1話:巻き込まれたくない事件
僕はしゃべってた。夢の中で知らない女の子と、たぶんこれは……小学校くらいだろうか
「僕はみんなと違うの?」
僕は不安げな声で問う
「違わないよ、ちょっと変わってるだけ」
確証のあるはっきりとした声で彼女は答える
「それって違うのと同じことでしょ?」
「違うよ、大部分は同じでほんのちょっと変わってるだけ」
「じゃあ違うじゃん」
「そんなことないよ、君は血液型の違う人と自分とは違う生き物だと思う?」
「それは……思わないけど」
彼女は笑顔で最後の言葉を囁いた。
「じゃあ、大丈夫だよ」
これは夢から目覚めるための時間が来たというコールだ。
チュンチュン
小鳥のさえずりが聞こえる、近くの電線に止まって毎朝僕の耳へと入ってくる音で、僕がベッドから起き上がるのを応援するエールといったところかな。
「まだ、こんな時間なんだ」
朝の6時、一般的な男子高校生が起床する時間には少し早いと思う。でも二度寝なんかしたら遅刻をすることはわかりきっているからベッドから降りて冷蔵庫へ向かう。朝は適当にパンでも食べていれば昼まではもつし重要なのは昼食で、腹八分より少し少ないくらいが最適だと思ってる。満腹になれば満足して寝てしまうし少なすぎても空腹でやっていられない。健康管理には気をつけておかないと一人暮らしってのは成り立たないものだ。
「あの子、いつかあったことあるかな?」
不意に夢のことを思い出して独り言が出る。一人暮らしが長いせいで着いてしまった悪い癖だ。誰にも聞かれないから思ったことを口走ってしまう。この癖は直そうにも直らないもので学校でも不意に出た一言が先生を激怒させる事件に発展してしまったこともあるくらいだし。
それより気になるのはやっぱり夢の彼女で、顔も声も思い出せない。昔会ったことがあるのか、それとも自分が勝手に造りだした夢の創造物なのか。何度も見てる夢だけど何度見ても起きてから憶えているのはあの短い会話だけ。
「まあ、いいか」
一呼吸おいて弁当を作り出す。朝食を食べて制服に着替えて寝癖を整えて家を出る。学校まで歩いて20分、家を出たのは7時だから全然間に合う。別に優等生じゃないけど不良になりたいわけでもない、標準で平々凡々、それが自分が望む自分、そうでいられたらといつも思ってるから。
「お、いつも早いね、凪は」
「お前もだろ、奏」
通学路で週3くらいでばったり会うのは立花奏。
入学当初眼鏡を失くしたとかで困っているところたまたま落ちてた眼鏡を渡したところそれだったようでそれから僕に話しかけてくる子だ。
「私は部活の朝練だから早いよ、凪はなんにもないでしょ?」
「まあそうだけど」
あまり温かい態度をとってるわけでもないのによくこんなに長い間一緒にいようとするもんだ。話すことは全然ないしただ隣にいるだけの僕のことをみて向日葵みたいな太陽に向ける笑顔を見せてくる、友達も多いし部活は充実しているようでまあいい子だと思う。
「そういえばニュース見た?」
「見てない」
「えー、面白かったのに」
「別に気にならいよ」
「ダメだよ、少しは世間を知らないと、教えてあげよっか?」
なにか自慢げな感じで聞いてくる。そんなに面白いことが最近あったのだろうか?まあ僕の答えは決まってるけど。
「別にいい」
「えぇー!ちょっと少しは興味持ってみてもいいじゃん」
「お前は世間を知る前に勉強をしろ、前のテストはどうだった?」
「う……そこはツッコまないでほしいな」
部活は充実しているがやっぱり勉強のほうは成績が芳しくないみたいだ。まあ運動大好きで小学校のころから勉強はさっぱりらしいし高校に入れたのもスポーツ推薦が90%を占めたと言っても過言ではないほどだからそうだろうと思う。ただスポーツ推薦だからあまりそっちの成績はよくなくてもやっていけるらしいけど。
「とりあえずニュースの話聞いてよ!」
これは断り続けても結局話されると思って僕は半分聞き流すつもりで耳を傾けた。
「ここの近くで銀行強盗があったらしくてね、それ自体は大きな記事ではないんだけど強盗団の一人に超能力者がいるらしんだよ!」
「超能力者!?」
僕は自分でもうるさいと思う声で聞きかえした。
「う、うん……それでね、その能力みたいなのが銃弾とかを自分の目の前でピタッと止めちゃうらしいの壁とかもないのに空中で、写真もあるんだよ」
奏が鞄から新聞を切り取ったような紙を1枚出す。そこには黒づくめの男たちの中の一人に銃弾を自分の手の前で止めている男が1人いた。
「……」
「凪は意外とこういうのに興味あるのかな?」
