5話:旧友との再開
あの電話があった日から1週間が経った。あの後大我や小雪先輩に連絡をとってみたところ同じような内容の電話が来ていたらしい、たぶん日本、あるいは世界中の超能力に発信されているんだろう。今のところまだ戦ってはないが超能力同士のバトルもあると言っていた。あいつの部下はナイフやら銃やらで攻撃をしてくるから気絶させておけばどうにか逃げられるけど超能力だったら話は別だ。不可解な力で先手を取られれば僕はかなり不利になってしまう、発動条件である一歩を遮られればただの人間だし。
そんなことを考えながらも僕は毎朝いつもどおり学校へ行く。最近は奏が朝練もないのに僕の通学路で待っているようになって結局2人で学校に行っている。周りからは付き合ってるんじゃないかとか噂が立ってるみたいだけどそんなんじゃない。ていうかちょっとしゃべってるだけだったのに奏が急に僕の近くに来たような気がして疑問が絶えない。
「おはよう、凪!」
「おはよう」
「昨日、なにかあった?」
「黒服とだった、お前は?」
「私は何もなかったよー」
なにもないことはいいことだ、僕はほぼ毎日のように黒服に狙われる日々を送っているから何もない日があるという人たちは正直に羨ましい。
超能力を持ってない一般人ならなおさらだ。
「国語の課題やったか?」
「うわっ、忘れてた!」
こいつはまた何回も忘れやがって……
「凪のノート見せてー」
「却下」
「ひどいよー」
毎朝こんなやり取り、放課後とかにブザーが鳴ったかの確認、なったのなら超能力か黒服かの確認、最後に大きな怪我とかはしていないかの確認だ。なにもないならそれに越しなことはない。何かあったのならそれに対して相応の対処をとるようにと4人で決めた。
そして何があっても裏切らないでくれ、と。
昼休み・屋上
「で、この1週間での戦闘記録はこんな感じだね」
小雪先輩が記録票を出す、僕たちの携帯のブザーデータを読み取って学校の印刷機を使ってわかりやすく記録にしてもらっている。
これで誰が一番狙われていて誰が一番危険だと思われているかの確認をする、ちなみのこの1週間での戦闘回数で一番多いのが僕の7回。
次に大我の5回、奏が4回で小雪先輩が1回。そのうち超能力を相手にした回数は僕が2回で大我が1回、あの時すべての超能力者にブザーが鳴ったのかはわからないが多分場数だけなら僕たちより確実に踏んでいる相手が1人いたところを見ると運が悪ければ戦闘力皆無の小雪先輩に超能力者が回ってくる確率がある。
「どうしようか、やっぱりまた固まって動く?」
「でもそれじゃ私たち自由に行動できないよね、それは嫌だな」
「じゃあやっぱり悪い相手と当たらないことを願うしかないかもな」
「いや、俺のことを心配していってくれるのなら別にいいよ、少しずつだけなんだけどこの能力でも戦えるようになったんだ」
「どうするんですか?」
当たり前の問いに先輩は淡々と答えてくれた。先輩の考えた戦法は敵は確実に携帯とかの機械を持っているからそれを上手く暴発させることで少しダメージを与えられるらしいしその電話があった日から家で自作した小さな持ち運び用の爆弾を携帯しているらしい。先輩の能力以外では爆発しないようになっているらしく自分のタイミングで爆発させることができるから使い勝手が良くて便利だと言っている。
「それは便利ですね」
「でしょ、それにこの前気づいたんだけど携帯の電波の強度を上手く操れば金属とかも多少だけど動させるみたいなんだ。多分もっと強い電波を発するものがあったら稲妻とかできるかも」
