生涯の忠誠を
執政塔の一角にある王宮魔法使い室へグンネルが入ってきたため、リクハルドとトーケルは互いに顔を見合わせ彼女へ近づいた。
彼女の机上に女性が好みそうなレースとリボンで飾った箱があって、彼らはまたしても顔を見合わせる。
「珍しいな、グンネルがこんなものに興味をもつなんて。もっとシンプルなものが好きだっただろう?」
「ていうかコマリ様は王族塔の庭園散策をなさらなかったのか?同行するはずだったんじゃ?」
「これはコマリ様の宝箱にするんだよ。お庭の散策についていこうと思ったんだけど、宝箱を先に作って欲しいって頼まれちゃってね。シモン様からの手紙を失くさないようにしまっておきたいんだってさ。王宮職人室に行って急遽作ってもらったにしては可愛いくできてるだろう?コマリ様の側にはオロフの他に異世界の魔法使いがいるから大丈夫。なかなかの手練だってシモン様もおっしゃっていたからね。それより一時はどうなることかと思ったけど――手紙を大事になさるくらい、コマリ様がシモン様のことを想ってらっしゃるようでよかった」
ふふと嬉しそうなグンネルに頷いたトーケルが、何かを思い出すように笑って机に腰を預けた。
「今朝見た様子じゃラブラブって感じだったよなー。最初シモン様の頭を殴ってるのが見えてどんなお姫様かと思ったら……ほんとリクハルドから聞いたとおりおっとこまえな方だったわ。あんな活きのいいお姫様見たことないぞ。この先もあんな調子なんだったらお仕えしがいがあるってもんだ」
くっと吹き出すトーケルにグンネルも笑い出す。
「マッティ長官辺りが見たら卒倒しそうだね。すっかりコマリ様のことを聡明で優しく可憐なお嬢様だと思っちゃってるし。わたしも昨日の泣いてたお姿とシモン様に伺ったお話から、それに近い想像をしちゃってたけど、今朝見事に覆されたかな。怒ったらわたしみたいに言葉遣いが男っぽくなるとか、そのくせ自信がなかったり照れ屋だったり。なんだか憎めなくて可愛い方だよね」
「自信がない?あれほど慈悲の心に満ち溢れた明敏なお方であるのにか?」
リクハルドが尋ねると彼女は「うん?」と彼に問うような目を向けた。
「今朝、わたしはコマリ様のお言葉に目が覚めるような思いだった。償いとは罰を受けることだけではないのだとコマリ様に教えられた。これからは今まで以上に王宮魔法使いとして精進し、シモン様とコマリ様のために、延いてはお二人の未来のために、よりよいカッレラ王国となるよう尽力しようと――」
「お咎めなくてラッキーぐらいに思えばいいのにおまえはまたクソ真面目な……。しっかし今朝は確かに驚いたわ。さすがにリクハルドが国外追放とか斬首なんてのはないだろうけど、しばらく謹慎だって言い渡されんじゃないかと思ってたからな。でも昨夜のシモン様を思い返してみれば、シモン様は最初からおまえを咎める気はなかったって気がする」
とトーケルが言えばグンネルも同意した。
「言われてみればそうだね。コマリ様がどういうお方かシモン様はご存知のはずだから、リクハルドを処罰しないってことはわかってたってことか」
二人の言葉にリクハルドもやっとそのことに思い当たりああと呟いた。
シモン様は自分が思う以上になんとお心が広く、器の大きなお方であるのか。
コマリ様もシモン様の愛魂のお相手だと納得できる、優しくて素晴らしいお人柄の女性だった。
「わたしは生涯、あのお二人に忠誠を誓おう」
決意も新たにリクハルドがこう言うと、トーケルとグンネルが拳を出した。
それに己の拳をおしあて親指を立てる。
「わたしを庇ってくれたおまえたちにも恥じぬようあろうと思う」
それを聞いた二人に笑顔が浮かんだ。
「じゃあトーケル様とグンネル様の名に恥じぬようにっつっとけ」
