10話:町での問題点
凪たち3人が施設を探しに町を出たあと、俺と奏の2人は町の中で放浪する被検体の子供たちを探しに回っていた。方法は簡単でいろんなところに移動しながら奏の能力であきらかにおかしな行動をする人を見つけてそこに行ってみるだけ、貴女ちゃんがここまで放心状態で来たということはほかの子供たちも放心状態で歩き回っているのを予想したわけだし、単純だけど一番確実だろうな。
「どうだ、なんかいた?」
「いやーいろんなところ歩きまわってる人が3人くらいいたけど……目的もなく歩いてる感じじゃなかったな」
「でも一応見に行くか、一番怪しいのはどこにいる?」
「あっちのほうだよ」
奏が指を指したのは町ではあまり人気のない方の場所に建っている喫茶店があるところ、確かに普通の人が行くところじゃないけどもしかしたらいるかもって微妙なラインだ。でも可能性があるなら見に行かないとどこで暴れだすかわかったもんじゃない。
「そんなに遠くないし走るぞ」
そういって奏を掴んでいまいたマンションの屋上から電柱を伝って降りる。どうせ探すなら高いところの方がいいからとここまでわざわざ登ってきた。
「よいしょ、じゃあ走るぞ」
「うん!」
ヒューっと風が吹いている効果音があってもおかしくないようなさびれた風景が目に留まる。手入れのされていない道路に人っ子1人いない公園、俺らが小学生のころ流行った口裂け女の噂のせいで子供が寄り付かなくなってそれに続くように大人やここに住んでいる人たちも引っ越している。そこでいまだに営業を続けている喫茶店なんかに歩いていくような奴はよっぽどの変わり者、あるいはオカルト好きか喫茶店の強いリピーターだった人たちだろう。それ以外があるとすれば……あんな感じの町の噂を知らず、聞くことなくただ彷徨いつづけた腕輪をつけた子供くらいだ。
「ビンゴだ奏、よくやった!」
「私って役に立つなー」
なぜか喫茶店の方に釣られていくように歩く子供はこちらに気付いていない、臭いにでも惹きつけられているのか、それともただ目の前にあるからかわからないけどあそこの店主は一般人だ。近づけさせるわけにはいかない。
すぐに能力を発動させて後ろから首を刈り取るように跳ぶ。殺さず生かさず、確実に気を失いさせて捕獲するのが目的だ。
「……!!」
気配に気づいたかどうかわからないが子供がこちらを振り向いた、頬には獣のような体毛があり犬歯が大きく発達している。振り向きざまに人為変態を高速で済ましたようで、尾も獣耳も生え完全な獣人と化している。
「くそっ!」
不意打ちを見破られ近くの建物を蹴って少し遠くに着地すると、奏が上から「なんで先に降りちゃうのー!?」と嘆いていた。でも今は戦闘に必要なのは俺で十分、あいつには非戦闘員になってもらおう。
「さて、君のベースはなにかな?哺乳類型で特有の獣臭……犬とかなら嬉しいんだけど」
これは小雪さんが得た情報から出した子供たちの能力の分析方法で、使われる能力のベースは大体動物の哺乳類がほとんど、貴女のような節足動物の蜘蛛や昆虫は少ないらしく甲殻類や再生などの特別な能力をもっている生物は難しく少ない。そしてこの世に存在しない生物……言ってしまえば俺のような人為変態は絶対にないということだ。
だから基本は哺乳類型、あとは体毛の色彩や見た目で動物さえわかってしまえば能力もわかる。
「おい奏、あいつの足の筋肉の構造を適当でいいから教えろ!」
「ちょっと待って……!なんか足が速いっていうより、跳ねる?登る?かなそんな感じかも!」
こうやって特定するために奏の頭には哺乳類全般のなにかに特化した筋肉構造を叩き込んだ。そしてその特化した筋肉を持つ動物を俺は頭に叩き込んである、これで変態した能力はもうわかった。
「ヒョウ、だなこいつは……」
ここは低めの建物が多くある市街地、ヒョウが得意な木登りは意味がないしすばやく捕獲して眠らせてあげないと。
「ガァ!」
四足歩行の走り方でこっちに噛みついてくるヒョウの子をかわして軽く背中を打ってみる。ダメージはまあまあだ、もう少し強めに頭を揺らして脳震盪でも起こせば倒せるな。
もう一度突っ込んできたヒョウの子を同じようにかわして頭を打とうとした時……!
