ep2:理由
夢「えーと、今度は私が、前書きに?」
伽「うん。優真君に頼んだら嫌だって。だから頼むよ。」
夢「わ、分かった。
今回は、私が優真君に会いに来た理由や私の過去のお話だよ。」
伽「いや〜、ありがと。
ところで、夢さん。ちょっと聞きたいんだけど。」
夢「はい?」
伽「スリーサイズは?
―――って、ちょっと冗談だから!その拳しまって!君に殴られたら、洒落にならないから!」
夢「この〜、変態!」
伽「ぎゃあああああ!!」
という訳で、ep2始まるよ!
◆◆◆
「篠崎…夢…。」
俺は、目の前にいる少女の名を呟く。
心地よい風が吹いている屋上に、篠崎夢は突然現れた。
「こんにちは、風間君。」「ああ、こんにちは。」
互いに軽いあいさつを交わす。そして、俺は彼女に質問を投げ掛ける。
「篠崎、クラスメイトと話をしていたんじゃないのか?」
「うん、してたよ。でも、流石に疲れちゃって。だから、ちょっと学校を探検して来るって言って席を外したの。」
「付いて来るって言う奴はいなかったのか?」
「うん。でも、理由があったから、断ったよ。
その理由って言うのは…、」
そう言って、篠崎は俺の耳元でこう呟いた。
「君に会うため、だよ。」「っ!!」
俺は一瞬驚いたが、すぐに落ち着いて、さらに質問しようとする。
「なんで俺に会う必要がある?」
「それはね……。
でもその前に…、」
と言って後ろから取り出したのは、
「お腹すいちゃったから、ご飯食べてから教えてあげる。一緒に食べよ。」
お弁当だった。おそらく、手作りの。
「ああ、構わないが。」
俺は、その場に座り込む。「それじゃあ、私はここで食べよ。」
そう言って俺の隣に座る。「……何故俺の隣に?」
「え、駄目かな?」
「いや、そういう訳じゃ無いが…。」
今まで、優子以外と二人きりっていう場面が無かったから、すごい緊張する……というかドキドキする。
「いただきまーす。」
篠崎は、自分の弁当を食べ始める。篠崎の弁当は、カラフルで、いかにも女の子らしい弁当だ。
「いただきます。」
俺も続いて食べ始める。
「ん〜、今日もおいしい。ねぇ、いつも屋上で食べてるの?」
「いや、今日はたまたま。つーか、俺の席が占領されて座れなかったからだよ。」
「あ〜、そっか。ごめんごめん。」
「別に篠崎が悪い訳じゃ無いけどな。」
俺は、コンビニで買った焼きそばパンに噛り付く。口の中で紅しょうがとソースの香りが広がる。だから、やめられない止まらない。「そういえば、篠崎の弁当は手作りみたいだな。」
俺は、牛乳を一口飲んでから、そう呟く。
「母さんが作ってくれているのか?」
そう言うと、篠崎は突然箸を置いた。そして、悲しそうな目をしながらこう呟いた。
「これは私が作ったんだ。…私はね、お母さんもお父さんも居ないの。お父さんは、私が中学三年の時事故で死んじゃったんだけど、お母さんは、<居なくなった>の…。」
「………。」
沈黙が生まれる。触れてはいけない事を触れてしまった……。
ところで、<居なくなった>ということは、どういうことだ?
すると、篠崎は口を開いた。
「ちょうどいいね。話してあげる。私が何故君に会いに来たのかを…。」
篠崎夢は、語り始めた。
「ちょっと長くなるけど、我慢してね。
私は、お母さんと二つ年下の弟と三人暮らしだった。でね、私のお母さんが突然姿を消したのは、私が高校一年の今みたいに暑い夏の日だった。」
『突然姿を消した』って…。どういう意味だ?
