11話:蜘蛛の少女
これは施設と呼んでいいものなのだろうか?
携帯のGPSにも町の地図にもどこにも載っていない場所にある機械的な残骸が多く転がる一個の町のような場所の前に僕たちは立っていた。
ただ建物があるわけではなくそこには家のようなもの、公園のようなものが点在していた。
「これは……とりあえず2人に連絡をとって来ます」
あまりの動揺に僕はなにを言おうとしたかもわからなくなり町のほうにいる奏と大我に連絡をとってみることにした。
「もしもし?」
『もしもし凪、そっちに被検体の子はいた?』
「え、ああ1人いたよ」
『じゃあこれでわかってる人数は全部だよ、よかった』
「それより今から僕がいる場所を送るからそこまで来てくれ、おそらく僕たち3人じゃ難しそうだ」
『わかった、大我も大丈夫? ああ、もう大丈夫だ』
通話の中で2人の会話が聞き取れる。どうやら2人とも無事だったようだ、とりあえず2人に連絡は取れた。 今は2人がくるまでこの辺で待機して一応被検体の子がいないかの捜索だけをしよう。
「先輩、貴女の腕輪は使えますか?」
「うん、使えるよ。でもどうしたの?」
「さっき思い出したんですけどこの腕輪ってレーダーて近辺の能力者を察知できるんですよね。それなら念のための警戒でつけておいた方がいいと思いまして」
先輩が「その手があったか」と言わんばかりに大きく手をポンと打つ。するとすぐに貴女を呼んできて腕輪を起動させてレーダー機能を使った。
現状は僕たち以外の人はどこにもいないようだけどこのレーダーは索敵範囲が狭い。もし遠距離から攻撃が出来るタイプの能力者がいたらかなり危ないだろう。遠くへの警戒は怠れない。
ピー……
遠くへと目を向けどこにも怪しいはかげはないと確認したところで僕と先輩の携帯が不意に鳴る。これは前から続いている能力者対黒服、あるいは能力者対能力者のバトル合図になるものだ。この周辺には誰もいなかったから黒服かと思ったが。
「ハロー、僕ちん参上!」
あきらかに黒服とは違うチャラい口調の見た目もチャラいアロハシャツ野郎が岩陰から出てきた。
「能力者か、めんどくさいな」
「ごめんそれちょっと傷つく、でもそういう文句はうちんとこのボスに言ってもらいたいなー」
チャラ男がそういうと僕の携帯が鳴り電話に出たらあの時バトル宣言をしてきた男の声が流れてきた。
『ハロハロー、今日は僕が直々に組織のお金を使って能力者を雇ってみました。どうどう強そう?』
「まったく、弱そうだ」
『えー僕的にはけっこういい子雇ったと思ったんだけどね。その子のお名前は朽木征四郎超能力を併用した暴力事件を起こす集団のリーダー格の男だよ』
「なんだそれ、違う意味でも倒さないといけないな」
『そーだよ、僕もその考えも交えて雇ったから』
つまりこいつは俺よりも弱いってことか、それか俺たち3人が一斉に戦えば勝てる相手ってことか?どっちにしても勝たないとダメなんだけどな。
携帯を切って朽木と対峙する。まずどんな能力を使うのか知る必要もないけど、もし僕の能力に対抗できるような能力では確実に不意を突かれてしまう。見極められるものは見極めておくのがいい。
「こいよ」
「お、僕ちんが先手とってもいいんだ、じゃあ先手必勝くらえ!!」
朽木の手から細長いレーザーのようなものが放射される。
「うおっ」
速度はかなりあって会話なしで不意に撃たれていたら確実に当たってしまっただろう、だけどもうあいつの能力はわかった。あの能力は僕にはついてこれない!
ビシュッ
「え……?」
立ち上がろうとした僕の脚を、レーザーが焼き切って抉れていた。
「う、うわあああああああ!」
なんだこれは、避けたはずなのになんで後ろから?レーザーはただ熱を凝縮しただけで折れ曲がったり反射したりなんて……
「あっはっは、君は頭が固すぎるんだよ!超能力だなんて常識から外れたものが撃ちだす物質が常識通りに行くと思うか?」
確かにそうだ、超能力バトルにおいて一番やってはいけないことなのかもしれない。常識なんかかなぐり捨てて目の前の敵を倒すことだけに集中しろ!