「大我、上からもう1人来てる!」
奏の声に反応して咄嗟に体を横に持っていく。上空から俺の体を掴もうとしていた手をギリギリでのところで避けて道路に転がって目線を上に上げると。
「おいおい、こんなのもいるのかよ……!」
そこには腕を翼のように変異させた鳥のような子がいた。もちろんその子も正気ではなく本能の赴くままに俺を殺そうとしてくるようだ。2人相手ってのはさすがに今の状態じゃきついかもしれない、もしかしたら怪我をさせてしまうかもと思って使わなかった四肢の強化もやむを得ないな。
俺の腕が人の形を崩して異形の生物に変異する、オーガ特有の鬼の腕に。
「奏、そこから援護できるか?」
「鳥の子の位置くらいなら教えてあげられると思う」
「充分だ、頼む!」
そう言って俺は走り出す、まずはヒョウを眠らせることを考える。理性が無い動物の彼らは違う動物だし連携だってとれないだろう、隙が出来た瞬間叩き込む!
「ガアアッ!」
これしか戦い方が無いというくらい突進しかしてこない、さすがに戦い方まではインプットできなかったのだろうか、ただ本能的に噛みついたり引っ掻いたりとか、鳥のベースなら飛ぶこともできるようだ。
「斜め後ろからっ!」
間での声を聞いて振り向きもせずただ体をのけぞらすと、さっきまで俺の頭があった位置を足が空を裂いていった。連携をとっていないと言っても攻撃のタイミングが厄介だ、少しの時間でいいから鳥の動きを止められればどうにかなるんだが。
「おらっ!」
自分の足を変異させて鳥がいる方向に大きく飛ぶ、少し痛い思いをすると思うけど羽毛の部分を千切ってしまえば飛べなくなるはずだ。
「うあああ!」
「ぎゃあああああっ!!」
苦痛による悲鳴が聞こえる、でも助けるためにしょうがないことだからこれくらいは我慢しれくれると嬉しいな。
翼がもげて飛べなくなった子を担いで地面に落ちるとすぐさま突っ込んできたヒョウの顎に二―キックを入れて気絶させた。その後2人の子供が人の体を取り戻して眠った状態になってしまったからとりあえず担いで起きても暴れないよう拘束して一部始終を見ていた喫茶店の主人になにかあったら連絡するよう言って預けさせてもらった。
2人相手にするのはちょっときつかったかもしれない。
そういえば鳥とヒョウのあの2人は連携をとっているようではなかったけどなぜか俺を殺すことだけは一致した思いがあったようだ。なにか洗脳的なことをされているのか、それともあの子供たち以外を本能的に狙うようになっているのだろうか?