「あはは、いいねそれ」
「わかった。「トーケル様とグンネル様の名に恥じぬように」」
「マジで言うか」
「冗談なのに。リクハルドはトーケルと別の意味でお馬鹿なところあるよね」
そこへ控えめに「あの」と声がかけられ、リクハルドたちはそちらを向いた。
「えっマーヤ!?どうしたの、その前髪」
そう言って目を丸くするグンネル同様、リクハルドも驚いた。
アプリコット色の髪をしているマーヤの前髪が、どうしてそうなったというくらい短くなっていたからだ。
「これは昨夜、炎系の魔法の修行中に焦がしてしまいまして」
「えぇ?魔法が暴走でもした?よく無事だったね。誰か先輩魔法使いでも一緒だったの?」
グンネルの心配そうな様子にマーヤはいいえと首を振った。
「シモン様とお后様のご帰還ということで上の方はみんな出払っていて、修練室にいたのは新人魔法使いばかりでしたから。あの、でもヴィゴとクレメッティが失敗したときのために、反対魔法の準備をしてくれていたので大事には至らずに済みました」
「そう、よかった。勉強熱心だね。三人で修行を?」
するとマーヤは室内の別方向へちらと目を向けてまたしても首を振った。
「ペッテルを含めて四人です。ペッテルのほうがひどくてだからあんなに髪が短く――」
リクハルドたち三人がそろってペッテルを見たためか、気配に気づいた彼は机から顔をあげ、すぐに「あ!」と声をあげた。
ヘイジーブロンドが刈り上げともいえるほど短い。
「マーヤっ、おっまえチクったな!」
「だって修練室の天井を焦がしちゃってるじゃない」
「賢明な判断だ。いずれ誰かの口から耳に入るより、自己申告のほうが始末書だけですむだろう」
くい、と眼鏡を持ち上げるヴィゴが冷静に答え、その隣に座る青年もまた表情も変えずに頷いた。
「怒るのは筋違いでは。むしろペッテルに付き合ってここまで黙っていてくれたマーヤに感謝すべきではないかな」
「クレメッティ……おまえまで裏切ったな。おまえが休んだとき仕事をかわりにやったのに」
「なに恩着せがましいこと言ってるんだ?ほとんどヴィゴがやってくれたそうだし、マーヤは君と違って何度も見舞いに来てくれたけどね。彼女だって過労で倒れたのに」
「俺もさすがにへろへろで休んだりしたんだよ。それからな、たとえ一回の見舞いだろうと俺は差し入れを大量に持ってっただろ。レアなもん集めてったんだからな」
「レアだろうといらないよ。君は男相手の見舞いじゃいつもああいうものを持っていくのか?イヤガラセだろう」
「ペッテル、おまえ、潔癖なクレメッティに何を持ってった」
ヴィゴが頭が痛いというように顔を顰めたところで、ルーキーたちの話を聞いていたトーケルが「お」と反応した。
「よー、クレメッティ。ペッテルが見舞いに持ってきたっつうのはもしかして艶ぽ――んぐ」
「「黙れ、トーケル」」
リクハルドとグンネルが同時に言って、リクハルドが口を塞いだトーケルの腹をグンネルが拳で殴る。
大丈夫ですか、と声をかけるマーヤに手をあげて答えたトーケルは、腹をさすりながら情けない顔で言った。
「クレメッティがいらないなら俺がもらおうと思っただけ――ぐっ!…………グンネル、油断してるところをまた殴るっておまえ……くぅ、いまのは効いた~」
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど後輩にまで恥をさらすな、愚か者が。それにここはマーヤのような女の子もたくさんいるんだぞ」
「はい……すみません。悪かったなマーヤ。まぁ男はだいたいこんなもんだって覚えとけ」
はははと洩らすマーヤの顔が引きつっているのをトーケルは気づいているのだろうか。
(一度本当に淫魔に精気を吸われてしまえばいい)