「実は、その前日の夢でお母さんが出てきたの。それでね、お母さんは、暗闇の中で私にこう言ってきた。『助けて、助けて』って。私は、最初は何のことか分からなかった。でもよく見たら、お母さん何かに腕を掴まれたみたいなの。私はすぐにお母さんに駆け寄った。
……でも遅かった。私が腕を伸ばした瞬間、お母さんは、闇の中に引き摺り込まれたの。その瞬間、私は目を覚ました。私は、すぐにお母さんの寝室に行ったの。でも、お母さんは居なかった。いや、厳密に言えば『最初から居ない』みたいだった。部屋は、すごい綺麗で、誰にも使われていないような感じだったから。
下に降りてもやっぱりお母さんの姿はどこにもなかった。
私は、弟の部屋に行って聞いたの。
『お母さんは何処?』
って。そしたら何て言ったと思う?
『何言ってるの?母さんは家には、居ないでしょ?』って言ったの。
『どういうこと?』
って聞いたら、
『母さんは、去年の事故で、父さんと一緒に死んじゃったでしょ。』
って答えたの。私は何かの間違いだと思って、おばちゃんに電話して聞いてみたの。でも、答えは同じだった。『お母さんは、事故で亡くなった』って…。」
……現時点で篠崎の話をまとめるとこうだ。
ある日、俺が見たような夢の中で篠崎の母親が出てきて、助けを求めた。しかし、篠崎は助け出すことが出来なかった。それで、目を覚ますと、篠崎の母親は、『事故で既に亡くなった』ということになっていた。
…どういうことだ?篠崎の記憶に何らかが原因で違いが生じた、もしくは、現実の事実に違い生じたのどちらかだ。
現実的に考えれば前者だが……。
俺が思案に暮れている中、篠崎は話を続ける。
「私、ショックだった。その日は、学校も休んで家に引き籠もってた。それでね、その日の夜、また同じような夢を見たの。また暗闇に居て、今度はクラスの友達が捕まってて助けを求めてきたの。私は迷わず助けようとしたよ。友達の腕を掴んでいるナニかを引き剥がそうとした。でもね、次の瞬間、右肩を何かで突き刺される痛みに襲われたの。それと同時に、私は吹き飛ばされて、友達はお母さんと同じように暗闇に消えていったの。
そして、私は目を覚ました。それでね、右肩に何か痛みを感じて、見たら私の右腕は血塗れだった。もちろん、出血元は右肩。
でも、そんなことより私は友達のことが気になって、応急措置だけ済ませて、朝食も摂らないで、学校に行ったの。教室について、登校していたクラスメイトに確認した。
『〇〇ちゃんは!?』
って。そしたら、返ってきた答えは、
『ねぇ、誰?その子。』
だった。私は、他のクラスメイトにも聞いたけど、やっぱり答えは同じだった。」
「……嘘だろ…。」
あり得ない、夢で負った傷が現実にまで影響しているなんて……。
にしても、一番不可思議なのは、同じような夢を見てまた知人が『居なかったこと』になっていた事だ。 「ホントだよ!それで私、寝るのが怖くなって、ずっと寝ないようにしてたの。でも、やっぱり限界が来て寝てしまった。」
「それでまた同じような夢を見たと。」
篠崎は、無言で頷く。
「今度は、一体誰が…?」俺は、恐る恐る問う。
「今度はね、弟だった…。私は、弟の姿を捕えた瞬間、助けようとした。それでね、今回は弟を掴んでいるナニかに即座に殴りかかった。その時初めてナニかの姿を捕えたの。顔はバクみたいで、体は人間みたいな。私は、反撃を食らわないようにひたすら殴り続けた。何も考えず、ただ目の前の敵を倒すために…。
気が付いたら、そのバクみたいな生き物は、動かなくなって、私は返り血で血塗れになってて。」
「いや、ちょっと待て。お前、素手でそのバク?を殺したのか?」
「まぁそういうことになるね。」
……素手で等身大あるであろう生き物を殺すなんて。普通無理だろ、どう考えても。
