15話:狙われた二人
あの会話の後、僕と奏は自分の家に行くために別れ順調に帰路についていた。僕の家はあと50mほど先にあって当たり前のように道を歩き、これから晩御飯の準備とかいろいろ考えていたのに、今は頭の中に考えていることは一つだけだった。
――『殺されてはいけない』
「くっそなんなんだよ急に!」
「お前あいつから聞いてんだろ? 殺しに来たんだよ少年!!」
僕は襲われている、見た目はちょっとチャラ目の30代のおっさんのような奴だ。金髪でアロハシャツに半ズボン、靴はサンダルなのにかなり軽快にジャンプを繰りかえいて僕を追い詰めてくる。能力でこんな身体能力を有しているのか、それともまだ使ってないのかもしれない。とりあえず今は戦えるような場所ではないから少しでも開けていて人のいない場所まで……!
「もしかして人のいないところまで逃げようとしてる? ダメだよそんなこと気にしちゃ」
いつの間にか僕の目の前に回り込んでいたアロハ男が懐からお札のような長方形の紙を取り出す、でもその紙はあきらかにおかしかった。
かなりの風が吹いているのに、まったく動かず鉄のように形を保っている。
「そおらっ!」
「うわっと」
紙が僕の頬を掠めて後ろの塀に当たる。驚くことにその紙は塀に突き刺さっていた、が数秒後元の紙のようにしなって風の影響でなびいていた。
「どんな能力だよ、紙が刺さるところなんて初めて見たぞ……」
「はっはっは、フェアに行こうぜ少年。俺は君の能力も見ていないのに教えると思うかい?」
「まあ、そうだね!」
なら見せてやるよ、僕の能力を。まあ、目がついてくればの話だけどね!
一気に後ろへ回り込む、全く反応できていないし人としての弱点ががら空きだ。僕は拳を思いっきり握りこんで後頭部と首の間を思いっきり殴った。
ガァン!
「……っ! 痛ってぇぇなんだこれ!?」
まるでコンクリートを殴ったみたいだ、本気でいったのにびくともしないしこっちの拳が壊れてしまいそうだった、見た目そんなに筋肉があるようにも見えないのになんて強度だ、もしかして涙みたいな体質なんじゃ……いや違うな。この人は身体能力こそ高いけど殴って自分が弾かれるような筋肉をつけるなんていくらなんでも無理だ。最低でも身体能力を向上させる能力じゃないとダメだしこのアロハ男の能力は紙を使ってた。
僕はもう一度能力で後退し、冷静になって考える。体が異常な硬度を持っていてさっきの紙も形、色、材質まで全部しっかりと紙だったのになんで塀に刺さるほど硬かったのか……体も紙も硬かった? そうか!
「お前の能力は『硬化』か……」
「ピンポーン! でもちょっち気づくの遅いんじゃないかなー? あまり能力者相手にしたこと無いんだろうね、もっと能力分析は早くしないと。俺のチームのやつなんて能力使ってないのにで紙だした瞬間気づいた奴いたぜ」
はっはっは、と笑えない過去話を聞かせてくる。
こいつらあの時あいつが言ってたチームの1つか、じゃあもしかしたら奏とかが襲われてるかもしれないじゃないか! 早くこいつを倒して……
「感情が顔に出過ぎだよ少年、安心しろお仲間たちに手は出していないさ」
「証拠は?」
「俺が興味蔭位で君に手を出しているということ、実際君の能力相手にしても俺は勝てない」
確かに高速で動き続けて硬化していないタイミングで攻撃を浴びせれば簡単に倒せるわけだけど、じゃあなんで興味だけで自分のチームに不利になるようなことをするんだこいつは?
「俺んとこのチームはさぁ、団結なんてまったくしてないのよ」
硬化した紙や玉などを投げながら話しかけてくる。僕もそれを避けつつその言葉を耳に入れていた。
「だから標的は同じだけど作戦もないしやりたいって思った奴とやってるだけ、それが被ったらどっちがやるかチーム内で殺し合いだよ。現に6人いたチームのうちもう2人死んでる」
「なっ……」
その言葉を聞いて絶句する。まさか自分たちのチーム内でさえも殺し合いをする奴がいるだなんて、こいつらは危なすぎる。
「おっと、お怒りのようだが俺は一人も殺してねえぜ? まあたまたま標的が違うだけなんだけどな!」
アロハ野郎が喋りながら高速で突っ込んでくる、振りかぶった右腕は多分硬化されていて食らったらひとたまりもないだろう。ならざ避ける。
「遅い!」
「うお、また消えたな少年。どんな能力だいそりゃ?」
「自分で考えろよ、偉そうにお仲間自慢してないでな」
これはさっき偉そうに言われた仕返しだ。
「ははっ、いくら負けるとわかっててもそこまで言われちゃ腹が立つ、これでも俺は沸点は高い方なのにな。少年、お前は人を怒らせるのが得意なのか?」
半笑い状態で喋りかけてくる、ただそれは笑顔ではなく完全な怒りだ。そろそろちゃんと戦わないと危ないかもしれない。
「そら避けろっ!!」
また懐の紙を硬化して投げてくる、今度は能力なしで避けて様子を見る。
