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あなたの虜  作者: 七緒湖李
本編
9/161

番犬としては合格

「コーマ、入口塞いでたら入れないんだけどな」

「わぁ、ミネ先輩。こんにちはっ……あ、や、すみません。どきます、いますぐ速やかに」

憧れの先輩の出現に小鞠がのけぞる様にして背後に後退ると爽はおかしそうに笑った。

2歳年上で少し童顔な甘い顔立ち。

くぅ、その笑顔かっこ可愛すぎます、先輩。


「コマはいっつも言動がおかしいよね。なんか俺、緊張させてる?」

「いいえっ、後輩が先輩に道を譲るのは当然のことですからお気になさらず」

「あー、ミネ先ぱぁいだぁ」

そこへ媚びを含んだ甘ったるい声が響いた。

それだけで小鞠には相手が誰だかわかってしまう。


(でたな、皐月満留)


廊下を走りこんできたのは小鞠の同級生の満留だった。

彼女は頭のてっぺんからつま先まで女の子っぽく、男子にすごく人気がある。

可愛らしい顔立ちは舌足らずな口調と相まって幼く見えるが、豊満な肉体を持つというアンバランスさが男心を刺激するらしい。

たわわな胸を揺らし廊下を駆けてくると爽を上目遣いで見上げる。


「こんにちはぁ、ミネ先輩。――あれ、コマちゃんもいたんだぁ」

いままさに気づいたとばかりに満留が言う。

さっきからいましたが。

ミネ先輩、そこまでガタイよくないし隠れませんから。

「やぁだぁ、ミネ先輩ばっかり見てて気づかなかったぁ。コマちゃん、元気~?」

エヘ、と笑うのを小鞠はよく言うわと内心突っ込む。

普段、学内で会ってもガン無視で声なんてかけてもこないくせに。


「うん、皐月さんも元気そうね」

「ねぇねぇミネ先輩。いま外でねぇ、――」

笑顔で返事をする小鞠の言葉尻にかぶさるように満留が爽に話しかけ、教室へ促すよう彼の腕を引っぱる。

すごいなぁ。

あれ、胸をミネ先輩の腕に押し付けてるんじゃないの?

こういう自分の見せ方も売り込み方もうまい女の子がいるが自分にはできない。


(はぅ~、せっかくミネ先輩とおしゃべりできるチャンスだったのになぁ)


小さく息を吐いた小鞠はいきなり背中に悪寒が走った。

爽たちに続いて教室に入りかけていたはずが立ち止まる。

なんですか、いまのゾクゾクは。

そこへ廊下の向こうから声がした。

「コマリっ、見つけた」

声にぎょっとした。

恐る恐るそちらを向いて金髪碧眼の王子様の出現に言葉を失う。

彼の背後にはオロフがいた。


(シモンっ!どうやってここまで来たの!?)


家から大学まで行くには電車に乗らなきゃいけませんが。

昨日もそうだけどどうして居場所がわかるの。

魔法グッズでももってるんですか。

さっき校舎に入る前に金髪の外国人を見た気がしたのは気のせいじゃなかったんだぁ。


「ああよかった、無事で。外界は危険だから共に行くと言っただろう」

近づいたシモンに強く抱きしめられた小鞠は、爽と満留が驚愕の表情でこちらを見ていることに気づいた。

いや、教室の扉が開いてるから中の人たちにも丸見えだ。

(ミネ先輩に誤解されるぅ~。っていうか、わたしの平穏な日常カムバーック)

そこへキンコンと授業開始のベルが鳴る。

ちょっとこれ、どうすんの。

まさかこのままゼミに出席しろと。

教授になんて言い訳すればいいんだと小鞠は抱きつくシモンを引っぺがし、彼と共にオロフの腕も掴んで廊下の隅へ引っぱる。


「いまからゼミ――授業……えーっと講義が始まるの。心配要らないから帰って」

「一緒にいる」

「車もバイクもバスも大学には入ってこないし危険なことなんてないから」

「いる」

えーい、このわからず屋がぁ。

オロフにどっか連れてけ、と目で訴えたが笑顔で首を振られた。

従者は主に逆らえませんってか。


「コマ、その二人は?留学生かな?」

「ひゃ、ミネ先輩。あ、あのこの人たちは一ヶ月間だけホームスティに来た人たちで~」

爽が笑顔で話しかけてきたため小鞠はしどろもどろに言い訳する。

「へぇ、そうなんだ。日本語が上手だね。どこの国の人?」

「名も知られていないような北欧の小さな島からだ。ところで「コマ」とはやけに馴れ馴れしいが?」

昨夜、何か質問された時の場合に、言い訳を考えてあったため、シモンがその通りに答えながら一歩前に出て爽を威嚇する。

番犬としては合格点だけど誤解される。

やめてぇ。


「渾名だよ。仲のいい者はみんなそう呼んでる。彼女だって「コマちゃん」って呼んでるし」

爽が満留を振り返ると彼女はにっこり笑顔を浮かべた。

「わたしぃ、ミチルって言いまぁす。コマちゃんとはすっごく仲がいいんですよぉ」

おいこら、ちょっと待て。

仲良くされたこともしたこともないでしょうが。

「でぇ、二人ともお名前はぁ?」


「コマリの友人?」とシモンは呟きこちらを窺うのがわかった。

仕方がないので小鞠はシモンとオロフに二人のことを紹介する。

「こちらが先輩のソウ・ミネギシさん。で、こちらが……ミチル・サツキさんです」

満留のことを友人という気がしなくて一瞬言葉が詰まってしまった小鞠だ。

シモンは頷いて自分の名前とオロフを紹介した。


「きみたち、もうチャイムは鳴っているが何をしているのかね?」

げ、教授。

帰らなくともともかく外で待っていてと小鞠がシモンに言うのを聞いて、教授は「わたしのゼミに興味があるなら見学していきなさい」とおっしゃってくださった。

ああ教授、すみません。

この人たちは教授のゼミに興味があって、ダダをこねているわけじゃないんです。

なので小鞠は90分の授業のあと教授への礼もそこそこに、シモンとオロフをつれて早々に教室をあとにした。


「資源に希少性を付けより購買欲をあげるにはどのようにすればよいだとか、そこに倫理や道徳、人の心理が働くとどうなるかだとか――いや、実にためになる話だった。教授に少々話を窺いたかったのだが」

「授業料……講義のお金も払ってないのに駄目です」

「ああそうか。そうだったな。ふむ、これ以上は講義代を払わねばならないか」

もっともらしいことを言ってやるとシモンはすんなり諦めてくれた。


「そういえば今日はテディは?」

「昨日のように鍵を開け放って部屋を出るのが躊躇われたのでテディは留守番だ。国に金貨を送り返さねばならなかったし、わたしの仕事の調整もあるから今頃は国の連中と話し合いだろうな」

いいのか、王子が仕事ほっぽって異世界なんかにいて。

「ところでコマリ、そろそろわたしのこともあなたではなく名前で――」

そこに「待ってェ」と舌足らずな声が聞こえシモンの言葉が途切れた。



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