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AnotherWalker  作者: 数多ノつるぎ
14/17

13話:小さな事件も平穏の中で

 あの施設事件から三日経った。

 バトルの方も音沙汰なく僕たちは怪我をした体を治療して少し懐かしく感じる学校へ行った。僕はいつもの平穏な日常に戻りいつも通りの静かな学校でゆっくりとしていた。奏もいつも通りに話しかけてきて先輩や涙とも屋上で昼にご飯を食べたりとあの強盗事件と施設事件の間くらいのちょっといた普通の日常に戻ったのだけど……

 2つほど今までとは違う小さな事件と大きな事件が起きていた。

 1つは学校の僕の教室に、貴女が転校してきたことだ。見た目が完全に中学生で身元もまったくわからないあの貴女をどうやって学校に入れたのかと先輩に聞くと。

「学校のデータに俺の従妹としてデータを入れて涙に資料とか作ってもらった」と言っていてかなり驚いた。先輩の能力はある意味どこまでも何でもアリなようだ。でもこれで近くで貴女の様子も見ることができるし先輩が学校に行こうとすると1人が寂しいようでまともに学校に行けなかったと言っていたから安心だろう。

 これが小さな事件の方だ。

 一歩大きな事件は、大我のことだ。

 カメレオンの少女と鬼になった大我が戦っているところを多くの町の人に見られ動画や写真をネットにアップロードされているらしく大我はどうにも外に出れない状況で今は治療中の姉、水妖の栞奈と一緒に鈴蘭の丘で見守っているらしい。

 僕の携帯には栞奈の治療が済んで事態が収縮したらまた学校に行こうと思うと連絡が入っていた。だけど鬼である姿を見られ町の人に恐怖と興味を植え付けたことをかなり悔やんでいるらしく心の整理がつくまで表には出てこれないと思う。ただみんなが無事でよかった。と僕は思っている。

 あの被検体になった子供たちは全員鈴蘭の丘に引き取られ暴走しないよう能力に枷をつけておいたから大丈夫だと院長に言われたのでそっちの方は当分安心だと思う。

 あの時出会った朽木はあまり動向はつかめていないけど超能力者の暴力団をやめて今はその能力を有効に使おうと不可解な超能力者の事件を扱う課を希望して警察学校に入ったらしい。あんな立場からどうやって入ったのかわからないがもしかしたらバトルを作ったあいつが手を回したのかもしれない。


「凪ー、次の時間体育だよ。行かないと!」

「わかってる、もうちょっとゆっくりしたっていいだろ奏」

「そうだね」

 奏は笑ってそう言う。

 僕も少し微笑んで返す。僕らの関係は前よりも大きく変わった、誰にも言っていないし涙や先輩くらいにしか報告していない(貴女にも言ったけど理解できていなかった)けど、僕はあれから少し経った後奏が僕の怪我を治療しながら

「1人でこんなに無茶するからだよ、私がこれからずっと一緒にいてあげるから!一緒に戦うからもうこんな怪我しないで!」と言ってきて僕がそんな心配するなよというと、小さな声で「だって……大好きな人だもん」と涙をこらえながら呟いたので

「じゃあ、ずっと一緒に戦ってくれよ」と僕から言う形になってしまったけど、今では僕と奏は交際関係、つまり彼氏彼女という僕がまったく人生で考えていなかった関係になった。

 別に何が変わっとたとかそんなことはないんだけど、僕はこの子の彼氏として、心配をかけないように、そして絶対に守らなければいけないという信念が生まれた。

「あっ、凪が笑ったー!」

「僕だって笑うことくらいあるよ」

 でもやっぱり慣れてないせいかちょっと恥ずかしい気分にもなるかな。まあ、楽しいからいいけどね。


 そして昼、大我を抜いたいつものメンバーでご飯を食べていると最近聴いていなかったあのブザーが鳴った。

「なんだよ急に……」

 いい気分を阻害してきたのでちょっと怒り気味に言うと

『ごめんごめん、でも学生の君たちと通話する気かが今しかなくてね』

「できることなら一生こんな機会ないといいけどな」

『そんなこと言わないでよ、今回はいい知らせがあるんだ』

 いい知らせ? こいつから通話が来ていいことがあったことなんて1つもない。散々僕たちを殺しに来たやつがいまさら何を。

『バトルのことで黒服や僕の雇った能力者と戦って勝ったのは君たちのグループが一番能力値や戦い方の成績もベスト5に入る実力だったんだ、だから賞品として1つだけ君たちのお願いをできる限りなんでも聞いてあげよう!』