「いや、別にない。それにしてもこいつは本当にいるのか?」
「いるよ、だってニュースの映像で流れてたもん。警察が撃った銃を目の前で止めるって映像がね」
自分の目の前で銃弾を止める超能力者。さっきは建前で興味がないと言ったけど実際はすごく興味深いことだ。そう考え事をしていると視界の端に老婆が映った。しかも車が全速力で向かってきている。
「あ、おばあちゃ……」
ピンッっと奏のかけている眼鏡を上に飛ばす、理由は簡単だ。これからやることは見られたくない。
小さく一歩。周りから見れば小さな小さな一歩。だが僕からしたらこれは大きな変化を起こす合図だ。
上にとんだ眼鏡が落ちてこない。老婆も車に轢かれない。まるで世界中の時が止まったかのような世界で僕は一人歩き続けていた、轢かれそうな老婆を3歩ほど後ろにずらして車から避けさせる。そして元の位置に戻って一呼吸。時間が動いたように眼鏡が落ちてきて老婆が後ろに尻もちをつく。
別に時を止めるなんて大層なことやってるわけじゃない。ただ眼鏡が落ちるよりも、老婆が車に轢かれるよりも早く動いてるだけだ。しかも高速状態は1秒が限界だ。一応名前を付けて起きたほうがいいかなと思って自分の中で歩くことにかけて『ウォーカー』って名前を付けている。
「あれ?ぶつかってない?あ、凪なんで私の眼鏡もってるの、それないとなにも見えないんだから返してよ」
「すまん」
眼鏡を返した後暴走車が電柱に激突して止まったようで救急車をと警察を呼んで奏と老婆を目的地まで送ってから学校に行った。
「それで二人は遅刻ってことか、まあお前らに被害が無くてよかったと思うがそういうことなら学校にも連絡入れといてくれ」
「わかりました」
「あと立花、お前は部活関係ちゃんとしてないとやばいってことを忘れるなよ」
「は、はい」
今回のことはちゃんと理由があったということで遅刻にはカウントされないらしいけど、通学路はしばらく変えろと言われた。まあ事故があったら警察とかが封鎖するだろうし通れないからしょうがない。
「よう凪、俺たちが2時間も苦痛の授業に耐えてる間立花さんとどこでいちゃいちゃしてたんだ?」
「なにがいちゃいちゃだ、事故に巻き込まれそうになって大変だったんだよ」
「はぁ、どうせ遅れるならもっと遊んで来ればよかったのにな」
教室についてさっそく話しかけてきたのは市ヶ谷大我。
茶髪のせいかちょっとチャラい感じがある大我だが成績がよく学級委員の優秀な生徒の一人だ。席が隣になったのがきっかけでそこそこ話すようになったと思ったらいつのまにかこいつとばかり喋るようになって今ではテスト前に勉強会を奏もいれた3人でやったりしてる。
「そういえば立花さんはこの前に勉強会の成果は出てたのかな?」
「さあな、さっき聞いた感じだとまだ青い顔をしてたけど」
「……新しいカリキュラムを考えておこうか?」
「頼む」
残りの時間が終わりHRも済んで帰りの時間になる。今日は朝を除いていつもと変わらない日常だった。早く家に帰って風呂にでも入って寝よう。
そう思って足早に歩いていた帰り道。通学路を変えて街の方を遠回りに歩いていたのが本当に失敗だったと後悔した。
コンビニで見知らぬ客の悲鳴が上がっていた。どうやら強盗があったようで今朝聞いた銀行のこともあり最近強盗って流行っているのだろうか?
「とりあえず逃げよう」
コンビニからダッシュ離れる。銀行もコンビニも強盗は変わらない、巻き込まれるのは絶対にごめんだ。
「おい止まれ!」
「……僕?」
「ああお前だ、人質は多い方がいいからな、お前も使わせてもらうから早くこっちにこい」
ああ、神がいるんなら僕の平凡な日常を返してくれよ。仕方なく捕まって腕を縄で結ばれて店内に座る。捕まえようと思えばいつでも捕まえられる奴だけど人目が多すぎてこれじゃ大騒ぎになってしまう。また超能力者騒ぎなんて起きて僕の写真が撮られたら学校なんていけなくなってしまうし。
「店員さんも大変ですね、強盗なんて」
「ああ、でも人質なんて人生で一回体験できるかどうかだしこれはこれでいい体験になるよ」
うん、この店員さんも変人だ。この状況で落ち着いていられる上にいい体験だなんて世界が反転しても思えない。
「でももう一つすごい体験ができたよ」
「人質意外になにかいいことなんてありますか?」
「彼、強盗犯のことなんだけどさ。超能力者なんだよ」
「は?」
思わず聞きかえした。超能力者の強盗犯ってこの前銀行に出たじゃないか。銀行の金を手に入れておけばコンビニなんて小さいとこ強盗する必要なんてないだろ。それとも新しい超能力者か?