自分の能力に芽生える可能性を楽しそうに話す先輩は、新しい遊び道具を得た子供のように無邪気だった。
ガチャ
「あなた達、今すぐ生徒指導室に来なさい」
急に屋上の扉が開き女の人の声がする。振り向くと長い黒髪を風にまかせるように揺らしている制服を着た女子生徒が立っていた、そしてその顔立ちに僕はある女の子の面影を大きく感じた。
「涙?」
彼女の名前は日番谷涙、僕と同じ孤児院で育った子で昔から真面目を絵に描いたような性格をしていて顔も体もレベルが高いせいで孤児院ではよく男子の好きな子ランキング不動の1位にだった。
中学では別々のところに行って僕も孤児院を出て一人暮らしをしていたからずっと会ってなかった。
「4人は屋上の無断使用の反省文、国枝先輩はコピー機の無断使用の反省文も書いてもらいます」
「あー、ばれてたか」
「てか屋上って言っちゃダメだったの?」
「入学式で聞いてなかったんですか?」
「えー、知らなかったよー!」
「ばれたならしょうがないだろ、書くもん書くぞ。それにしても……久しぶりだな涙、まさか同じ高校受験していたとは思はなかった」
懐かしい人との出会いは意外と嬉しいものだと思う、中学でみんな別れたから誰もいないと思っていたんだけど。
「私はずっと気づいてましたよ、ただいつも話しかけようとするタイミングでどこかにいなくなっていたので」
「そんで探し回った結果、屋上にいたわけか」
「そういうことです」
ずいぶん探したんだろうな、こいつが学校中歩き回ってる姿が目に浮かぶ。昔から遠足とかで迷子になった人は何時間も探し回ってたくらいだからな。
「ねー、涙ちゃんこれ何枚書けばいいの?私もう頭が沸騰しそう」
「400字詰め原稿用紙3枚は最低でも書いてもらいます」
「俺、国語苦手なんだよね。さすがに作文はきっついわ」
大我も苦戦してるみたいだ。
「そんなこというな、俺は最低でも400×6枚だ」
涙の冷たい視線が注がれる中すでにやつれてきている先輩をみてみんな苦笑していた。
放課後の6時過ぎ、やっと反省文を書き終えて奏と帰り道を歩いていると、
ピー
と例のブザーが鳴った。
「……ッ!」
2人が背中合わせで身構える、どこから襲ってくるかわからない敵に対して一瞬の遅れも許されない状況が続いている僕たちは常に警戒を怠らないようにしている。
まずは奏のソナー、ブザーが鳴る時や黒服は近くの通行人を装っているか隠れていることが多い、今は通行人が1人もいない、隠れていればソナーで位置がわかる。
「凪、今回の敵……黒服じゃない!」
上から気配を感じて2人とも向いている方向に跳ぶ、間一髪かわして敵であろう超能力者が落ちたであろう位置に目をやるとそこに立っていたのは見覚えのある黒髪の女の子。
「あなたが敵とはね……」
「久々に会ったんだから仲良くしてくれよ、涙」
「それは無理ね」
涙はダッシュで僕の方へ走ってくる、この速度、さっきの蹴りの威力から見てあいつの能力は肉体強化系だ。見た目があまり変わってないけど筋力は数倍以上あるはず。
「うおっ」
これまた間一髪避ける、速いと言ってもまだ反応できるレベル、能力はできる事なら使いたくない。
「なんで能力を使わないの?」
「使いたくないから」
涙の問いに簡潔に答える。
「死んでも知らないわよ」
「お前に殺されてたまるか」
それから何度も拳を僕に突きつけてきた、避けられないけど疲労がたまる、これはちょっとやばいかもしれない。
不意に足払いをかけられた、腕の動きばかりに注意していて下を見ていなかったせいだ、当てられるっ!