 なんだ意外と気前のいい奴だな、なら僕の願いは決まってる。

「ネットに流出した大我の写真や画像、他にも端末に保存されてるあの時のバトルの映像とかをすべてをけしてくれないか?」

 消してくれないか?と聞いたがその言葉の裏には僕らの電話番号や動向をすべてチェックしているお前にできないだろう?という意味が込められている。

『へえ、そんなことでいいのか。じゃあ10分くらいで全部やっちゃうよ!』

 通話の奥からなにかの機械を使っている音が聞こえる、どうやらかなり簡単にできるようだ。

『ほかの3人のお願いは?』

 ほかの3人というのは奏と先輩と大我のことだろう。

「じゃあ私は……わかんないから思いつくまで待ってもらっていい?」

『OKだ、決まったらいつでも連絡をくれるといい。連絡先は君の家に届けておこう』

 この答えは奏らしいな。一方先輩はちょっと考えた後こう言った。

「このバトルを終わらせる、ということができるかい?」

 この答えは考えていなかった。確かにできる限りの願いをかなえるのならバトルを作ったこいつにこれはできるはずだ。

『おお、いい所を突いてきたね。じゃあこのバトルは終わらせてあげよう、もう僕から刺客は送らない』

 まさか聞いてくれるとはな、けっこう意外だった。

『でもバトルに参加したグループの血の気の多い人たちが狙いに行くかもしれ無い、だからこのデータを送っておくよ。この人たちには十分気をつけることだ。あ、あと凪くんと奏ちゃん付き合ってるんだってーいいねえ若いって!』

 そう言い残して通話が切れ最後にメールが送られてきた。ていうかなんでそんなことまで知ってるんだあいつは! ぶん殴ってやりたいと思ったがそこは我慢してメールを開く。

 そのメールにはベスト5のグループの顔と名前だけが書いてあり能力は明かされていないようだった。あいつはバトルを終わらせた後も僕たちのバトルを楽しむようだ。

「まあ黒服が来なくなっただけマシかもな」

「そうだね、でももしかしたら私たちよりも強い人たちがいるのかーどうしよう」

「簡単です。向かってきた奴から薙ぎ倒せばいいんですよ」

 凛とした顔で自作の弁当を食べながら涙が言った。簡単に言ってくれるよ本当に、僕の能力でさえ万能の能力ではないっていうのに。

「まあ、こいつらがくるまでいつもの平穏な毎日が続くんだ。それだけでもいいじゃないか」

「そうだな凪、今はこの普通に日々を楽しもう」

 その先輩の言葉を最後に昼の終わりを告げるチャイムが鳴った。


 そして放課後。

「なんで着いてくるんですか? あなた達の帰り道は逆でしょう」

 僕たちは大我や子供たちの様子を見るために鈴蘭の丘に向かっていた。

「いいじゃないか涙、少しでも早く行きたいんだ」

「でも寄り道はあまり許されません。一度帰ってから来た方が……」

「あの時の僕たちへの暴力行為はいいのか?」

 これはルールに厳しい涙を黙らせる魔法の言葉だ。学校の優等生でいまのように寄り道にすら厳しい涙がバトルの命令とはいえ僕たちに殴りかかってきた上に奏に重傷を負わせたのだからかなり反省している。

「うっ……それは、あの……あれはしょうがないんですよ! だって私にも事情があって……」

 涙が苦し紛れの言い訳をゴニョゴニョと言っているが途中で押し黙って僕たちの前をトコトコと歩いて行った。諦めたんだろうな。

「じゃあ行くか」

 後ろから奏と先輩と貴女の3人が走って追いかけてくる、僕が説得するまで後ろの方で待っていたようだ。別になにもしなければ危なくはないけどみんなまだあの能力の警戒が解けないようだ、貴女に至っては野生の勘に近いもので涙をかなり避けているみたいだし。

 そういえばこいつはバトルのことでなにか大事な情報があるから戦っていたと言っていたな、それはなんなんだろう。

「涙、お前はバトルの報酬が欲しいんじゃなかったのか?」

「あれはもう諦めた」

 なんでだ? あの時は命よりも大事だと豪語していたというのに。

「もうこの際だから話そう、あの情報というのは私とお前の親のことだったんだ」

 その言葉を聞いて絶句する。僕たちの親は全く情報がつかめずもしかしたらもう死んでいるから諦めなさいと院長からも言われていたのに……その情報をあいつは持っていたのというのか!?