「見てくれよ、あそこに変な色の液体あるだろ」
確かに床に蛍光色のピンクみたいな色の液体がある。
「あれさ、俺が投げたカラーボールなんだけどね、投げたはずなのに当たる寸前に止まっちゃって落ちたんだ。今朝のニュースでやってただろ、あの空中で物を止める超能力者だ」
まじですかよあの人は、銀行のあとにコンビニとか順序逆じゃないか?いや強盗する時点でおかしい人だけどさ。
「始めてみたんだよ、俺以外でこんな変な力もってる奴」
「なんですかその自分は超能力者ですよみたいな中二病発言」
「いや、俺は超能力者だよ『システム』って言ってさ、コンピューターとか手も使わずに使えるんだ。だからさっきから監視カメラで録画した映像を警察に送り続けてる」
「それはすごい能力だ」
「信用してないでしょ」
「する気ないね」
ていうか正直したくない。
「じゃあ今から君の携帯の着信音流してあげようか?」
「できるもんなら」
その言葉を言った数秒後携帯の着信音が鳴り始めた。
嘘だろこいつ、本当に超能力者かよ。
「そろそろ警察も来ると思うよ」
ウーウーとサイレンが鳴りパトカーが集まってくる。中から警察の人が出てきてお決まりのセリフを言っていた。
「武器などを持っている場合はそれを捨てて大人しく投降しなさい!」
「しねえよバーカ!」
返答が完全に警察を舐めてるな、この犯人。
「ていうかあなた、超能力者なのに戦わなかったんですか?」
「出来るはずないよ、さっき言った通りコンピューターを扱うことができるだけだから」
店員が笑いながら言う。この人はよく殺される一歩手前で笑っていられるな。
「人質を解放しなさい!」
「人質の解放?じゃあ取引しようぜ、人質一人10万とかよく聞くだろ?」
おい犯人、お前はドラマの見過ぎだとツッコみたい。それと、客と僕と店員3人が捕まってるから、人質の数は7人。70万か、これは長くなりそうだし一応僕も捕まえる準備くらいしておこう。
「どうしたの、なにか思いついた?」
「いやなにも、ただ犯人がドラマの見過ぎだなって思っただけ」
「ふふ、それは俺も思った。でもやっぱり君なにか思いついてるあるいは何かしようとしたね、わかるよ」
この人洞察力すごいな、でも同じ超能力者ならばれても騒ぎにはならないだろうし、いやでも警察の目とかがあるから難しいか?
「手の縄、ほどいてあげようか?」
「え、できるんですか?」
「何かするならね。ほら、犯人が見てないうちに手をこっちに向けて」
言われるがまま手を店員の方へ向けると店員はすでに縄がほどけていて器用に僕の縄をほどいてくれた。
「じゃあもう一つお願い聞いてもらえますかね?」
「いいよ、絶対に捕まえられるんでしょ?」
「今は95%です、あと5%はこれから確かめます」
店員に頼みごとを耳打ちして確かめに入る。
僕は商品を人質の交渉をしている犯人に向かって投げつけた。犯人の能力は物を止めること、しかも自分を中心にした半径1m内まで、あと確認するのは一つだけ。あいつの物を止める能力は視認できるものだけなのか、それとも自動、よくても半自動で発動するのかってことだ。
コンッ!
「いってえな!誰だコラァ!」
「よし、100%」
小さく一歩、犯人が隠し持っていた銃を向ける寸前の一歩で発動する、一般人の体感時間で1秒しか動けない能力でも、僕にとってその1秒の体感時間は『1分』
犯人の凶器は全部取り上げて縄で縛るまで余裕だ。
「やっと帰れる……」
警察からの事情聴取がものすごく長くて人生で一番疲れた。あの店員はニコニコとずっと話してるし、しかも僕の縄をほどいたことも話してしまったせいでどうやって捕まえたとか聞かれて誤魔化すのにものすごく時間がかかった。
「まあ、これから平和になるからいいか」
この言葉は明日また撤回することになってしまうけど、今はそんなことを知らない僕は平和になるという希望を持って家に帰っていた
初めて超能力バトルというものを書きました。
まだ本格的なバトルは始まっていませんが、これから頑張ります。