そんなことを思いながらリクハルドは、
「マーヤ、ペッテル、ヴィゴ、クレメッティ。おまえたち四人で修練室の清掃と焦がした天井の修繕をするように」
と命じた。
はい、と素直に頷くマーヤをペッテルが口パクで責めているのに気づいて、彼は付け足すようにペッテルを名指しする。
「おまえは反省という言葉を知らないのか。ペッテルは始末書も追加だ」
うげ、という顔をするペッテルを自業自得だとヴィゴが責め、その隣に座るクレメッティがリクハルドに問うた。
「わたしとヴィゴもですか?」
「一緒に修行していたのだろう?当たり前だ」
「わたしとヴィゴは既に修得済みの魔法です。これはつまり連帯責任というやつですね。そこまで彼らと連帯感があるとは思いませんが了解しました」
クレメッティの台詞にグンネルがピクリと眉をあげた。
「クレメッティ、いくらなんでもその言い草はないだろう?おまえが休んでいる間の仕事を変わりにやってくれたり、見舞いに来てくれたりした大事な友人たちじゃないか」
「ええ、ですから感謝はしています。すみません。わたしはグンネル様のお好きな友や友情といった暑苦しい感情は理解しがたいので、不快にさせることが今後もあると思います」
「暑苦しい、だと?」
グンネルの怒りが簡単に沸点に達し、リクハルドがやばいと顔色を変えたそこへ、
「あっ、やば!」
と、彼の心を代弁するような声が部屋の出入口から聞こえた。
見れば数人の人物が室内に入ってきていて、一番体格のいいオロフの背中に誰かがサッと隠れるところだった。
(スミトとゲイリー、それにジゼル?異世界の者たちがなぜオロフとここに――ん?あの黒髪はどこかで……)
オロフの服を掴んで彼を隠れ蓑に部屋を出て行こうとする横顔に、リクハルドは瞠目してその名を呼んだ。
「コマリ様?」
ビク、と肩を震わせしばらく迷う素振りを見せたコマリが、オロフの背中から姿を現した。
そのいでたちは今朝とは違い、こちらの女性の一般服に変わっている。
「やはりコマリ様でしたか。なぜオロフに隠れたりなさったのですか?」
「それは、えっと――」
「コマリ様はお庭の散策のはずでは……それにその服はどうなさったのですか?」
席を立ったグンネルがわけがわからないというように問いかけると、コマリがばつの悪そうな様子で苦く笑った。
「ご、ごめんねグンネル。大人数でお散歩ってやっぱり大げさだから、皆に用事を頼んで人数を減らしたの。で、ドレスは動きにくいし目立つでしょ?それでシモンのとこで着替えて――あ、髪に飾ってくれたお花はちゃんと器に飾ってもらうよう、テディに頼んできたから。せっかく綺麗に髪をセットしてくれたのに本当にごめんなさい」
「つまりグンネルに用事を言いつけてその隙に逃げたはずが出くわしたのか」
トーケルがおかしそうに小声で洩らしたのがグンネルにも聞こえたらしい。
彼からコマリへ視線を移したグンネルは小さくなっている彼女を見て、クスクスと笑い出した。
「かまいませんよ。それよりエーヴァたちが探しているのではないですか?」
「もう見つかったわ。服を替えるとかシモンのところに長居しすぎちゃったから。シモンがわたしの自由にしていい言ってくれたから、王宮探検はこのメンバーでってことになったけど」
リクハルドたちに謝罪に来ていたマーヤが「コマリ様?ってどっかで聞いた名前……」と呟いていたが、コマリがシモンの名を出したことで彼女に思い当たったのか、背筋を伸ばし大声を上げた。
「コマリ様ですか!?」
あまりの大声に室内にいた魔法使いが全員こちらに注目したほどだ。
「そうだけど。え?なにこの雰囲気。わたしまた何か……オロフ、いまわたし、変なことしちゃってる?」
オロフに小さく尋ねるているコマリにリクハルドは苦笑を誘われる。
