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あなたの虜  作者: 七緒湖李
本編
17/161

友の講習

シモンは大学の近くにあるワンルームマンションの一室で、男3人から説明を受けていた。

狭い室内の小さなテーブルの上には彼が見たこともないものが並ぶ。


「こんなもので本当に子どもができなくなるのか?」


シモンは個別にパッケージされたうちの一袋を指に摘んだ。

コマリと暮らすようになって、こちらの世界ではほとんどの物が「びにーるぶくろ」なるものに入っていると知った。

食べ物は特にそうだ。

「とれい」に入った肉や魚が「らっぷ」という「びにーる」に包まれている。


「こんな薄っぺらなびにーるをどう使う?」


シモンが側にいる3人に目を向けると彼らは、はぁーと溜め息を吐いた。


「本当にコンドームも知らねぇ」

「いままでナマしかしたことないって羨ましすぎる」

「どんだけ俺様かと思ったもんなぁ。くそう、顔か?顔なのか?」


ふむ、これは「こんどーむ」というらしい。

中に何か入っているようだ。

この包みを開ければ正体がわかるだろうか。


シモンは袋を開けて丸いそれを取り出した。


「これは……「ごむ」というのに似ているな。ただ穴が開いていないが」

「アホかっ!穴が開いてたら意味ねぇだろ。つかゴムだっての」


テディが聞いたら即座に牢へぶち込めと言いかねない物言いだ。

だがいままで自分にここまで親しげに話をしてくれる人間などいなかった。

それにこれは悪意があるのではなく、いうなれば仲間内で打ち解けた証ともとれるじゃれあいだ。


(気の置けない友というのは心地よいものだな)


「いいか、ちゃんと聞けよ」と言ったマサキの説明によればこれは男が使用するらしい。

くるくると巻いてあったのを伸ばしてみたシモンはなるほどと頷いた。


男性器を「ごむ」で包むということか。

確かにこれならば射精しても「ごむ」で阻まれ妊娠を防げるだろう。

カッレラ王国には不妊の薬湯があって、それを男でも女でも、どちらか片方が飲み続けていれば妊娠の可能性はないのだが、それを説明するとなると異世界の話をしなくてはならないだろうと黙っていたが。


(こちらの世界ではこのようなものを使わなければならないのか。なんとも面倒だな)


しかしなかなか薄いものだとコンドームを引っぱりながらシモンは彼らに質問する。


「こんなに薄くて破れないのだろうか?」

「ああ、爪で傷つけてとかあるけどなー。そのときはご愁傷様って感じ?」

「やー、でも破れてたってわかったときに相手に薬を飲んでもらったらいいんじゃね?」

「俺らの年で子どもとかまだありえないもんな~」


「ありえないのか?ちょうど良い年齢では――」

「はぁ!?俺らまだ就職もしてねぇし金もねぇっての。何より来年、社会人になってからも遊びたいじゃん」

「だよなぁ。子どもはないわー」


3人が一様に頷く。

どうやらこの世界の男の結婚適齢期はカッレラとは違うようだ。

とはいえカッレラでちょうど適齢期といわれる自分は、彼らより2、3歳ほど年齢が上なのだが。


「ユウタがいま薬があると言ったが?それを飲めば子どもはできないのだろう?」

「彼女に子どもはいらねぇからピル飲んでくれって?」

「で、俺らはナマでやれて超ラッキー?……って言えるかボケぇ!」


いきなり吠えたタクトがダンっとテーブルを叩いた。


「わかったぞ、シモン。おまえがいままでナマだったわけ。相手の子に薬飲ませて自分はウハウハっ!」

「ピル代もバカにならないのに女に負担させてたのかっ!!いや、させてたんだろう」

「その顔でたぶらかせば女なら何でも言うことをきくだろうからな。なんって最低な男だ!羨ましすぎるぞ、普段はすっとぼけたのほほんシモンのくせに」

「え?いや……」


自分が薬湯を飲んでいたのだが。

それにすっとぼけだとか、のほほんシモンなどという妙な渾名をつけないでほしい。




シモンとて男なので人並みに性欲も興味もあった。

愛魂の相手にめぐり合えないまま時間が過ぎ、処理として女性を抱いこともあったが、最近ではそれも虚しいだけだった。

誰を抱いても満たされず愛魂の相手を探すことに精力を注ぐようになって、とうとう異世界にいるとわかったときはどれほど嬉しかったか。


魂の対となる相手にめぐり合えないまま生涯を終えた先祖もいる。

そのような場合、普通の女性と結婚したらしい。

また愛魂の相手が若くして亡くなり再婚した話もある。

彼らは愛魂の相手と結婚せずとも幸せに暮らしたとシモンは聞いているが――。


「わたしは魂の対――コマリ以外の女性と子をもうける気持ちはなかったのだ。だがわたしにも性欲はあって……だがそうだな。最低と言われればそうかもしれない。反省している」