「次は足が無くなっちゃうよーん!」
撃ってきたレーザーを能力を使ってかわす。歩けないほどでないけど抉れた僕の足は治療をしないとまともに運動が出来ない。多分一部の筋肉が焼き切れて動かなくもなってるだろう、とりあえずこの能力が持続ているうちに服を破って包帯の代わりに巻こう。
「あり?いつのまにそんなところにいたの、それにいつのまに包帯巻いちゃったんだよ」
「まあ、こういう能力だからね」
僕が意地張り気味に言うと
「ずるいなー、僕ちんもそんな日常的にも使えるような能力だったらなー。ずるいなー」
朽木の顔から光が消え両手から無数のレーザーが撃ちだされた。こいつ、こんなこともできるのかよ。
「移動だけじゃなくて包帯巻いたってことはワープじゃないよね、高速移動だよね?なら隙間なくせば当たるじゃん」
なんだよこいつ、さっきまでチャラチャラやってると思ったら急に本気になりやがって、しかも頭の回転は速いし暴力団だというせいか行動を簡単に非人道的な行動に感情もなくできる。
「凪くん、後ろに下がって!」
瞬間僕と朽木の間に何か小さな物体が投げ込まれた。それをみてすぐそれが何か理解した僕は能力を発動してすぐさま先輩の近くまで行く。
一方朽木はそれが四角い箱のようなものにしか見えていないようでキョトンとした顔で突っ立っていた。
「なにあれ?」
瞬間。大きな光と破裂音を発してその箱は消滅した。先輩特製の小型爆弾、爆破コードスタンだ。
「あ、あああああ目が!目があああ!!」
朽木が両目を抑えてもがいている。あの至近距離でスタングレネードを凝視したらそりゃそうなるだろう。ちょっと同情はするがすぐに捕まえないと。
「どうやって捕まえれば……」
そういえば縄とかそういうものを持っていない。朽木もさすがに気絶を狙って近づけば気配で攻撃をしてくるはずだ、くそっここまでできたのに。
「安心しろ凪くん、縄ではないけどこっちには『糸』がある」
「『糸』?」
そう聞きかえすと僕の頭上を少女のような影が飛び越えその影は指先から糸を紡ぎ出しもがく朽木を綺麗に巻き上げて捕獲した。
「捕まえたよ、小雪……」
「ありがとう、貴女」
その影の正体は、人為変態能力者、モデル・スパイダーを持つ少女、東雲貴女だった。
「え、貴女って能力使って大丈夫なの?」
僕は頭の中でけっこう混乱している。確かにちゃんと順序を踏めば暴走しないとは言っていたがやっぱり使うと危ないんじゃないかって思っていたから急に額に6個の目を生やして指先から糸を出して朽木を拘束している貴女の姿をみるとなにがなんだかわからない。
「俺も止めたんだけど大丈夫だっていうからさ」
「なんだよ……できるなら言ってくれればよかったのに」
「ごめん……凪」
「いや謝る必要はないよ、こっちこそ能力を使わせるようなへまをしてごめんな」
そう言って頭をなでると僕の顔を見て小さく笑ったように見えた。なんだ、けっこうしっかりしてるじゃないか。
「おーいって誰これ!?」
「貴女ちゃん!?」
こっちまで来てくれた大我と奏が蜘蛛に姿を変えている貴女を見て驚愕する。まあこいつらも同じ反応するよな、だってあんな可愛らしい子がこんなに強そうに見えるんだ。
「ああ、貴女だ」
「そんでこのチャラい人は?」
「こいつは朽木って奴で僕たちに黒服とかを送り込んでいる張本人が雇った超能力者だ」
「勝ったの?」
「貴女のおかげでな、こいつは強いぞ」
一見しただけではどの種類の蜘蛛かはわからないけど一瞬で朽木をがんじがらめに拘束、それに能力が使えないように手のひらを朽木の顔に向けたままにするだなんてかなり能力の使い方を訓練されているんだろう。
「それで貴女ちゃんはなに蜘蛛なの?」
「え、えっと……」
「ちょっと大我、貴女ちゃん困ってるじゃない」
「だって興味あるんだもん、それにその辺知ってた方が上手く立ち回れるように指示できるだろ」
こいつは、興味があるのはいいけどこれから先貴女が戦うことが決定してるのかよ。
「なんだ、これから貴女ちゃんが戦うのかって顔してるな、大丈夫だよ。把握するだけだ、仲間に隠し事は無しだろ」
「はあ、そうだな」
こいつもこいつなりに考えていることがあるみたいだ。
「私は確か、と……トタテグモ」
トタテグモ……準絶滅危惧種の蜘蛛で特徴は名前にあるとおり地面に掘った穴の巣に戸のような蓋を作ることだ。基本の狩りはその蓋の間から周りを見て近づいた虫などを捕獲することだが、それだけのことをするだけあって糸を使うことに特化しているようだ。
「能力を使うのはいいけど無理はするなよ、基本は非戦闘員だから隠れているんだ」
先輩が貴女に注意をしている。確かに強いと言えば強い能力だけど捕獲、逃走に向いた能力ならそのために使った方がいいだろう。
「まあいい、2人ともこれが施設って奴だ」
「施設?町かと思ったけど違うんだ」
「この中にあるのか?」
「いや、これが全部施設らしい。廃墟というより廃れた町だな」
「入るのか?」
「当たり前だ」
この2人が来たから全員揃った。これでやっと中に入って薬を持ってくることができる、被検体の子供たちを助けることだ出来るんだ!