「はあっ!」
ボン!と音がして何にもあたっていない涙が吹き飛んだ。いや、当たっている。
目に見えない物理攻撃に……
「なんで私のことを忘れているのかな?」
※※※※※※※※※※※
私は足払いで体制を崩した凪が殴られそうになった瞬間衝撃波を使って涙ちゃんを吹き飛ばした。凪には悪いけど私は凪が殴られる姿なんて見たくない。
「なんで私のことを忘れているのかな?」
能力を使うために眼鏡を外すから目は見えない。ぼんやりと、ピントの合っていない上にすごくぶれているカメラのように見えない。
小学校の頃からかな?遠くのものが上手く見えなくなっていた。
視力検査でもいい結果がでなくなってきて、先生に席替えでも前の席に来るように言われて、近くも見えなくなってしまったからお母さんが眼鏡を買いましょうって言ってくれた。
ずっと言えなかった。見えなくなったのは文字や写真みたいな立体的じゃないものだけだって、他の友達とか先生は全部見えてたって。
『見えるはずのない場所でも見える』それが私が生まれもった能力だ。
最初は便利だと思ってた、友達とかくれんぼしてる時もすぐに見つけられるし、指を鳴らしたら消しゴムや鉛筆が飛んでいくんだもん。でもその『便利な能力』は使い方を変えるだけで『忌々しい能力』に変化した。
クラスメイトが1人入院した。
私の目が上手く見えないのを馬鹿にしてきて、かばってくれた友達を蹴とばしたんだ。やり返そうと思って、小学生が使うような言葉じゃないけど、敵だって言って階段を下りているそのクラスメイトを影から能力で落とした。それで怪我をしてしまったクラスメイトを見てこの力が怖くなって、ずっと『感じないように』精一杯我慢してた。
あれから1ヶ月くらいで経った時にお母さんが眼鏡を買ってくれたんだ。
眼鏡をかけたら見えなくなった、指を鳴らしても鉛筆は浮かないし後ろにいる子がなにをしているかもわからなくなってかくれんぼも格段に弱くなってしまった。それが嬉しかった、やっと普通になる方法が見つかったって思えて、眼鏡をかけてる間はすごく安心できて嬉しかった。
高校の入学式に失くしてしまって、能力で探しても人が多すぎてわからなかった時、私の宝物を見つけてくれた彼を好きになってしまったのかもしれない。急ぎ過ぎて顔が見えなかったけど、次にクラスで会った時雰囲気ですぐにわかったんだ。
「あの時の人は、この人だ」って。
だから許さない。今目の前にいるのが好きな人の旧友でも、久しぶりにあったと喜んでいる人でも、傷つけることを私は許さない!
「邪魔をするなぁぁぁぁぁ!」
彼女が全力で私の方へ走ってくるのがわかる、たぶん直線的に殴りに来ているのだろう。なら対処は簡単だ。
同等かそれ以上の力をぶつけるだけ。
「はあぁ!」
「うおおぉ!」
ドゴンと大きな音がする、どうやらうまく相殺で来たみたいだ。彼女がどこに行ったのかすぐソナーで探す。
動きが早いからすぐに移動しているはず、後ろか!真後ろに広範囲の衝撃波を放つ、範囲の狭い波動を当てるにはかなり細かい場所の特定が必要だけどこれなら動きを止める程度だけど早く撃てる。
「ううっ!」
相手の動きが止まった、次はしっかりと場所を特定して……
「がはっ」
動きが止まったはずなのに、重いパンチが私の横腹を抉った。
近くの公園まで吹き飛ばされてベンチに激突する。肉体強化系の能力者はこんなに強いのかと思い知らされる、でも諦めない!
「どこにいる!?」
ソナーを使って探す、発見した時いたのは真後ろだった。
「どんだけ、速いの!」
足で地面を蹴って衝撃波を地震にする。規模は小さいけどこれならバランスが崩れるはずだ。
「あなたの弱点を見つけた」
バランスを崩して動けないと思っていたのに、寸前でジャンプしてかわされていた。
「あなた、目が見えないうえに探す能力と攻撃する能力が同時に使えないのね」
「えっ……?」
一瞬の沈黙の後、私は公園の遊具の前で倒れていた。