ep1:出会い
優「なぁ、なんで俺が前書きに出てんの?」
伽「なんかほら、今までと一味違う感じをね。」
優「違う感じって…。」
伽「ほら、第一話の紹介よろしく。」
優「……第一話は、俺と夢の少女と対面する話だ。
…こんな感じか?」
伽「……ん〜、なんか思ったより面白くないね。」
優「いや、うるせぇよ!」
という訳で第一話始まります。
◆◆◆
――ピピピピッ!
目覚まし時計の音で目が覚める。時計を見ると、時刻は6時半過ぎ。窓からは眩しい真夏の日差しが差し込めている。
俺は、目覚まし時計を止めて意識が朦朧としている中周りを見渡す。
大量のマンガと必要最小限の参考書が収納された本棚、いつも勉強している机、いつも使うパソコンにテレビ…。今居るのはさっきまでいた闇の空間ではなく、間違いなくいつも見慣れている俺の部屋だ。恐らく、今までいたのは『夢の中』だったのだろう。
「…さっきの夢は何だったんだ?妙にリアルだったが……」
…さっきまで見ていた夢をこれだけ鮮明に覚えているのは初めてだ。しかも、何故か今までいたのが夢の中だったと実感が持てない。足には歩いたことでの疲れが感じられるし、あの謎の少女に抱き付かれた時の温もりやあの締め付けられた痛みも残っている。
――ふと、あの少女が言っていたことを思い出す。
『私は探していました。この異世界で戦うことの出来る素質を持った人間を…。』
…どういうことなのだろうか。この異世界って言うのは『夢の中』ってことか?しかも戦うって…。一体何と?どうやって?そもそも夢の中で……。
「ああ!もう!考えても仕方ないか。」
そう言って、ベッドを降りると、下から声が聞こえてきた。
「優真〜。朝ごはん出来たから早く降りてこーい。」「ああ、分かった。」
姉貴の呼び掛けに答え、俺、風間優真は下へと向かう。
俺はとある進学校に通う高校二年生だ。学力はそこそこ、中の上くらい。でも、志望している大学のボーダーには、余裕で達しているので、そこまで危機感は感じていない。また、俺は部活には入部していない……っていうか入りたかった部活が無かったのだ。やりたくもない部活に入って時間を浪費するのは勿体ない。俺は無駄なことが嫌いなのだ。まぁそれを抜かせば何処にでもいる普通の高校生だ。
「おはよう姉貴。」
「おはよう。早く食べちゃえよ。」
俺の姉貴、風間亜耶子は、教育学部に通う大学二年生だ。茶髪のポニーテールが印象的だ。性格は、男勝りで元気溌剌な感じ。そんな姉と今は二人で暮らしている。両親は、仕事の関係で海外に行っている。定期的に連絡は来るので寂しいとか思うこともない。というか、俺ももう高二だし…。
「ごちそうさん。」
俺は、朝食を終えて学校へ行く準備を始める。
準備を終え、玄関で靴を履いていると姉貴が話し掛けてきた。
「優真。私今日友達とカラオケ行くことになってるから、帰りが遅くなる。晩飯は自分で用意してくれ。」「ああ、分かった。」
面倒くさいと思いつつも、嫌だとか言って姉貴に殴られるのも面白くないので適当に返事をしておく。
「それじゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
俺は、学校へと向かった。
俺の通う高校は、高台の上に建っている。だから、学校からは俺の住む街が一望出来る。その反面、登校する時に坂を登るのがかなり疲れる。帰りは下りで楽だが、自転車のスピード出しすぎで事故が絶えない。
そんな立地条件が良いんだか悪いんだか分からない所で俺は勉学に励んでいる。昇降口で靴を履き替えていると、後ろから声を掛けられた。
「やぁ優真、おはよ〜。」「ああ、おはようさん。」声の主は、佐野橋優子、俺の幼なじみだ。黒髪のショートヘアが特徴だ。こいつは、驚く程身長が小さい。大体140前半くらいしかない。俺が大体170程度だから、二人で並んで歩いていると、たまに兄妹と勘違いされる。それを本人は結構気にしているし、言うとめっちゃ怒るが…。
あと、こいつは、よくドジなことをする。いわゆる天然タイプだ。
教室まで二人で歩いていると、優子がこんなことを言ってきた。
「今日ね、うちのクラスに転校生が来るんだって。」「へぇ〜、そうなのか。」「なんか興味無さそうね…。」
「まぁぶっちゃけ興味無いし。」
「え〜、そう?私は楽しみだなぁ。
男子かな?それとも女子?ワクワクする。」
「お前らしいな。」
しかし、この時期に転校生とは珍しい。大方、家庭の事情か何かだろうが。
そんな会話をしているうちに、教室に到着。
「おーす。」
「おはよー。」
二人して軽いあいさつをしながら教室へと入る。
「おっ、お二人とも今日も仲良く登校ですかい?熱いねー」
「うるせーぞ、松本。」
ゴンッ!
