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格闘ゲーマー、異世界へ。  作者: OTGY
第1章 試練編
7/11

力の目覚め

休日はバリバリ寝てました。13時間労働が僕の体力を奪っていきます。眠さの90%は酒のせいですけど。

「アッ……ご主人様……そんな所を触って……!何をするのデスか!?」


「暗くて見えづらいな。自分から拡げて見せてくれよ。」


「そ、そんなところ……恥ずかしいデス……!へ、変なトコいじらないでくださいっ……!」


「おお……中はこんな風になってるのか。さて、ここの突起はもしや……?」


「アッ!ダッ、ダメデス……!そ、そこはーーーーー!!」


コイーン


甲高い効果音が聞こえたかと思うと、インカムの表情が写っている画面にはCREDIT 1という表記が増えていた。


「ご、ご主人さま……タダゲーなんてひどいデス……」


「仕方ねーだろ!この世界のカネ持ってねーんだから!」


崇英(あきひで)が押した突起物とは、サービススイッチの事である。

筐体に入れたお金が呑まれた時などに店員さんが押してくれるアレだ。

どうやらインカムに内蔵されているゲームをプレイするにはこの世界のお金が必要であるらしく(100ゴールドらしい)日本のお金なら幾分かの持ち合わせはある崇英だったが、あいにくとこの世界のお金は持っていなかった。

そこで崇英が考えたのが、筐体ならどの台にもついている設定用のディップスイッチがこの精霊にもついているのではないか?という事である。

その推察は間違ってはおらず、下部にある蓋を開けるとそこには設定用のスイッチが並ぶパネルが存在した。ちなみに蓋に鍵はかかっていなかった。下半身のガードがお留守であると言わざるを得ない。

電源ボタンやリセットボタン等もあるため押し間違える可能性もあったが、崇英は長年のゲーセン通いの勘で一発でサービススイッチを引き当てる事に成功したのであった。


「よぉーしよしっ!これでゲームができるぞッ!……おや、これはなんだ?」


調子に乗ってボタンを連打して5クレジットを投入して満面の笑みで早速遊びにかかろうと思った所で、ふと冊子のようなモノがインカムの中に入っていたのを発見した。


「ご主人様なんデスかそれ?」


「お前の中に入ってたものだが……うーん、説明書……かな?暗くて読めないからこれは明日にするか……。」


「気になりますデス〜。」


どうやら当の本人ですら自分の中に何かが入っている事を気付いていなかったらしい。さすがポンコツだ。

最初に少量溜まった蒸留水はコップをすすぐのが目的だったため勿体無いが捨て、鍋にまた井戸水を継ぎ足しながらもうゲーセンにはまず置いてないような懐かしいレトロ格ゲーやマイナー格ゲーを5クレジット分遊び終わる頃には、コップ1杯に蒸留水ができていた。

崇英はぬるいその水をちびりちびり飲みながら一日の渇きを潤した後、寝る事にした。

民家にはベッドがあったが、その内容は木枠だけでありクッション部分があったと思われる場所には何もなかった。廃村になった際に持ち去られたようだ。

少し寝転がってみるとイマイチ固かったので、馬小屋があったと思われる場所の藁にも寝転んでみた所、そちらは多少柔らかかったが失敗だった。どうにも体が痒くなってしまうのだ。恐らくはダニか何かのせいだろう。

結局木だけのベッドに寝転ぶと、背中に感じる冷たさや、寝返りをうった時の固さ、たまに這い上がってくる蟻などの感触に寝苦しさを感じながら(冒険者が野宿する話とかありふれてるけど、よくこんな環境で寝られるよな……あ、だからあいつらマントとかローブ着てるのか……)などと考えている内に意識を失っていった。