侍女や付き人を撒いて逃げようとするなど、今後、手を焼かされそうだと思うのに、なぜか許せてしまう気がする。
(グンネルの言うように憎めない方だな)
ざわざわと王宮魔法使い室が騒がしくなっていた。
「コマリ様?、とはシモン様のお后様となられる方のお名前ではなかった?」
「え?ではあの方が……シモン様とお幾つ違いだ?随分とお若いようだが――」
「それよりなぜあのようなお姿でいらっしゃるの?」
第一王子の后となるコマリの存在に皆が気づき始めたようだ。
ここで彼女の印象が悪ければ、やはり噂は本当かと悪評を覆すことは難しくなる。
「王宮見学ですか。こちらの世界に早く慣れようとしてくださっているのですね。我々に気を遣わせないために、そのようなお忍びの姿をなさっていたとは気づかず、名前をお呼びして申し訳ございませんでした」
リクハルドが謝罪しつつこう述べたことでコマリは黙り込み、室内に目を走らせた後にっこりと微笑んだ。
「顔を知られていない今なら仰々しくならずに見学ができると思ったの。だからこうしてお忍びで王宮をまわっていることは黙っていてもらえると嬉しいわ。ところでわたしのお友達がこちらの魔法を学びたいそうなの。二人とも優秀な魔法使いだし、シモンはリクハルド、トーケル、グンネルに協力してもらって、互いの世界の魔法を学び合えばどうかと言っていたのだけれど、どうかしら?」
リクハルドの意図に気づいてあわせてくれたコマリの言葉に、周りの魔法使いたちが「お忍びか」と納得している。
お嬢様然とした彼女に、協力を、と眼差しを向けられた三人は即座に頷いた。
「「「了解しました」」」
「そう。ではいまから魔法使い塔へ行きましょう。わたしも見学したいし」
「コマリ様、頼まれた箱はいかがいたしましょうか?お急ぎとのことでしたが」
リクハルドとトーケルが返事をした側でグンネルが尋ねると、コマリは机上の小箱が見えたのか顔を輝かせた。
「わ、可愛い!……あ……えと、それは後でもかまわないわ」
一瞬のぞいた素顔を隠して彼女が答えるのにグンネルは笑いを滲ませる。
「かしこまりました」
「ではコマリ様、参りましょう」
リクハルドたちが王宮魔法使い室を去りしな、青ざめた様子のマーヤがビクビクとコマリに声をかけた。
「す、すみません、コマリ様。わたしが大声を出したから周りに気づかれてお忍びが台無しに――本当に申し訳ございませんでした」
「あ、別にいいのよ。こっちこそあなたを驚かせてしまったからおあいこってことで。気にしないでね」
気さくなコマリの態度にマーヤがポカンとしているのを尻目に、リクハルドたちはコマリに付き従いながら室内を後にする。
廊下に出てすぐにはぁーとコマリから溜め息のような声がもれた。
「大注目を浴びて緊張した。ちゃんとお嬢様っぽくみえたかなぁ~。ありがとう、リクハルド。機転を利かせてくれなかったら、逃亡癖があって周りを振り回す困ったちゃんになるところだった」
「もったいないお言葉を。わたしに礼など無用ですから」
「そんなわけないでしょ。お礼や謝罪を言うのは人として当たり前のことなんだから。こういうのに身分や立場は関係ないの」
わざわざ背後を振り返ってそう言われ、リクハルドが「はい」と返事をすると、よしとばかりに彼女は前に向き直った。
「「裸の王」ですか、コマリ様」
案内のために先頭を歩くオロフの声にコマリが笑いながら「そう、裸の王様」と返事をしているが、リクハルドには「裸の王」の意味がわからない。
「おとぎ話であったなぁ。愚か者には見えへんっちゅう布で作った服やて、ペテン師に騙されて裸で行進する王様の話」
スミトの言葉にリクハルドは納得した。
(そうか、裸の王とは驕った愚か者は恥をかくという戒めの言葉なのだな)