「痛っ!ちょ、いきなりチョップはねーだろ。」
「でも、目が覚めたろ?」「……まぁな。」
朝っぱらからうるさいのは、松本恭介、野球部だ。コイツはやたらと俺に絡んでくる。まぁ根はいい奴なので嫌いではないのだが。
ここで、優子が何かを思い出したように松本に話し掛ける。
「あ、そういえば松本君は今日転校生来るって知ってた?」
「え、マジかよ!新たな恋の予感がするぜ!」
「まだ、女子か分からないけどな。」
軽くツッコミを入れておく。
「いや、俺は女子な気がする。」
「つーか、仮に女子だったとしてもお前に新たな恋は芽生えねぇよ。」
「………泣けるぜ…。」
松本は、今までに四人に告って全滅している。
「ま、まぁまぁ、今度は上手くいくかもしれないじゃん!だから、そう気を落とさないで、ね。」
そんな会話をしていると、担任の数学教師、山本先生が教室に入ってきた。
「お前ら、SHRを始めるぞー。席に着けー。」
それまで騒いでいた生徒達は、ぞろぞろと自分の席へ戻って行く。
先生は、出席確認を済ますと、こう続けた。
「あー、今日このクラスに転校生が来る。」
そう告げると、クラスメイト達は一斉に騒ぎ始めた。
『どうな子だろう?』
『女子かな、男子かな?』『俺は、女子がいいな。』『ふ、もし女子だったら俺が攻略してやるぜ』
「はいはい静かにー。あと、約一名は恋愛ゲームのやり過ぎだから程々にしとけ。現実に戻って来れなくなるぞー。
まぁ話が若干反れたが、入ってもらおう。どうぞ。」教室の前方のドアにクラスの視線が集まる。
ガラガラッ
ドアが開かれ、転校生が入って来る。その瞬間、俺は目を疑った。
「〇〇高校から転校してきた篠崎夢です。皆さんよろしくお願いします。」
それは、俺が夢の中で出会った、あの少女だった。
俺が呆気にとられている中、騒いでいる生徒達を静め、先生は構わず話を続ける。
「えー、篠崎は、両親の仕事の都合でこっち越して来たそうだ。慣れない事とか分からない事もあるだろうから、皆色々教えてあげるように。
さて、篠崎の席だが、何処にするかな。」
隣の席が空いているのは、一番後ろに座っている俺と松本と他二人の男子の席だ。
「だったら、俺の隣の来いよ!」
松本が声を上げる。
「俺の隣に来れば退屈なんてしないぜ。」
そう松本は、熱く語る。
「だ、そうだが、どうだ篠崎?」
「んー、私あの人みたいに暑苦しい人苦手なので、遠慮します。」
…ちょ、直球過ぎるだろ!初対面の奴にここまで素直に告げるか!?流石に俺も今回は松本に同情するぞ…。
俺は、衝撃的な発言を受けた松本の方に目をやる。その次の瞬間……
「グボァ!!」
松本は、吐血して机に伏した。こうして今回も松本の新たな恋は芽生え無かったのである。
「じゃあ篠崎はどこがいいんだ?」
先生は、精神的ダメージを受けた松本を放っておいて話を続ける。
「えーと、じゃあ…」
そう言って、篠崎夢が指差したのは……
「あの人の隣がいいです。」
俺の隣だった。その瞬間、クラスの視線が俺に集中する。男子の視線が痛い(特に松本)。
「ああ、風間の隣か。いいだろう。風間いいな?」
「え?ああ、まぁ大丈夫です。」
俺が了承すると、篠崎夢は俺の隣の席にやってきた。「これからよろしくね、風間…、」
「ゆ、優真。風間優真だ。」
俺は困惑気味にそう自己紹介する。
「よろしくね、風間優真君。」
「はーい、では、ちょっと長めのSHRを終わる。
でも、もう時間もないのでこのまま数学の授業を始めるぞー。」
そう告げると、山本先生は授業を始めた。
一時限目の終わりを告げるチャイムが鳴り、休み時間が始まる。そこで始まるのは、やはり篠崎夢に対する質問である。
『ねぇ、何処から来たの?』
『どうかな?この学校の雰囲気は。』
『好きな食べ物は?』
『何部に入るの?』
『スリーサイズは?(これ松本な)。』
すると、篠崎はご親切に皆の質問に答えていった。ただし、松本の質問に関しては、終始完全無視だったが…。
正直、俺は篠崎への質問はご遠慮願いたかった。というのは、篠崎の隣の席は俺、すなわち俺の席は質問をしに来る生徒に占領されるってこと。仕方ないので、俺は優子の席の近くで話をしながら時間を潰した。
「それでは、これで四時限目の授業を終わる。各自、ちゃんと復習しておくように。」
古典の先生はそう言って、教室から出ていった。さて、お待ちかねの昼休みの時間……なのだが…。
例によって授業が終わると同時に篠崎の席にわらわらと生徒が集まってくる。
……ここでの昼飯は、無理か。全く勘弁して欲しいものだ……。
俺は、朝コンビニで買ったパンやら何やら入っている袋を持ち、優子の席へ向かう。
「優子、一緒に飯食わないか?」
「あ、ごめん。ちょっと部の顧問の先生に呼ばれているから…。」
優子は、放送部に入部している。近々大会があるので色々忙しいのだろう。
「そっか。まぁ頑張れよ。」
「うん、ありがと」
……さて、何処で飯を食べるかな…。
俺は迷いに迷って、屋上で食べることにした。
普通、屋上はドコの学校も立ち入り禁止になっているのが多いが、ここは屋上を開放している。
俺は、階段を登り、屋上へと続くドアを開ける。
真夏の太陽が照りつける中、今日は涼しげな風が吹いている。
「気持ちいいな。
…にしても、今日は誰も居ないな。まぁ、夏の大会とかで忙しいから無理もないか。」
俺は、適当にドコかへ腰掛けようとした。すると、
ガチャン
ドアの開く音がする。そして、
「風間優真君。」
後ろから、声を掛けられた。
聞き覚えのある声に、俺はすかさず後ろを振り向く。そこにいたのは、やはり、「篠崎…夢…」
夢の中で出会った、あの少女が立っていた。
To be continued…
次回は、ep2になります。
ではまたお会いしましょう。