに、少々戸惑った感じでこっちを見る。

「ずっと、1人だったんだろう。俺は父親がいたけどみんな別れてしまった、お前くらいの年からずっと1人だったんだ、この部屋に住人が増えてくれると嬉しい」

「……じゃあ、よ……よろしくお願いしま……す」

 まだコミュニケーションは上手く取れないみたいだけど、これから一緒にいて教えてあげよう。能力の方もしっかりと使えるようになれば自信が持てるようになるはずだ。

 

 こうして俺の1人では持て余す部屋に、新しい住人が入ってきてくれた。

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