「やっぱり私の戦おうか?」
「いや、俺1人で十分だよ。奏は非戦闘員でいてくれ、奏は援護が一番助かる」
「えーでも私だって戦えないわけじゃないよ、少しくらい役に立てるって」
「大丈夫だ、お前は現在進行形で役に立ってる」
そう会話している俺たち2人の前には腕輪をつけた少女が立っている。その雰囲気はあと一歩でも近づけば殺すと言わんばかりの殺気を放っている。
場所は商店街の近く、人だってちらほらと歩いているしここで俺とあの子が体を鬼や動物に変えて戦闘を始めれば大いに目立つし噂や写真、もしかしたらネットに動画を上げられて取り返しのつかないものになるかもしれない……
「でも、やっぱ捕まえないといけないからな」
自分の能力を隠すよりも町が大事だ、もう誰も失いたくない。
額から角が生え人外の化物が町の真ん中に現れる。できればあの子が人為変態をする前に捕まえられれば問題が少なくなるけど。
「キュルルルル……」
鬼になった俺を見て警戒を時完全な殺気を放つ。目が同時におかしな方向を向き長い舌が口から飛び出してくる、全体的な見た目はあまり変わっていないけどこれはこれでわかりやすい特徴だだな。
「カメレオン、だな」
カメレオン……同時に動く両目で周りの状況を左右同時に把握し隊長を超える長い舌で虫を捕えること、そして一番の特徴は体色を変化させて周りに擬態すること。
「めんどくさい能力かもな」
すでに子供は見えていない、普通なら目や体の形が若干見えるくらいで動物の目を少し誤魔化せる程度の擬態だけど、施設ってのはその辺も強化できるか?
「奏、探してくれ!」
「でも、この広さじゃ時間がかかるかも」
「いいからやってくれ、お前が探る前に俺が聞く!」
耳が大きく変化する。斜めに尖るように伸び、ゲームに出てくるような異族の妖精のような形をとる。まあ妖精と言っても体が鬼だからただの化物なんだけど。
「んっ……!」
奏の微弱な衝撃波が商店街周辺を駆け巡る、この中で人ではない形の少女を探せばいい。どこだ……
「そ、こ、か!」
「ぎゃっ!」
いたのは奏の後ろ。自分の能力が効かない力を持った奴を優先に倒そうとしにきたのか、でもカメレオンっていうのは動きが遅いのだろかそれが幸いして攻撃がくるまえにこっちが動きを捕えることが出来た。
「キュルルルルル」
「また消えやがった、どこにいる?」
「あっちだよ、逃げてる!」
奏が指を指したのは電線の上だった、電柱の修理をしていた人からゴム手袋をとってカメレオン特有のバランス感覚で逃げようとしているようだ。
「うわあ、助けてくれええ!」
「やばいっ!」
電柱の修理をしていた人がカメレオン人間に驚いて落ちそうになっている。
「奏、俺に衝撃波を当てろ!」
「え!?わ、わかった」
「フンッ!!」
放たれた衝撃波を全力で蹴って電柱まで跳ぶ。この速度ならいける!
「掴まれ!」
手を伸ばして落ちそうな人をキャッチし地面に着地する。土壇場で足を変化させることを忘れていたから少し痛い、でも休んでないで一気に電柱を駆けあがり逃げているカメレオン人間の手を掴んで地面に引きずり落とすと、そこでもう気絶していた。
「ふう」
「おい、あいつらだ!」
「止まりなさいあなた達!」
「なんで、警察が来てるんだよ!」
当たり前と言えば当たり前だけどさすがに捕まるのは不味い、奏にダッシュで逃げろと伝えて俺は少女を抱えて屋根に跳び移り逃げた。
「はぁ……はぁ……さすがにやばいことしたかもな」
写真も動画も撮られただろう、明日にでもニュースになってしまいそうだ。
「でも、この子も助けられてよかったね」
「あと何人いたんだっけ?」
「確か、あと1人だよ。もし町にいなかったらあっちにいるかも」
「でも町中もう一回探しとかないとな、どこにいるのかまったくわからないし」
体は疲れているけど動かないといけない、かなり苦しいしそこそこ怪我だってしてる。でも請け負った仕事だしもし町で死人がでようものなら、想像だけで俺は気が狂ってしまいそうだ。
「もう誰も、いなくなってほしくないんだ……」
「ん、なんか言った?」
「何も言ってなないよ、行くぞ」
「はーい!」
あっちの方では、もう施設は見つかったのだろうか?連絡が着てないということは多分見つかってないんだろうな。
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「たぶん、ここだよな」
「そうだろうね、貴女、ここであってるかい?」
「うん……私ここにいた」
そこに広がっているのは施設の残骸とも言えない滅びた一つの町のような場所だった。