本当にコマリ様には教えられることばかりだ。
「必ずお守りいたします」
つい口から出た決意の言葉を両隣にいるグンネルとトーケルは聞いたらしい。
二人の拳が両肩に押し当てられる。
同じ気持ちだと言っているとわかって彼の口元に笑みが浮かんだ。
* * *
王宮魔法使い室からコマリが消えてすぐに室内が騒然となっていた。
それは新人魔法使いたちの間でもかわりはない。
「うぉー、びびった。コマリ様って想像と全然違った。もっと妖艶なエロエロフェロモン全開の美女だと思ってたのに……フェロモンとは無縁そうな女の子だった」
ペッテルの意見にヴィゴが眉をあげた。
「女の子は言いすぎだろう。そもそも我々と肌の色や顔立ちが違っていた。堂々としてらっしゃったし、幼く見えても俺たちと同じくらいだと思うが」
「えー?20歳はいってないんじゃないか?あ、そういや隣にいた銀髪の美人ってあれだろ?先遣隊よろしくコマリ様が先にこっち送り込んだ異世界人の三人のうちの一人。コマリ様は魔法使いの二人を友達っつってたし、あの美人も友達とかかな。俺、彼女とお近づきになりたい」
「先遣隊?」
クレメッティが引っかかったように尋ね返したことで、ヴィゴが「おい」とペッテルを止めた。
「憶測でめったなことを言うな」
「けどさぁ、こっちに来るのを遅らせて仲間を先に送り込むってそういうことじゃないか?例えばカッレラがどういう国か探らせようとか。異世界でやることがあったからすぐにカッレラに来なかったらしいけど、だったら何事も自分のことを優先させる方かもしんないし、実はあー見えて腹黒で強かってこともあるんじゃん?……っとまぁこういう事も考えて、上もあの三人を魔法使い塔に閉じ込めてたのかなーとか思わなくも――」
「だから憶測で話すな。おまえ、王宮に広まってるコマリ様の噂に影響されすぎだ」
「や、俺も本気でそんなこと思ってないぞ?10代の女の子ならまだまだ我儘なところがあって当然だし、むしろ甘えられてるようで可愛いじゃん。それに俺、そういう小悪魔要素はけっこう好きなんだよな~。小悪魔って美人よりコマリ様のような可愛い系の子がよくないか?ま、俺の一番の理想はちょいエロめの美人だけどぉー」
ニヘ、と笑うペッテルにヴィゴが溜め息を吐く。
「おまえってスタイルのいい美人が好きだっけな。わかりやすい。前はコントゥラ子爵のご息女、オルガ様がタイプと言ってなかったか?それにカーパ侯爵のところのアンティア様もなかなかとか、近いところではスサンもスタイルがいいとか……」
「へぇ、そうなんだ。ペッテル、一度死ねばいいよ」
話を聞いていたらしいクレメッティから射殺すほどの眼差しを向けられ、ペッテルが慄いたように背筋を伸ばした。
「おまえ、こういう話もダメなのか?そこまで潔癖とは思わなかった。俺がやったレア物、マジでいらないならトーケル様にまわしてくれていいぞ」
返事もしないクレメッティにペッテルが弱り果ててヴィゴを見る。
そこへマーヤがやってくると自席についた。
「ねぇ、コマリ様ってけっこう話が通じる方に思えない?わたし、もっとおとなしくてすぐに気絶する貴族のお嬢様のような方を想像してたけど、あの親しみやすい雰囲気がシモン様とそっくりじゃない?愛魂のお相手同士は似てらっしゃるって聞いたことがあるけれど本当にそうなのね」
「ペッテルはコマリ様より隣にいた美人の方が気になるそうだ」
「やめろ、ヴィゴ~。クレメッティの目がマジで怖い」
「え、なに?なにかあったの?」
情けない声を出すペッテルに無視をきめこむクレメッティの顔を見たマーヤが、教えてとばかりにヴィゴへ尋ねる。
こんなふうに王宮魔法使い室はしばらくの間ざわついたままだった。