「おまえって……なんか調子狂うよなぁ」

「真面目ってかやっぱすっとぼけてるっつうか。もっと遊んでるのかと思ったら佐原一筋だしさ~」

「その魂の対ってのだからか?よくわかんねぇけどそれってスピリチュアルな話?まぁ出会えてよかったじゃん」


3人が顔を見合わせて笑いあう。


「日本に来た当初助けてもらったんだっけ?佐原らしいっちゃらしいか。面倒見いいし突っ込み激しいけど実は優しいだろ。顔も悪くない」


悪くないだと。

マサキ、おまえの目は節穴か。

あんなに可愛いのに。


「あー、真面目そうに見えて気さくだしけっこう人気あるよなぁ。の割りに彼氏いねぇみたいだから好きな奴でもいんじゃねって噂だけど」


やはり男に人気なのか。

そこは要注意だ。

好きな男……盲点だった。

コマリには好きな男がいるのだろうか。


「シーモーンー、さっさとモノにしないと佐原に彼氏できるかもよ~?あいつの好きな奴はおまえじゃねーよなぁ。他の女みたくおまえに見惚れてないし、それどころかおまえたまに怒られてるだろ」


コマリがあまりに可愛いので見惚れてしまうのだ。

そのため話を聞いているのかと怒らせてしまう。

彼女に見惚れない方法でもあみだせば回数は減ると思うのだが。


ニシシとユウタが笑う側でマサキがシモンに指を突きつけた。


「つまり佐原はおまえの顔になびかない。いままでどおりにはいかないってこと覚えとけ」


勢いに圧されて頷いてしまったシモンに彼は言葉を続ける。 


「だがしかしっ、佐原はおまえにだけは素を見せてるとみた。佐原がシモンに怒ってるのを見たときは驚いたもんな。俺らクラスメートには怒ったことはなかったから。しかもおまえのこと嫌ってるわけじゃなさそうだし」

「意識はされていないが気を許されてるってのは大いに勝算はある……だろ、たぶん。てことで、ここらでガツンと男を意識させろ」

「女は雰囲気に弱い。そこを狙って攻めていけ!で雰囲気にのまれてると思ったときは一気にたたみかけろ。いいな」


確かにコマリにはまだ欠片も意識されていないように思う。

風呂上りに半身裸でいると赤くなって服を着るよう叱られるが、あれはただ異性に慣れていないだけだろう。

それにユウタの言うように、女性は花や星空を見てうっとりとする。

そういうときの女性はものにしやすかった。


うんうんとシモンは彼らの話に大きく頷く。


「ま、あっちの経験は俺らよりおまえのほうが上だろうから多くは言わねぇけど」

「おまえの予想じゃ佐原、男経験なさそうだって言ってたじゃん。だからゼリーつきとかローションとか用意してみた。うまくいったとき使え」

「ああ、そうそうこれ、ついでにやるから観とけよ。女が望むエッチってのはこんなだってよ。前に彼女に半ば無理やりもらったDVD」


ゼリーとは食べるものではなかっただろうか。

それにローションはコマリが風呂上りに使っている美容液のことだろう。

「えっち」とは言葉からしてわからないし、そのシャシンという裸の男女の絵がついた薄い箱はなんだ。


シモンが眉を寄せているにもかかわらず、彼らはシモンのカバンにそれらを押し込めた。


「よし、講習おわり」

「お、ちょうど俺らの当番の時間じゃね?」

「おー、大学戻んべ。行くぞ~シモン」


彼らは彼らなりに自分を思っていろんな品を用意してくれたようだ。


(ともかくこちらの世界では女性に負担をかけぬよう、男がすべて気遣うものなのだな)


そうは見えなかったが実は意外に女性を尊ぶ世界なのかもしれない。

ならばこちらの世界の男と引けをとらないためにも、いままで以上にコマリを大切にしなければ。

シモンは礼を言って部屋を出た。



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