「なにか……わかってるのか?」

「私はバトルで3回勝っている、そのうち手に入れたのはお前の母親と私の父親のことだけだ」

 じゃあ涙は、せっかく自分の家族を知るチャンスを1つ僕のために作ってくれたって言うのか、いつまでも僕の幼馴染は人思いだな。

「教えてくれるか?」

「ああ、お前の母親は出産直後に死んだらしい、出血多量でもなく健康体だったらしいが、なにかを悟るように父親になにかを伝えるような目をして死んでしまったらしい」

「涙の父親は?」

「私の父は生まれてすぐの私を鈴蘭の丘に身元を隠したまま預け、遠くの国で暴動に巻き込まれ最後には暴動者全員からその国の市民たちを守ろうとして死んだ。私はそれを無駄ではなく、名誉のある死だと思っている。父も能力者で決して強くはなかったがそれでも守れる人は守るという信念の元生きたんだ、私はその意志を受け継ごうということをその時誓った」

「いい……父親だったんだな」

「ああ、顔も覚えていないが、自分の中にその男の血が流れていると考えたら誇りに思える」

 そう話しているうちに鈴蘭の丘に着いた。


「院長、ただいまです」

「おかえり涙、あらあなた達いらっしゃい」

「どうも院長、大我や子供たちはどうしてます?」

「子供たちはすっごく元気よ。枷のせいで多少体に負荷があるけど少しずつ能力に体が適応している子もいるからあと半年は経てば普通に稼無しで過ごせるようになると思うわ」

「それはよかった、栞奈は大丈夫ですか?」

「ええ、昨日の夜に意識が戻ってね。大我くんが大泣きしているのが院長室まで聞こえてきたわよ」

 あの大我も大泣きするんだな、でも行方不明だった実の姉が戻ってきてくれたんだ。家族がいることほど嬉しいことはない。

「あ、凪だー!」

「本当だ! 凪兄ちゃーん」

 孤児院の子供たちが僕を見るなり颯爽と走ってくる。どうも僕はここの子供たちには好かれているようで、まだ慣れないけど自然と笑顔になれる。

「貴女、大丈夫だった? 学校はどう?」

「すごく楽しいよ楓ちゃん、みんなも早く来れるといいね」

「うん!」

 貴女もあの施設の時の友達とうまくやっているようだ。あの子は確か、蛇の子だったかな。

「小雪さん、貴女と一緒に住んでるって言ってたけど何も変なことしてませんよね?」

「う、うん大丈夫だよ。貴女は俺がしっかり守るから」

 先輩が不意を突かれたようにちょっと挙動不審になっている。あの感じじゃたぶん風呂に入ってる時に貴女にでも入ってこられたかな。あるいは貴女に誘われて断ったらすねてしまって先輩の方が折れてしまった感じだろう。

「貴女、なにかあったら言いに来るんだよ」

「大丈夫だよ、小雪は優しいもの。昨日も綺麗に髪を洗ってくれたんだよ」

 ここで貴女が完全暴露。これは先輩の分がかなり悪い、さっさと白旗あげて謝った方がいいと思うけど。

「小雪さん、貴女と一緒にお風呂入ったんですか?」

 楓ちゃん、笑ってるけど後ろに蛇の顔が見えそうなほど覇気が出てるな。

「ち、違う! あれは貴女に頼まれて断ったらずっと押入れから出てこなくなったから仕方なくだよ」

「もう貴女、お風呂くらい1人で入らないとダメでしょ」

「うん……でも楓ちゃんも1回洗ってもらいなよ。すごく綺麗になるよ」

「私がいいよ、自分で洗えるから」

 そう言って言うるけどちょっと動揺してるな、あの子は貴女にすごく弱いみたいだ。けっこう目が泳いでるし。

「うー……絶対いいのに」

 それから約2秒。

「あ……貴女がそこまで言うなら、1回くらいならいいけど」

 上目で見つめるに貴女に折れたようだ。

「ちょっとまて! 誰も俺の被害を考えていないのか!?」

 どうやら孤児院の子たちと一番上手くやれそうなのは先輩みたいだ。ほとんどが先輩と貴女の近くに集まって楽しそうに笑っている。

「じゃあ僕たちは大我に会いに行くか」

「そうだね」

 そうして僕と奏は2人並んで、大我と栞奈がいる奥の治療室に歩いて行った。

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