この攻撃はわかっていれば避けられる、あとは不意打ちや隠している武器が無ければ問題ないだろう、まあ十中八九こういうやつはもっているのだろうけど。
「早く決めないとな……いくらお前が独断でも僕の友達が襲われない保証はないはずだ」
「おおーよく気付いたな、でもそんな簡単に負ける気はないぜ?」
「いや、お前はもう負けてるんだよ」
アロハ野郎が喋り終えた時には、もう僕は奴の背後をとっていた。発動させる暇はやらない、そもそも僕の速度についてくるスピードで発動条件を満たすことはできない。
自分の能力が切れた瞬間後ろ回し蹴りを後頭部に決めてやった。
「うっ……やっぱ強いわなぁ、少……ね……」
バタッと音がしてアロハ野郎が崩れ落ちる、気絶した体を塀と塀の間にある見えにくい場所に隠して僕はみんながいそうな所へ向かった。
ー同時刻ー
私の前に黒いローブを着た男が現れた。体の中から体以上の大きさのある鎌を出して首を刈り取るように横に薙ぐ。一瞬何が起こったかわからなかったがすぐに理解することが出来た。
「わわっ!?」
体を某有名映画のように反らして鎌を避ける。間一髪で前髪が少し切れたけど、あと一歩遅かったら首が飛んでいたところだ。
「あれ、今絶対あたっと思ったのになー」
ローブの男は鎌を肩にかけながら不満気な声を漏らした。
――私は今、殺されそうになっている。
「誰? って聞いたら答えてくれる?」
「答えてほしいなら」
「お願い」
全く気持ちがこもってはいないけど頼んで教えてくれるなら頼んだほうがいいと思う。だって何も知らない人に殺されそうになった挙句殺されちゃったりしたらどうにも浮かばれないしね。
「僕はね、君を殺したいだけの男だよ」
「答えになってないよ、ローブさん」
ローブの男の顔は見えない、たぶん笑っているんだろうけどね。そう感じている私も笑っている。だって緊張してるし、急に来て殺しに来たなんて展開普通じゃありえないもんね。
「さあ死んでよ、僕のために!」
またどこから取り出したのか次は銃を持ってる、でも銃なんて私には効かない!
「やっ!!」
撃ってきた銃弾をすべて衝撃波の壁で受け止めて攻撃に移る。真っ直ぐにしか飛んでこない銃弾を止めるなんて簡単すぎるよ?
とはいったもののあっちの能力がわからないと対処ができないのは事実だから不利かも……たぶんあのローブは私のこと調べているだろうからわかっているんだろうし早くあの能力を見分けないと。
「死ね死ね死ね!」
何度もはじき返しているけどなおも諦めていないのかそれしか攻撃ができないのか銃を撃ち続けてくる。さすがに能力者でずっと戦い続けてきたならもっと機転が利くはずだけど。
「あったんねぇ~、じゃあこっちならあたるかな~?」
「うぇ!?」
ローブの人が出したのは、てかどっから出したのか本当にわからないけど出てきたのはローブの人よりもはるかに大きなミサイルのようなもの。
隠しておこうと思って隠せるようなものではない!
「おらっ!」
「それは、危ないよっ!?」
自分の体を衝撃波で弾いて回避する。あんなもの弾いたり受け止めようとしたら爆発してひとたまりもない。
「なんだよこれも当んないじゃん、もしかして遠距離は無理か?」
次から次へと武器が出てくる、しかも次に私が感知したものは刀だ。しかも出てきたのは口の中から――
「えっ……!?」
「おっと、目が見えないからすぐに出せばばれないと思ってたけど気づいちゃったかな。これが俺の能力、『ウェポン』だ、俺が見たことがある武器なら自由に体から出すことができる、しかも俺は元軍人でな、銃やらナイフやらいろんな武器の扱いを知ってるんだ」
「うぅ、これはどうしようかな……」
まだ希望がないことはないけど近づいたりとかは怖いなぁ、とりあえず様子を見て攻撃をしないと。
「ほら行くぜぇぇぇぇぇ!」
きれいに振り回してくる刀を避けたり弾いたりしながら後ろに下がる。よし、これなら勝てる!
一度後ろに大きく下がって場所と武器を確認するために索敵をする、場所は正面のままで刀しか持ってない。今だ!
「やああぁ!」
「ぬあ、ぐおおっ!?」
正面から一撃、普通の人なら立っていられない威力だしローブの人は絶対に立っていられないはずだ。
なぜなら、あの人は能力以外は人と変わらないから。元軍人だから多少は鍛えてあるだろうけど衝撃波だなんて人生で体験するほうが珍しい攻撃の対処法なんて知ってるはずないし不意に当たればダメージは普通より大きいはずだ。
「ぐ、うおお……」
「よし、私の勝ちだね!」
目の前で満面の笑みでそう言ってやった、あっちはもう立ち上がる気力もないのかその笑った私の顔だけを見ると少し悔しそうな顔をして気を失った。
実際今まだたたかった人の中では二番目に手強かったけど、やっぱり一番目には敵わないかなぁ。
――だって一番手強いのは涙ちゃんだからね。
そんなことを考えながら人の少なかった場所を出て少し目立つかもしれない埃と火薬の臭いがする制服を隠すように走って家まで帰った。