「おい待ってくれ!」
そんなときに水を差したのは蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにされた朽木だった。
「僕ちんも連れてってくれよ、こんなところで放置されたようじゃたまったもんじゃない」
「いや無理だろ、お前敵だし」
「命令されただけだ、金も貰ってるけど負けたら暴力団をやめるっていう条件だけで交渉したんだ。もう僕ちんは敵じゃない」
どうしようか、このまま放置するかそれともつれて行くか……せっかく捕まえたし殺してしまうのはさすがにもったいないし暴力団をやめるのならいいかも。
「大我、そいつを見張っていてくれ。なにか怪しいことをしたらぶん殴って構わない」
「OK!すまないな、こっちも真剣だから見張らせてもらうぞ」
そう言って大我が糸をほどいて朽木を立たせてやった。
「じゃあ行くぞ」
施設に入るとそこはつい最近まで人がいたけど急にいなくなってしまった。そんな感じの荒れ方だった。
小動物やカラスが食い物やごみを荒し、放置された公園の遊具などが錆びている。多分2週間くらい放置された感じだろう、人影も何もない。
その中に1つだけ放置されているのに綺麗な公園があった、かなり怪しい。
「先輩、この施設のマップとかはないですか?」
「うーんそういえばなかったな、何か見つけるなら自力でやらないと」
「そうですか、奏、この辺で地下が開けているような場所とその入り口とかわかるか?」
「ちょっと待ってね」
そう言って奏が眼鏡を外して目を閉じる。かなり集中していないと感じられないくらいの微弱な衝撃波が僕たちを通り越していく風のように走り、それを背後から感じた瞬間奏が目を開け。
「あそこの水道の下」
僕が思っていた通りの公園を指さしてくれた。予想通りだけどこれであの中やこの施設にまだ誰か人間がかかわっていることが解ってしまった。でもそんなことはまったく関係ない、もとから戦う気で僕はきている。
「あそこだな、行くぞ」
僕たちが足並みをそろえて公園へと向かう。水道を奏の衝撃波で吹き飛ばすとなかに公園には見合わない研究所の入口のような扉がありそれを先輩がハッキングして開ける。なかには暗くて見えないほど下に続く階段があった。
「先が見えないな、なにか光があればいいんだけど」
このメンバーにはそんな能力を持っている奴はいない、こういう時のための能力を持っている超能力者が欲しいものだがここは暗闇を進むしかないのか。
「待って待って、僕ちんが何とかしてあげるよ」
そういって朽木が暗闇に手を向けてレーザーを小さく発射した。そのレーザーは前に進み続けることなくずっと空中をゆっくりと回転するように回り続けていた。
「なんだこれは……お前の能力か?」
「そうそう、僕ちんの能力は『魔弾』っていうんだ!基本はレーザーだけど銃弾とか、そこら辺の石ころを投げたりしてそれを自分の意志で操作する能力だよ。このレーザーはけっこう光を出してくれるしいざというときのための武器や牽制にもなるから助かるんだよね」
なんか早速役に立っていることはむかつくけど今はそんなことを言っている場合ではない、優先するのはチャラいバカではなく被検体になった子供たちを助けるための薬とこの施設の情報だ。
そんな考えを頭に浮かべて、光を灯した地下の階段を僕たちはずっと進んでいった。