「それから、周りを見渡しけど弟はもう居なくて…。多分助かったんだって安心してそのまま気を失ったの。
それで、朝目を覚まして、真っ先に弟の部屋に行った。そしたら、弟はちゃんとそこに居たの。私は安心してその場で泣いちゃった。でもね、弟は私を見てすごい怯えてた。なんせ、全身血塗れだったんだもん。」
いや、誰だっていきなりそんな姿を見せられたら怯えると思うぞ。多分…。
「これで大体話はお終い。理解してくれたかな?」
「ああ。簡潔に述べると、夢の中に出てくるバクみたいな生き物に捕まっている人を助け出せれば何も問題は無し。だけど、助けることが出来なかった場合、その人は現実世界では、〈初めから居なかったことになる〉ってことだな?」
「うん、その通り。」
「……でもなぁ。」
にわかには信じがたい話だ。夢で連れ去られた人間が現実世界で姿を消したり、夢で負った傷が現実に影響したり…。
「いくつか質問していいか?」
「うん、いいよ。」
「その、篠崎の弟は夢での出来事を覚えてたのか?」すると、篠崎は首を横に振った。
「全然覚えてなかった。全く身に覚えが無いって。」「…なるほど。」
ということは、篠崎の言っていることを篠崎以外の人間には証明出来ない。
「あと一つ。俺にこのことを話す理由はなんだ?」
「なんでって、風間君の力を借りたいからに決まってるじゃない。」
「……は?」
「は?じゃないよ。私言わなかったっけ?あなたにはあの異世界で戦う素質があるって。」
「………。」
確かにそんなことを俺は、あの暗闇で篠崎に言われた。
「そもそも、なんで俺にその素質があるって分かるんだ?」
「まず一つ目、風間君は、夢で私と会ったという出来事覚えていた。
二つ目、風間君は自らの意志で夢の中を歩き回ることが出来た。」
「普通はそういうことないのか?」
「夢の内容って忘れちゃうでしょ?まぁ、たま〜に覚えていることもあるけど。あと、夢って言うのは初めからシナリオが組まれている、ゲームみたいな物なの。だから自らの意志でシナリオと違う行動はとれない。風間君は、そういう経験ない?」
――そういえば、俺は夢の内容を覚えていることが多い。あと、言われてみれば自分の意志で歩き回っているような気もする。
「まぁ俺にその素質とやらがあるとしてだ。篠崎は、俺にどうして欲しいんだ?」
「それはね、私に力を貸して欲しいの。」
「力って…。」
俺が思うに、篠崎の怪力があれば俺の力なんて必要無いと思うが…。
「理由は?」
「…四ヶ月くらい前、私はまたバクに捕まっている人を助けようとしてた。今回は、隣のクラスの男子だった。それでいつものように殴りかかったの。それでね、倒したと思ったら、不意に何かに殴られて吹き飛ばされて…。結局、その男子を助けることが出来なかったの……。」
「……敵の数が増えた、ってことか?」
「そういうこと。」
敵は、学習能力もあるってことか…。
「なるほど、敵は数を増やしてきたから、こちらも仲間を増やそうと。そして、俺を見つけたから、わざわざ俺の通う高校に転校してきて力を借りにきたと。」「うん。ねぇ、協力してくれないかな?」
「………。」
…俺の力で人を助けることが出来るなら、篠崎に協力してやりたい。だけど…
「まだ確信が持てないからなぁ…。」
「……それじゃあ、実際に行ってみる?」
「え?」
そう言って、篠崎は俺に近付いてくる。
「いや、俺眠くないんだけど…。」
「大丈夫。」
そう言って、篠崎は腕を構えた。そして……
「それっ!」
「ふぐぉあ!」
俺のみぞおちに突きを放った。
「じゃあ夢の中でまた会おうね。」
――無茶苦茶過ぎるだろ……。
俺は、そのまま意識を失った。
To be continued…
次回は、優真君が初めて戦います。ep3お楽しみに!
因みに、前書きのくそ茶番はしばらくお付き合い下さい。