朝、外が白み始めたあたりで自然と目が覚めた。

昨日から感じていた飢餓感がまた少し強くなっていたせいで結局あまり寝付けなかった。

残しておいた蒸留水を飲み干し、井戸水を再び鍋に入れ火打ち石を使い焚き火を起こす。


「オ、オハヨウゴザイマスご主人様……。」


インカムが近寄ってくるが心なしか元気がない。


「どうかしたのか?」


「いえ、それがデスね……どうにも体がだるいといますか……動く元気が湧いて来ないのデス……」


心配そうに崇英が見やったところで、インカムがフラフラと地面に転がった。


「お、おい!どうした!大丈夫か!インカム!」


声をかけるが反応が無い。

どうしたらいいかわからず焦っていると、昨日インカムの筐体の中に入っていた説明書を焚き火の近くに放り出してあった事を思い出して崇英は急いでページを捲った。



1、はじめに

この解説書は筐体型精霊のマスター用の解説書となります。

精霊は人間と契約をして受肉をすると世界からのMP供給が断たれる為、身体の維持のために精霊果を与える必要があります。



「おいおい精霊はご飯とか食べないって言ってたじゃないかよ……ポンコツめ、全然間違ってるじゃないか……。」



2、MP供給の手段

精霊のマスターとなったあなたは自身のMPを消費して精霊果を作る事ができます。

その形は精霊によって様々ですが、唱える呪文は共通です。



「コール!スピリットレーション!」



崇英は文章を読むと同時に呪文を唱えた。すると手先に体の奥底から力が集まってくるような感覚があり、やがて手の中に何かを握り込んでいる感触があるのがわかった。

手の平を広げてみると、それは1枚の小さなコインだった。



3、MPについての注意

呪文を唱えましたか?恐らく貴方の手元には精霊果が出現した事でしょう。

MPとはマスターである貴方の「満腹度」です。

MP(マンプクポイント)は食事と栄養を取ることによって回復しますが、限界以上に使用すると餓死をする恐れがあるので注意してください。



精霊果を出した瞬間に自分自身から何か活力のようなものが奪われたのが崇英には感じ取れていた。ただでさえ腹が減っていたのでMPが残り少なかったのだろう。体全体の細胞そのものからエネルギーを奪われたような感覚があった。

崇英はさらに強まった飢餓感の中、ふらつく足取りでインカムを抱き起こし、口の中に精霊果を入れようとした。

が、入らない。インカムのモニターに表示されている口は表面のガラスのようなモノの奥にあってつっかえて通らないのだ。


「おいおい、一体どうすれば……あぁ、そうか。」


分かれば得心がいく。インカムはゲーム筐体の精霊だ。ゆえにコイン投入口がある事を失念していた。

口からモノを食べるという既成概念は通じない相手だった。


「どうだ……?」


100円玉ほどの大きさの精霊果をコイン投入口に流し込む。大きさは問題無いようだ。数瞬の後にコイーンという甲高い音がしたかと思うと、インカムは再起動した。


「み、みなぎってきやがったデスーーーーー!!!!」


超元気そうだった。俺は腹が減って倒れそうだが……と安堵しながら崇英は説明書を読み進めると気になる文章を見つけた。



4、精霊力の使い方

精霊果を与えた直後は精霊がやたら元気になっていると思われます。

その状態で1回分の精霊力が行使できます。

それでは早速力を使ってみましょう。呪文の詠唱は――――――



「なるほどね。試しに使ってみるか。インカム、ついてこい!」


しばらく村の中を捜索すると夜には見つからなかった、赤い実をたっぷりとつけるリンゴの木を村外れに発見する事ができた。

しかしこのリンゴの木はとても太く、大きい。木登りできるような取っ掛かりもないため、普段ならあのリンゴは酸っぱいに違いないと毒づいて諦める所だろうが、今は試してみたい事がある。


「多次元干渉プログラムロード、ファイターズインターフェースリライティング、システムチェック!」


「システムREADY……チェックOKなのデス!」


「マニュアルモード起動!プログラムスタート!」


崇英の体を多数の魔法陣が取り巻き、そして世界が割れる。

パリーンというガラスの砕けたような音がすると、崇英の体には普段とは違う”力”が満ちていた。


「オラァ!」


拳一閃。


ゲーマーの細腕に似合わぬ豪腕で繰り出されたその拳は、ただの一撃で巨木を震わせ、その果実を降らせしめた。

詠唱はちょっと後から変えるかもしれません。

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